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千年先の、未来へ。 | エシカルな島へと変貌する宮古島訪問記

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「お客さまと共に考え、共に創り出していく」をミッションとしているIBMの新組織「クライアント・エンジニアリング」。約100名の所属社員のおよそ3/4が、この2年間でIBMに転職してきた多様性に溢れたチームだ。

そして「お客様との共創を進めるために、社内の組織の壁を取り払おう」という信念を持って活動を進めているのが、IBMコンサルティング事業 沖縄事業所長の櫻井崇とシニアコンサルタントの高橋明徳だ。

今回、この2名のコーディネーションにより、沖縄県宮古島市市長や商工会議所の会頭、そして宮古島市で「エコアイランド」の取り組みを推進するキーパーソンたちと、クライアント・エンジニアリングを率いるIBM執行役員の村澤賢一を中心としたIBMチームの意見交換が行われた。

ここでは、その中から何名かとの印象的な会話をご紹介します。

中央が宮古島市の座喜味一幸市長。左よりIBM櫻井、村澤、市長を挟みIBM高橋、八木橋パチ。

 

砂川重信さん | 有機栽培のマンゴー農園主(訪問1日目)

 

沖縄本島から南西に300km弱。飛行機なら那覇から1時間足らずの場所にある宮古島。ビーチリゾートと珊瑚礁で知られるこの島だが、主要産業の1つはその独特な地理条件を活かした農業だ。

その宮古島の南西に位置し、1700メートル弱の海上大橋で結ばれている来間島(くりまじま)に、有機マンゴーの世界ではよく知られた名人がいる。

村澤が最初に訪問しお話を聞かせていただいたのはそのマンゴー名人、周囲の人たちから「しげのぶさん」の呼び名で慕われている砂川重信さんだ。

「こんな小さな花があのマンゴーになるのか!」と初めて見るマンゴーの花に驚く村澤と、説明するしげのぶさん。

 

昨年から来間自治会長も務めているしげのぶさんの農園「楽園の果実」には、ズラリと大型のハウスが並び、そこでは「自然にやさしい農法」でマンゴーが育てられている。

「一番のおすすめはアーウィンという種類だね。ほんとにびっくりするくらい美味しいから! でも人間と同じで、個性も好き嫌いもそれぞれだからね。今、このハウスで育てているマンゴーは40種類くらいかな。まだ実がならないのもあるけど、いろいろ試してみないと。」

 

3月中旬でも日中はときに25度近くまで上がる宮古島の気温。この日も、ハウスの中はかなり蒸し暑くなっていた。だが、マンゴー栽培と有機農法について語るしげのぶさんの口ぶりは、どこか飄々としていてむしろ涼しげだ。語られるメッセージの内容と反比例するかように。

「有機栽培は簡単じゃないよ。え、『じゃあどうして始めたかって?』 — そうだなあ。ほら、おれは面倒くさがりだから、農薬とか撒くのは大変だし嫌だったの。」

この言葉が一種の照れ隠しであり事実と異なることは、しげのぶさんの話を1分も聞けばすぐに分かる。有機農業をスタートしてから20年以上経った今も、つぶさな観察と試行錯誤を厭わない取り組みを続けているのだ。

 

この情熱は、宮古島の素晴らしい自然環境を守り、「未来につながる農業を」という熱い想いから生まれてきている。しげのぶさんは言葉を続ける。

「やっぱり、虫も他の雑草も殺しちゃダメなんだよ。そのやり方だとだんだん土が衰えて、次の世代に引き継げない農業になっちゃうから。高齢化が進む宮古の農業を発展させようと思ったら、未来の農家さんたちにちゃんと受け渡せるようにやらなくちゃ。

殺さなくたって、うまく共生する方法はあるんだよ。真面目にそれをやろうと思っている人たちには、ケチくさいこと言わずにどんどんそれを教えてあげたいと思っているし、みんなにどんどん真似して貰えたらいいなって思っているの。

そりゃ簡単じゃあないよ。でもそんなに難しいことでもないの。上手にそれをやれば、不思議なもんで自然の力をいっぱい受けて、マンゴーも他の野菜たちもどんどん美味しくなってくれるんだよ。」

 

山名ナミさん | 廃校有効利用委員会 委員(訪問1日目)

 

ここ数年、宮古島市では小中学校の統廃合が急速に進んでいるという。

「私はここの卒業生で、この村と学校に誇りを持っていました。だから数年前、来間の小学校も廃校予定と聞き、いてもたってもいられなくて来間島に戻ってきたんです。なんとか廃校を止めなくちゃって。」

残念ながらその想いは叶わず、2020年3月末をもって来間小学校は125年の歴史に幕を閉じた。

 

「ナミちゃんの子どももうちの子も、この来間小学校の卒業生なんです。」

この日、私たちの来間島視察のアテンドをしてくれた、来間島の人気店「島茶家ヤッカヤッカ」のオーナーの香織さんが教えてくれた。

 

子どもたちが過ごしていた時間がそのまま残っているような来間小学校

 

「この学校は島の中心だったんです。それは立地的な意味だけじゃなくて、来間島島民の気持ちの拠り所としてという意味でです。…私は、廃校を止めることはできませんでした。でも、この学校を、形を変えて復活させたいんです。いや、復活させるって決心したんです。それで、廃校有効利用委員会を立ち上げました。

この大事な校舎を、よく分からない使われ方をされたくありません。それに、ちょっと試してダメなら直ぐに手を引くような会社には、廃校復活プロジェクトには一切関わって欲しくないんです。…それなのに、黙って視察に来て勝手に中を見ていこうとするような会社もあって。本当に頭に来ます。」

