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IBM 5 in 5:新たな材料の発見プロセスの大幅な加速によって実現する持続可能な未来
2020年10月6日
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IBMの使命は、世界の現状を変革するためにお客様を支援することです。その最適な例は、IBMが毎年発表しているテクノロジーについての予測である「5 in 5(ファイブ・イン・ファイブ)」です。毎年、当社は、IBM Research(基礎研究所)という世界規模の研究所で行っている研究や広範な業界のトレンドに基づいて、今後5年間にテクノロジーがビジネスと社会を根本的に変革すると考える5つの方法を示します。
今年の5 in 5では、より持続可能な未来を実現するために、新たな材料の発見を加速することに焦点を当てます。持続可能な開発目標を通じた国連のグローバルな行動要請に従って、IBMの研究員は、重要な世界的課題に対処する新たな材料の発見を加速することに取り組んでいます。特に、当社は材料の設計プロセスを変革して、持続可能性、気候変動への対応、責任ある生産の支援、健康の増進、クリーン・エネルギーの推進などの課題に対するソリューションを見出すために、テクノロジーを活用できる方法を検討しています。
1: 気候変動を緩和するために二酸化炭素を回収し有用なものに変える
2: 炭素排出を削減しながら、増加する人口を養うため母なる大地をモデリングする
3: 世界を見直す前に、バッテリーを再考する
4: 持続可能な材料や製品を開発し、持続可能な地球を実現する
5: より健康な未来のため過去から学ぶ
当社は、今後5年間に、新たな材料または既存の材料の新たな用途が、直面しているグローバルな課題の多くに対処するために役立つと考えています。グローバルな課題には、二酸化炭素が増大している大気からの二酸化炭素の効率的な回収と安全な貯留、気候変動の緩和、二酸化炭素排出量を削減する一方で急増している人口に食糧を提供するために穀物を生産する持続可能性の高い方法の発見、世界を変革するためのバッテリーとエネルギー貯蔵の抜本的再考、より優れた抗ウイルス薬および持続可能性の高い電子機器の開発などがあります。
1.気候変動を緩和するために二酸化炭素を回収し有用なものに変える
今後5年間で私たちは、環境に有害な大気中の二酸化炭素を回収し、有用なものに変えることができるでしょう。目標は、二酸化炭素を回収し、地球規模の拡大が可能なレベルで効率的に二酸化炭素を再利用することです。それにより大気中の有害な二酸化炭素を大幅に削減し、結果的には気候変動のペースを鈍化させることができます。
2.炭素排出を削減しながら、増加する人口を養うため母なる大地をモデリングする
今後5年間で私たちは、肥料の環境への影響を減らしながら空気中の窒素を硝酸豊富な肥料に変える自然の力を再現し、増加する人口に対する食糧供給に取り組みます。持続可能な規模で窒素固定を可能にする革新的なソリューションを生み出し、世界で急増する人口に対する食糧供給に役立てます。
3.世界を見直す前に、バッテリーを再考する
今後5年間で私たちは、再生可能をベースとしたエネルギーグリッド(送電網)やより持続可能な輸送を支えるより安全でより環境に適したバッテリーのための新材料を開発するでしょう。多くの再生可能なエネルギー源が間欠的であり貯蔵が求められています。人工知能(AI)や量子コンピューターの活用によって、性能向上のためのより安全でより効率的な材料でバッテリーが開発されるでしょう。
4.持続可能な材料や製品を開発し、持続可能な地球を実現する
今後5年間で私たちは、材料の製造を促進し、半導体製造業の高需要製品の持続可能性向上を実現するでしょう。科学者は、IT企業がより迅速に半導体や電子機器の製造のための持続可能な材料の開発を実現できるよう新たな材料設計の手法を採用するでしょう。
5.より健康な未来のため過去から学ぶ
今後5年間で私たちは、医師や医療の最前線で働く人たちが、生命を脅かす新型ウイルスに現在可能なものよりさらに大きな規模で戦えるよう、新たな治療法の開発を容易にすることを目指します。AIや統計解析、データを組み合わせ、実世界での医療データの分析を迅速化し、薬のリパーパシングのための新たな候補の提案や臨床試験のスピードアップに役立てます。将来的にこれらのツールは幅広い業界で採用され、生命を脅かす世界的なウイルスに迅速に対応する実質的な手段の1つになるかもしれません。
上記の目標はまだ実現されていませんが、単なる希望的観測ではありません。私たちは、直ちに実現に向けて着手することができます。
私たちは、これまで困難かつ複雑なプロセスであった材料を設計する方法を加速する必要があります。主に、これは潜在的な分子の組み合わせが極めて膨大であるためです。宇宙に存在する原子の数よりも多くの可能な組み合わせがあります。さらに、材料の最終的な特性は、その構成分子だけでなく、その生産に使用されたプロセスと最終的な構造によって変化します。
