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医師が薦める「縄文人に学ぶ食事術」――糖質やプロテインの摂り過ぎが、あなたの健康を損ねる

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健康と美容のためにダイエットしている人は多い。常にカロリーを気にし、太らないよう脂肪の多い食べ物を避け、トレーニング後はプロテインのサプリメントを摂取するなど、いろいろ心を配る。
だが、医学博士でAGE牧田クリニック(東京・銀座)院長の牧田善二氏は、「これまで常識とされ、今も多くのメディアで取り上げられている健康法の多くは見直す必要がある」と警鐘を鳴らす。
牧田院長は糖尿病専門医として、40年にわたって延べ20万人以上の患者を診てきた。ビジネスパーソンの2割を健康上流、8割は健康下流とし、「健康格差」があると指摘する。
そこで、健康を維持しながら高いパフォーマンスを上げたいビジネスパーソンが実践すべき、人体のメカニズムに沿った効果的な食事術についてお話を伺った。

牧田善二
牧田善二
(まきた・ぜんじ)

AGE牧田クリニック院長、糖尿病専門医、医学博士。
1979年、北海道大学医学部卒業。地域医療に従事した後、渡米。ニューヨークのロックフェラー大学などで糖尿病合併症の原因であるAGEについて早くから研究を重ね、1991年に世界で初めてAGEの測定に成功、『Science』 『The England Journal of Medicine』『THE LANCET』等のトップジャーナルにAGEに関する論文を著者として発表。久留米大学医学部教授などを経て、2003年に東京・銀座に「AGE牧田クリニック」を開設し、延べ20万人以上を診る。糖尿病等生活習慣病の治療に携わる傍ら、アンチエイジングやダイエットほか、幅広い分野にわたって情報を発信している。80万部突破の『医者が教える食事術 最強の教科書』(ダイヤモンド社)など著書多数。

血糖値のコントロールが健康管理のカギ

――ベストセラーになったご著書『医者が教える食事術』では、ビジネスパーソンの2割を健康上流、8割は健康下流とし、「健康格差」があると指摘されています。この「格差」の原因は何でしょうか。

牧田 格差の原因は間違った食事です。肥満を招き健康を害する糖質(≒炭水化物)食品の食べ過ぎ、ジュースや清涼飲料水、ケーキやお菓子、添加物の摂取過多などが挙げられます。これは、日本だけでなく万国共通の課題です。
仕事で体や頭を使うと、つい糖分を摂りたくなりますね。実は、働き盛りのビジネスパーソンに糖尿病予備軍がとても多いのです。40歳の段階ではなかなか自覚できないかもしれませんが、50代を迎えたあたりから現実的な病気として現れ始めます。仕事のパフォーマンスが落ち、健康は確実に蝕まれていきます。
理由はいろいろありますが、1つの傾向があります。朝は忙しいからと食事を抜き、仕事の前後や合間に缶コーヒーを飲み、エナジードリンクで気合を入れる。野菜不足は缶ジュースで補い、昼食はソバやカップ麺、コンビニの焼き肉丼などをかきこむ。こうした食品や飲料は、いずれも糖質たっぷりです。例えば惰性で飲んでいる缶コーヒーや野菜ジュース1本に含まれる糖質は12~15グラム程度で、角砂糖にすると3~4個分に相当します。エナジードリンクの中には糖質約30グラム、角砂糖7個分に近いものもあるのです。
こうした糖質たっぷりの「たった1本の缶コーヒー」は、血糖値を急激に上げ、30分後にはピークに達します。これを「血糖値スパイク」と呼び、糖尿病ではない健康な人でも血糖値が140以上に達してしまいます。

血糖値の変化のイメージ
図1:血糖値の変化のイメージ

牧田 脳内ではこの時、ドーパミンという物質が分泌され、ハイな気分になります。
血糖値が急激に上がると、すい臓から大量のインスリンが分泌され、血糖値を大きく引き下げようとします。すると、ハイな気分から一転してイライラし、「またあの幸せな気分になりたい」と同じことを繰り返してしまいます。このジェットコースターのような急激な血糖値の上下が、体に重大なダメージを与えてしまいます。
ちなみに、上の図のように、ごはんやパンなど固体のほうが胃の中での消化に時間がかかるため、血糖値の上下は緩やかですが、液体の場合はアッという間に胃をすり抜けて小腸へ送り込まれ吸収されるので、一気に血糖値が上がるのです。
そして厄介なことに、現代人は飢えてもいないのに、この脳の快楽のためについつい糖質を摂ってしまう「糖質中毒」になっている人が多いのです。ところが中毒に陥っている本人にはその自覚がまったくありません。こうして肥満体を作り上げ、糖尿病などの深刻な健康被害の道へとひたすら進んでしまうのです。糖尿病のみならず、日常生活で糖質の過剰摂取を控え、きちんと血糖値をコントールすることが健康につながります。

