テクノロジー・リーダーシップ

男女間のアンコンシャス・バイアスと女性技術者としてのキャリア形成

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青山 真巳

著者:青山 真巳
グローバル・テクノロジー・サービス(GTS)事業部, コグニティブ&オートメーション Senior Architect, IBM Academy of Technology member

IBMに入社後、アウトソーシングのお客様の運用・設計を担当し、日本でのクラウドサービスの立ち上げ後に、USにてグローバルのクラウドサービス開発にアーキテクトとして貢献。現在はインフラストラクチャー・アーキテクトとして、GTSのお客様のクラウド環境設計やITインフラ運用自動化の推進を担当。TEC-J Steering Committee, COSMOS core memberとしても活動中。

このブログでは、IBMでのキャリアを重ねていくうえで感じた、女性技術者としてのキャリア形成の考え方についてご紹介します。

 

男女間のアンコンシャス・バイアス

日本IBM女性技術者コミュニティ「COSMOS」では、女性技術者・研究者が活き活きと働ける支援や、キャリア醸成の支援などを行なっており、私は2017年からコアメンバーとして活動しています。

COSMOSでは、国連が掲げる「2030年に向けた持続可能な開発目標:SDGs」の計17の目標のうち「5:ジェンダー平等の実現」について、女性の活躍を支援していく活動として特に注目しています。そしてIBMの中だけでなく、社会全体における女性の働き方や活躍についても調査・研究し、よりよい女性技術者支援の活動に繋げようとしています。


2030年に向けた持続可能な開発目標:SDGs 17の目標(画像元:国際連合広報センター

その活動の中で「アンコンシャス・バイアス」という言葉を初めて聞きました。

古くは1960年代後半に起こった女性解放運動である、ウーマンリブ運動の頃からあった考え方であり「自覚のない偏見や思い込み」をあらわします。これはダイバーシティを考えていくうえで多く語られる言葉であり、アンコンシャス・バイアスを減らしていくことで、現在、社会で起きている様々な弊害や問題を解決できる糸口になると言われています。

それでは、仕事の場での男女間のアンコンシャス・バイアスとはどのようなものがあるのでしょうか。代表的な2つを紹介します。

  1. 女性は自分を過小評価してしまう傾向があり、チャンスを与えられても「自分には無理だ」と思い断ってしまうことがある。
  2. 周囲の人も、「女性には責任のある仕事は任せられない。」というふうに思っている人がいる。

Lean In: Women, Work, and the Will to Lead

Facebookの最高執行責任者であり、活動家、作家であるシェリル・サンドバーグは著書の “Lean In: Women, Work, and the Will to Lead” の中で、こうしたバイアスを解決していけるように、女性に向けて以下のようなメッセージをしています。

  • 自分の可能性を広げていくためにチャレンジしていくこと「同じテーブルに着く」
  • 「自分はまだふさわしくない」と考えるのをやめて「私はこれをやってみたい。きっと仕事をしながら能力はついてくる」というふうに考えるようにする。

私自身「女性が女性であることで無意識に持っている偏見」「周囲の人が無意識に女性ということに対して抱いている偏見」を理解して、減らしていけるよう女性自身や周囲の人たちが変わっていくことが重要なのだ。ということがこの数年のCOSMOSの活動を通してわかってきました。

技術者としての成長に大切なこと

自身のキャリアを思い返してみると、幸いにもこうした偏見を感じることは少なかったように思いますし、周囲の人たちもこうした偏見を持って私と仕事をしている人は稀だったと思います。その理由として、自分が技術者として目標とする「前向きではなく、斜め上向きに成長していく」ということが実現できていたからだと思っています。

