ITコラム
企業のDXを加速ーIBMとAWSが描くクラウドジャーニー
2021年12月17日
カテゴリー ITコラム
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このような状況の中でIBMが目指すのは、お客様にとって最適なクラウド利用形態を描き、お客様のビジネス課題を解決するシステムのモダナイゼーションやDXを成功に導くことです。その一環として、IBMはAWSと日本において2017年から案件支援やスキル育成などさまざまな方面で連携を開始しています。
この取り組みから生み出される価値について、アマゾン ウェブ サービス ジャパン(以下、AWS Japan)の市川俊一氏と日本IBMの山崎まゆみが語り合いました。
通信事業者の研究所で分散システムのソフトウェア開発やクラウド・サービスのシステム開発などに携わり、その後、世の中のクラウド普及および活用にもっと貢献したいという思いから、AWS Japanに転職。現在はさまざまなパートナーと手を組みながら、AWSクラウドの日本国内での活用を主に技術面から支援している。
日本IBMで公共や金融系のお客様のシステム構築やサービス・デリバリーに長く携わった後、2016年頃からクラウドを活用したアプリケーション開発やシステム構築に携わる。現在はAWSをはじめとするマルチクラウド案件を担当する部門をリードしている。
2017年から日本IBMとAWS Japanが連携を開始
――両社の連携は、いつ頃から、どのような形で進んできたのでしょうか。
山崎 2017年にIBM内でAWSのパートナーとしてコンピテンシー認定を取得するという動きがあり、これを受けてAWSを活用したサービス・ビジネスをやっていこうという機運が高まりました。こうしてAWS Japanと連携する場が生まれ、2018年から日本IBMの社員にAWSのスキルをつけてもらうべく基礎的な研修を実施していただきました。さらに2019年からはAWS Japanのソリューション・アーキテクトにご協力いただき、月に1回の案件相談会を開催するようになりました。そして2020年頃になって社内のCCoE(Cloud Center of Excellence)体制も徐々に強化されてきた結果、日本IBMが主導するAWS案件もかなり増えてきました。
市川 2017年から連携が始まったというお話をいただきましたが、米国ではその1年前の2016年にIBMはアドバンスド テクノロジー パートナーとなり、2020年にはプレミア コンサルティング パートナーに認定されています。これはAWSのコンサルティング パートナーの中の最上位ランクに位置付けられるもので、両社の連携はまさにワールドワイドで広がっています。そうした中で日本においても連携が始まり、案件対応のほかソリューション開発、コンサルティング人材の育成など、多様な分野で連携が深まっていることは非常に心強いところです。
山崎 ありがとうございます。2018年、2019年におけるAccreditation Awardでの表彰など、AWS Japanから高い評価をいただいていることは大きな励みとなっています。
AWSとIBMのシナジーから生み出される価値
――両社はどのような考え方のもとで連携し、具体的にどのような活動を行っているのでしょうか。それはお客様にどのような価値をもたらしますか。
市川 AWSは現在200を超えるサービスを提供しています。また世界中に何百万人のお客様、10万社以上のパートナーがいて、広範なパートナー・コミュニティーが構築されています。AWSがクラウド サービスの提供を開始してから15年の歳月を重ねる中で、セキュリティー強化や高信頼の運用を実現するための知見も蓄え続けてきました。こうした取り組みが、AWSが注目される理由になっていると自負しています。とはいえ、それだけではお客様から選ばれるクラウドにはなりません。機能や性能、価格だけでなく、カルチャーも非常に重要な要素だと思っています。常にお客様のことを中心に考えて行動するという同じ価値観を有しているAWSとIBMだからこそ、連携のシナジーを発揮できると考えています。
山崎 IBMとしても、どうすればお客様に新しい価値を届けることができるか、AWSから多くのことを学ばせていただいています。例えば、現在多くのお客様が直面している課題の一つに、レガシー・システムの扱いがあります。レガシーというと老朽化したネガティブな印象があるかもしれませんが、お客様にとっては経営に欠かせない重要な情報資産です。クラウドを活用することで、そうしたレガシー・システムをいかに新しい技術に生まれ変わらせることができるのか。そこに軸足を置いた活動を両社の連携を通じて進められるようになったことに大きな意義を感じています。
