IBM Research

「現場に愛される」AI音声アシスタントがコールセンターの働き方を変える?!

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受賞者:左から鈴木雅之、倉田岳人、立花隆輝、長野徹、福田隆、伊東伸泰
2018年度音響学会「技術開発賞」受賞者:左から鈴木雅之、倉田岳人、立花隆輝、長野徹、福田隆、伊東伸泰

音声認識の進歩はめざましく、2017年、「AIスピーカー」という言葉が、新語・流行語大賞 にノミネートされるほど世間の注目を集めた。AIスピーカーとは、音声操作によってインターネットを介して調べ物やニュースの読み上げ、音楽や動画の再生などができるスピーカーだ。まるで人と会話をするように機械操作することができるスピーカーが、PCやスマートフォンを使わない音声認識によるインターフェースの進化を体現した。

IBMでは、1960年代から音声認識の研究に取り組んでおり、最近はそのビジネス応用にも力を入れている。その研究の成果として、IBMのAI「Watson」の音声認識技術を活用したコールセンターエージェント支援システムが、2018年度音響学会にて、音響工学の研究成果を適用して開発された機器・工業技術で、関連する分野に著しい貢献があったものに贈られる「技術開発賞」を受賞した。この受賞を受けて、当技術研究をリードするIBM東京基礎研究所の研究者の立花、倉田、長野に話を聞いた。

取材・文:安原 美理、写真:芋岡 祥子

 

——クラウド型音声認識システム「Watson」によるリアルタイム・コールセンターのエージェント支援システムについて教えてください。

立花 隆輝

立花:このシステムは、顧客とコールセンターのオペレーターの対話をリアルタイムに音声認識し、認識結果を用いてFAQ集や関連資料を検索することで、対話に必要な情報をオペレーターに提示する仕組みです。

コールセンターで取り扱う内容は複雑化している一方で、コールセンターのオペレーターは膨大なマニュアル集の中からお問い合わせの内容を手で開いて適切な回答を見つけて回答をしていることがほとんどです。そのようなコールセンター業務の中で、オペレーターのスキルギャップによる顧客対応品質の差の均一化と業務の効率化が業界全体の課題となっていました。

このシステムは、熟練オペレーターの過去の対話から顧客応対に関する知識を学習したデータをリアルタイムに検索・表示することで、経験の浅いオペレーターも熟練オペレーターのような素早くかつ正確な応答が可能になります。結果として、オペレーターの教育期間の短縮や応答時の先進的負担の軽減に繋がり、それに伴う離職率の低下も期待できます。

立花 隆輝

——Siri、Cortana、Alexaなど、いわゆる他社のフロントエンドの音声アシスタント機能と大きく異なる点はどこですか?

倉田:そもそも使われる場面が全く違います。上記は一般ユーザー向けのサービスで、当システムは、ビジネスユースでお客様の業務に特化した音声認識システムを提供します。また、IBMは長年、音声認識関連技術に対して投資を行っており、電話会話音声認識に関しても世界最高レベルの精度を達成しています。その技術を元にしたクラウド型音声認識サービスシステムであるため、エンタープライズ分野に強いのが大きな特長です。
さらに、全世界共通のアルゴリズムが使われているため、サービスのグローバル展開にも対応します。

——システム導入時のオペレーターの反応はいかがでしたか?

長野 徹

長野:「熟練のオペレーターの顧客対応を学習する」というのが、まさにこのシステムの肝となります。そのため、従来情報システム部やオペレーターを統括する人にだけするような説明についても、オペレーターの方々に随時説明をして協力を得る努力をしました。特にシステム導入時には、現場のオペレーターの方々のフィードバックを何度もいただきながらシステムの改良を進めました。

あるオペレーターの方は「Watsonくんに教えないないとね!」と言いながら、まるで子どもを育てるようにシステムに対して根気よくフィードバックをくださり、研究者としてこの上なく嬉しかったです。システム導入およびに品質改善にはオペレーターの方々の協力がないと進まないため、そのように現場で「可愛がられる」というのは非常にありがたいことだと思います。

——研究開発の裏側を少し教えてください。

立花:このシステムの研究開発のきっかけとなったのは、IBMのコンサルティングサービスの部門で特定したお客さまのニーズを解決したいという想いからでした。そのようにサービス部門と連携し、ビジネスにインパクトのある研究に携われるのは東京基礎研究所における研究・開発の醍醐味の一つだと思います。

倉田:音声認識技術に関してグローバルの連携が特に強く、米ニューヨーク、カリフォルニア、墺プラハチームと密に連携をして、お客様のために最良のサービスを提供する体制が整っているため、製品に関する意見交換はもちろん、グローバルチームでの共同論文の執筆や共同研究もしています。

——今後の展望について教えてください。

長野:電話の自動応答システムと、会議支援システムの研究開発を進めています。コールセンターでの応答は、ある程度回答が定型化されていますが、電話や会議での会話のように定型化されていない業務のサポートが次のチャレンジだと考えています。

さらに、会議や電話での会話のパターンを学習して、検索可能にしたものを要約して応答するシステムができれば、より多くのオフィスワーカーを支援できるはずです。

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