テクノロジー・リーダーシップ
オンもオフも、社会に貢献できるエンジニアとして――IBM開発担当・難波かおりインタビュー
2018年1月29日
カテゴリー テクノロジー・リーダーシップ
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取材・文:武者良太、写真:小川孝行
人間とのコミュニケーションをより活性化させ、的確なアシストを支援するコグニティブ・コンピューティング・システム。それが、IBMが誇る技術の1つである「IBM Watson」だ。音声認識、画像認識、性格分析、感情分析、言語変換など、あらゆるデータ形式を理解し、人間と自然なコミュニケーションを取りながら学習し、推論を根拠とともに提示してくれる。すでに世界45カ国、20業種以上で活用されていて、日本でも200社以上の導入実績がある。
そんなWatsonについて、日本IBMは2015年からWatsonの日本語化に取り組み、数多くのAPI日本語化を実現。英語圏だけではなく、日本語圏のビジネスパートナーもWatsonを用いた業務改革が行えるようになることを目指したこのプロジェクトの根幹を担ってきたのが、日本IBM株式会社ソフトウェア&システム開発研究所ワトソン開発シニアマネージャーの難波かおりだ。1997年に日本IBMに入社し、最前線で活躍し続けてきた難波に、その経歴と今後の開発者としてのありかたについて話を聞いた。
国、会社の垣根を超えてリードしたプロジェクト
「宇宙がどう成り立っているのかを知りたかった」。もともと科学好きで、学生時代は素粒子物理を研究していたという難波氏。理学研究科物理学専攻博士前期課程を修了したが、就職先には畑違いの日本IBMを選んだ。
難波:就職しようと考えたとき、自分の好みだけで研究を続けてきたことに気がつきました。やはり社会に出たら、社会の役に立つことがしたい。そんな気持ちがあり、日本IBMを選びました。会社で働くって、何かしら自分が生み出した価値を社会に持っていくことだと思っているのです。だから、ソフトウェアをつくるという道を選んだところがあります。
入社後は早速、ソフトウェア開発の道へと進む。手がけてきたのはロータスESBのアプリケーションサーバーやInfoSphere Federation Serverなど、情報マネージメントのリレーショナルデータベースとフェデレーションが中心。その後、2015年よりIBMソフトウェア開発研究所(Tokyo Software & Systoms Dev Lab。以下TSDL)の中で、Watson APIの日本語化に従事する。
当プロジェクトは日本IBMとパートナー企業との提携によるものだった。難波はパートナー企業と蜜に連携して要件のすり合わせや日本マーケットへの導入に注力しながら、技術面では米国のIBM本社や他国のエンジニアとも連携し、Watson API日本語化におけるハブの役割を果たした。
難波:Watsonのプロジェクトに入って一番大変だったのは、パートナー企業とのリレーションでした。1つの企業とのパートナーシップでしたが、その中には大勢の人が、さまざまな思いでWatsonを使っていこうと考えていました。だから、それをまとめて昇華していくのが大変だったという記憶があります。
パートナー企業が求めるものを、TSDLまたはアメリカIBMのチームとつくり上げていく。そのプロジェクトマネジャーとなると、高いコミュニケーションスキルは欠かせない。
60年前から自然言語処理技術をリードするIBM
IBMは60年以上も、言語に関する研究を続けてきた。その結果、生まれたのがWatsonだ。しかし2015年当時のWatsonは、アルファベットを使う言語にのみ対応していた。いわば、日本語をまったく知らない状態だった。近年は機械学習で効率よく学ばせることができるとはいえ、日本語はアルファベット言語と異なり、単語をスペースで区切らないという独特の特徴がある。そのため、昔から日本語の自然言語処理は難しいといわれてきた。
難波:アメリカの開発チームのなかに、日本人がいなかったんですよ。そのため、日本語ならではの問題を、どう伝えればいいのか悩んだ部分はあります。自然言語処理の技術と日本語のニュアンスを理解し、その上で英語に翻訳するというのが苦労しましたね。
ニュアンスを含めた翻訳処理。将来的にはそれを、Watsonが担当してくれるようになってくれたら、と難波は笑う。
本社組織と研究開発部門一体化のメリット
現在のソフトウェア開発現場はアジャイル型開発が主流だ。製品担当者、リリース担当者、デザイン担当者が常に連携しながら、さらにはユーザーやクライアントも巻き込んで、1つ1つの機能を作り上げていく。そしてユーザー視点に立ったプロダクトを作り上げていく。
いままで以上にコミュニケーションのスピードも求められるため、日本IBMは本社組織と研究開発部門を集約している。
難波:みんなでオフィスに来て、必要なときにすぐにディスカッションできる環境にしましょうというのが、今の主流になっていますね。すぐに声がかけられる、相談できることで時間も短縮できます。
アメリカのチームとも積極的にディスカッションが必要な現場ゆえ、日本のプロジェクトメンバー全員が集まる環境が重要とのことだ。また毎朝、スクラムという、15分ほどの短い時間で開発の優先順位やプロジェクトの進行に問題がないかを確認するミーティングを行っている。
趣味の一環として、次世代の人材育成に力を注ぐ
「社会の役に立つことがしたい」との思いを抱いて日本IBMに就職した難波。その想いは、エンジニアという仕事を通じて社会基盤の一部を支えたり、お客様のビジネスを支援することで、世の中の役に立っているという実感が持てる場面はあると語る。本業以外の時間を使ってエンジニアだからこそできる社会貢献にも情熱を注ぐ難波にその意義を聞いた。
難波:今私たちが取り組むビジネスの先には何があるのかということをよく考えます。最先端のテクノロジーを扱う私たちですが、将来それらを上手に使いこなして活躍する人材を増やすためには、STEM(Science, Technology, Engineering, Mathematics)教育をもっと推進する必要があると思います。そのためにも、子どもたちがテクノロジーや科学を好きになってもらうためのお手伝いをするボランティアをしています。
例えば、女子中学生を対象に、データベースの基礎授業の講師として、学校で授業をしたり、科学館と連携して未就学児や小学生に向けたトライサイエンス教室という理科の実験教室の実施も定期的に行っている。
仕事もプライベートも社会の役に立ちたいという想いを実現させ続けている難波は自身のボランティア活動について、「自分のスキルや知見を、子供たちへ伝えること自体が新しいアイデアの源泉にもなる」と語っている。それも、エンジニアとして社会に貢献する一つの方法かもしれない。
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