市川 レガシー・システムと言われましたが、まさにそこはお客様の業務ドメインに深く入り込んだ部分で、IBMは長年にわたるシステム構築やサポートの実績を通じて豊富な知見を有しています。IBMの持つこれらの強みとAWSのクラウド実績の両社の相互補完によって、より高い価値をお客様に届けられるようになります。
また、技術的な観点からの訴求としては、例えばIBM Cloud Pak for Dataについて言及しますと、オンプレミスとクラウドにまたがったデータを統合し、分析や活用を可能とするこのプラットフォームにより、レガシー・システムでサイロ化されて管理されていた情報資産を生かすことができます。IBMとAWSでソリューション開発や検証作業は終わっており、すぐにでも提供可能な状態となっています。こうしたクイック・スタートが可能なソリューションをどんどん広げていきたいです。
山崎 その点はIBMも同じ思いです。さまざまなソフトウェアや業種ごとのソリューション、あるいはIPアセット(知的財産サービス・コンポーネント)などを既存の販路で提供するだけでは限界があります。これらをAWS上から展開することで、お客様の多様な要望に柔軟かつスムーズに対応できるようになります。
活発化する両社連携と急増する案件事例
――近年両社が連携する案件事例が急増しているとのことですが、実際にどのようなものがありますか。
市川 まず特筆すべきものとして、Red Hat OpenShiftをAWS上で稼働させたRed Hat OpenShift Service on AWS(ROSA)が挙げられるでしょう。世の中が激しく変化していき、システム開発のアジリティー向上が求められる中で、コンテナのオーケストレーションを担うこのプラットフォームは、エンタープライズ領域に非常に大きな価値を提供します。ROSAを活用することで、お客様はインフラ準備に手間をかけることなく、コンテナ技術を活用したアプリケーションやサービスの開発をすぐに開始し、ビジネスの成長にあわせてスケールさせることができます。またROSAには、データベースやAI、IoTといったAWSのサービスを組み合わせることも容易で、マイクロサービス・アーキテクチャーのメリットを生かしたシステムのモダナイゼーションを進めることができます。
山崎 ROSAに関しては、すでにAWSをご利用中のお客様を中心として、最近多くの問い合わせが寄せられるようになりました。フルマネージドでOpenShiftがサポートされるようになったインパクトはとても大きく、お客様はアプリケーションの構築に集中することが可能となります。「ならばぜひ試してみたい」という声が広がっており、IBMとしてもOpenShiftの価値を訴求しやすくなりました。
市川 ROSAが一般公開(General Availability)されたのは2021年3月のことですが、すでにいくつかのお客様の実環境への導入が始まっています。例えばある製造業のお客様では、DX推進を目的としたROSAの評価を行っていただいており、AWSとIBMは連携しながらその取り組みをサポートしています。具体的には運用監視の部分で、コンテナベースで稼働しているワークロードのさまざまなメトリックを監視し、必要な制御を行うためにAWSのモニタリング基盤(Amazon CloudWatch)を利用するのですが、実際に試してみないと分からないことも多々あることから、インテグレーション作業のサポートにAWSが入りました。
山崎 この案件ではAWSの皆様に大変ご尽力をいただいています。OpenShift自体にもさまざまな便利なコンポーネントが備わっていますが、ワークロードの運用監視についてはやはりAWSのモニタリング・サービスと連携させるのがベストです。とはいえROSAは公開されてからまだ日が浅いだけに、IBM側でのスキルの蓄積やドキュメントの更新が追い付いていないのが実情です。日頃からAWSと連携体制を持ち、お客様や社内のプロジェクト・メンバーからの問い合わせに素早く対応することができ、大変助かっています。
また、データ・サイエンティストの育成という観点では、IBM社内向けに開催いただいたAWS DeepRacerのイベントへの参加も大変刺激になったという話を聞いています。
市川 AWS DeepRacerは完全自走型の1/18スケールカーのレースなのですが、強化学習モデルをデプロイすることで、車をどんどん速くしていくのが醍醐味です。具体的にはAWSのAI/機械学習サービス、Amazon SageMakerのフレームワークを用いて強化学習モデルを構築し、AWS DeepRacer 3D レーシング・シミュレーターを使って、実際のレース場を模した環境でトレーニングとテストを迅速に繰り返しながらスピードアップしていくという方法をとります。IBMからの参加者は非常に優秀で、2019年に行われた世界大会の優勝タイムにも迫るトップレベルの記録をいきなり出してしまいました。これには本当に驚きました。
