ダイバーシティー&インクルージョン

男性の「育児休暇」取得で社員のキャリア&ライフはどう変わるのか

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「すべての『個』が輝く働き方のできる組織づくりのために」
日本IBMでは、女性がキャリアを継続していく上で直面するさまざまな課題を社員自らが確認し、目標を掲げて、結果に結びつく施策を提言していくため、1998年に諮問委員会として「Japan Women’s Council(※JWCと記す)」を発足。「意識改革、スキル改革、働き方改革」を3本柱として、2019年からは男性メンバーも参加し、新しい視点を取り入れた女性活躍の推進や管理職意識改革などの取り組みを実施し、継続的に情報を発信しています。
今回のブログでは男性の育児休暇取得の実情を、インタビュー結果を交えてご紹介します。


沖 順子
著者:沖 順子
グローバルビジネスサービス Strategy&iX Salesforceプラクティス所属

管理職歴8年目のコンサルタント。JWCメンバーとしても活動中。
配下男性メンバーにお子さんが産まれるタイミングで「育児休暇プログラム」が社内で話題となったこともあり、男性の育児休暇・休職取得の現状と今後の課題について考察しました。

 

育児休暇プログラム発表の背景

日本IBMでは、女性だけでなく男性社員も取得可能な「育児休暇プログラム」が導入されています。これまでも男性が取得可能な「育児休職」の制度はありましたが、数か月単位の休職が前提となるためキャリア面や生活面を考慮すると取得に躊躇する社員が多く、男性の育児休職取得率は日本IBM社内でもそれほど多くありませんでした。

日本全体を見ても、2020年7月に厚生労働省が発表した「2019年度の男性の育休取得率は7.48%で過去最高値」でした(出典元:厚生労働省ホームページ:事業所調査PDFより)。政府は「2020年までに13%」を目標に掲げていましたが達成はほぼ絶望的といった状況であり、5月に策定した少子化対策大綱では「25年までに30%」の目標も先送りにしています。

こういった状況をまずは日本IBM社内から打破し、育児にかかわる時間を多く持ちたいと考える男性社員をサポートするために、1日単位で取得可能な特別有給休暇(年間に付与される有給休暇とは別枠で取得可能な休暇)の制度が施行されています。
現在、このプログラムの利用者は拡大を続けており、制度の取得だけではなく復職後の男性の働き方について議論する機運も高まっています。

本記事では、プログラムが発表される前に法定有給休暇を利用し第二子育児に対面した男性社員と、プログラム発表後に第二子が誕生したため早速育児休暇プログラムを利用した男性社員二人へのインタビューをご紹介します。会社の制度や周囲の後押しが社員のキャリア&ライフに与える影響について、考えるきっかけとなれば幸いです。

育児休暇は本当に有用か?プログラム発表前に法定有給休暇で対応した社員の場合

“土屋
土屋 亮治
職種:鉄道業界のお客様担当の営業職
法定有給休暇4週間取得(2歳と0歳の父親)

 

第二子誕生の際に「法定有給休暇」を取得した時の背景を教えてください

土屋:子どもが生まれる前は、半年ほどの育児休職取得を検討しマネージャーに相談しました。

一人目の際は、自分が営業職でコミッション制ということもあり、自身のスケジュール調整のみで乗り切ろうとしましたが、実際やってみると調整しようと思ったスケジュールも周りから埋められてしまい結局育児に割く時間が限られ、妻にも周囲にも理解されず悪循環となってしまった苦い経験がありました。そのため、二人目に関しては妻とも話し合い元々ある育児休職という制度を利用しようと考えました。半年程であれば期間や給料への影響といった点でも何とかなるのではないかと考えていました。その後育児休職取得を計画しマネージャーに相談したところ、マネージャー自身の産休・育休体験をもとにアドバイスをいただき、また復職後のキャリアまで一緒に考えてくれました。

再度検討し、結果的にコミッションを維持したまま4週間の法定有給休暇を取得する方針を取ることとしました。これにより下記のメリットがありました。

  • 休暇前にある程度仕事を片付けて成果を出しておくことで、休暇中のコミッションも維持される
  • 週一程度は打ち合わせを持つことで、営業職で特に大事な社内・お客様とのリレーションも途切れない
  • 仕事をする日や時間帯を妻ともあらかじめ共有できるため、予定が立てやすいと妻からも好評

「世の中の風潮だから取ればいいんじゃない?」というのも有り難いですが、それだけでなく戻ってきた後のスムーズな職場復帰まで考える視点において、実際に産休・育休を経たマネージャーから実体験に基づいたアドバイスをもらえたことは非常に重要でした。また、周りの方の協力あってこその期間だったため、本当に周囲のみなさまの理解に助けていただいたと感謝しています。

育児休暇プログラムについてどう思いますか?

土屋:特別休暇(有給休暇と同等の扱い)であることがとても良いと思います。
今回、法定有給休暇を取得する方法で今の特別休暇のプログラムと同じような状態を作ってみましたが、やはり保有する有給休暇の日数がガクンと減ったことに不安を感じました。

IBMには看護休暇など様々な休暇の制度があるものの、子どもが複数名いると、最近の情勢では例えば予防接種に二人一緒に連れていくのもリスクがあるため、どうしても分散して連れていく必要があり余計に時間が必要となります。そのような場合にもこの制度が使えるため、有給休暇が目減りして年末に休む余裕がなくなる・・といったことも防げます。

今回発表された育児休暇プログラムは子が1歳になるまでいつでも取得できるので、タイミングを見て今後取得したいと思います!

