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IBM本社環境部門 担当者が語る、サステナビリティー対応の実態(IBMサステナビリティー・ラウンドテーブル講演より)

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「元日本銀行理事、現日本IBM特別顧問の衛藤公洋による、ここ数年の気候変動と金融システムに関する世界と日本の潮流、そして見え隠れする背景や思惑の解説に続き、ここからは、サステナビリティー対応の厳しい現実に、皆さまと同様に四苦八苦してきたIBMの取り組みをお話しさせていただきます。

おそらく私どもは、皆さまより多少は長く取り組んできた歴史を持っているのではないかと思います。理想と現実、本音と建前、表と裏…そんな話も交えつつ、IBM本社環境部門 担当の渡辺 華奈よりお話しさせていただきます。

普段、IBM本社環境部門の担当者がこうした場でお話しさせていただくことはほとんどございません。ぜひ、この貴重な機会をご活用いただき、講演後のディスカッションを有用なものとしていただけたらと存じます。」

 

「IBMイノベーション・スタジオ」担当の武井 総のこんなアナウンスでスタートした「IBMサステナビリティー・ラウンドテーブル」におけるセッション『IBMが実践する環境マネジメントとネット・ゼロへの取り組み』。ここからはIBM本社環境部門担当 渡辺華奈の講演を、ウェブ上にて再現させていただきます。

 

講演 | IBMが実践する環境マネジメントとネット・ゼロへの取り組み

 

「本社環境部門に所属しております渡辺と申します。

本日は、弊社が実践してきた環境に関する取り組みについて、その背景と歴史、そして現状と未来に向けたアプローチなどをご紹介させていただきます。何か皆様のお役に立てるところがあることを願っております。それではよろしくお願いいたします。」

 

IBMが環境保護に熱心になった理由と、そこから生まれたポリシー

IBMは1971年の環境ポリシーの発表から50年以上、環境保護に取り組んできています。

1990年に最初の環境レポートを発行して情報開示を行い、2000年にはCO2排出量削減についての目標値を設定・発表しました。

それ以降現在まで、5回のCO2排出量削減目標の更新を行い、2021年には目標にGHG排出量ネットゼロを加えました。

 

IBMはどうしてそこまで熱心に環境保護活動を行なっているのだろう?」と思われる方も、少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。

弊社は、元々は大規模製造業でして、製造拠点を世界各国に有していました。その中で、過去には土壌汚染事故を引き起こしてしまい、浄化対応を繰り返したり、化学物質規制の変更にともない、サプライヤー様と一緒に必死になって対応したりですとか、そうした苦労と経験を積んできたという歴史を持っております。

そんな経験を通じ、企業として環境の取り組みにおいて大事に思っていることが3つございます。

 

  1. 早期かつ包括的な対応

環境対応は、規制であったり、外部からの要求であったりに対して後追いになってしまうと、どうしても苦しいものです。その時代ごとの流行に捉われず、先を見越してやっていくことが重要と学びました。

  1. 透明性の高い開示

良いことも悪いことも包み隠さず開示することで、信頼というのは醸成されるものです。企業に厳しい視線が注がれる今、ますますこうした取り組み方が重要となっているのではないでしょうか。

  1. 情報の正確性

データと科学を重要視するテクノロジー企業として、信頼性が高く、情報の正確性が担保で説明可能なデータだけを弊社は提示することとしています。

 

 

IBMのCO2排出に関する目標とスタンス

まず、IBMのネットゼロ達成目標は「2030年まで」としております。

対象は、スコープ1と2を中心としており、スコープ3については、確実に自分たちで電力消費をコントロールでき、正確なデータを取得できるものは管理対象に含んでおります。具体的には、他社ビル内のマルチロケーションデータセンターにおける消費電力で、弊社が確実に自分たちによって管理できる部分です。

 

ネットゼロ達成の柱となるのが次の3つです。順番に説明していきます。

  1. CO2排出量の削減
  2. 再生エネルギーの調達促進
  3. 科学技術の利用

1のCO2排出量の削減は、具体的には、2010年度を基準として2025年までに65%を削減。2030年には排出量を35万トン以下とします。

2つ目の再生エネルギーの調達ですが、こちらは2030年までに90パーセントを目標としています。「100パーセントじゃないのか」と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、200カ国近くで営業活動をしている弊社にとっては、分離型の電力証書などに頼らず現地で生産されるエネルギーで進めようとすると、このタイミングでは100パーセントには満たないであろうと認識しております。

