テクノロジー・リーダーシップ

AIと一緒にシステム運用できますか? エンジニアの未来像

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山下 文彦

著者:山下 文彦
IBM認定上席テクニカルスペシャリスト グローバル・テクノロジー・サービス事業本部

日本IBMのGlobal Technology Serviceでシステム運用のサービス・デリバリーを担当している山下です。システム運用は、ITシステムを効率的に運用し、利用者に安定したサービスを提供することが最大の使命であり、お客様に適した様々な運用サービスを実現するために、計画策定から運用現場における技術面の統括までを一貫して担当しています。また、日本IBMの技術者コミュニティ(TEC-J)の一員として、社内のエンジニアや研究者たちと共に技術の探究を進めています。

システム運用サービスの役割

コンピューターシステムは社会インフラとして様々な分野で利用され、日常生活の一部となったソーシャルネットワークサービスから、経済活動の根幹を支えるエンタープライズコンピューティングまで、多種多様で複雑な仕組みの上に成り立っています。

そしてシステム運用とは、システム監視やシステム操作、システム保守を中心として、エンドユーザーからの問い合わせや、業務アプリケーションに必要なシステム変更など、システムを利用するために必要な多岐にわたるサービスを提供することです。安定稼働が最優先事項であり、障害が発生した時にはエンジニア間で迅速に連携を図り、1秒でも早くサービスを復旧させるといった、技術力に加え行動力も要求されます。

さらにシステムの信頼性を高め、トラブルから迅速に回復させる事や、様々なセキュリティーの脅威からシステムを守る事などが求められています。加えて急速に増えていくワークロードをコントロールし、コストを抑えながら高品質なサービスを提供することも必要です。

システム運用が直面している課題

かつてのシステム運用は、リクエストの受付と操作実行、システム監視と連絡といった、量と種類は多いものの定型的なオペレーションが中心でした。ところが関連するシステムの増加と複雑化により、膨大な量でかつ難易度の高い操作が増えてきました。さらに従来よりも高い耐監査性が求められており、監査証跡の取得やセキュリティー設定の検査と改善など、システム運用で担うべき業務が爆発的に増加しています。

これまでも運用のシステム化(オートメーション化)は行われてきましたが、システム固有の対応になる事が多く、汎用性の面で課題がありました。またシステム化されない部分においては、運用に必要な資源とコストが増加し続けるばかりか、いずれは人間の能力を超えることは目に見えており、抜本的な対策が必要とされています。

AIテクノロジーを活用したシステム運用変革への挑戦

システム運用にもAIテクノロジーの採用が現実のものとなってきました。例えばIBM Automation with Watsonでは、ロボットによるオートメーションをはじめ、自然言語の理解や障害の自動回復などの機能があり、システム運用にもデジタルトランスフォーメーションの波が押し寄せてきています。現在多くのプロジェクトで、これら最新テクノロジーを利用したシステム運用変革への挑戦が続けられていますが、既存の運用を如何にパターン化出来るかがいかにキーとなっており、運用の現場で活躍するオペレーターやエンジニアの知識と経験を効果的に取り込むことが重要になっています。

システム運用者に求められる新しい人材像と役割

運用対象システムに対する専門的なスキルに加え、AIテクノロジーについてのスキルがないと、この先のシステム運用を変えていくことは出来ません。システム全体を包括的に捉え、新たなテクノロジーをもとに効率的、効果的、安定的に稼働させる仕組みを考え、構築できる人材が求められてくるでしょう。

AIテクノロジーを利用した運用ソリューションを理解し、システム運用上の課題や欠点を数多く見つけ「あるべき姿」を描けるようにしておくことが重要で、最新のテクノロジーによる変革を、継続的に実現していくことが必要です。

システム運用の大半がAIテクノロジーにより置き換えられた後には、システム運用者にはどのような役割が求められるのでしょうか。もうコンソール操作を行うことや、エラーに対応することはありません。今後多くの議論はあると思いますが、私は多くのサービスをAIを活用してより効率よく提供するためのデザイナーやコンサルタントとしての役割が増していくと思っています。

高度なオートメーション、オートノミック、さらにはコグニティブ・テクノロジーによる、AI時代の新しいシステム運用が始まります。システムメンテナンスや障害回復が自動化されるだけではありません。システム運用で得られる多くのデータから、これまで熟練のエンジニアが肌で感じていたシステムの振る舞いをコグニティブ・テクノロジーで分析し、サービス改善をシームレスに実現できる時代がやってきます。

IBMの技術者コミュニティにおいても、Watsonに代表されるコグニティブ・テクノロジーによるシステム運用のトランスフォーメーションについて議論と研究を深めています。「何が出来るか」に加え「何をさせるか」が重要なテーマとなっており「エンジニアを教育するようにWatsonを教育する」ことがシステム運用者の主なミッションになっていくのかもしれません。

未来を切り拓くエンジニアへ

AIを中心に、大きなテクノロジーの変革が起きています。これまで以上にシステム運用の制約が取り払われ、文字や映像を高度に分析するだけではなく、対話も可能になることで、近未来のシステム運用の在り方が変わっていきます。ですが、将来ほとんどの作業が自動化されて、運用システムのデザインだけを行うようになったとしても、重要なシステムを扱う人としての高い道徳観や責任感、そして迅速な行動力は、いつの時代も必要とされるのです。

最新テクノロジーを駆使できる発想力と技術力を持ち、これまででは考えられないほどの品質と効率を追求する。これがシステム運用者の未来像です。

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