山崎 このイベントを通じて育成した人材やデータ・サイエンスの知見は、例えば製造業におけるIoTやエッジ・コンピューティングといった領域でも生かされそうです。
市川 そうですね。製造現場のさまざまな設備をリアルタイムに制御するためには、現場のデバイスにAIモデルをデプロイして実行する必要があります。そうしたエッジ・コンピューティングを実現していく上でのコアとなる技術要素がAWS DeepRacerに詰まっています。また、製造現場の無数のセンサーから収集したIoTデータを効率よくクラウドに集約することでも、エッジ・コンピューティングは有効な手段となります。
山崎 IoTデータをエッジ側のコントローラーに集約し、クレンジングなどの前処理を行ってからAWSに転送し、可視化や分析を行うというものですね。
市川 そうです。エッジ側のコントローラーから送られてくるIoTデータをAWSのデータウェアハウス サービスAmazon Redshiftに蓄積し、BIツールを用いて分析し、生産活動を最適化します。これに関してはすでにIBMと連携した案件も動いており、まもなく実務への適用が始まる予定です。
山崎 AWSとIBMが連携することで、そうした先駆的な事例をどんどん増やしていきたいですね。
市川 AI活用に関しては金融機関のお客様の間でもニーズが高まっており、多数お声がけをいただいていますので、業界業種を問わずDXのショーケースとなる事例も確実に増えていくと見込んでいます。
AWSとIBMが目指すお客様のDX推進に向けたクラウドジャーニー
――最後に今後に向けた両社の連携の展望をお聞かせください。また、そうした中でお互いにどのようなことを期待していますか。
市川 2021年3月にAWSの大阪リージョンは、他リージョンと同様のスタンダード・リージョンとして利用可能になりました。日本のお客様は東日本・西日本の合計6つのアベイラビリティ・ゾーンを利用した、BCP(業務継続計画)やDR(災害復旧)を意識したシステムの運用が日本国内でも可能となりました。今後はフォーナイン(99.99%)やファイブナイン(99.999%)といったより高度なSLAが求められるミッション・クリティカルなシステムを、AWS上で運用できる時代となります。ただ、Amazon CTOのWerner Vogelsが常に「Everything fails, all the time(すべての物は壊れることを前提にすべき)」と言っているように、より重要なことは、仮に障害が起こったとしてもその影響がお客様に及ばないようにインフラを設計し、備えておくことです。ソリューション・アーキテクトの立場から、私自身もそうした柔軟性のあるAWSのインフラ設計を追求してお客様に提案していきたいと考えています。
山崎 ぜひ一緒に取り組んでいければと思います。私たちからもお願いがあります。CCoEでは今後も引き続きAWS案件の推進、ソリューション開発、社内トレーニングを3本柱とする活動を推進していきますが、そこでの最大の目標としているのはお客様におけるDXの実現です。この活動を行っていく中では、例えばクラウドへの容易な移行を実現する支援ツールの整備やデータベースのモダナイゼーション、ビジネスでデータをより効果的に活用できるようにするためのAIを含めた仕組みづくりなど、やらなくてはならないことが多数あります。AWSの皆様により一層のサポートをいただければとてもありがたいです。
市川 私たちとしても望むところです。実のところ特に大規模なシステムを抱えているお客様にとって、クラウドに移行する際の障壁は技術的な問題よりも、むしろ組織的・体制的な問題のほうが大きいと言われています。だからこそお客様のビジネスを深く理解し、お客様の目線に立ったビジョンに基づいて移行プランを提案・実施できるパートナーが不可欠であり、その卓越した存在がIBMであると私たちは考えています。これからもIBMとAWSが協力し合って、お客様のクラウドジャーニーを後押ししていきましょう。
山崎 ありがとうございます。ますます緊密に連携し、多方面で連携することによって、良い意味でお客様を驚かせるような、もっと喜んでいただけるような、価値の高い仕事を一緒に行っていきたいと思います。
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