3つ目の科学技術ですが、炭素回収技術などを用いるもので、弊社は基本的には排出権取引による相殺は考えておりません。炭素回収技術の開発は、IBM Research部門が独自に行うものと他社様とのコラボレーションとを同時に推進しております。

 

IBMの環境マネージメントシステムと体制、責任部門

環境マネージメントシステムのお話をさせていただく上で、まずその前提として、IBMでは環境対応が企業にとっての長期的戦略であり、自社文化の一部となっていることをお伝えさせていただきます。

そうした背景の上で、トップマネージメントチームは、それが自社にとって、そして自分たちにとって重要な責務であり、しっかりとした決意を持って取り組み続けていくことの意義を深く理解し、企業としてもコミットメントを発表しています。

 

環境マネージメントシステムでは、誰が、どのようなデータを集めて、どのように管理するのかを含め、IBMの環境関連の業務を管理するための環境規定などをグローバルで一律に定義し、ルールや仕組、制度が構築されています。

体制ですが、国単位ではなく、ワールドワイドの統括部門として本社環境部門が置かれており、また各事業部毎には環境担当者が任命されています。そしてそれぞれの事業部が各々の環境マネジメントシステムを運用し、それら各システムがグローバルのマネジメントシステムと整合をとり、全社ガバナンスを効かせていきます。

 

環境施策ですが、弊社はネットゼロやGHG対策だけではなく、生物多様性保護や廃棄物汚染対策など全部で21の目標があります。それら21の環境目標は、さらに「製品省エネ」「データセンター省エネ」などのそれぞれ個別の具体的な施策も含んでいます。

これらの個別施策目標も、責任部門が各事業部単位で規定され、確実に施策を実行してレポートすることが求められます。例えば、省エネプロジェクト関連であれば不動産・施設部門、サプライヤー関連は購買部門、環境リサーチはリサーチ・サービス部門というように、責任部門が割り当てられています。

そして21の中には、バリューチェーン全体に対する施策も含まれており、それらを通じてサプライヤー様にも環境保全の推進をしていただいております。またそれ以外に、調査ソリューション提供などを通じて、社会全体に対する環境保全推進も行なっております。

IBMのエネルギー管理実績と、グローバル統合マネージメント・システム

弊社のエネルギー管理の実績ですが、2021年時点実績でCO2排出量は2010年比で61.6%削減 、再生可能エネルギーはグローバルでIBMの電力消費の64%を賄うことができています。

61.6%のCO2排出量削減ですが、これらはデータセンターにおける冷却効率化プロジェクトや、オフィスの照明や空調などのビル管理効率向上化プロジェクトなどの省エネプロジェクトを通じて達成されております。

 

皆様におかれましては重々ご承知になられていることではありますが、社会では、環境・エネルギーデータ管理の重要性が非常に高まっています。

先ほど、IBMは説明可能で、信頼性が高く正確な情報のみを発表していると申しました。これは、排出権取引などを筆頭に、エネルギーデータの市場における有用性、そしてまた規制の厳格さや対応の即応性も大きく市場に反映されるようになっていると現状を踏まえると、重要なことではないかと考えております。

そしてまた、エネルギーデータの詳細管理、活用の重要性の高まりも、これまでにないレベルに達しているという認識でおります。

 

エネルギーデータは今、財務情報データと同様の正確さ、厳密さ、そして管理の適格性が求められるようになってきています。そしてこの重要性と有用性は、社外だけではなく社内においても同様です。データを集めるだけではなく、適切な施策を打つためにデータを分析・活用し、環境パフォーマンスを上げるための基盤としていく必要があります。

こうした背景の中、IBMではグローバルのエネルギーデータ管理のシステムとしてIBM Enviziを採用し、使用しております。エネルギーの使用量と料金の管理、再生可能エネルギーの使用データ管理、省エネプロジェクトの進捗管理など、これらはすべてIBM Enviziで行われています。社外への情報開示や各種レポートの作成もこのIBM Enviziのデータを用いて行われています。