糖質中毒のメカニズム
図2:糖質中毒のメカニズム

肥満や糖尿病の原因は、「カロリー」ではなく「糖質」の摂取過多

――日々健康管理を行っている人がまず気にするのは、カロリーです。飲食店のメニューには、料理ごとにカロリーが記載されているのをよく見かけます。現代人がこれほどまでにカロリーを気にするようになったのはどうしてでしょうか。

牧田 長年、太るのも血糖値が上がるのも、カロリーの摂り過ぎが原因とされてきました。
しかし、最新の研究ではそれらが間違っていたことが証明されています。私は、世界の最新の論文を原語で読んでいます。医学や栄養研究の進歩とともに、常識は変わってきました。患者さんに常に最新の正しい情報を享受してもらうためには、私は論文の翻訳を待ってはいられません。
肥満や糖尿病になる原因は、糖質の摂取過多です。にもかかわらず、ほとんどの医師が行う糖尿病の治療は、薬で血糖値を下げ、カロリーを控えた食事と適度な運動の推奨です。
繰り返しますが、重要なのはカロリー制限ではなく、糖質制限です。この考えは最近やっと一般にも知られるようになりましたが、まだまだカロリー説が広く浸透している状況です。

牧田善二氏

筋トレ後のプロテイン摂取は必要ない!?

――健康意識の高いビジネスパーソンの多くは、食事から十分に摂ることができない栄養をサプリメントで補うよう心掛けています。ジムでトレーニングする人は、よくプロテインやスポーツドリンクを摂取するよう推奨されます。ところが、牧田先生はサプリメントでタンパク質(プロテイン)を摂取するのをやめるよう警告されています。これまで常識のように思われていて、実は間違っていることをいくつかご教示いただけますか。

牧田 そうした実例は、たくさんありますが、今回は、ご質問のタンパク質についてお話ししましょう。なぜタンパク質をプロテインサプリで摂ることが良くないのかを、医学的に分かりやすく解説したいと思います。どのようにしてタンパク質を摂ったら良いのか、次の3つの観点で説明します。

  1. 筋トレをしてもプロテインサプリを摂取する必要は全くない
  2. プロテインサプリを摂取しても筋肉が付くわけではない(運動もパフォーマンスも上がらない)
  3. プロテインサプリを摂りすぎると腎臓を悪くする

運動後にプロテインのサプリメントを摂取する必要はありません。筋肉を使った、つまり運動したら、筋肉が落ちてタンパク質を補充する必要があるという考え方は実は、間違っています。その理由を「生化学」という学問がきれいに説明してくれます。生化学の教科書といわれる『リッピンコット生化学資料4』にも書かれているように、肉や魚また体の筋肉に含まれるタンパク質(プロテイン)は、食事として食べると消化されてアミノ酸という物質になります。このアミノ酸が体のたくさんのタンパク質を作る材料です。
運動の有無にかかわらず、体のタンパク質(筋肉のタンパク質も)は、絶えず作り変えられています。1日に400g分解され、400g作られています。アミノ酸は、体内の細胞内、血液内、細胞の外の細胞外液などに貯蔵されています。こうした体に貯蔵されているアミノ酸のことを、アミノ酸プールと呼んでいます(約100g)。アミノ酸のプールは3つの生成経路と3つの消費経路によってその量は絶えず一定に保たれています。

<アミノ酸生成経路>

  1. 体の筋肉などタンパク質の分解によってもたらされるアミノ酸 (そのほとんどは再利用される)
  2. 食事から摂ったタンパク質由来のアミノ酸
  3. 体の中で作られるアミノ酸

