テクノロジー・リーダーシップ
二児の母が技術者としてキャリアアップする道のり
2017年12月26日
カテゴリー テクノロジー・リーダーシップ
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著者:倉島 菜つ美
技術理事 グローバル・ビジネス・サービス(GBS)モバイル事業部CTO、IBMアカデミー会員、IBM 社内女性技術者コミュニティーCOSMOS サブリーダー
みなさん、こんにちは。日本IBM 女性技術者コミュニティーCOSMOSサブリーダーの倉島です。IBMの技術理事として、グローバル・ビジネス・サービス事業で、モバイルを活用したお客様企業の業務改革をご支援するチームを担当しています。本日は、二児の母でもある私がどのようにしてワーク・ライフ・バランスをとりながら、技術者としてキャリアアップしてきたのか、その道のりをご紹介したいと思います。
アーキテクトという仕事
現在、私はアーキテクトという仕事をしています。アーキテクトという役割は様々で多岐にわたりますが、サービス部門におけるアーキテクトの役割を一言で言うなら、ソリューションのデザインと実装に責任をもつこと、でしょうか。ここでいう「ソリューション」とは、企業が抱えるビジネス上の課題や不便を解消するための情報システムを含む解決策を指します。あえて「情報システムを含む」と書いたのは、情報システムだけでは解決できない課題や不便が多いからで、ソリューションは多くの場合、ビジネス・プロセスやルール、場合によっては組織の見直しや変更を伴います。アーキテクトは情報システムやテクノロジーについて精通するだけでなく、お客様のビジネスと課題を理解し、最適なソリューションを策定し、実現することが求められます。お客様と接する機会が多く、技術力だけでなくコミュニケーション能力も求められる仕事であり、とてもやりがいのある仕事と感じています。
私のキャリアパス
私はSE(システム・エンジニア)としてIBMに入社しました。これは今で言うITスペシャリストに相当します。入社後最初の仕事は、金融機関のお客様向けソフトウェア製品の品質向上でしたので、ここではまずソフトウェア・テスト技法の基礎をOJT中心で体得しました。
次に、同製品の導入支援や、機能拡張の提案から実装までフル・ライフサイクルを経験することで、ITエンジニアとして必要な基礎スキルを身に着けました。当時のIBM SEの仕事は、インフラ構築やシステムの運用・維持・保守などが多かったのですが、私の担当は金融機関のユーザーが業務に使うアプリケーションだったので、業務要件の整理や業務への新システムの適用など業務ユーザーと関わることが多く、そこで要件定義の重要性を強く認識しました。このことが、私のその後のキャリア形成にかなり影響していると思います。
また、金融機関のプロジェクトでお客様と実現すべき要件についての検討や議論を重ねる中で、課題を持つお客様とソリューションを提供するITベンダーとの間を取り持つような役割を担いたいと思うようになりました。一時はコンサルタントへの転向を真剣に検討しましたが、同じ時期にアーキテクトという職種ができたことでそちらを選択し、結果として技術者としてのキャリアパスを進むことになりました。
「得意分野」との出会い
アーキテクトとしてプロジェクトに参画する中で、特にプロジェクトの上流において、ビジネス上の課題をどのように整理し、解決策を検討すればよいのかは、私にとって最も身近で重要な課題でした。そんな時、ある大先輩アーキテクトから「要求工学」という分野があるということを教わり、初めて自分から勉強してみようと思いました。それまでは仕事にかかわる様々なスキルは、仕事の中で習得するものと考えていましたが、それ以外の方法もあるのだということにこの時初めて気付きました。具体的には、TEC-J*というIBM社内技術者コミュニティーの「要求工学SIG」というグループ活動に参加し、業務外の時間などを活用して勉強会や議論・討論を通じて理解を深めていきました。
最初に書いたとおり、アーキテクトの仕事は多方面にわたるため、皆が皆その全てに精通するのではなく、それぞれ得意分野(専門領域とも言います)を持っています。現在、私が自身の得意分野を聞かれた時には、大抵の場合、「要求工学、ソフトウェア・エンジニアリング、システムズ・エンジニアリングなどのエンジニアリングのプロジェクトへの適用」を最初に挙げています。ソフトウェア・エンジニアリングやシステムズ・エンジニアリングも、最初の要求工学と同様に、プロジェクトでの疑問や課題認識に端を発し、興味を持って勉強しているうちに身についていったものです。
