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ADHDと生きる若手社員の世界(松本 英李) | インサイド・PwDA+5(前編)

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日本IBMとKyndryl(キンドリル)は、障がいのある当事者社員とアライ社員(味方として当事者を支援する社員)が共に活動をする「PwDA+(ピーダブルディーエープラス=People with Diverse Abilities Plus Ally)コミュニティー」を共同運営しており、「お話会」と呼ばれる社内イベントを定期的に開催しています。

今回、先日のお話会での講演に大きな反響があった松本 英李さんに、コミュニティー運営メンバーの栫 亜似子さんがインタビューしました。ぜひご一読いただき、「障がいと仕事、社会」のこれからの在り方についてご一緒にお考えいただければ幸いです。

右: 松本 英李(まつもと えり) | 日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社 クロスインダストリー事業部所属。趣味はサイクリングでパン屋巡り。好きな言葉は「生きててえらい」。
左: 栫 亜似子(かこい あいこ) | 日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社 管理・事業企画推進所属。趣味は子どもとテーマパークに行くこと。好きな言葉は「とりあえずやってみる」。

<もくじ>

  1.  学生時代 | ADHD不注意優勢型とクレペリン検査
  2.  障害と親子関係 | 過干渉と反抗期
  3.  ADHDと働きかた | 就活と配属先でのコミュニケーション
  4.  「ADHDと生きる若手社員の世界」 | お話会参加者から
  5.  障がいのある方も働きやすい会社・社会へ
  6.  インタビュアーが思ったこと(栫 亜似子)

: まず、簡単に自己紹介をさせていただきますね。私は2017年にITスペシャリストとして日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社(IJDS)に入社しました。

2020年に出産したのですが、生まれた子どもに内部疾患があり、生後2か月で臓器移植手術を受けることになりました。この出来事をきっかけにPwDAに興味を持ち、コミュニティーに参加するようになりました。現在は、IJDSの管理・事業企画推進部門で社内外の広報的な仕事をしています。今日はよろしくお願いします。

 

松本: こちらこそお願いします。私も同じくIJDSの社員で、クロスインダストリー事業部にITスペシャリストとして所属しています。

ADHDの不注意優勢型*と診断されており、2022年春の入社以降、周囲のサポートを受けながらこれまで頑張ってやれているかな、という感じです。


*ADHDの不注意優勢型とは

「注意欠如多動症」とも呼ばれるADHDは生まれつきの疾患で、その特徴は人によってさまざまですが、大きく「不注意優勢型」「多動性・衝動性優勢型」「混合型」の3つに分かれます。「不注意優勢型」の特性は、いわゆる「うっかりミス」が多く、集中力を持続することや整理整頓が苦手な人が多いとされています。


 

: 最近は大人の発達障害にも注目が集まっていますが、松本さんはいつごろADHDの診断を受けたんですか?

 

松本: 中学時代です。ただ、私自身は友だちとの関係や学校生活もそれほど大きな問題を感じず過ごせていたこともあり、大学まではそれほど意識せずに過ごせていました。当時の親は「迷惑をかけたらちゃんと周囲に謝ればいい」、「宿題を忘れて困っても自分でも対処できるように」という教育方針でしたので。

でも大学生になって活動の幅が広がり、お金やスケジュールの管理がちゃんとできないと社会的な信用を失ってしまうということを実感するようになり、学校で本を読んだり研究活動をしたりしながら対応方法を身につけていきました。

 

: 中学生というタイミングで診断を受けたことについてはどのように思われていますか? 早過ぎたとか遅かったとか。

 

松本: うーん、診断タイミングに対しては特に思うところはないのですが、今思えば、もっと早くから「大人になってからどう対応すればいいのか」を考える時間は持ちたかったですね。

中学時代、学校の先生に相談したけれど「クレペリン検査*の結果を見てもあなたには問題が見当たらない。ADHDじゃないと思うわ、大丈夫よ」と言われ、ちょっと混乱しました。


*クレペリン検査とは

正式名称を「内田クレペリン精神検査」といい、長時間にわたる単調な一桁の足し算を行い、継時的な変化パターンから性格や行動面の特徴を測る検査。生徒の潜在的・基底的な特徴がわかるとして、導入している小中高校も少なくない。


 

: 正式な診断結果に「ああ、そうなのか」と安心する人とそうじゃない人がいるのではないかと思うのですが、松本さんはどうでしたか?

 

松本: 私の場合は「だから私はこうなのか」と安心しました。仰る通り人によると思いますが、「足が遅い」とか、そういうことと同じ特性だと私は思っています。

ADHD当事者は案外そんな感じの人が多いんじゃないでしょうか。でも、親はショックを受けていたかもしれません。「こんなふうに産んでしまって申し訳ない…」って。書籍や研究でもそんな結果報告をたびたび目にします。

 

: 私も…やっぱりそういう思いは…ありましたね……。

子どもがまだ小さいので、病気のことを受け止められるだろうか、といった不安もあります……。松本さんのご両親はどうでしたか?

 

松本: …やっぱりショックを受けて、過度に心配性になってしまっていましたね…。それが原因で親子関係が上手くいかなくなってしまった時期もありました。

 

: …そういうとき、本当はどんなふうに付き合って欲しかったとか、ありますか?

