ITコラム
マルチクラウドにおけるデータの最適配置と活用の実際
2019年10月3日
カテゴリー ITコラム
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データを最適配置し、活用するためのデータ駆動型のハイブリッドクラウド/マルチクラウド環境の選択について、林雅之氏に話を聞いた。
国際大学GLOCOM客員研究員(NTTコミュニケーションズ勤務)。GLOCOMは2011年から現職(兼務)。主な著書に「イラスト図解式この一冊で全部わかるクラウドの基本(SBクリエイティブ)」「スマートマシン機械が考える時代(洋泉社)」など。
企業は、将来の事業成長、競争力強化のために、デジタルテクノロジーを活用し、ビジネスの効率化や変革、そして、新たなビジネスモデルを創出するデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)推進に取り組むケースが増えている。
企業は危機感をもってDXの取り組みを推進しているが、成果が出ている企業がまだ多くはない。企業がDXを推進していくための大きな鍵となるのがデータ活用だ。多種多様な膨大なデータから価値を創出し、データ活用により、ビジネスの効率化や変革、顧客エクスペリエンス向上を図ることが重要となっている。さらに、データ活用による新たな収益源としてのビジネス創出が企業の競争力を左右するようになっている。データ活用を事業や経営に活かすためには、データの収集、蓄積、分析などを行う統合かつ戦略的な「データマネジメント」が重要となっている。
その一方で、企業は、老朽化した既存の基幹システム(レガシーシステム)の維持・運用に多くのコストや人的稼働の多くが費やされ、データ活用のための環境整備や、新しいデジタル技術や新しいビジネスモデルに企業リソースを投資できなっているのも大きな課題となっている。
企業は、データ活用によるDXの推進を図ろうという一方で、レガシーシステムの運用維持の負担からの低減を進めながら、ITシステムの改革を図っていくことが求められている。
混在する企業データ、データのサイロ化への対応
企業には、多種多様なデータが、さまざまな形式で存在しており、個々の部門が他の部門とデータ共有や連携をせずに、個々にデータを活用してしまうというデータのサイロ化が生じている。企業が、自社の経営において、迅速に把握すべきであると考えているデータをいくつか特定し、どの程度の頻度で確定処理を行うべきか、といったことも整理していく必要がある。
企業には、「自社の競争力に関わるデータ」や「高いセキュリティが求められるデータ」、「コンプライアンス対応が必要となるデータ」などのデータがあり、セキュアな環境でデータを運用管理する必要がある。これらのデータは、従来から保有しているデータが多く、オンプレミス環境でのレガシーシステムで運用しているケースも多い。
もう一方が、企業のDX推進のためのデータへの対応だ。たとえば、「新規ビジネスに関するデータ」、「増加率が予測できないデータ」、「IoTなどの非構造データ」などのデータは、スピードやアジリティをもって活用するといった柔軟性の高いIT環境が求められている。
増え続けるデータへの対応も必要となる。利用するケースは少ないが、年に数回程度、必要なときに読み込みや書き込みができる「長期保存するデータ」への対応も必要となる。「長期保存するデータ」は、データの読み込みや書き込みが遅くでも、大量のデータを低価格で長期に保存できるといった環境を整えられると良いだろう。
これらの多種多用なデータを、データ選定基準やデータ管理ポリシーなどを決めた上で、オンプレミスシステムやクラウドにどう配置し、どう管理するのかといったことが重要となる。
データ活用のためのハイブリッドクラウド/マルチクラウドの選択
企業がDX推進のために必要となるのは、レガシーシステムを刷新しつつ、戦略的にデータを活用するための双方に対応したIT基盤の整備だ。
企業では、システムの刷新時に優先的にクラウドを検討するクラウドファーストが普及しつつある。しかし、現状では、オンプレミスシステム、パブリッククラウド、プライベートクラウドなど、さまざまなIT基盤が混在しており、ハイブリッドやマルチなシステム環境で運用管理を行うことが避けられない状況となっている。
企業は、ITシステムの効率化を行うためには、既存のレガシーシステムのアセスメントによるIT資産の見直しを行い、重要度が低かったり、利用頻度の少ないITシステムは、システム刷新の機会に、大胆に廃棄するといった対応も必要となるだろう。
システム刷新には、企業のIT戦略に基づき、既存のオンプレミスシステムの環境を最新のクラウドテクノロジーを採用し構築するといったケースもあれば、事業者が提供するクラウドサービスを選択するというケースもある。
重要なのは、システム刷新を通じて、自社の競争領域を特定し、自社の競争力のあるデータを事業部横断で集約し、これらのデータをセキュアに管理し、自社の経営判断を支援するデータ活用の基盤を整備することだ。
また、DX推進のためには、前述した「新規ビジネスに関するデータ」、「増加率が予測できないデータ」、「IoTなどの非構造データ」などのデータはクラウドサービスを活用し、ビジネスの変化にあわせて、データの収集、蓄積、分析までを一元的に行える環境を整備することも必要となる。
多種多用なデータが混在する環境を、クラウドサービスだけで対応することは難しく、データの特性や利用目的にあわせて、オンプレミスシステムとクラウドサービスを使い分け、データをそれぞれの特性にあわせて、最適配置することが重要となる。
データを最適配置してデータを活用するためには、オンプレミスシステムやクラウドに加えて、ネットワークからデータウェアハウスまでのシステム構築から、売上データや経営データの可視化などデータモデルを行うソフトウェア選択までの組み合わせによる、最適化されたIT環境を構築運用できることが大前提となる。
データガバナンスからデータイネーブルメントへ
企業がデータの最適配置を行い、データ活用を行うためには、さまざまなリスクへの対応も必要だ。データ損失や、政府の統計データで問題となっているデータ不正、データ漏洩などの恐れもあり、データ保護やデータ品質改善のための適正な「データガバナンス」への対応を行う必要がある。
ただ、データガバナンスは、企業が保有するデータ適正に管理するという守りの視点を重視していることから、DX推進による攻めの経営をしていく上では十分とは言えない。
企業が厳しい競争環境の中で、勝ち残っていくためには、新規ビジネス創出などのデータ活用による攻めの視点でデータを使えるようにする、いわゆる「データイネーブルメント」のアプローチが必要となる。
「データイネーブルメント」は、データを最新のデジタルテクノロジーで効率化し、成果を最大化するための手法や技術を指す。たとえば、データモデル生成のプロセスの自動化や、高精度な予測モデル生成による機械学習の自動化まで行うといったデータが目的に応じて即座に利用できる環境などが考えられる。
これにより、企業は、事業予測に基づく経営判断や事業判断もできるといったメリットも生まれるだろう。DX推進のためには「データガバナンス」から「データイネーブルメント」への発想転換が必要だ。
さらに、企業は、自社内だけのデータ活用にとどまらず、ステークホルダ間で柔軟なデータ循環やデータ流通ができるよう、自社の枠組みを超えたデータエコシステムを形成し、各社がデータを通じて収益を得られる環境を、自社自らがリードするといったことも、データプラットフォームを握る上では重要となるだろう。
まとめ
企業では、レガシーシステムを中心としたオンプレミスシステム、パブリッククラウド、プライベートクラウドなど、さまざまなIT基盤が混在しており、データのサイロ化が生じている。企業は、ハイブリッドクラウドを前提とした、適正なデータを管理するとともに、データイネーブルメントとしてデータを攻めの経営に活用できる環境が必要となる。そのためには、既存のオンプレミスとクラウドを組みわせたデータドリブンの最適なハイブリッドクラウド/マルチクラウドをDX推進の視点で構築運用していくことが求められている。
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