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日本人の2人に1人が生涯で「がん」になると言われている時代。私たちの周りには「がん」と向き合いながら働いている人は少なくありません。昨年より新型コロナウィルス感染症(以下、コロナ)防止対応を迫られ、自分自身だけでなく周囲への健康への配慮、そして働き方が大きく変化する中でも、「がん」はコロナと同様にとても身近な存在です。

「がん」に侵された時に、どのように向き合って働き続けることが可能なのか?実際に社員で「乳がん」を経験した久保秋有里にインタビューを行いました。この病気は女性に限らず、誰もが直面する可能性があります。「身近にあるからこそ『がんと共に働く』ということも多様性の一つである」と受け入れられる社会・文化であることが大切であり、考える機会になれば幸いです。


椎葉 友紀
著者:椎葉 友紀
保険・郵政サービス事業部 保険サービス営業部 第二サービス営業

保険業界のお客様を担当して10年以上、もしもの時のための保険契約は万全ですが「日頃からの予防は?」「実際に直面した時はどうするの?」ということは考えたことがありませんでした。そして社歴が長くなるに従い、同僚ががんにかかっていることを目の当たりにしたことや、最近では、父が数度目のがんの手術を終えたばかりにも関わらず、仕事を続けている姿を見たことをきっかけに「がんと共に働く」ということを、改めて自分なりに考え調べてみることにしました。

 

インタビュー応じる;久保秋 有里の写真

久保秋 有里
通院中のリモートワークより

今回インタビューに応じる久保秋有里は、デジタルマーケティング担当として2016年に日本IBMへ中途入社。本当に「がん」の治療をされている方なのか?と著者が動揺してしまうくらいに、あっけらかんと発見から現在の状況までを話してくれました。久保秋の「がん」は乳がんで女性特有なものではありますが、早期発見の大切さや、実際に「がん」になってしまった場合、治療を続けながらの働き方については男女関係なく参考になることでしょう。

がん発見のきっかけは?

「早期発見がキーだったと思う。来年の検査での発見だったらこんな状態では話せなかったかも」と、久保秋はご自身でがんを発見するまでの経緯を教えてくれました。

きっかけは「寝ている時に行ったセルフチェック」です。世間で言うしっかりしたセルフチェックとまではいきませんが、胸元を触っている際に「あれ、脂肪の塊かな?」くらいの感覚で見つけたそうです。実は久保秋のお姉さんが、健康診断でゼロステージで乳がんを発見されていたこともあり、乳がんに対しての意識が高かったことで何気ないセルフチェックがきっかけでした。

当然、久保秋もお姉さんと同様に健康診断を受診しており、2018年4月に超音波検査、2019年4月にマンモグラフィー検査を受診していました。ですが、その時には発見されず、先に述べたように寝ている時のセルフチェックが「がん」が発見されるきっかけとなったわけです。その時期は2019年5月頃と聞き、4月のマンモグラフフィー検査からさほど時間が経っていなかったということに筆者である私は大変驚きました。

セルフチェック後、すぐに会社の健康保険組合の相談窓口に相談し、放射線検査を受診することを勧められため病院へ。ただし、その時の検査では発見されず、生検検査をその後実施、生検検査に時間を要し、7月に「がん」であることが判明することになりました。その後、治療方針が固まるまでも時間を要したため、治療方針が確定したのは8月でした。

時間がかかってしまった要素の一つに「病院選び」にあるそうです。なぜなら、病院を選びには、実績はもちろんのこと「自宅から通うための利便性を重視したい」ということで、乳がん治療は他のがん治療よりも通院の回数が多いことから、通院と通勤の両面を考え、久保秋は最も軽減したい通院への負担が少ない病院を選んだのでした。

さらに、発見までの経緯を本当にあっけらかんと「がんが発見された場所とステージが早かったこともあり、手術あとも気にならない」と語ってくれました。その姿は、「本当にがん治療の人だろうか?」を思ってしまうほどでしたが、その次に「がん」になることで直面する経済面について「ショックだった」と、聞きにくいことを察っして自ら教えてくれました。

ショックだったことは何ですか?