ナミさんの目に、決意の強さが表れていた。

 

「千年先の未来へと来間島をつなげるために、島らしさと持続可能性について、子どもも大人も学び発信する学校にできないだろうかと考えているんです。そんな理想的な形での復活に向け力を貸してくれる企業や事業者に、このプロジェクトに加わって貰えたらって思っています。

廃校有効利用委員会の委員での務めは2年間と任期が決まっているのですが、私はその後も一般社団法人などを作ることでこの活動を続けていきます。それももう決めているんです。」

 

座喜味一幸 宮古島市市長 (訪問2日目)

 

訪問2日目は、宮古島市市役所に伺い、座喜味宮古島市市長への2021年11月の沖縄県宮古島での「共創型アグリテックイベント」と2022年2月の那覇市での「はるさーゆんたく会」の報告からスタートした。

時間は30分と短かったものの、これまでの取り組みを通じてIBMが沖縄の農業振興のためのアイデアを広げていることと、大きな成果に不可欠な地域実践者たちとの共創を深めるための準備を進めていることをお伝えさせてもらった。

 

また、先日IBMが発表した新たな社会貢献プログラム「IBM Sustainability Accelerator(IBM サステナビリティー・アクセラレーター)」についてもご紹介させていただいた。

このプログラムは、環境問題の影響を特に受けている人びとのために活動している非営利団体や政府機関の事業強化・拡大を目指したもので、初年度となる今年は「クリーンエネルギー」をテーマとしたRFPを募集している。

台風や輸送コストなど、従来の方法ではエネルギーに関しても環境の影響を受けやすいのが離島である。数年前から持続的なエネルギー利用の仕組みづくりに取り組んでいるという宮古島市にも、参加をご検討いただいてはどうかとお伝えさせていただいた。

IBM、非営利団体を対象とした 2年間の無償グローバル環境保護プログラムを開始

 

千年先の、未来へ。

 

市長訪問を終えると、IBMチームは宮古島商工会議所で、会頭・副会頭と1時間弱のディスカッションを行った。

「島茶家ヤッカヤッカ」での昼食後、私は、午前中にアテンドいただいた一般社団法人離島未来ラボ(リトラボ)のスタッフ松川ちづるさんにお時間をいただき、この2日間での話から気になっていたことを質問させていただいた。

松川さんは、「私はこの島の出身ではないし、リトラボに加わったのもまだ一年ほど前です。島の動きもまだ限定的にしか捉えられていないので、そのつもりで聞いてくださいね」という言葉とともに、私の質問に答えてくれた。その中から、個人的にとても印象的だったいくつかの事柄を最後に紹介する。

「宮古島、とりわけ来間島には、エコロジーやサステナビリティーに関する取り組みをしている方が多い感じがするが、それには何か理由があるのでしょうか?」

ヤッカヤッカから歩いて4分ほどの「来間大橋展望台」から海を見下ろす

 

宮古島市が「エコアイランド推進課」を設立し、「エコアイランド宮古島」という名前で取り組みを始めたのは10年以上前。多くの取り組みが行われ名前は広く浸透したものの、実際には行政、産業、市民の間での意識の違いは大きく、それぞれの活動が有機的なつながりを見せるまでには至っていない状態でした。

その状況を変えようと、島民を交えたワークショップを何度となく重ねて生みだされたのが「エコアイランド宮古島宣言2.0」。2030年、2050年に目指すべきゴールを設定し、その実現に向けて島民と観光客の気持ちを重ねるために「千年先の、未来へ。」という標語が作られました。

今、この標語とともに、特に若い世代を中心として、エコとサステナビリティーの意識と行動スピードが、少しずつですが上がってきていると感じています。

 

「いいコトをしたら、ちょっといいコト。」というキャッチフレーズで、エコで人びとをつなぐことを目的とした地域通貨が「みゃーく(MYAHK)」です。

現地で使われている島言葉で「宮古」を意味するみゃーくという名がつけられたこの通貨は、ビーチクリーンなどの環境保護や啓蒙活動などへの参加者に進呈され、その活動を応援する近辺のサポーターショップで割引や特別サービスと交換することができます。

使われれば使われるほど、宮古島がサステナブルな島になる特別な通貨なんです。

 

  • 島茶家ヤッカヤッカと離島未来ラボ

島茶家ヤッカヤッカとについては、オーナーの香織さんにお話を伺いました。

「ヤッカヤッカは今では地域通貨『みゃーく』を応援していますが、10年以上前の開店当初から、自動車を使わず自転車や徒歩で来ていただいたお客様に『エコ割引』を提供するなど、自然環境に負荷の低い暮らし方を実践する方たちを応援してきました。そうした取り組みを続けているうちに、段々と『サステイナブルツーリズム(持続可能な観光)』への意識を持つ地元の方たちや観光客の方たちが集まる場所へとなっていったんです。」

 

ヤッカヤッカの敷地内にはワーケーション施設「ヤッカヤッカコリビング」が併設されており、私たちIBMチームも活用させていただきました。また昨年からは、島の環境や暮らし、エコに関する情報発信を重視した新しいタイプのガイドブック「島の色」を発行するリトラボも本拠地をこちらに移しており、今後、「エシカルな島」としての宮古島にますます注目が集まるのではないだろうか。

私たちクライアント・エンジニアリングチームも、この地での共創を支援していきたいと考えています。

ヤッカヤッカコリビングでワーケーション中のIBMチーム

 

 

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