 

弊社がIBM Enviziを全社採用した理由ですが、「データ管理のしやすさ」が重視されたのはもちろんですが、もう一つ、他システムとの連携のしやすさも大きなポイントです。

具体的には、施設管理のデータとの連携です。IBMでは適用可能な大規模拠点で施設管理、設備管理システムと連携させ、より高度なエネルギー効率の詳細分析を行うことができるようになりました。

最近は、オフィスの利用状況がコロナ禍からの回復期で激変しているわけですが、そこでも推測ではなく、詳細な実データを元に効率的なエネルギー管理対応ができたと主管部門から聞いております。

 

IBMの環境サプライチェーン管理と共創イノベーション

最後に、IBMがサプライヤー様にお願いしている3つのことをご紹介します。

  1. 環境マネジメントシステムを運用して適切な環境管理をしていただくこと
  2. 2022年末までに、IPCCの報告書推奨に沿った形でスコープ1およびスコープ2のGHG削減目標を設定していただくこと
  3. 目標設定後は、進捗をトラッキングして実績を外部に公開していただくこと

 

私どもIBMは、世界中で環境と社会的責任に配慮したサプライヤーとのみ取引を行うことをコミットしておりまして、そういった観点から「サプライヤー行動規範」の順守を徹底させていただいております。CO2削減などに関しては、サプライヤー様に目標設定及び公表以上の具体的な指示を出したり細かなデータを集めたりということはしておりません。

自社の方針や業務特性を一番分かっているのはやはり各個社様であり、CO2の排出量や環境負荷を減らす計画や活動を最も効果的に行えるのも各個社様です。

私たちはそうした取り組みを尊重させていただき、個社が各々最適な方法でスコープ1およびスコープ2のCO2削減を図ることで結果としてそれらが重なり合い、バリューチェーンの、ひいては地球全体のCO2排出最小化へとつながると考えています。

 

自社だけでネットゼロ社会を実現することはできません。

IBMは環境保護やサステナブルな社会を実現するためのイノベーションを生み出すには、幅広いエキスパートとの共創が不可欠と考えており、幅広いステークホルダーとも活動をご一緒させていただいております。

 

科学技術を軸としたイノベーションの創出に向けては、IBM Researchが気候変動に貢献する技術開発を推進する「Future of Climate」と呼ばれるイニシアチブでCO2削減のAI活用の研究を進めております。

また、アップル様やダウ様と共に、マサチューセッツ工科大学の「気候・サステナビリティ・コンソーシアム」の創設メンバーになり、共同で基礎研究なども進めております。

そしてここ日本においては産業界のお客様との共同プロジェクトも進めており、すでに発表されていただいたものの中には、三菱重工様とのCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)バリューチェーンとCO2流通の可視化デジタル・プラットフォームの取り組みなどがございます。

参考 | IBM Joins the MIT Climate and Sustainability Consortium; Part of a Broader IBM Future of Climate Initiative

参考 | 三菱重工と日本IBM、CO2流通を可視化するデジタルプラットフォーム「CO2NNEX™」構築へ  取引サイクルを活性化しカーボンニュートラルの早期実現に貢献

 

そしてビジネスだけではなく社会貢献としても、IBMのテクノロジーや専門家たちの知識を用いて、環境問題の影響を受けている人びとを支援するグローバル・プログラムも進めております。

日本では、宮古島市と共創して再生エネルギーの自給率を上げるための電力需要予測や、インフラの高度化プロジェクトに取り組んでおります。

参考 | IBM、環境問題を抱える人々のためのクリーンエネルギーへの転換の加速に協力

正直申しまして、IBM一社、個社だけでの取り組みは、限界があると感じております。さらなるサステナブルな社会の実現に向けて、ぜひ、皆さまとご一緒に取り組ませていただけましたら幸いです。

 


渡辺の講演後、IBMサステナビリティー・ラウンドテーブルではIBM Enviziの使い勝手をご理解いただくための具体的なデモや、製品担当者によるQ&A、さらには参加者全員での意見交換や現状共有が行われました。

詳しい内容についてご興味をお持ちの方は、ぜひ下記よりお問い合わせください。

 

製品・サービス

 

問い合わせ情報

TEXT 八木橋パチ

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