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在宅ワーク×育児、どう乗り切る? 両立のカギは 「知恵の共有」

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新型コロナウイルスの感染拡大防止を受けて、リモートワーク導入・拡大や保育園や幼稚園、小中学校の休業に伴い、在宅ワークと育児の両立を迫られている人が急増している。普段とは違う状況下で、思うように働けない日々が続く中、当事者である社員と所属組織両方に、新たなマインドセットや工夫が求められる。以前、Mugendaiで「育児休業は企業研修にも通じる」と語ったワークショップファシリテーターの臼井隆志氏に、withコロナおよびポストコロナ時代における、子育て家庭のライフスタイル確立のヒントを聞いた。

ワークショップ・ファシリテーター/株式会社MimicryDesignディレクター 臼井隆志氏
ビデオ通話にてインタビューを実施

臼井隆志
臼井隆志
(うすい・たかし)

ワークショップ・ファシリテーター/株式会社MimicryDesignディレクター
1987年東京都生まれ。ワークショップデザインの手法を用い、乳幼児から中高生、ビジネスパーソンを対象とした創造性教育の場に携わっている。児童館をアーティストの「工房」として活用するプログラム「アーティスト・イン・児童館」(2008~2015)、伊勢丹新宿店の親子教室「ここちの森」(2016~2018)の企画・運営を担当。著書に『意外と知らない赤ちゃんのきもち』(スマート新書)がある。

ソーシャルディスタンスが「想像力のディスタンス」を生む

――臼井さんご自身は、コロナウイルスの流行や緊急事態宣言の以前/以後で、働き方にどんな変化がありましたでしょうか。

臼井 3月下旬から完全に在宅ワークに切り替えて、仕事はすべてオンライン化し、ミーティングが増えました。僕は、ワークショップを開催したり、組織開発やビジョンミッションをつくる研修のお手伝いなどをしていますが、最近は、リモート化に伴い「メンバー間の関係性の質が悪くなってしまった」「メンバーのモチベーションをどう引き出すか」「オンライン上で生産的な会議をするにはどうすればいいか」といった話題が多いです。そこで、オンライン・ファシリテーション研修の実施を提案しています。ファシリテーション、つまりミーティングの進行スキルをオンラインで習得できるという研修です。

――そんな中で、臼井さんが気付かれた在宅ワークと育児をスムーズに両立するために必要なことがあれば、教えていただけますでしょうか。

臼井 在宅ワークの大変さって、娘が僕の仕事部屋に入ってきて大泣きするとか、クライアントとの緊張感あるオンライン・ミーティング中に「パパ、クレヨンだよー」と言いながら入ってくるとか(笑)、そういう細かいノイズが増えることですよね。ノイズという言い方をすると子どもにはかわいそうですが、自分にとっての想定外のシーンは増えるので、そことどう付き合っていくかが課題だと思います。

対策として考えられるのは、上手く子どものストレスを発散させるために、仕事だけでなく子どもと遊ぶ時間も加味して自分のタイムマネジメントをすること。そして、小さなトラブルにも即興的に対応できる余白を作ることです。僕自身は、正直それらはまだまだできていないなあと思っています。

――お金を稼ぐ「タスク」と育児という「タスク」、どちらも片手間ではできず、そこで行き詰った方も多いと思われます。臼井さんは、そういった状況を打破するためには、どういった方法や思考が必要だと思われますか。

臼井 まず前提として、僕は共働きではなく、かなり仕事に集中させてもらっているので、ものすごく大きなアドバンテージがあります。ただ、共働き家庭でなくとも、1日の時間をすべて仕事に費やすのではなく、仕事、家事、子どもとの遊びのワークライフバランスをどう作っていくかという課題はあると思います。ただ、個人ではどうしようもない部分がほとんどなのではないかと考えていて。一緒に働く人に理解してもらうか、あるいはカレンダーを詰めこみすぎないことを組織の文化にするとか。そういったものって、いろんな人との合意の上で進んでいく変化だと思うんです。個人でどうにかしなくてはと思ってしまうこと自体が辛いんですよね。なので、ワークライフバランスをうまく達成するために、組織と社会が一緒になって考える必要のある課題だと思っています。

僕はこの問題は根深いと感じています。ワークライフバランスをポジティブな言葉で語れるビジネスパーソンって、そもそもごく一部なんですよね。時給や契約で働いている方は、8時間はおろか、10時間みっちり働かないと収入がまわらないことも多い。そして、リモートワークをしている僕からは、そういった方々のリアリティは見えにくくなってしまいました。ソーシャルディスタンスの時代において、想像力のディスタンスも生まれてしまったのではと懸念しています。そこで、この変換期を全員でポジティブに乗り越えていくために、知恵の共有のような仕組みが必要だと思っています。