<アミノ酸の消費経路>

  1. 体のタンパク質を合成する(筋肉も含まれる)
  2. 過剰のアミノ酸を尿素窒素などの形に分解して尿から排せつする
  3. ブドウ糖や脂肪を合成する

これらの機能によって、身体を構成する大事なタンパク質は、絶えず分解され作り替えられています。材料となるアミノ酸が不足することがないよう、必要量が的確に蓄えられているのです。
ですから、あなたが筋トレやジョギングをしても、慌ててタンパク質を人工的なプロテインサプリから摂取する必要はありません。体の中で筋肉を作る元となるアミノ酸は大量に体内に貯蔵されており、運動し筋肉が分解されると、すぐに体に貯蔵されたアミノ酸から筋肉が作られるように、うまく人体のメカニズムはできているのです。

――「運動をするとブドウ糖が消費されエネルギー不足になり、筋肉がエネルギー源として使われるから、タンパク質の補充が必要だ」という説もあるようです。

牧田 これも科学的な根拠はありません。人間の体は運動したからといって、大事な筋肉をエネルギー源に使うなどという仕組みにはなっていません。糖質がなくなると、次にエネルギー源として使うのは脂肪です。脂肪は普通の体重なら1カ月以上糖質ゼロの状態でも、エネルギー不足にならない量の備蓄があります。これをすべて使い切った時に(文明社会では、まずありえません)、初めて最後に筋肉のタンパク質を使い、その時は筋肉が痩せてきます。これまで述べたように、人間の体は完璧なまでにうまく計算されてできているのです。食事でタンパク質を摂っていれば何の心配もありません。

次に、アスリートやボディービルダーは、タンパク質を補強するためプロテインサプリを摂るべきかについての研究をご紹介しましょう。運動後にプロテインを多く摂るべきか否かは、昔から医学的に重要な問題とされてきました。この問いに答える研究報告があります(Proceeding the Nutrition Society 1994, 53:223-240)。
タンパク質の必要量は、運動量とともに低下し、極端な激しい運動になった時に初めて上昇するU字カーブを示します。この著者の結論は、極端な高タンパク食は体にとって良くない。そしてアスリート、特にボディービルダーがいろいろなアミノ酸ドリンクなどを使用することによって、パフォーマンスが向上するという証拠はないと書かれています。この実験では、男女26人のボディービルダーに平均1.93g/体重kg/日のかなり大量の高タンパク食を試したが、筋力に効果は全く認められなかったとしています。
さらにエール大学の実験では、アスリートに5カ月間50%のタンパク質制限食(1日タンパク質はたった55g)、つまり厳しいタンパク質を制限した方が筋力はなんと35%も増加しました。結論としては、タンパク質を制限した方が筋力が付いたのです。みんなが信じていた運動するとプロテインを補うべきだという考えは、間違いだったのです。

牧田善二氏

プロテインを摂り過ぎると腎臓病を起こす

――逆にプロテインを摂り過ぎると、体に何らかの弊害が生じるのでしょうか。

牧田 医学的に重大なことは、プロテイン摂取過多は腎臓病を起こし悪化させることです。プロテインをサプリメントから摂る人工的な商品には、自然な食品とは比べ物にならないほど大量のタンパク質が含まれています。そうすると体内にアミノ酸が過剰になり、尿素窒素などの毒素に変えられて腎臓からろ過され排せつされます。尿素の過剰排せつが続くと、腎臓は過剰ろ過による負担がかかり機能が低下(腎臓が悪くなる)することが医学的に証明されており、重大な健康被害をもたらしかねません。
私自身が著作執筆のために参考にしている4000ページにわたる『The Kidney』の著者(正式には編者)のバリー・ブレンナー教授が、1982年の論文ですでにそう報告しています。つまり、タンパク質を人工的に過剰に摂ると腎臓を悪くする、ということは腎臓病医には常識となっています。

ではどのようにしたら良いか。タンパク質の1日あたりの摂取推奨量は男性で65g、女性は50gです(厚生労働省「日本人の食事摂取基準2020年版」)。男性で65歳以上なら60gです。体の大きい西洋人でもタンパク質の必要量は日本人とほぼ同じです。タンパク質は必須の栄養素ですから不足するのは良くありませんが、大量に摂るとかえって害となるということです。適切な量を肉や魚、豆類などの食べ物から摂取しましょう。
これは糖質を摂る時、清涼飲料水に溶けた糖を摂ると血糖値スパイクを作るのと似ています。
どうしてもムキムキの筋肉をつけたい、そのためにはプロテインサプリが必要だと固く信じてやめたくない人は、少なくとも半年か、最低でも1年に1回は尿アルブミンとeGFRの値の検査を受けてください。異常値になり腎臓病になったら、すぐにサプリをやめて腎臓内科医を受診しましょう。

