プロジェクトマネジメント

サッカー監督と共通する、プロフェッショナルなプロジェクトマネージャーに期待されるメンタリティー

記事をシェアする:

田中 亮治

著者:田中 亮治
GBS.PM Profession Executive & BKFM Sector Leader

入社以来、一貫して銀行のお客様を担当。銀行統合プロジェクトを複数担当し、ミッション・クリティカルでかつ多くのステークホルダーと協業する複雑なプロジェクトを通じて、困難と経験を積む。成功も失敗もその難しさに応じて達成感を感じながら完成形を目指し、多くのステークホルダーの成功に貢献しながら、プロフェッショナルとしてのプロジェクトマネージャー(PM)を目指す。その中で、プロのアスリートに見習うべきことがあることに気づき、プロフェッショナルとしての「メンタリティー」にまず着目。プロアスリートの準備過程において彼らが重視することにも、我々PMと共通する部分がある。このブログではPMのとサッカー監督の共通する点に着目しながら、PMのあり方について解説する。

 

PMの共通項として「サッカー監督」に着目

ITプロジェクトとチームスポーツは、パズルのピースを最適に組み合わせて、成果物を仕上げるのとは異なり、所属するメンバー個々の成果を積み上げて、目標を達成する。それは成果物が作業成果の積み上げであり、実施する人の作業能力や結果に影響を受けやすいという共通点があると感じている。

例えばプロジェクトに同じ案件はなく、常に新しい事例に挑戦する難しさと面白さが同居し、たとえ同じことをしても、同じ結果につながる保証のないサッカーの苦労と共通している。さらに、サッカー監督に注目した時、サッカーがプロ化して導入した指導者(プロフェッショナル)ライセンス資格取得制度が、PMP資格取得制度(世界標準として認知されているPMの資格)や、IBMで行われているプロフェッショナル専門職の資格取得制度に類似するシステムであると考えたからだ。

共通する「求められる資質」

またプロジェクトは複数のメンバーで構成され、個々のメンバーの役割や責任分担を明確に定義し、メンバーとの共同作業で目標を達成する点において、サッカーと共通していると考える。

ITプロジェクトでは、計画策定、目標設定といったチームマネジメントの立ち上げプロセスに入ると、プロジェクト検証、標準化、アーキテクチャーを定義し、目標、成果物、作成過程を規定し、そのコントロールを行うという実施プロセスに進む。

サッカーでも似たようなプロセスを踏み、その標準化においてはチーム戦術を実現する上での約束事に近く、規律という表現を使ってチームメンバー個々に求めるプレーの判断基準、行動規範を規定している。

共通する「重要視していること」

リーダーとしての振る舞いも重要で、結果の成否を左右する。リーダーは先頭を切る責任を持つ以上、その行動がチームに与える影響力が成否を左右するのは当然のことかもしれないが、難しい仕事をやり遂げたリーダーには、共通して並々ならぬ情熱を感じる。

難しいプロジェクトほど、困難に立ち向かっても心が折れることのない情熱あるPMを必要としている。そして、その情熱に共感できるメンバーを集めたチーム作りをしている。リーダーに対する厚い信頼で、メンバーは力を発揮してプロジェクトを成功に導く。

また目標や目的を見失わないで勇気を持ってマネジメントするための、判断基準となる「ぶれないビジョン」のために、以下の準備を行うこと重要視しているという点でも共通する。

  1. 計画、組織作り
  2. 目標設定
  3. スタンダードを定義する
  4. 方向性を示す
  5. 秩序の維持

PMとは、世界標準として認知されるようになったPMBOKで知識体系として定義された領域をマネジメントする計画を立案し実施することである。

共通する「目指すべき理想像」

リーダーとは情熱を持ち、リーダーシップとマネジメント能力を兼ね備え、常に満足せずに進化を求めて次を考える心理状態を維持し続けることだと考える。IBMでは、普遍的なプロジェクトマネジメントの知識体系が明文化され、多くのPMにとって重要なバイブルとして定着し、それに基づく行動様式が確立されている。

しかし、情熱や次を考える心理状態(以降、ネクストメンタリティーと表記)は、PM個々が保有するパーソナリティーに依存する部分が大きい。実際に人を動かすのも、情熱やネクストメンタリティーに依存するケースが多い。PMとして成功を勝ち取った人は、自身のプロジェクト経験を振り返ると、大なり小なり共通して、情熱、ネクストメンタリティーといったパーソナリティーを発揮し、プロジェクトを成功に導いた経験を持っているはずである。

