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IBM Researchのテクノロジー予測「5 in 5」

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アーヴィン・クリシュナ

著者:アーヴィン・クリシュナ(Arvind Krishna)
以下は、IBM Researchのディレクターを務めるアーヴィン・クリシュナ(Arvind Krishna)が米国時間2018年3月19日に掲載したブログの抄訳です。

IBMにおける私たちの役割は、世の中の仕組みを変えようとされていらっしゃるお客様のご支援をすることです。それをよく示しているのが、例年IBM Researchが行っている今後5年間のテクノロジー予測、5 in 5です。IBM Researchでは毎年、今後5年間でビジネスや社会を根本的に変えると考える、IBMの世界中の研究所が開発している画期的な研究の中から5つのテクノロジーを紹介しています。これらのイノベーションは、IBMの研究所で進められている研究、お客様と共に行っている最先端の取り組み、そしてテクノロジーやビジネス環境に見られる動向にもとづいています。

今週米国ネバダ州ラスベガスで開催されているIBMの今年最大のお客様向けイベントThink 2018にて、米国時間3月19日、サイエンス・スラムと題するセッションで、今年の5 in 5に関わるIBMの研究員を紹介しました。当セッションは、IBMの研究員にとって、約5分という限られた時間内で取り組んでいる研究の重要性を一般の聴衆に理解いただけるよう伝える場となっています。イノベーションの本質的核心を抜き出してお話しすることによって、これらのイノベーションをより分かりやすく、身近に感じていただけると考えています。なお、当セッションの録画(英語)はこちらで視聴することができます。

サイエンス・スラムにてIBMの研究員が紹介した今年の予測の要旨は、以下の通りです。これらは、かつてないほどのコンピューティングの発展を期待させるものです。

類似品を好む人はいません。クリプト・アンカーとブロックチェーンが統合して偽造者に対抗

今後5年以内に、日用品やデバイスにクリプト・アンカー(crypto-anchors:暗号化アンカー)と呼ばれるインク・ドットや塩粒よりも小さいコンピューターが埋め込まれるようになるでしょう。生産される場所から消費者の手元に届くまで、クリプト・アンカーはブロックチェーンの分散台帳テクノロジーと並行して使用され、モノが生産される場所から消費者の手元に届くまで、それが本物であることを確実にします。これらのテクノロジーを活用することで、食品の安全への取り組み、製造部品の真正性の確認、遺伝子組み換え食品、偽造品の特定、高級品の製造元確認などを行う新たなソリューション実現への道を開きます。

ハッカーは攻撃します。格子暗号と出会うまでは・・・

IBMは、量子コンピューターなどの新たなテクノロジーに対応できる暗号化方式を開発しています。
量子コンピューターが、いつの日か、現在の暗号化プロトコルをすべて解読できるようになると考えられるため、IBMの研究員は、格子暗号と呼ばれるポスト量子暗号化方式を開発し、米国国立標準技術研究所(NIST: National Institute of Standards and Technology)に自発的に提出しました。

これは、どのコンピューターも未来の量子コンピューターも解読できません。格子暗号を使用すれば、暗号化した作業ファイルから、機密データがハッカーに漏洩することはありません。

海の汚染が進んでいます。AI搭載のロボット顕微鏡で対処できるかもしれません。

地球上で最も貴重な資源の一つである水は、汚染の被害を受けています。
今後5年以内に、クラウド内でネットワーク化され、世界中に展開される自律式で小型のAI搭載顕微鏡によって、水の状態を継続的にリアルタイムに監視できるようになるでしょう。IBMの研究員は、水質状態を知るための生物学的な自然のセンサーであるプランクトンを活用する、というアプローチに取り組んでいます。

AI搭載の顕微鏡を水の中に投入し、自然環境におけるプランクトンの動きを3次元で追跡して得られた情報を活用することで、プランクトンの振る舞いと健康状態を予測します。これは、石油流出や地表からの汚染源を特定するのに役立つような情報です。また、赤潮などの脅威を予測することも可能になるでしょう。

AIの偏向が急増。しかし、偏向のないAIのみが生き残ります。

今後5年以内に、偏向を持ったAIのシステムやアルゴリズムの急増に対抗する新たなソリューションが登場するでしょう。信頼できるAIシステムの開発に努めるうえで、公平で、解釈可能かつ人種、性別、またはイデオロギー的に偏向のないデータでそれらのシステムを開発し、トレーニングすることが極めて重要です。この目標に向けて、IBMの研究員は、トレーニング・データセット内に存在しうる偏向を減らす方法を開発しました。それにより、そのデータセットからその後学習するAIアルゴリズムでは、不公正が極力永続されないようになります。IBMの研究員はまた、トレーニング・データが利用できない場合でも、AIシステムをテストする方法を考案しました。

今日、量子コンピューティングは研究者の遊びの場です。しかし、5年以内には、それが主流になります。

量子コンピューター IBM Q

今後5年以内に、量子コンピューティングは、新たなカテゴリーの専門家や開発者により、解決不能と考えられていた問題を解決するために幅広く使われるようになるでしょう。量子は、大学の教室では至る所にあるようになり、また高校のレベルでさえ、ある程度利用できるようになるでしょう。

IBMの研究員は、すでに量子化学における重要な節目を達成しつつあります。彼らは、水素化ベリリウム(BeH2)での原子結合のシミュレーションに成功しており、これは量子コンピューターでこれまでにシミュレートされた最も複雑な分子です。今後も、量子コンピューターはますます複雑化する問題に取り組み続け、最終的には従来のマシンだけで可能なことはもちろん、それ以上のことができるようになるでしょう。

今年の5 in 5は、画期的なイノベーションの紹介をはるかに超えるものです。それは、切実にそれを必要とする世界における善なる力としての、テクノロジーの役割の再確認です。解決困難な問題やかつてない脅威を社会が克服できるかどうかは、AI、ブロックチェーン、格子暗号、量子コンピューティングなどのテクノロジーの着実な前進にかかっています。

IBM Researchは、これらのテクノロジーのすべてに多大な投資を行ってきました。この不可欠な進歩を可能にし、また新たな希望を持って将来に期待することを可能とする、信頼できる強力なシステムの開発に取り組んでいるIBMの研究員に感謝しています。

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