牧田善二氏

縄文人に学ぶ食生活、人類が昔から食べてきたもの

――ご著書によると、私たち日本人は縄文人のDNAを受け継いでおり、その頃から1万4000年にわたり脈々と食べてきたものが体に、そして健康に良いとされています。現代の私たちが、いにしえの縄文人から学ぶ、健康に良い食生活について教えてください。

牧田 一言で言うと、人類のDNAに沿った自然な食べ方をしよう、ということです。
私たちの体は、人類誕生の頃から飢えとの戦いでした。危機にあった際に餓死を逃れ生き延びるために糖質を摂りなさい、血糖値を下げ過ぎてはいけない、とプログラミングされています。

動物は、最初の1頭の出現時にすでに完璧な生命体です。これは人間も同じです。ただ、人間は脳が発達したので、農耕を手に入れました。しかし、人間がホモ・サピエンスとして登場した頃に農耕は想定されていませんでした。その頃は、狩猟と採集によって得られる動植物を食べていたのです。農業によって、もともと組み込まれていたDNAにそぐわない食生活を始めてしまったのです。
日本は稲作文化の国とされていますが、稲作が本格的に始まったのは、弥生時代です。
私たちのルーツについて、古くから住んでいた縄文人と、大陸からの渡来人が徐々に混血していき、現代の日本人になったという説が広く支持されています。他方、国立科学博物館の神澤秀明氏らの研究では、現代の日本人は、より縄文人のDNAを強く受け継いでいることが証明されました。私たちの体は本来、1万4000年前の縄文人のように生きていくように作られていると考えていいでしょう。
ところがここ100年くらいで、私たちはそれを勝手に大きく変えてしまいました。食生活もしかりです。私たちのDNAが認識していない多くの食べ物や食べ方が、さまざまな病気を生み出してしまった一因ではないかと私は考えています。

健康でいるには、もともとなかった食べものをむやみに食べ続けないことが重要です。現代人の寿命が延びたのは、医学の進歩のおかげであって、免疫力という意味では、縄文人より弱くなっているのではないでしょうか。
現代人の生活には、免疫力を低下させる不自然な物質が溢れています。その代表格が精製された砂糖で、縄文人のDNAを持つ私たちの体には想定外の物質です。また防腐剤や見た目をよくするための化学的な食品添加物が使われるようになったのも、人類の長い歴史の中では、ほんの最近のできごとです。ただ、縄文時代の食生活に戻ることは不可能ですから、せめてあなたのおばあさんや、ひいおばあさんの時代になかった食べ物を、毎日食べ続けないほうが良いと覚えておくのがいいでしょう。

コロナ禍の今、食生活を見直す機会に

――以前は不規則な食生活をすることが多かった人たちも、コロナ禍で在宅勤務が推進されて以来、規則正しい食事のタイミングや食材の選択がしやすい環境になってきているように思われます。そうした中で、ビジネスパーソンが取り組むべき食生活のアドバイスをいただけますか。

牧田 難しいかもしれませんが、食事はおっくうがらないで自分で作るように心掛けてほしいですね。利点は、添加物の多い食材を避け健康に良い食事ができることです。料理を自分で作ることで、何かあっても独りで強く生きることができます。
毎日の食事に気をつけることが、あなたを健康にします。仕事の成功より自らの健康の方がはるかに大切です。コロナ禍で在宅勤務が多くなる中、縄文時代の食生活を心の片隅に置いて、健康的な料理プランを作成してみてはいかがでしょうか。毎日の食生活を変えて、食事にこそ時間をかけるように大きく生活を変えてほしいですね。

ベストセラーとなった『医者が教える食事術』(左)と、最新刊2冊
ベストセラーとなった『医者が教える食事術』(左)と、最新刊2冊

TEXT:栗原 進、PHOTO:松野知花、図・表:牧田善二氏提供、編集部でアレンジ

※日本IBM社外からの寄稿や発言内容は、必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。

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