テクノロジー・リーダーシップ
女性技術者がしなやかに活躍できる社会を目指して 〜IBMフェロー浅川智恵子さんインタビュー
2022年12月16日
カテゴリー テクノロジー・リーダーシップ
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ジェンダー・インクルージョン施策と日本の現状
2022年(令和4年)4⽉から改正⼥性活躍推進法が全⾯施⾏され、一般事業主⾏動計画の策定や情報公表の義務が、常時雇用する労働者数が301人以上の事業主から101人以上の事業主まで拡大されました。経済分野については、「女性の経済的自立」を「新しい資本主義」の中核と位置付け、男女間賃金格差に係る情報開示の義務付け、女性デジタル人材の育成、看護・介護・保育など女性が多い分野の現場で働く方々の収入の引上げ等の取組を進めています。
一方で、IBVレポート「ジェンダー・インクルージョン施策の危機」にあるとおり、『「男女平等」はいまだ「道半ば」』、新型コロナでは男性より女性により大きな影響があったことが明らかになりました。2022年7月発表のジェンダー・ギャップ指数2022で日本が146ヵ国中116位と先進国の中でも最低レベル、アジア諸国の中でも韓国や中国、ASEAN諸国より低い結果となったことも記憶に新しいでしょう。
そのような中、これまでIBMフェローとしてグローバルに活躍され、2021年4月には日本化学未来館の館長にも就任された浅川智恵子さんにキャリアについてのお話を伺うことができました。浅川さんの「あきらめなければ、道は開ける」をモットーに、さまざまなことにチャレンジされてきたキャリアの歩みにふれることで、女性技術者の皆さんやそのサポーターの皆さんに少しでも参考になれば幸いです。(COSMOSコアメンバー)
IBMフェロー 米国T.J.ワトソン研究所所属 日本科学未来館館長を兼任
日本IBM東京基礎研究所に入社以来、35年以上にわたり視覚障がい者を支援するアクセシビリティー技術の研究開発に携わる。現在は、AIの技術を応用することで視覚障がい者の自由な街歩きを支援する「AIスーツケース」と呼ばれるナビゲーションロボットの研究開発に従事。2021年4月より日本科学未来館の館長に就任。
技術理事 IBMコンサルティン グ事業本部 インタラクティブ・エクスペリエンス事業部CTO
金融、流通、航空 業界など様々な業界の大規模プロジェクトにおいて、アーキテクトとして活動、現在はインタラクティブ・エクスペリエンス事業部のCTOとして技術者チームを統括する。また、日本IBMグループとキンドリル・ジャパン・グループ横断の女性技術者コミュニティーCOSMOSのリーダーも勤める。
キャリア・アップによる環境の変化と広がる可能性
- 浅川さんは、2009年に日本人としては5人目、日本人女性としては初のIBMフェローに就任されました。フェローに就任までの経緯やきっかけなどを教えてください。
1985年に入社して、まず最初に情報のアクセシビリティーの課題に取り組みました。点字のデジタル化プロジェクトの後、ホームページリーダーを開発し、世界11ヶ国語に対応するアプリとして、製品化することができました。しかし、情報の視覚化が急速に進む中、視覚情報の非視覚的表現に関する研究をしたいと考え、2001年に社会人として博士課程に入学し、2004年に修了しました。
私が博士課程を修了した時、2人の娘は中学3年生と小学4年生でした。ワークライフ・バランス的には非常に大変な時期でしたが、3年間でドクターが取得できたことは自分にとって大きな自信につながりました。それまでも、日々の研究開発はとても楽しいと感じていましたが、キャリアパスに関しては明確なゴールを持つことができていませんでした。これは、自分に自信が持てなかったからなのですが、大変な時期を乗り越えて博士号を取得できたことで自信を持つことができるようになりました。
そして、「自分はIBMの中でテクニカルリーダーとしてのキャリアを進みたい」と思うようになりました。思っているだけでは、多分ここまで来ることができなかったと思いますが、私はそれをマネージャーに伝えました。あの当時の私が、それを伝えた事自体、奇跡に近いと思います。それを伝えられた事が私のキャリアの始まりだったと思っています。
IBMはパイプラインを育てよう、という組織風土があります。Senior Vice President (SVP) に出会い、自分のキャリア・ゴールについて知ってもらい、メンタリングを受ける機会もありました。博士号取得の翌年の2005年には、最初のゴールであるSenior Technical Staff Member (STSM)に就任することができました。これは、それまでの論文執筆、学会活動、様々な組織からの講演依頼などを積極的に受けてきた結果、成果を残すことができたからだと思います。
それから、2年後の2007年にDistinguished Engineer (DE)に任命されました。もちろん、大変、嬉しかったのですが、その当時は、「技術理事」という呼称は使用しないというルールで、名刺にも「ディスティングイッシュト・エンジニア」と書いていました。研究会をはじめとしたアカデミアの活動に行くと「ディスティングイッシュト・エンジニア」が伝わりにくく、その時初めて「早くフェローになりたい」と、思いました。アカデミアでも、ビジネスの世界でも、「フェロー」は、何かの分野の専門家であると広く認知されていたので、早くフェローを名乗りたいと思いました。そこで、フェローにチャレンジする機会をいただいた時、すぐに「ぜひチャレンジします」と答えました。同時にフェローへのチャレンジはとても難しく、今までとは違う成果が求められているということを強く感じました。
- 今までのキャリアとフェローで一番大きな違いはなんでしょうか?
