イノベーション
日本アイ・ビー・エム デジタルサービス(IJDS)が考えるDX
2020年11月20日
カテゴリー イノベーション
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2004年にスウェーデンのウメオ大学のストルターマンが、デジタル技術によって私たちの現実が徐々に融合して結びつき、人々の生活を変化させることを「デジタル・トランスフォーメーション」と表しました。みなさんはデジタル・トランスフォーメーション(DX)と聞いて、どんなテクノロジーやサービスを思い浮かべるでしょうか?
例えば、身近なところでは、家計簿アプリがあります。家計簿アプリは、預金通帳、クレジットカードの利用明細、レシートなどから家計簿をつける面倒な作業を手軽で簡単な作業に変えました。それだけでなく、金融機関のオープンAPI提供やDXを推進する契機となりました。
こうした同一業界内または業際を超えて変革するようなDXに加えて、企業のビジネス・モデルやプロセスの変革、業界や企業のDXの実現を支えるシステム開発や運用の変革もDXと考えることができるのではないでしょうか。このブログでは、DXについて改めて考えてみたいと思います。
日本国内においてデジタル・トランスフォーメーション(DX)の認知度が一気に高まったのは、2018年9月に経済産業省から発表された『DXレポート 〜ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開〜』 [1*]でしょう。DXを阻害する基幹システムのレガシー問題の対応を怠れば、年間12兆円の損失が生じる2025年の崖というキャッチーな表現で注目を集めました。
続いて経済産業省は2019年7月に『「DX推進指標」とそのガイダンス』 [2*]を発表しDXの推進を促しています。「DX推進指標」では、DXを「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを元に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しています。
DXはこのように幅広い概念を含んでいます。そこでDXを理解するためにDXを複数の視点で分解、整理してみたいと思います。
デジタル・トランスフォーメーションのステージ
デジタル・トランスフォーメーション(DX)を「変革のおよぶ範囲」と「生み出される価値」の軸で考えて3つのステージで整理したのが図1です。
最初のステージは「デジタイゼーション」
デジタイゼーションは、アナログ情報をデジタル情報に変換することであり、紙情報の電子化や新規のデータ化を含みます。例えば、ビジネス・プロセスを変更しないペーパーレス化が該当します。デジタイゼーションは、変革のおよぶ範囲が一部の情報資産に限られ、価値創造活動を変更しないのでDXというより、DXの前提と考えることができます。
次は「デジタライゼーション」
新たなテクノロジーあるいは既存IT技術で、ビジネス・プロセスを変革して生産性向上や新たな価値を生み出すことや、顧客体験を劇的に向上するような変化です。例えば、整備士のモバイルによる業務改革、家計簿アプリ、システム運用の自動化などです。デジタライゼーションは、変革のおよぶ範囲が、一部または複数の業務やチャネルに拡大し、生み出される価値が増加します。その意味では、DXの最初のステージということができるでしょう。
3つめのステージは「デジタル・トランスフォーメーション」
企業文化や人材、システムのあり方を含めた企業活動全体を見直し、継続的な変革を実行する組織になるとともに、新しいビジネスモデルやエコシステム形成により業界全体で高い価値を創出するものです。変革のおよぶ範囲は、企業全体から業界全体、さらに業際を超えることもあり、生み出される価値も比例して大きくなると考えられます。
社会全体のDXのトレンドは、部分的な顧客接点の改革や実験的なデジタルテクノロジーの検証のステージから、より広範囲な企業全体の基幹業務を含めた変革へと徐々に重心を移しています。このためには、基幹業務におけるデジタルテクノロジー活用、企業の基幹システムに蓄えられたデータの活用、そして企業同士の連携が鍵となります。
