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サプライチェーン・サステナビリティーをトリプルボトムラインから見直す

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もし、下記の質問についてまだ答えが出ていないのなら、あるいはまだ検討すら始めていないのであれば、おそらくはこの記事がお役に立つでしょう。

なぜなら、顧客も従業員も、そして株主も、貴社がサプライチェーンの持続可能性にどのように取り組んでいるのか、あるいはその実現に向けてどのように計画しているのかを知りたがっているからです。

  •  商品の発送にあたり、梱包や発送の仕方で環境への負荷がどれだけ変化するかを理解していますか?
  •  製品の製造現場において、廃棄物を最小限に抑える取り組みを実施していますか? 限りある資源をどのように有効活用していますか?
  •  持続可能性を考慮した調達をしていますか? 調達部門はサプライヤーの社会評価や社会的価値を十分確認・評価した上で選定していますか?

 

従来のサプライチェーン・サステナビリティーは、製品の材料調達や製造、市場への出荷において、環境、社会、コーポレートガバナンスへの配慮を十分に行なうことを主たる意味としていました。

しかし、製品が市場に出ればサプライチェーンは終わりというわけではありません。

むしろ、それはサプライチェーンの持続可能性の一部分に過ぎないと捉えるべきです。サプライチェーン・サステナビリティーを考える上で大切なのは、循環型経済のサポートです。その取り組みが、循環型経済に則った再利用・再生・廃棄戦略を計画・支援するものとなっているか、実行可能なものとなっているかが重要です。

 

それではここからは、未来世代にしっかりとバトンを手渡すために、廃棄物の削減や効率化によって資源消費を抑えつつ、コストも削減するためのベストプラクティスを確認し、持続可能なサプライチェーンを推進するための手段を一緒に探っていきましょう。

 

サプライチェーン・サステナビリティーが重要な理由

サプライチェーン・サステナビリティーを考慮した計画は、人(People)、利益(Profits)、地球(Planet)という3つのPからなるる「トリプルボトムライン」の概念にも見合うものです。

 

・ 人(People)

主要なステークホルダーたちは、自分たちが購入し支援するブランドが、持続可能性の問題に一層取り組むことを期待しています。いくつかの視点からデータを見ていきましょう。

 

消費者調査: IBMの最近の調査によると、およそ80%の消費者がサステナビリティーを重要視しており、60%は環境への影響を減らすために買い物の習慣を変えたいと考えています。そして、自身の持続可能性に対する考えにCOVID-19が影響を与えたと93%の消費者が回答しています。

 

従業員の採用と定着: IBM Institute for Business Valueの調査では、回答者の69%が環境的に持続可能だと思える組織であれば就職するであろうと答えています。その一方、サステナビリティーへの取り組みが人材確保に役立っていると答えたCEOは、わずか20%に過ぎません。

 

投資家: 2022年現在、主要な金融市場におけるサステナブル投資の額は過去2年間で1%増加していますサステナブル投資に熱い視線が注がれる中、「グリーン投資」を示すより明確な基準を求める声も高まっています。そしてグリーン投資の基準と同様に、ネットゼロの未来に向けた取り組みにはデータとテクノロジーの活用が欠かせません。

 

・ 利益(Profits)

CEOの57%がROIと経済的利益の関係が不明瞭であることを主要課題として認識しています。そうした中、カナダの協同組織金融機関デジャルダン・グループCEO、ガイ・コルミエ氏は、最近のIBMによるインタビューの中で、以下のように述べています。

「気候変動やESGについては、トップがより積極的に関与すべきだと確信しています。特に若い従業員に対しては、ごまかしはききません。」

サステナビリティーが収益向上につながる差別化要因である理由は以下のとおりです。

 

ブランドの差別化: いくつかのカテゴリーにおいて、過去12ヶ月の間に特定のブランドがよりその価値訴求に成功しています。

消費者の動向としては、食料品の買い物においては持続可能なパッケージングを高く評価するようになりました。主要家電製品の購入においては、製造段階における廃棄物の削減と、製品の二酸化炭素排出量を重視するようになっています。

 

ESGゴールに対するリーダーシップ: 世界経済フォーラムが2022年に行った調査により、企業が以前よりサプライチェーン・サステナビリティーに対して積極的な目標を設定していることが明らかになりました。また、サステナビリティーへの取り組みが競争力に影響を及ぼすことを理解し、ESG目標達成レベルと役員報酬を連動させている企業が増えています。