「1番びっくりしたのは治療費、手術代がかかることは覚悟していたものの、インターネットで検索すると3年で300万という情報も出てきて、その数字をみてショックを受けた」と教えてくれました。がんになったという事実とあわせて「治すためにはお金がかかる」ということ、これが避けられない現実なのだと思いました。

下記の厚生労働省による参考ページの抜粋図によると、一般的にかかると言われているがんの治療費用は「1年間の自己負担額は平均20万円」とあります。また、この負担額は医療の種類や病院、また加入している各健康保険制度によって変わるようです。さらに負担額は、がんの進行度や治療期間に比例していきますから、改めて体や精神面だけでなく金銭的な負担を避けるためにも、早期発見の重要性を感じます。

厚生労働省ウェブサイト「先進医療の概要について」の「先進医療に係る費用」については全額自己負担から(本記事の掲載に先立ち、厚生労働省のウェブサイト記載の医療費試算例の説明文と例図を筆者が加工して画像化。
出典元:厚生労働省ウェブサイトより
※「先進医療の概要について」の「先進医療に係る費用」については全額自己負担から(本記事の掲載に先立ち、厚生労働省のウェブサイト記載の医療費試算例の説明文と例図を筆者が加工して画像化。参考情報として引用)

がんと共に働くってどのような感じですか?

次に治療と並行しながら久保秋は、どのように働き方を工夫しているのかを聞いてみたところ(コロナ禍以前の働き方について)リモートワークをフルに活用しながら、治療を続けているとのことでした。

日本IBMでは、制度として連続で暦日14日以下であれば年次有給休暇を利用して療養休暇が取れる仕組みがありますが、がん治療となるとその期間では治らないケースがほとんどです。

久保秋の場合は、25日連続で放射線治療が必要となりました。皆さんも経験があると思いますが、病院は朝・昼・夕方に診察のピークがあり、かつ待ち時間が非常に長いです。それは放射線治療も同様であり、「病院ではほとんどの時間を待ち時間で過ごすことになる」ことを教えてくれました。

日本IBMでは、リモートワークの文化は全社員に浸透しているので、久保秋は通院中もリモートワークのスタイルをフルに活用をしているという。長い待ち時間中の会議はWebex(Web会議用のソリューション)を活用するものの、病院で電話を使って会話するわけにはいかないため、Web会議中にメッセージを伝えるときは、チャットを活用するなど、会社のツールもフル活用されていました。

この通院中におけるリモートワーク・スタイルでの働き方について「所属長だけでなく職場全体として受け入れてくれたことは、自分自身ががんである事をオープンに話せたことが大きいかもしれない」と教えてくれました。個人を尊重する風土だけでなく、多様な文化や考え方を受け入れる土壌が日本IBMにはありますが、久保秋のオープンな性格にもよるところの影響も少なくありません。彼女のオープンな性格かつ働き方は「オープンな日本IBM文化」の中で、がんと共に働く彼女にフィットしたのかもしれません。

インタビューを終えて

久保秋へのインタビューを行ってから1年以上が経ちます。その頃はまだコロナについては日本では大きく報道されておらず、日本の社会全体として在宅勤務に移行するとは誰も想像していない状況でした。どんな環境であっても、多くのがん患者さんが治療しながら仕事を続けられるよう、治療と仕事の両立が当たり前になる制度を整えることや受け入れる社内風土があることがとても大切に感じました。

健康であればなおさら、あまり日常生活の中で考えないテーマかもしれません。コロナ対応で他の病気の存在が忘れられつつある中、コロナと同様に重篤化する「がん」は忘れてはならない病気であり「早期発見が完治の鍵」です。この記事が「がんと向き合いながら働くということ」について考えてみたり、そしてご自身の健康診断や検査のタイミングを見直すきっかけになれば幸いです。


※日本IBMの「乳がんの正しい知識」を広めるための社内コミュニティー活動「IBM Pink Run」では、乳がん検診の受診の促進などに務めています。Pink RunではAIを活用したチャットボットの開発にも取り組んでいます。例えば、気になる症状がありこれから検診を受けようか迷っている方や、社内でサポートを受けられる仕組みはどんなことがあるのか悩みを相談できず、自身の中に抱えている方が多くいるかもしれません。そのような方に感情面のサポートを目指して、話しかけやすいキャラクターをデザインし対話内容を検討しています。世の中の皆さんの心に寄り添える、IT活用がより一層進むことを心より願っています。

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