プロジェクトマネジメント
「卓越したデリバリ」と呼ばれる組織が実践している、AI時代のプロジェクト品質管理
2019年8月6日
カテゴリー AI | プロジェクトマネジメント
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著者:吉田 裕美子
理事:Quality Leader、グローバル・ビジネス・サービス事業本部
私はQuality Leaderとして随時約3000のプロジェクトをトラッキングしています。この状況の中で、どのようにトラブルを減らし、なぜ他国に比べ質の高いデリバリーを提供できるのか?そして、AI時代の変革を実施するために重要なのは何かを解説します。
Delivery Excellenceの道のり
私の担当する組織は、Delivery Excellence「卓越したデリバリ」と呼ばれています。高品質なデリバリをご提供することが、お客様満足度をあげ、ひいてはビジネスへの貢献につながるという考えからこの組織が発足しました。
私たちのビジネスは、プロジェクトでトラブルが発生すると、それをリカバリーするために、多くの労力が費やされ、利益も失い、健全であったプロジェクトも余波を受け、新規ビジネスのご提案にも影響します。これは組織として、負のスパイラルに陥ることになります。
高品質なサービスをご提供するため、長い時間をかけて、プロセス整備や数々の施策を実施し、卓越したデリバリをご提供できる組織への変革をしてきました。結果、現在日本IBMのデリバリは、世界の中でも一番の「高品質」を提供する組織となりました。
これには、大きく2つの品質が影響しています。ご提案するソリューションの品質と、そのソリューションを実現していくプロジェクトマネジメントの品質です。
私は、ご提案するソリューションの内容を、第三者としてレビューし、承認しています。承認するまで、お客様へご提案することは許可されません。このレビュープロセスは、スケジュールの妥当性、技術的に実現可能なソリューションか、必要なスキルのある要員が参画可能となっているか、リスクに対して必要な対策がとられているかなどの観点で、複数の専門家が内容を精査し、最終的にすべての確認がとれてからお客様のもとへ、ご提示可能となります。
特にリスクという観点では、リスクの専門家が、日本IBMのデリバリに関してだけではなく、お客様サイドの確認や方針決定の体制は十分なのか、プロジェクトと依存関係のあるシステムの変更や内容は、スケジュール上十分に考慮されているのかなど、プロジェクトと関連するリスクも検討し、内容に応じて、法務、財務、購買部門とも連携して対応策を検討します。
こうして作り上げたソリューションを実現するためには、プロジェクトマネジメントの品質が必要となります。
日々のプロジェクト遂行において、PMのスキルはプロジェクト管理の品質の重要な要素です。日本IBMは、PMの認定制度があり、プロジェクトの難易度に対して遂行能力や必要経験を定義し、またプロジェクト管理の知識だけではなく、PMが、実際に遭遇するであろうお客様との難しい交渉の場で、どのように振る舞い、プロフェッショナルとして、お客様を導いていくかなどのワークショップを通して、PMのスキル向上に努めています。
実際のプロジェクトの品質については、プロジェクトの各局面において必要な作業や作成物の品質が確保されているのかを、第三者がレビューします。時には、お客様へのインタビューや、プロジェクトメンバーへのインタビューも行います。これはレビューする側もされる側も大きな労力を要しますが、プロジェクトの現状を把握し、的確な対応を取るためには非常に有効です。私は常に、プロジェクトの現場で実際何が起きているのか、レビュー時に自ら確認するよう努めています。
こうした過去から地道に継続し続けている施策もありますが、特に昨今では、デジタルトランスフォーメーションの大きな変革の波に乗じて、私たちの品質施策にもAIをはじめ、デジタル化を取り入れ、活用しています。
ガバナンスをどうやって効かせていくのか
先に述べた施策は、すべてのプロジェクトチームが目的の本質を理解し、推進することが必要です。このために、私は、ボトムアップとトップダウン、2つの方向からガバナンスを実施しています。