多くの企業が、排出削減や社会経済的包摂といった問題を含め、戦略的な方法でサプライヤーと協力しています。インキュベーター・プログラムなどを通じて新規参入企業やソーシャルベンチャーとのリレーションを深め、地域に根ざしたサプライチェーン・サステナビリティーに取り組み、協業をより深めて廃棄物とコストを抑えようとしています。

 

・ 地球(Planet)

世界の環境資源が有限であることを考えると、「サーキュラーモデル」は持続可能性と密接に関連しています。国連環境計画(UNEP)は「持続可能な資源取り引き」報告書において、循環型経済について以下のように述べています。

「循環型経済は、基本的に相互接続された相互依存のネットワークと世界をみなし、資源ループを閉じたり、伸ばしたり、狭めたりすることで、より高い効率が達成されるというコンセプトに基づいています。この循環型モデルは、従来の生産・消費・廃棄という直線的な資源利用モデルとは対照的で、資源は可能な限り高い価値を維持します。」

 

持続可能なサプライチェーンはこうした価値モデルと協調するものであり、循環型経済をサポートするものです。

  •  デザインによる削減: 製品およびサービスの設計の初期段階から、材料(特に原材料)の使用量を削減する指針。
  •  ユーザーをサプライヤーと捉えて修理、改修、再製造を行う。
  •  企業間取引の観点から、再利用と再資源化を行う。

 

 

サプライチェーン・サステナビリティーのはじめ方

サプライチェーン・サステナビリティーの取り組み範囲を環境面にまずは限定することで、短期間で成果を上げることができます。

サプライチェーン・リーダーたちにおすすめの、より環境に優しいサプライチェーンを実現するための4分野を紹介します。

 

・ 配送: 消費者はサステナビリティーを優先するブランドを高く評価します。顧客が環境に配慮した決断をできるようにするべきです。その注文は翌日配送が必要なものか、それとも3~5日後に届けば十分でしょうか? 全商品が一刻も早く届く必要があるのか、それともすべて揃ってから一緒にまとめて送られてくればよいものでしょうか?

決済のタイミングで、消費者にどれだけ「グリーン」な配送オプションがあるかを示すようにしましょう。なお、B2Cの販売者だけではなく、物流会社や輸送業者もB2Bの顧客に同様のオプション提供が可能です。

 

・ 在庫配置: 物流ネットワーク全体の可視化により、各注文の処理を最適化することができます。さらに、在庫を消費者により近い位置に配置することで、より迅速な供給と低排出量の両立を実現できます。

 

・ 梱包: 購買パターンの変化を製品パッケージの構成に反映させましょう。店舗への来客数が減少しているのであれば、高価な包装材や手の込んだ陳列、店内警備に割くコストは減らせます。

オンライン注文や商品の店舗での受け取り、あるいは近隣店舗からの発送が増えているのであれば、複数商品の同一梱包を推奨することで廃棄物とコストを共に削減することができます。

 

・ 返品: 返品された商品を迅速に再販売することで、無駄を省き、収益を確保することができます。なおこれだけでも、米国だけでも毎年発生している大量の返品商品の埋め立て廃棄と、3千億ドルを超える損失を削減できます。

 

サプライチェーン・サステナビリティーに関する長期的な機会

「計画、製造、配送」というサプライチェーンの重要基盤を考えれば、製品企画と、柔軟性が高く時間の経過に合わせて変更可能なより持続可能なサプライチェーン計画に焦点を当てることは不可欠です。それらを踏まえ、以下の5つの観点を検討してみます。

 

・ 素材: パタゴニア社のようなリサイクル素材を使用した製品製造の機会や、環境に有害な素材を使用しないパーカー・ハネフィン社のようなビジネスの進め方に学びましょう。ニューライトテクノロジーズ社の生分解性プラスチック代替品などに代表される革新的技術を用いることで、新しい持続可能な選択肢が生まれます。

 

・ サプライヤー: パートナー企業と共に持続可能なエコシステムを構築しましょう。たとえば、ザ・ノース・フェイスが独自開発した防水透湿素材「FUTURELIGHT」や、コーヒー業界のトレーサビリティプラットフォーム「Farmer Connect」のような、価値共創のためのビジネスモデルやガバナンスモデルをデザインします。

 

・ パッケージング: 廃棄物の量と種類を最小限に抑え、リサイクルのしやすさに重点を置いたパッケージングを再考し、実装しましょう。使用済みカプセル廃棄が不要で、コーヒーポッドの出荷時にリサイクルバッグを同梱しているネスレ社のネスプレッソはその好例と言えるでしょう。