一般に、独自の特性を備えた新たな1つの材料を発見するためには、約10年間と平均1,000万から1億ドル以上の費用が必要です。最新のテクノロジーを活用して、期間と費用を90%削減する必要があります。最新のテクノロジーには、人工知能(AI)、従来の一般的なコンピューティングと新たな量子コンピューティングによるデータ拡張、いわゆる生成モデル、オープンなハイブリッド・クラウドを通じた実験室の自動化などがあります。
このようなテクノロジーの組み合わせによって、根本的に新しい方法で人間が材料を発見するプロセスを革新し、予想外の発見、幸運、偶然から計算に基づく自信へと前進することができます。
最初に、AIが特定のトピック(私たちが対処したいと考えるグローバルな課題など)に関して人類が持つ知識をすべて統合します。次にスーパー・コンピューター、そして最終的には量子シミュレーションが知識の不足部分をカバーします。AIが取得した過去のデータを使用して、その課題に取り組むために必要な新しい材料についての仮説を生成するモデルを作成します。最後に、クラウド・テクノロジーを利用して、この材料の作成とテストを自動化します。つまり、IBMが業界をリードしている、量子、AI、高性能コンピューティング、ハイブリッド・クラウドといった取り組みのすべてが、発見のプロセスを加速しているのです。
IBMでは、AIが材料発見プロセスのチェーン全体の主要コンポーネントである場面において、材料の発見を加速する方法を策定しました。このアプローチの一例としては、クラウドを活用した化学ラボのRoboRXNがあり、ここでは研究者が化学反応の結果を予測することによって新しい材料を作成できるようになります。材料は、1日24時間、週7日、中断することなく合成され、人間からの作用はほとんど不要です。科学者は作成したい分子をシステムに与えるだけでよく、ソフトウェア内のAIが材料のリストとともに段階的なレシピの概要を示します。
RoboRXNのベースとなった、無料で使用できるAIモデルは2年前から利用開始になり、学生、教授、科学者たちに対してすでに約100万件もの化学反応の予測を提供しています。今年に入り、世界中のIBMの科学者たちがRoboRXNを使用して、二酸化炭素の吸着、フォトレジスト、抗ウイルス剤の材料を合成しています。そしてまもなく、窒素固定に使用する材料の生成に着手する予定です。
一例を挙げると、ニューヨーク州ヨークタウンハイツの研究者たちは、6,000キロも離れたチューリッヒのRoboRXNラボにクラウド経由で送信した合成反応を実行して、二酸化炭素の吸着に使われる新しい材料のターゲットとなる分子を生成することができました。ここで得られた分子をRoboRXNで分析し、一晩で合成した後、カリフォルニア州アルマデンにあるIBMの基礎研究所のラボに送ってさらに分析が進められました。
現在、研究者たちはRoboRXNの機能をテストするための候補分子を合成しています。長期的な目標は、AI駆動システムから候補分子を取得して新しい材料を予測し、完全に自律的な合成を行ってテストすることです。
1カ所のRoboRXNだけでなく、世界中のRoboRXNが一丸となって、世界中の化学者や材料科学者からクラウド経由で指示を受けている姿を想像してみてください。これはただ発見を加速するだけでなく、アイデアの大規模な創出を促進している姿が浮かぶはずです。
ここで言いたいのは、IBMが材料製造(マテリアル・マニュファクチャリング)ビジネスに乗り出しているということではありません。IBMの研究者は、発見をスピードアップし、クライアントや提携企業がその発見を利用できるようにするプロセスの構築に焦点を当てています。IBMが5 in 5で以前に行ったある予測が、こうしたプロセスをどのように構築できるかについて適切に示した青写真となっています。
2019年、グローバルなプラスチック廃棄物問題と闘うため、今後5年間で、VolCatのようなプラスチック・リサイクルの新技術が世界中で採用されるだろうとIBMでは予測しています。VolCatは、良性の有機触媒を使用して、最も一般的な家庭用プラスチック(ポリエチレン・テレフタレート「PET」)を選択して分解し、モノマー構造に還元します。精製後、モノマーは簡単に再重合するため、新しいPETを簡単に生成できます。
IBM Researchでは、VolCatプラスチック・リサイクル・プロセスの商業化に向けた計画の次のフェーズを開始する予定です。私たちは、VolCatプロセスのスケーラビリティと経済性を証明するパイロット・プラントの設計、建築、運用に向けて産業界のパートナーとチームを組む予定です。これが成功すれば、その取り組みは世界中の製造プラントに浸透し、製造業者は、石油化学製品から新しいプラスチックを作成する必要なくモノマーを得ることができ、このモノマーからプラスチック、繊維、フィルムを製造できるようになります。
IBMの5 in 5が私たちに実証しているのは、世界の課題に対する新しい方法とソリューションを見つける際に、科学的アプローチを適用してできることは何なのか、ということです。世界はこれまで以上に科学を必要としており、科学によって、私たちは今日の不確実性に向き合って明日の進歩を実現することができるのです。
※この記事は米国時間2020年9月23日に掲載したブログ(英語)の抄訳です。
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