だからこそプロジェクトの成功事例が語られる際には、必ずPMの情熱、ネクストメンタリティーといったパーソナリティーが賞賛されている。

リーダーシップやマネジメントも、普遍的なPMの知識体系に基づく行動様式として確立されたものではあるが、窮地に人を動かすのは、PMの情熱、ネクストメンタリティーであり、サッカー監督のメンタリティーに共通する理想像があると考える。

PMの理想像にあたる人材を育成するIBMの取り組み

IBMの取り組みでは、PMプロフェッショナルの職位の認定制度があり、それが優秀な人材の育成を支えている。

まず、PMの知識体系や知識レベルを保持していることの証明のひとつとして「PMP資格の取得」があり、この資格取得を奨励している。

しかしながら、それだけでは実践力をはかれないため、より高いプロフェッションへの認定基準や条件には、プロジェクトマネジメントの知識体系や知識レベルだけではなく、自身がPMとして遂行した実プロジェクトでの経験値も評価される。

認定されるレベルに応じて、経験したプロジェクトの規模や複雑度、その経験件数や年数なども評価項目として定義されている。

認定の評価は、認定レベルより上位レベルのPMプロフェッションの有資格者が行う。PMプロフェッションの有資格者は、現場で実際に指揮をとる人材で、そのPMプロフェッションが複数人で1人を評価する。他のプロジェクトにおいてもその再現性が認められるかの評価は、ドキュメントベースだけではなく、その経験の中で培われたメンタリティーやリーダーシップ、そしてマネジメント力がインタビューによっても評価される。

インタビューも現場で指揮をとるPMプロフェッションによって行われるので、難しいプロジェクトほど困難に立ち向かっても、心が折れることのない情熱あるPMが成功することを知っている経験者たちによって評価されている。

さらに、計画的な育成も会社として取り組まれている。年齢層別に有資格者の分布を分析し、将来を担う人材育成の計画化を行っている。また認定の中ではギブバック活動も重視ししており、経験に基づいた知識やノウハウア、セットなども、PMプロフェッション間で共有されることが奨励される。

PMプロフェッショナルの認定プロセス、ギブバック活動が重要視される取り組みは、サッカー監督の指導者として認定されるライセンス制度とも似ており、それを全社的な取り組みとして行っていることが、より良い人材を育成し、お客様にとって価値の高いサービス提供をリードできる人材の輩出を支えている。

大規模で複雑度の高いプロジェクトは、プロジェクト開始前に評価するメトリクスがあり、当該プロジェクトと認定された場合には、そのプロジェクトの遂行に相応しい有資格者がPMもしくはプロジェクトオーナーであることを規定することで、プロジェクトの成功でお客様に貢献するために取り組んでいる。また、こういった人材アサインの仕組みが規定されていることで、育成の一助になっている。

まとめ

プロジェクトマネージャーはメンバーの力を最大限に発揮させるため、メンバーが自ら考え判断し、役割や責任を果たすことができる土壌を準備することが必要とされる。その実現には、普遍的なプロジェクトマネジメントの知識体系に基づく行動様式に支えられるが、必ずやPMの人間性に後押しされ成功に導かれています。

私自身PMとしてのキャリアを歩みながら、フィールド上のプレーヤーの能力を最大限に発揮させ、目標達成を目指すプロサッカー監督の人間性(経験値)を支える「メンタリティー」が必要だと感じていた。それが発揮できたと思える結果と達成感を持てた時に、プロフェッショナルとしての誇りを実感できる経験をしてきたので、ここに共有することで、読者の皆さんの気づきのひとつになれたら、嬉しく思います。

More プロジェクトマネジメント stories
2022年12月16日

女性技術者がしなやかに活躍できる社会を目指して 〜IBMフェロー浅川智恵子さんインタビュー

ジェンダー・インクルージョン施策と日本の現状 2022年(令和4年)4⽉から改正⼥性活躍推進法が全⾯施⾏され、一般事業主⾏動計画の策定や情報公表の義務が、常時雇用する労働者数が301人以上の事業主から101人以上の事業主 […]

さらに読む

2022年12月9日

Qiskit Runtimeで動的回路を最大限に活用する

私たちは、有用な量子コンピューティングのための重要なマイルストーンを達成しました: IBM Quantum System One上で動的回路を実行できるようになったのです。 動的回路は、近い将来、量子優位性を実現するため […]

さらに読む

2022年12月8日

Qiskit Runtimeの新機能を解説 — お客様は実際にどのように使用しているか

量子コンピューターが価値を提供するとはどういうことでしょうか? 私たちは、価値を3つの要素から成る方程式であると考えます。つまりシステムは、「パフォーマンス」、「機能」を備えていること、「摩擦が無く」ビジネス・ワークフロ […]

さらに読む