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日米デジタル貿易協定は、世界のモデルとなる:データの力を活かし経済成長を加速

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先週、米ニューヨークでドナルド・トランプ大統領と安倍晋三総理大臣が日米貿易協定に署名しました。両首脳が、農産物や自動車といった物品について定める協定に加え、世界第1位と第3位の経済規模を誇る二国間のデジタル貿易を促進・保護する強固なガイドラインについても合意を交わされたことを喜ばしく思います。このデジタル貿易の国際ルール化は、TPP交渉を含め、日本政府が一貫してその重要性を訴求されてきた分野であり、日本政府の強いリーダーシップを心強く思います。

昨今、生活のあらゆる面を変革するデータの力について多く語られています。データは短期間のうちに地球上で最も貴重な資源となり、その価値は今後数十年も加速度的に増していくと見込まれています。実際に、世界のデータ総量は今後わずか6年で5倍以上増加すると予測されており、こうしたデータの大部分は経済や社会の発展と密接な関係を持っています。例えば、米国のデジタル経済は、2006年から2016年にかけて、経済全体と比較して4倍近くに上るスピードで成長を遂げました。

しかしながら、グローバル化した経済の中で、このデータ革命をいかに正しく、確かなものとして進展し続けるかについての議論はまだ十分に行われていません。あらゆる規模の企業にとってデジタル経済の生命線とも言うべきものは、ビジネス・データの移動が安全に行えること、すなわち、厳格なセキュリティー標準やプライバシー標準がしっかりと守られた中で、国境を越えてデータを自由に行き来させられるということです。こうした背景から、この重要な課題に光を当て、他国に率先して見本となる例を示した今回の協定は、とても重要だと思います。

国境間のデータの自由な移動、データの保存・処理が可能な場所に関する最小限の制限、関税その他の保護貿易措置を伴わないデジタル・プロダクトの電子的な配信などについての具体的な規定を盛り込んだ今回の協定は、通商交渉がようやく今日の市場の実情に追いついたことを示すものです。またこの協定は、デジタルな知的財産(アルゴリズムやソースコードなど)に対する強力な保護を規定することで、これらの資産が21世紀のビジネスにとって、20世紀における設計図や製品デザインと同様の価値を持っていることを正式に認めるものとなっています。

IBMは多数の多国籍企業のビジネスをご支援しており、お客様は大変価値のあるデータを責任を持って安全に管理するだけでなく、データを競争優位性に変えていくことについて、IBMを信頼してくださっています。お客様とは、バンキング・サービスの提供やグローバル・コミュニケーション・ネットワークの管理、世界各地への製品の出荷などついて日々会話していますが、こうした業務はすべてオープンなデジタル貿易環境に依拠しています。
国境を越えた業務において、データの移動に対して制限的な貿易政策が与え得る影響は容易に想像できます。例えば、サーバーが置かれている場所に応じて、自社のファイルへのアクセスに異なる料金が課金されるといった事態が考えられます。デジタル貿易に対する保護主義的なアプローチは、データの移動、管理、共有に対し、重大なコスト増加と複雑さをもたらします。その結果、革新的なサービスや雇用創出が妨げられ、世界経済の成長の鈍化につながる可能性もあります。

私たちは、デジタル時代への扉を開けたばかりです。しかし、グローバルな社会の成功は、効果的、かつ適切なコストで、国境の枠を越えて繋がることができるかどうかにかかっています。そのため、世界の通商政策は、今日の経済発展の原動力を正確に反映し、保護する必要があります。同時に、この目標を達成するためには、官民の協力が必要です。デジタル経済の発展に必要な環境を作り出すためには、サイバーセキュリティー、消費者保護、プライバシーに関する政策の策定において、民間組織の協力も欠かせません。IBMは引き続き各国政府と連携して、信頼性のある自由なデータ流通(DFFT:データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト)の推進に寄与してまいります。

※IBMコーポレーション シニア・バイスプレジデント マーティン・シュローターのコメントは下記をご覧ください。
IBM Welcomes US-Japan Trade Agreement(英語)

※経済産業省のニュースリリースは下記をご参照ください。
日米貿易協定、日米デジタル貿易協定に関する合意結果について

 


山口 明夫
日本アイ・ビー・エム株式会社
代表取締役社長

 

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