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この先5年のテクノロジーを予測。持続可能な世界を実現するために

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21世紀に生きる私たちは、さまざまな問題に直面しています。気候変動や資源の枯渇、そして新型コロナウイルスをはじめとした未知のウイルス――顕在化する地球規模の課題は厳しいものばかりですが、幸いなことに私たちには「テクノロジー」という強い武器があります。

IBMのテクノロジー予測「5 in 5」

IBMは「5 in 5」として、今後5年以内に社会やビジネスを根本的に変えると考えられる5つの科学的イノベーションを発表しています。今年の5 in 5では、持続可能な未来を実現するため、「新たな材料の発見を加速すること」に焦点を当てています。

1. 気候変動を緩和するために二酸化炭素を回収し再利用する
近年の気候変動の原因のひとつに、大気中の二酸化酸素量の増加が挙げられます。今後5年間で私たちは、大気中の有害な二酸化炭素を回収・分離する効率的な方法を発見し、その二酸化酸素をプラスチックなどのリサイクル性の高い原材料として再利用できるようになるでしょう。さらに、世界的にその方法が活用できるようになることが目的です。この研究によって二酸化炭素量を削減し、気候変動の緩和につなげることができるでしょう。

2. 持続可能な食糧供給のため、自然の力を再現する
グローバルな視点で見ると、人口増加に伴う食糧不足も深刻な問題のひとつです。十分な食糧供給を実現するには、大量の化石燃料を消費する現在の肥料製造法の変革が必要です。自然環境下では、空気中の窒素を植物が使用できる状態に変える力があります。私たちはそのプロセスを正確にシミュレートし、少量のエネルギーのみで再現するソリューションを生み出すでしょう。環境への影響も減らしながら、急増する人口に対する食糧供給に役立てるのです。

3. 世界を見直す前に、安全で効率的なバッテリーを再考する
人口の増加や社会の発展を背景に、世界のエネルギー消費量は増加の一途をたどっています。しかし、太陽光や風などの再生可能エネルギーは天候に左右される上、現在の技術では、世界で生産されたうちの約3%の電力しか貯蔵しておくことができません。私たちが再生可能エネルギーをしっかり活用するためには、貯蔵能力を高める必要があるのです。ただし、軽量で効率的なリチウムイオンバッテリーは、原料であるコバルトの供給が安定しておらず、また採掘現場での労働問題や廃棄の際の環境問題なども孕んでいます。今後5年間でAIや量子コンピューティングを活用し、リチウムイオンバッテリーに代わる安全かつ効率的な材料を用いたバッテリーを開発するための研究が進むことによって、このような問題も解決できることが期待されます。

4. 持続可能な材料や製品を開発し、持続可能な地球を実現する
現在の私たちの生活を豊かなものにしている自動車や携帯電話、医療機器などには半導体が搭載されています。世界に存在するこれらスマート・デバイスの数は全人類の数を上回っているほどです。私たちが豊かさを求めるほど、半導体の役割は重要になり、その需要も高まります。このため、その製造に関わるすべての化学薬品、材料、プロセスを、可能な限り持続可能なものにすることが重要です。今後5年間で、半導体や電子機器の分野における材料科学の研究が促進されていきます。半導体チップ製造工程は非常に複雑ですが、あらゆる製品の製造に使用できる、より高性能かつ安全で環境に優しい材料の開発のために、新しい材料設計のアプローチが採用されるでしょう。

5. より健康な未来のため過去から学ぶ
新型コロナウイルス感染症の爆発的な流行により、世界中が未曽有の事態に直面しました。この先も、こうした未知のウイルスによる脅威が、私たちの暮らしを脅かす可能性は低くありません。医師、および医療の最前線で働く人たちが新型のウイルスと戦うのを助けるため、今後5年間で新たな治療法の発見は促進されるでしょう。具体的には、AIや統計解析、データを組み合わせることにより、医療データ分析を迅速化することで、薬の転用可能性の提案や臨床試験のスピードアップに役立てます。これは、ウイルスの脅威に対する有効な手段のひとつになるでしょう。

テクノロジーが発見のプロセスを加速する

新たな材料を発見・開発するのは、本来であれば気が遠くなるほどの時間と手間のかかる作業です。しかし、ビッグデータの収集・蓄積技術や、AI、スーパーコンピューター、量子コンピューティング、最新のクラウドテクノロジーを活用することで、この困難な課題に立ち向かうことが可能となります。

過去から蓄積されてきたデータや人類の持つ知識をAIが統合し、スーパーコンピューターや量子コンピューティングを用いてシミュレーションし、クラウドプラットフォーム上でシミュレーションした結果をテストする――こうした手法を用いることで、材料発見のプロセスを加速することができるでしょう。これらのテクノロジーは、IBMがもっとも得意とする領域でもあります。

IBMの「5 in 5」は「希望的観測」ではありません。科学をもって今日の不確実性に向き合うことで、持続可能な未来に進んでいけることを示しているのです。私たちは未来に向けて着実に歩みを進めています。

photo:Getty Images

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