高品質なデリバリには、詳細な計画が非常に重要です。PMBOKで定義されている10のプロジェクト管理のエリアにおいても、すべて計画立案から始まります。プロジェクトの進捗や品質は当然計画値をベースとして判断する必要がありますし、リスクの発生や、変更の発生時、その影響を把握するためにも計画が必要となります。
私達Delivery Excellenceチームは、すべてのプロジェクトが計画を変更する際、その変更の妥当性を客観的に評価、レビューします。なぜその変更が必要なのか、根本的な原因を確認し、その対応策が十分なのか、新しい計画は現実的なのか、プロジェクトチームは説明する責任があります。これは、本来必ずお客様にご質問される内容であり、なぜ見直しが必要になったのかという原因分析や、見直した計画がうまく遂行される明確な根拠が説明できないまま、プロジェクトの計画の変更を実施することはできません。
このレビューにより、プロジェクトは問題が発生した際、ただ人を投入してなんとかしようというのではなく、問題の原因を正しく分析して的確な対応をとることができ、リカバリーも早くなります。また、本来プロジェクトにとって非常に重要な「計画」の品質を上げることにもつながります。このプロセスは、個々のプロジェクトマネージャーやメンバー自身に、計画と原因分析の重要性を自ら理解し、実践してもらうことが目的です。これがボトムアップアプローチです。
対して、トップダウンアプローチは、各デリバリーチームのリーダーの強力なリーダーシップです。
プロジェクトの遂行を管理する事業部門長やそのデリバリーリーダーは、プロジェクトのデリバリーに責任をもっていることを自覚していますが、限られた時間の中ですべてのプロジェクトを一律に管理することは現実的に困難です。
私たちはプロジェクトからのレポート、第三者レビューの報告、財務状況など事実に基づくデータから構成された品質状況を表すKPIをもっており、リーダーと共有しています。
データに基づくこれらの情報共有は、各リーダーが自組織の品質に対して問題意識をもち、改善するためのアクションをとっていくのに効果的です。私たちは、自分たちが管理する様々なデータと、各リーダー自身が持っているプロジェクトの情報を合わせることで、全プロジェクトの状況をトラッキングしています。この情報量は莫大であり、貴重です。
データの収集・分析も、リーダーとの関係も、短期間で効果がでるものではありませんが、ひとつひとつのプロジェクトがトラブルになった背景や原因分析が、地道に継続してきた結果として蓄積されており、最終的に数千ものプロジェクトに対してガバナンスを効かせるために、必要な経験値となっています。
デジタル変革時代の品質とは
さて、今まで語ってきたのは、狭義の品質についてでした。
広義の品質とは、システムの品質だけではなく、プロジェクトが本来の目標を達成できたかどうかです。今後私たちは、より広義の品質に目を向ける必要があります。
特にAIの世界では、システムの品質を従来の方式で管理することが難しくなります。AIでは、1+1=2といった与えられる値が特定されたり必ずしも回答がひとつに決まるものではありません。
今日、人工知能は、人間個々の顔を認識し「XXさん、こんにちは」と挨拶することが可能です。AIの習熟度は、処理させる情報量と習熟によって向上します。つまりどこまで時間とお金を費やすかです。
しかしユーザーは「こんにちは」という挨拶が欲しかったのでしょうか?それとも、顔色から具合が悪いことを判断して病院を教えて欲しいのでしょうか?それとも、気の利いた冗談を返して笑わせてほしかったのでしょうか。感じ方はそれぞれの人の状況によって全く異なります。
このシステムの対象ユーザーは誰なのか、どのような行動を取らせたいのか、どのようなゴールを目指すのかによって、AIをどのように、どこまで習熟させるのかは見極めが必要です。そしてそれはシステムを開発する側だけで判断できず、そこに投資するお客様の判断が必要です。これまで以上に、お客様の関与が必要となります。
品質は、開発物に対しての議論に偏りがちですが、デジタル変革が進む今日においては、プロジェクトの目的のみならず「事業目的」が品質に大きく影響することは明らかです。私たち日本IBMのDelivery Excellenceチームは、このような変化も鑑み、お客様やプロジェクトチームが高品質なデリバリーを健全に遂行できるように導きたいと思います。
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