家族も安心!実際に育児休暇プログラムを利用した社員の場合

上田
上田 健治郎
職種:コンサルタント
育児休暇プログラム3週間取得(3歳と0歳の父親)

 

育児休暇プログラムを利用したきっかけを教えてください

上田:緊急事態宣言が発令されている中、妻が出産前に緊急入院が必要となった際、上の子の面倒を見ながら妻の入院サポートをしつつ、プロジェクト作業を行うのが非常に難しい状況でした。この経験もあり、第二子が産まれた後に上の子の面倒を見ながら在宅勤務をすることに、厳しさを感じていることをマネージャーに相談したところ、育児休暇の取得を勧められました。

育児休暇プログラムが発表されたことは知っていましたが、プロジェクトへの影響を考えると中長期の休暇取得は検討の余地すらないと考えていましたが、マネージャーからの後押しがあることで取得してもよいのだと感じたことと、期間も自分で決めてよいという取得のしやすさからプログラムを利用することにしました。

実際にプログラムを利用して家庭・仕事への影響はありましたか?

上田:3週間の休暇を取得しました。もともと妻からは出産後1週間程度は休んで欲しいといわれていましたが、3週間休めると伝えると、その制度があること・会社やプロジェクトメンバーの理解があることに非常に驚いたようでした。1週間程度の休暇だと生活の変化に対する慣れ始めを一緒に過ごす程度しかできませんでしたが、3週間あれば「慣れ〜生活リズムの構築・サポートまで」を共に活動することができ、家族にとってもよい時間となりました。

妻の出産に合わせて、継続している自身のプロジェクトアサインを変更して欲しい。といった依頼は出しにくいのが正直なところですが、休暇を取得することにより、携わるプロジェクトは変えずに出産後の大事な時期を夫婦で共に乗り越えるための環境を準備できたのは、キャリア上でも非常に重要なポイントであったと感じています。

存在する制度の活用方法を共に考えるために、特に重要な管理職・マネジメント層のサポート

お二人へのインタビューを通して共通して感じたのは、制度もあるだけでは機能せず、それを活用するタイミングや活用方法について管理職やマネジメント層がしっかりと相談に乗ることが非常に重要であるということです。「制度があるのだから使ってみれば」ではなく、使用することによるメリット・デメリットや本人の状況を鑑みたうえでの考えられる影響など、一人ひとりに寄り添いつつサポートし、最適解を共に検討する必要があります。

今回インタビューしたお二人共に「マネージャーや周囲の理解があって本当に良かった」と感じていることから、管理職側の制度への正しい理解と、単純にリクエストに応えるための手続きを進めるだけでなく、家庭・キャリア含めて相談に乗るといった姿勢を持つことが大切だと思います。とはいえ、メンバーには関係するかもしれないが、自分には関係のない制度の内容を隅々まで理解するように管理職に求めるだけでは、管理職の負担が増えるだけになります。これからは、会社全体で制度に対する知識や制度利用者の声などを共有する環境づくりを進めることも有効かもしれません。

制度利用者から生まれた「復職後」の過ごし方を考える機運

最近では、育児休暇プログラムを取得した男性社員による社内での情報発信も盛んです。

皆やはり一様に「取ってみないとわからない」「やってみないとわからない」と実感するようで、「パパ育児応援セミナー」を開催し、取得するためのTipsの共有や効果・悩みなどを社員同士で共有し合う場を設けたり、まだ当事者ではないが将来取得可能性のある新入社員への情報共有を行い、制度を有効活用するための工夫を紹介するなどの活動が行われています。

この制度の取得が男性社員自身に与える影響も大きいようです。復職した後、限られた時間をどう有効活用できるかを真剣に考え「仕事への向き合い方が変わった」「仕事への集中力も変化してきている」などの声もあります。また実際に男性社員自身が「復職後に戻る場所はあるのだろうか」「育児と仕事の両立は可能か」「自身のキャリアは」といった女性が出産することで直面するであろう悩みと同等のものを、当事者になり初めて感じているようです。
これらの取り組みや男性社員の実感が、家庭内ジェンダーギャップを解消するはじめの一歩になるでしょう。

制度をより良いものとし、仕事をする上での選択肢を増やすために

育児休暇プログラムが発表された時点では、休暇取得中の社員の稼働率マネジメントの観点や営業のコミッションについてどうするか、について明確なガイドは出されていませんでしたが、社員側から問い合わせを行うことでこのあたりの検討や案内が社内でも進んだように見えます。また、プログラムは養子縁組でも利用できるなど、様々な家庭のあり方や個人により異なる状況があり、そして周囲に理解があることも、利用しやすい環境として大事な要因です。

「育児休職もしくは育児休暇」の取得がよいのか、はたまた「通常の有給休暇の取得」で進めるのかは、家庭それぞれの事情で選択肢も変わってくるはずです。これも選択肢があるからこそ考えられることで、制度そのものがなければ悩むことすらできません。

COVID19の影響で働き方自体の見直しの動きもある中「すでにある制度を変化および拡充していくこと」が重要となってきています。どのような制度があればよいのか、それをどう使うのか?という案を出せるのも働く当事者である社員自身です。
それぞれの「個」が輝くための土台作りを一人ひとりが考え、提言し続けることが必要であると感じています。

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