ークライフバランスのイメージ
Image:Getty Images

「知恵の共有」システムで、世の中全体で困難を乗り越える

――「知恵の共有」を行うにあたって、どのような方法があるのでしょうか。

臼井 僕の関心事のひとつである美術館では、これまで共通の体験を共通の場でしていました。ですが、岡崎乾二郎さんというアーティストがインターネット配信で、「これから美術館は道端にあるほこらのように社会の中に点在していって、個々人がバラバラに鑑賞していくけれど、その経験が何かしらの形でつながっていくのではないか」という旨のことをおっしゃっていて。共有の方法は違ってきますが、リモートワークもいわば点在・分散の形なので、その考え方がヒントになると僕は思うんです。感染を防ぐために、大勢が会議室に集まれない状況があと2、3年は続くとして、いかに分散した状態をポジティブなものにするか。そのために、知見を集約して横断的に共有できるようなシステムづくりが必要になってくるとは思います。

――ただ、それこそ育児のように「手」が必要な領域には、分散型システムをひもづけにくいですよね。

臼井 おっしゃる通りで、保育園や介護施設、学校などは、集合的なケアで社会を保障していた場所です。学校に関しては、ホームスクーリング(通学せず、自宅で学習すること)のケアをどうするかという課題がありますが、そのシステムづくりを考えている方々から学ぶことは多いと思います。この3ヶ月、日本中がホームスクーリング状態だったわけですよね。それを親が一切知見を持たない状態で仕事しながらケアするというのは大変です。まずは、「みんな、どう乗り切ったの?」という知恵が集まることが重要だと思いますね。

――その知恵をさらに社会や組織に落とし込んでいって、従来型のやり方を変えられれば、より在宅ワークと育児が両立しやすくなると思います。

臼井 この期間、仕事や家族のマネージメントに、世界中でいろんな人たちが取り組んだと思うので、その知識を集積できるメディアがあるといいですよね。アンケートのようなものは行政などによってとられると思いますが、マネジメントの知恵は丁寧に取材しないと見えてこないですから。また、これまでそういったことは、社会調査という形で研究機関が行っていましたが、研究は論文というアウトプットが出てくるまでに時間がかかりますし、一般の方にとっては読むのも苦労します。それをメディアがわかりやすい形で速やかに取材し、いろんなケーススタディを発信してくれれば、今後とても役立つと思います。

育児との相互作用で仕事も効率化

――最後に、臼井さんは以前「育児休業は企業研修にも通じる」とおっしゃっていました。その発想の中には、在宅ワークを働き手にとっても企業にとってもポジティブに捉えることができるヒントがあると思います。今一度、育児と仕事がどんな良い影響を与え合えると考えていらっしゃるかを、教えていただけますでしょうか。

臼井 例えば、うちの娘は1歳10ヶ月なんですが、手を洗わなきゃいけないときに、まず僕が「手を洗ってもらってもいい?」って聞くんですよね。それで娘に「いいよ」って言われたら洗わせるようにしていて。これが、時間に余裕がなくて無理に洗わせようとすると、すごく嫌がられるんですよね。

僕がやっているワークショップやファシリテーションの考え方でも、目的の合意が重要なんです。「こういうことをやろうと思うのですが、どうですか?」と問いを立て、全員で合意できると何事もスムーズに行えるんです。でも、全員の合意がないまま進めると、「なぜこれをやっているんだろう?」となりがちですよね。そうやって、意味形成を都度やっていくことがマネジメントだと思うんです。

「手を洗ってもらってもいい?」子どもに一旦確認することは、仕事でのコミュニケーションにも通じる
Image:Getty Images

臼井 子どもに一旦確認することは、仕事でのコミュニケーションにも通じますし、確認時間のための余白を作ることは、仕事でのタイムマネジメントにも通じてくる。そうやって、「育児と仕事のこの部分って似てるな」と類推して楽しめると、気持ちがすこし楽になると思います。

また、知り合いが言っていたのですが、「以前は倒れるまでが仕事の限界のバロメーターだったけれど、今は子どもに対してイライラしてきたら疲れて限界がきているんだと思うようになった」と。子どもと幸せに過ごすことを目的とすると、手段としての仕事の効率化に積極的に取り組めるようになるんですよね。そうやって、育児との相互作用で、仕事も良いものにしていくことは可能だと思いますよ。

TEXT:高橋美穂、PHOTO(メインビジュアル):中村宗徳 ※2018年撮影

※日本IBM社外からの寄稿や発言内容は、必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。

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