フェローは、研究でもビジネスでも、日本にいながら世界に知られるような仕事をやっていかなくてはならないと思います。
フェローになると、フェローとしての役割が求められます。業務上のゴールを自分自身で設定し、それに向かって進むことが求められます。良い点は、自ら高いゴールを設定することができるので、それに向かってチーム一丸となって突き進み、目標を達成していくことができます。
また、トップマネジメントとの距離が近くなり、直接プロジェクトの提案をすることもできます。トップマネジメントに対してのドアが開かれている、ということはフェローになってから強く感じます。
- プロモーションすると、必ず管理的な仕事は避けられない部分もあると思います。そうなると、突き詰めたい技術の時間が取れなくなるのでは、ということでプロモーションしたくない、という女性技術者の話も時々聞きます。女性技術者にとって、キャリアアップやプロモーションの意味や目指すモチベーションなど教えていただけますか。
倉島さんのように、DEであり、100人以上の部下もマネージしていく立場というのは、とても難しいと思います。しかし、倉島さんは、自身がその組織のトップだからこそ最適なマネージメントスタイルをとることができ、両方のミッションを果たせるので、プロモーションは決してマイナスではないことを示されています。そういった意味で、プロモーションすると仕事があふれる、というよりも、自分自身でドライブすることができるようになる、と発想を転換することによって、仕事がよりやりやすくなると思います。
日米のダイバーシティーの違いから見る日本の課題
- 浅川さんは日本とアメリカで研究生活を送られてきましたが、日米の技術研究現場の違いをどう感じていますか? ダイバーシティーの観点からも違いはあるのでしょうか。
圧倒的にアメリカの方が男女のワークライフ・バランスの実現ができていると思います。日本もかなり変わってきたと思いますが、やはり比較するとアメリカの方が進んでいます。
コンピューター・サイエンスに進む女子学生の数は、日本は圧倒的に少ないです。カーネギーメロン大学のコンピューター・サイエンス学科では、男女比が同等、または、それ以上となっています。なぜ、日本の女子学生はコンピューター・サイエンスの道を進まないのか、コンピューター・サイエンスの壁がなぜ日本の女性にあるのか、そこを考える必要があると思います。
コロナ禍で、IT業界の方が他の業種に比べて、より柔軟にリモートワークができることが分かったと思います。生物や医学関連では、実験などのためにオフィスやラボに行く必要があると思います。IT業界は、コロナ禍が終息しても、このままリモートワークを継続できる可能性があります。リモートワークが、ある程度継続できれば、ワークライフ・バランスが充実しやすくなると思います。そういったポジティブな面も含めてコンピューター・サイエンスの面白さをアピールし、日本もこの分野に進む女子学生の数を増やす努力をしていく必要があると思います。これは、私たちの役割かもしれません。コンピューター・サイエンスは男性だけのものではない、ということを知ってもらうべきだと思います。
浅川智恵子さんから、女性技術者へのメッセージ
(1)女性技術者だからといってプレッシャーを感じる必要はない。今いる場所、今できることを頑張る。
コンピューター・サイエンスに進む女子学生の数が少ないので、女性技術者に育ってもらわなければならない、というような、組織や先輩の思いはあると思いますが、そのことをプレッシャーに感じる必要はないと思っています。
自分のペースで、今いる場所で、、何をすべきかを考えることが重要です。「女性だから」とは考えずに自然に仕事に取り組んでいいのではと思います。
(2)苦しい時期はずっと続くわけではない。苦しい時は、1人で抱え込むのではなく、周りと相談して乗り越えてほしい。
自分の経験を通して言えることは、苦しい時期はあっても、「もうダメだ」と思うのではなく、一度決めた事は最後までやりきる、途中で辞めない、ということが重要だと思います。
子供の病気でお迎え、など時間制限がある時期は苦しいかもしれないですが、1人で抱え込むのではなく、周りに相談したり、マネージャーと相談することが大事です。苦しい時期はずっと続くわけではないことを、ぜひ、知ってほしいと思います。
これだけ「ダイバーシティー、エクイティ&インクルージョン(DE&I)」が重視されている時は無かったと思います。社会全体が DE&I の重要性に注目しています。これから、ますます、ワーク・ライフ・バランスを大切にできる時代が来ると思うので、あきらめずに乗り越えていって欲しいと思います。
今、自分が周りと比べて貢献できていない、と思う瞬間があっても、一時的なものであることを知ってほしいと思います。私も、子育て期は、時間的制約が大きかったです。でも、そのような時期は続くわけではありません。その後、会社にリターンできたと思っています。ぜひ、遠慮しないで、堂々と乗り越えていけばよいと思います。
(3)多様性のあるチームの方がより多くのイノベーションを起こすことができる。
あたりまえのことですが、多様性のあるチームの方がより多くのイノベーションを起こせる、という事実があります。言い換えると、多様性のないチームは、イノベーションを起こしにくい、
最後に、私のモットーは「あきらめなければ、道は開ける」です。皆さんも諦めないで道を開いていってください。
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