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障がいがある学生の可能性を広げるインターンシップ「Access Blue Program」

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IBMは障がいがある学生に向けて、ITやビジネスの実践的なスキルを身につけられるインターンシッププログラム Access Blue Program (以下、「Access Blue」) を実施しています。「Access Blue」は社会人に求められるビジネスマナー、コミュニケーションスキル、基礎的なITスキルが学べるほか、IBMのクラウドやAI(人工知能)といった最新のテクノロジーに触れることができ、障がいに応じた配慮や情報保障が提供されます。

2014年の試験的な実施以降、延べ165名の身体障がいや発達障がいなどさまざまな障がいのある学生が参加し、技術の習得だけではなく、グループ活動からチームワークやリーダーシップを学び、その後の学生生活や就職活動に役立てています。2020年はコロナ禍での開催となりましたが、オンラインツールを活用して実施されました。

日本IBMのこれまで

事業主に障がい者の雇用義務を定める「障害者雇用促進法」の前身「身体障害者雇用促進法」が制定されたのが1960年。日本IBMでは1950年代初頭より障がいがある社員が働いています。長期にわたる取り組みで蓄積されたノウハウやサポート体制により、募集職種の仕事が遂行できれば、障がいの種類や程度に関係なく「採用の機会は均等」「採用後の処遇も同一ルール」という採用方針があります。

日本IBM人事部の伊奈恵美子はダイバーシティ&インクルージョンの考え方について「ベースとなっているPeople with Disability (PwD)という考えが2019年からPeople with Diversity Ability (PwDA)に改められ、障がいに目を向けるのではなく多様な能力に着目するようシフトしている」と語ります。

7ヶ月に及ぶプログラムで自信を得る

「Access Blue」は障がいがある学生が働きながらITやビジネスの実践的なスキルを身につけられるインターンシッププログラムで、以下3つの特徴があります。

・学業、就職活動との両立を可能とする在宅勤務(テレワーク)を活用した柔軟なプログラム
・ビジネス基礎から最新テクノロジーまでを習得でき、新技術の実証実験に参加できるカリキュラム
・日本では珍しい長期(約7ヶ月間)のプログラムでじっくり学び、体験し、企業で働く自信が身につく

プログラムは「仮想提案プロジェクトを通じたお客さま価値創造」や「実際の業務部門におけるOJT」などのビジネスカリキュラムとITカリキュラムからなります。ITカリキュラムとして「プログラミング、Web開発などの基礎スキル習得」「データサイエンスに関する基礎知識学習と簡易実習」「人工知能IBM Watsonの基礎理解と使用体験」「チームでのアプリ開発プロジェクト」が盛り込まれるなど、最先端のIT知識を学べる充実した内容となっています。

「Access Blue」のユニークな点は、人事部とIBM東京基礎研究所(以下、基礎研究所)が共同開催していることです。「Access Blue」の意義について、プログラムを統括する基礎研究所の及川政志は次のように述べます。
「健常者に比べ、障がいがある学生に対する就職情報が圧倒的に不足しています。そもそもどんな職種があるか、障がいに対して企業からどのような配慮を受けられるかを知ることができないため、自分で選択肢を狭めてしまう。IT業界はテクノロジーを習得し専門性があれば障がいがあっても働くことができ、競争力がある人材になれるということを早い段階で知ってほしいという想いがあります」。

聴覚障がいのある方にはリアルタイムの字幕で情報保障をするなど、障がいに応じた適切なサポートは行いますが、「Access Blue」を通して学ぶ内容はいずれも障がい者用のカリキュラムではなく、健常者と同じです。「障がいがあっても就職後は健常者と同じ土俵に立ちます。自分が専門性を培って戦うフィールドを客観的に見定めてもらうことが重要なのです」(及川)。

企業側は、障がい者が働きやすい職場にするために、日々進歩するテクノロジーをどう使うかを見極める必要があります。「Access Blue」では、企業側と学生がプログラムを通じて実際にテクノロジーを活用し働くことで、企業は採用後の就労環境をスムーズに整備でき、参加した学生は自らの仕事の選択肢や可能性を広げる手段を知ることができるのです。

2020年はフルリモートで開催

新型コロナウィルスの影響で2020年の「Access Blue」はフルリモートで開催。プログラミングのように、視覚障がい者など一部の参加者には物理的な制約から実施困難なカリキュラムを除き、チャットツールやWeb会議システムの活用など手法を工夫し、前年までと遜色ない内容で実施することができました。

約7ヶ月にわたるカリキュラムは、オリエンテーションを兼ねたシンキング研修からスタートし、グループワーク、短期間プロジェクト、お客さまへのソリューション提案と実践的になり、最後はOJTとして各部門に配属され実際の業務を経験します。2020年度はOJTもフルリモートで実施しました。

また、学生たちの周りにロールモデルが少ないという問題意識から、ITスペシャリスト、コンサルタント、開発職、営業職、スタッフ専門職など幅広い職種で活躍する障がいのあるIBM社員と語る機会も意図的に設けています。「Access Blue」のクラスマネージャーとして参加者をサポートする人事ダイバーシティ部門の前田千代里は「それぞれの業務の流れやビジネスフローを理解していただいた後、学生が抱えている不安や悩みを先輩社員に質問する機会を作っています。同じ目線で語ることで、キャリア形成や働くための工夫・努力を具体的にイメージできる貴重な機会となっている」と話します。

IBMが多様な働き方を推進する必然性

テクノロジーが障がい者の働く環境に果たす役割について及川は「障がい者のために使うテクノロジーと、誰もが普通に使う汎用的なテクノロジーの2つがある」とし、コロナ禍でリモートワークを余儀なくされる現状を踏まえ次のように語りました。

「IBMでは新型コロナウイルス感染拡大以前から在宅勤務の環境が整備されていたので、インターンシップ参加者にも社員と同じIT環境を提供できました。少数派の人たちだけのためのテクノロジーを用意しようとするとコストがかかります。しかし全社員にベネフィットがあるデザインを採用し、インクルーシブな就業環境を整えることができれば、障がい者用にあえてテクノロジーを導入しなくてもたいていのことはできてしまいます。全員のためという発想でテクノロジーを考えれば、より良い環境が実現できると思います」。

在宅勤務という選択がスムーズにとれることは、障がいがある社員にとっても働きやすい環境になると、伊奈も新たな働き方をポジティブに捉えます。
「弊社には一人ひとりの個性を発揮できる環境を作っていこうというポリシーがあります。『Access Blue』はその一例で、就労イメージを持つことが難しい学生が参加することで能力を開花させ、自分の人生に向けて1歩踏み出すきっかけになれば嬉しいですね」。

福祉専攻だった学生が「Access Blue」に参加したことでITに興味を持ち、日本IBMに入社――そんな経験を持つとある社員は「Access Blueは人生を変えるインターンシップになった」と当時を振り返ります。「Access Blue」は、最も嘱望される職業のひとつデータサイエンティスト職に求められる基礎知識やスキル習得のためのカリキュラムの新設、「デザインシンキング」を取り入れたワークショップの実施など、時代の要請に応えながら内容を進化させています。IBMは1人でも多くの学生が自信を持って働くことができる機会を提供し続けます。

photo:Getty Images

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