 

・ サーキュラーモデル: アイリーン・フィッシャー社の自社製品回収プログラムのように、返品の再利用や再活用を進めることで、素材の循環性を最大化し製品の環境負荷を最小化することができます。また、Plastic Bank社のように、部製品全体または部品を再利用やリサイクルする、あるいはコーチのように生涯保証の一環として製品修理やサービスを提供するなどもよいでしょう。

 

・ 新しい収益モデル: アウトドア製品からオフィス家具、照明から特別な日のためのファッションまで、あらゆる製品が提供する機能を「サービス」として提供する「プロダクト・アズ・ア・サービス(PaaS: Product as a Service)」モデルを検討する。

 

サプライチェーン・サステナビリティーの行動指針

サプライチェーン・サステナビリティーの取り組みが収益をもたらすことは間違いありません。

以下の行動指針を、鍵となる協力者の特定や短期および長期目標の設定、タイムラインの確立、資金の割り当て、動的に自動化されたワークフローやAIを活かしたデジタル・ソリューションの導入などに活かしてください。

ビジネスプロセスや進捗測定の計画策定に、そして変革に大いに役立つはずです。

 

・ 基本: 自社の事業やサプライチェーンと、それが環境に与える影響を理解する。

・ 教育: 同業他社の基準や業界動向を把握する。SDGsの関連項目や法律、規制、業界の情報源について理解を深める。

・ ベンチマーク: 共同・協力して作業を進められるよう、仲間となる同業者を見つけて学びと目標を共有し、実践を発展させられるよう協働する。

・ BHAGs: 学習と進歩の価値を信じ、人を奮い立たせるような大胆な目標(BHAGs: Big, hairy, audacious goals)を設定して宣言し、失敗を恐れず突き進む。

・ 測定:ソフトウェアやチェックリストを使用し目標に対する進捗を監査し、測定する。定期的に結果を発表する。

・ 発信: 経営幹部は責任を持ち、ミッションの伝達、プログラムの支援、従業員の参加、進捗と学習の共有について積極的に発信する。サプライチェーンの持続可能性に強い興味を示している多くのステークホルダーに応える。

・ 再検討: 1つの目標を達成し、また新たな目標を設定していく。サステナビリティーは旅のようなもの、一歩ずつ着実にバリューチェーンの歩みを進めていきましょう。

 

サプライチェーン・サステナビリティーのためのソリューション

サプライチェーン・サステナビリティーの旅を始めるのに今以上に重要なときはありません。IBM は、より持続可能で、透明性が高く、環境や社会に配慮されたサプライ・チェーン構築に何が必要かを理解しています。以下のソリューションをどうぞご検討ください。

 

IBM Sterling Order Management

リバース・ロジスティクスを実行できるインテリジェント・フルフィルメント・プラットフォーム。返品の仕分け、製品の再製品化、修理ライフサイクルの追跡プロセスの加速などを通じ、返品に伴う廃棄物と環境負荷を低減します。

既存のオーダー管理システムを強化・拡張するAI搭載の分析エンジンにより、フルフィルメントコストとサービスのバランスを取りながら、より環境に配慮した配送オプションを提供します。

 

IBM Sterling Supply Chain Business Network 

あらかじめ接続された80万社の取引先と迅速に連携することができる、マルチエンタープライズ・ビジネス・コラボレーションネットワーク。ブロックチェーン活用により、サプライチェーン・エコシステム全体の透明性と信頼性を向上させます。

 

IBM Supply Chain Intelligence Suite Control Tower

エンドツーエンドで在庫を可視化し、より多くの情報に基づいた意思決定を行うための在庫コントロールタワー。サードパーティデータを活用して在庫に影響を与える可能性のあるイベントを迅速に検出し、無駄を省き最適な成果へと導きます。

 

IBM Supply Chain Intelligence Suite Blockchain Transparent Supply 

ブロックチェーンプラットフォームにより、信頼できるサプライチェーンパートナーと独自のエコシステムを構築し、製品の原産地、持続可能性、倫理性などをバリューチェーンのあらゆる地点において認証することができます。

 

IBM Planning Analytics with Watson

AIやブロックチェーンなどのテクノロジーを戦略的に適用することで、サステナビリティの目標と期待に対応するようサプライチェーンの計画とプロセスを進化させ、インテリジェントなワークフローをサプライチェーンに統合します。

 


当記事は、事例『What is supply chain sustainability? A look at people, profits and the planet』を日本のお客様向けにリライトしたものです。

 

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