二つ目の得意分野として「モデリング」もよく挙げるのですが、これも似たような経緯です。プロジェクトにおいては、ビジネス、ITなど前提知識の異なる様々なステークホルダーとコミュニケーションとる必要があり、そのコミュニケーションにおいて意図が正しく伝わらないと時にプロジェクトに致命的なインパクトをもたらすこともあります。そこで、UMLやBPMNなどの標準化された表記法を用いて対象を「モデル化」して表すと、誤解のはいる余地を大きく削減することが可能です。
こうして振り返ってみると、私にとっての「得意分野」は、これを専門にしようと決めて専門的な知識を習得したのではなく、プロジェクトの現場において自分が果たすべき役割を果すために、ある意味必要に迫られて身に着けてきたものが、ある時気づいたら自分の得意分野になっていた。というほうがしっくりします。
育児と仕事を両立できた理由
このようにキャリアアップする中で、私は2回の出産と育休を経験しており、産前産後休暇と合わせて通算2年4ヶ月ほどは仕事から離れていた計算です。また、育休明けは保育園の送り迎えもありましたから、第一子出産から第二子が小学校に上がるまでの約10年は、時間的な制約が大きかった時期です。保育園のお迎えのために17:00に会社をでなければならないという制約のなかでプロジェクトでの役割を果たすのは大変でしたが、おかげで限られた時間を最大限有効に活用するトレーニングを自然に積むことができたと思います。それはいまでも、短時間でも集中してやればかなりのことができる!という自信につながっています。
また、育児と仕事を両立する中でなによりも心強かったのは、お客様やプロジェクト・マネージャー(PM)をはじめとしたプロジェクトチームの皆さんのご理解とご支援でした。定時に帰らないといけないという制約のある私をリーダーとして受け入れてくださったPMや、会議が延びそうになると「倉島さんはお迎えがあるでしょう。あとはやっておくから大丈夫。」と言ってくださったお客様、不在の間バックアップしてくれたチームの方々がいたからこそやってこられたと思います。
私が保育園のお迎えをしていたころからもうすでに10年以上たっているわけですが、育休明けを不安視する声や、育休明けにバックオフィスへ異動、現場に戻りたいけど不安、といった声をよく耳にします。私は自分の経験から、そういう時は周りに助けをもとめてかまわない、助けてもらったらこんどはいつか自分も助ける側にまわればいい、と話しています。
女性技術者がステップアップするために私ができること
子供たちが成長した今は、私も今度は自分がサポートする立場でありたいと考えていて、日本IBM 女性技術者コミュニティーCOSMOSのサブリーダーもそうした思いで務めています。COSMOSは、IBMに所属する女性技術者ならだれでも参加可能なオープンなコミュニティーです。
もう女性は充分に活躍しているのではないかという声もありますが、先ほど書いたように不安を抱えているワーキング・マザーの技術者はまだまだいますし、それ以外にも様々な理由でステップアップをためらう女性技術者が多くいるのも事実です。そうした皆さんがしなやかに、自分らしく、働き続け、ステップアップしていくための支えの一つにCOSMOSがなればよいと考えています。
結婚、出産・育児だけでなく、介護や健康、自己啓発など、実に様々なライフイベントが、人々の働き方へ影響を及ぼします。そうしたライフイベントはだれの身にも起こりうることであり、そうした時に周りに気兼ねすることなく、自分らしい働き方を選べるようになってほしいと思います。そのためにCOSMOSでは前回のBlogでリーダーの行木さんが紹介したような様々な活動を行っています。
私たちがお客様にイノベーティブなソリューションをご提供し、お客様といっしょに業務の変革をリードしていくためには、ダイバーシティー=多様性が欠かせません。様々な視点、考えをもつメンバーが集まることで、初めてイノベーションは生まれるのです。COSMOSの活動がイノベーションの一助になることを願っています。
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