 

松本: …心配が先行して「いろんなものを排除したい」って気持ちは分かるのですが…もう少し……う〜ん。子どもにとっては困難にぶつかる体験もとても貴重なものだと思うので、それはもっと体験させて欲しかったなと思います。

「宿題が終わるまでは遊びにいっちゃダメ」と友だちと約束したのに外出させてもらえず、ようやく集合場所に着いたときにはもう誰もいなくなっていたこととかありました。また、幼いころは失くし物、忘れもの、大事なプリントの出し忘ればかりで「何回やったらわかるの!」よく叱られていたのを覚えています。今なら「親も早く対処法を身につけて欲しかったのだろう」と理解できるのですが。

でも、当時の叱られ経験は、「むしろ自分は怠け者でダメな子なんだな」という自信の喪失につながりました。その影響は今もまだ残っていて、大人になって改善しつつあるものの、染みついた思考を変えるのにはかなり苦労しました。

発達障害をお子さんに持つ親御さんにぜひ知っていてほしいのは、叱ることのメリットは本当に少ないということです。対処法の習得は本人の努力が不可欠で、内発的動機づけ(自発的に沸き起こる関心、意欲)が重要です。だからこそ叱るのではなく、土台として子供とアサーティブに会話できる関係値を作ること、できないことがあってもまずは受け入れることをより大切にして、やる気スイッチを一緒に探してもらえたら嬉しかったです。

子どもにとっての親は、指導者である前に一番の理解者であってほしいと思います。

 

——先ほど、「自分で謝ってどうにかしなさい」という話がありました。今の過干渉な感じとは少し違っているようにも聞こえましたが?

松本: そうですね。順番に話すと、今の友だちとの話は小学校時代の話です。その頃の両親は過保護・過干渉だった感じです。

私には言いませんでしたが、障がいがあるんじゃないかと私の特性を心配していました。その後は…ちょっと待ってくださいね。思い出します。

そうそう。その後中学時代に診断を受けてADHDとはっきりしたというのと、私が反抗期を迎えて過干渉に対して爆発したということもあって、親がスタンスを変えたというか、それまでの過保護から放任主義に切り替えてくれました。

お互いに程よい距離感で接するようになってからは関係が改善し、今では仲良しです。

 

: 分かります。私も中学時代はいろいろあって半分くらいしか学校に通えていなかったんですが、親が厳しくて、「普通のコース」に戻そうという圧がすごかったんです。

でもあるとき、諦めがついたのか、放任主義的な感じに変わってくれて。それからは関係性も変わりましたね。

 

: 学生時代と社会人になってからの苦労って違いがあると思うのですが、学生時代には他にどんな苦労がありましたか?

 

松本: おもしろいと思えるものが私だけみんなと違う、そんなことはよく感じていましたね。

それから、学生時代って、遅刻したり宿題忘れたりしても「またエリがやらかしたよー(笑)」みたいな、そんな感じじゃないですか。だから「対処しなきゃ」ってそんなに明確に思ったことがなかったんです。

でもそれだからこそ、就職してからスケジュール管理とか、優先順位の付け方とか、困ることがたくさん出てきてしまいました。たまに、ADHDだと自覚している自分ですらちょっと驚いてしまうようなミスを起こしてしまうこともあって…。日々チャレンジです。

 

: 就活はADHDをオープンにして活動を?

 

松本: はい。むしろ積極的にオープンにすることで、そこで差別や穿った見方をされるような企業なのかどうかが早く分かった方がいいと思っていましたし、アクセス・ブルー(IBMの障がいがある学生向けのインターンシップ「Access Blue Program)にも参加していました。

就活で決め手になったのは、アクセス・ブルー最後の数週間のOJTプログラムで、その派遣先がIJDSだったんです。そこで迎えてくださった先輩たちが本当に暖かくて素敵で…。

そのお人柄に惹かれ、就職の際には配属希望をIJDSにしました。

 

: そうなんですね! IJDSの者としてそれはとても嬉しいです。どうですか? 今はITの仕事は楽しめていますか?

 

松本: 今は、目の前の仕事で目一杯になってしまって、好き嫌いを考える暇もなく忙殺されている感じです。「人の役に立ちたい」という気持ちはすごく強く持っていますが、それを実現できていなくて…。 ITと私はあまり親和性が高くないのかもしれません。

でも、私は不器用なところがあるので、今後もう少し余裕ができたら、今の仕事よりもう少し上流工程の部分を中心に勉強したいと思っています。そうしたら、また変わってくるかもしれません。

 

: 私も入社1年目は同じような感じでした。会社にはいろいろな役割や仕事もあるし、やっていくうちに見えてくるものや感じるものも変わってくると思うので、今はそれでいいんじゃないですかね。やっていくうちに楽しめる仕事が見つかるかも。

社内では障がいがあるということをどこまでオープンにされていますか? 所属長だけとか?

 

松本: いいえ。私は隠していません。所属長、先輩、一緒に働く周囲の方がたにはお伝えしていますね。社外の障がい者雇用に関するイベントなどにもオープンに参加していますし、同僚にも機会があれば伝えるようにしています。

 

: オープンにしてよかったなと思ったことやメリットだと感じることは、どんなことでしょう?

 

松本: 一緒に働く人にとっては心構えというか、私に指示を出していただく際にも「どんなことを期待しているのか」を擦り合わせしていただけるのは、助かりますしメリットだと思います。ただ、これは同期とかにはあまり関係ない話かもしれませんね。

でもやっぱり、何も言わずに一緒に仕事を初めて、お互いを理解できないまま嫌な気持ちにさせてしまったりするのは良くないと思うんです。「あ…。また私、がっかりさせてしまっているな」と思うこともありますし。

 

: たしかにマネージャーやチームリーダーは知っていた方がいいですね。仕事の振り方とかにも役立つし、コミュニケーションもうまく進みそうです。

 

いかがでしたか。

後編では、「ADHDと生きる若手社員の世界」と題して開催されたお話会について、そして障がいのある方も働きやすい会社・社会へ向けた提言などを、松本さんに伺います。お楽しみに!

 

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