IBMでは、先進デジタル企業の姿を定義しており、Global5000社とベンチマークできるデジタル成熟度診断のサービスも提供しています。これらの目指す姿としては、先に触れた部分的なデジタライゼーションの段階を超えて、企業全体が持続的に変革をし続けるための文化醸成、プロセス改革、そしてそれを支えるデジタル・テクノロジー基盤について定義しています。
デジタル・トランスフォーメーションのタイプ
次にDXを変革のタイプの切り口で捉えて、図2のとおり分類しました。
業界変革型DXや企業変革型DXの実現を支える、IT変革型DXを加えたのが特徴です。
「業界変革型DX」
同一業界内または業際を超えて変革する
例えば、業際を超えた変革には製造業や流通業と金融業の連携によるトランザクション・レンディングなどがあります。業界内変革では、製造業のサプライチェーンの可視化、金融機関と電子決済等代行業(FinTech企業)の連携、事故対応を変革するテレマティクス損害サービス、複数の病院の電子カルテデータ解析などがあります。新しく形成されたエコシステムの中で企業間のサービスをつないだり、データの連携をしたりすることで、今までにない新しい価値を創り出すことが狙いです。
「企業変革型DX」
企業のビジネス・モデルやプロセスを変革する
例えば、旅行の情報サービスチャットボットでは、新しい顧客体験を創出しています。また、航空機整備士向けのモバイル・アプリによる操縦士や客室乗務員との業務連携高度化、コンタクトセンターのマーケティングセンターへの変革などの事例では、新しい業務連携による効率化、そして蓄積されるデータから新しい洞察が生まれるように企業内のプロセスのあり方を変革しています。
「IT変革型DX」
業界変革型DXや企業変革型DXを同時におこなう、あるいは支える
迅速に繰り返し開発を行うために新しい開発手法やテクノロジーの導入や、異常の検知、診断、対応の自動化、AIによる人間の判断支援、そしてコラボーレーションツールの活用によるITプロフェッショナルの働き方の改革があります。また、既存の基幹システムのモダナイゼーションや基幹システムとハイブリッド・マルチクラウドとの連携も実現しなくてはなりません。数十年の長きに渡り稼働している基幹システムにおいてもIT変革型のDXは欠かせません。例えば、PL/IやCOBOLで記述されたz/OSアプリケーションを開発者個人用にコンテナ化された仮想のz/OS環境を提供するIBM Wazi Developer for Red Hat CodeReady Workspaces上で、VS Code™、Eclipse®、Github、JenkinsなどDevOpsのツールチェーンを使用して開発とテストを効率的に行うことができます。
日本アイ・ビー・エム デジタルサービス株式会社について
最後に、お客様のDXを推進するために2020年7月1日に誕生した日本アイ・ビー・エム デジタルサービス株式会社についてご紹介させてください。日本アイ・ビー・エムデジタルサービスは、「お客様の持続的なデジタル変革の実現のために、蓄積された業界知識と圧倒的な技術力を活かして、迅速なITソリューション導入と堅牢な基幹業務の運用に取り組むこと」をミッションステートメントとして掲げています。
今まで何十年もお客様の基幹業務に取り組んできた経験と様々なデジタルテクノロジーの精通した技術力を活かし、お客様の包括的なDXの推進をご支援いたします。そのために、DX人材育成プログラムを推進し、幅広い分野のITプロフェッショナルの育成に力を入れています。興味を持たれた方はぜひWebサイトをご参照ください。
筆者(右):浅川 真弘
日本アイ・ビー・エム デジタルサービス株式会社 デジタル事業部長 執行役員
お客様企業、そして日本アイ・ビー・エム デジタルサービス自身のデジタル変革の推進に従事。その他、2015年よりモバイル活用を中心としたデジタル変革ソリューションの策定や実現をリードしている。
筆者(左): 秋元 毅彦
日本アイ・ビー・エム デジタルサービス株式会社 デジタル事業部 本部長/エグゼクティブ・アーキテクト
おもに都市銀行、地方銀行の勘定系システムを中心とした銀行システムの構築をアプリケーション・アーキテクトとして長年リードしている。2016年よりIBM FinTech共通APIの開発、電子決済等代行業者(FinTech企業)と銀行を接続するAPI基盤の構築プロジェクトやデジタルバンキングのソリューション開発をリードしている。
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