IBMに入社してから技術者としてのキャリアを重ねていくうえで、大事にしてきたのは次の3つです。

  1. 常に成長し続ける
  2. 自分の希望や意見をはっきりと伝える
  3. チームメンバーなど周囲と楽しく仕事をしていく

「1. 常に成長し続ける」ためには、変化の多いITの世界で、最新の技術や流行りの技術、また自分が興味を持ったことを、貪欲に勉強し続けることを実践してきました。おもしろい(新しい技術やトピックに関することが多い)仕事を自分にやらせてほしいと言うためには、スキルや知識をきちんと持っているということが大前提にあると考えています。また、こうして勉強し続けることで、後輩やチームメンバーにも、少し先に身につけた知識や技術を伝えて、広めていくことで周囲の成長にも繋がります。

「2.自分の希望や意見をはっきりと伝える」のは、ただ黙って与えられた仕事をこなしているだけでは、自分がやりたいことや面白い仕事をやらせてはもらえないからです。自分がどのように働きたいか、どういう技術やお客様を担当したいかということについて、常に具体的なイメージを持ち伝え続けていくことが重要です。

実際に私自身、USに赴任させていただくチャンスを得られたのも、入社当時からグローバルに色々な国の人たちと働きたいという希望を伝え続け、英語力と技術力をしっかりと身につけたうえで、そのイメージを具体化し伝えられたからだと思います。臆せずに必要なことを伝えることができることは重要ですし、それにはそうした風土の中で仕事ができるという恵まれた環境があることが必要です。

「3.チームメンバーなど周囲と楽しく仕事をしていく」これは、キャリアを積み重ねるために常に意識したことです。例えばリーダーが休暇を取らないプロジェクトでは、メンバーも休暇が取りにくいようなので、リーダーとして休めるときはちゃんと休むということも実践しました。

そして新しい技術に触れる機会があれば、私だけではなく、チームメンバーも常に新しいことに興味を持って、知識やスキルを身につけてもらえるように参加・学習することを推進しました。チームメンバーが自分についてきてくれているよう、技術力は維持しながらチーム内の打ち解けた雰囲気作りも大切にしてきました。自分も周囲も楽しく仕事ができていないと「常に斜め上を向いて成長していく」のは難しいと考えています。

女性技術者として自分自身と周囲に影響を与える働き方

USに赴任してクラウドのサービス開発のチームに参加させていただいていた時、日本にいれば簡単に説得できることが英語力の不足で論破できなかったり、私はここで何を成すことができるのか。というのが不安になった時期がありました。

当時のUSでの女性上司に「あなたは、日本のメンバーの中で、この仕事ができると思われたからUSで仕事をするチャンスをもらえて、USのリーダーにもこの仕事ができると思われたから受け入れてもらえたのだから、自信を持ちなさい。」と言われたことが、とても心に残っています。この言葉に大変納得できたので、その後の赴任期間の仕事を無事に乗り切り貢献することができたのだと思います。

またその女性上司の女性技術者コミュニティのスピーチでの「“What am I known for?” を常に意識して仕事をしなさい」という言葉もいつも私の傍にあります。つまり「周りにどのように知ってほしいのか、自分自身が技術分野での貢献をどのように実現したいのか?」を考えて行動しているか、という意味です。

そして、とある技術やソリューション、お客様、業界のなかで第一人者になること、少なくともどれか一つでsomething(ひとかどの人)なれるよう行動し、次にやりたいことを伝え、自分が成長していく姿を後輩に見せることで、後輩たちもそうなりたいと思えるような技術者になりたいと思います。これには女性特有のアンコンシャス・バイアスも、周囲の人のアンコンシャス・バイアスもなく、技術者として常に成長し、周囲に良い影響を与え続けられるかが重要です。

私自身、男女の違いを意識することなく、むしろ女性特有の細やかさなどが仕事に活かせたことで、今のキャリアを築くことができ、楽しく仕事が続けられていると信じています。人は誰でもそれぞれの立場で認められ、周囲を巻き込んで成長し続けていくことで、理想のキャリアを形成していけるのではないでしょうか。これからも女性技術者として成長し続けていきたいと思います。

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