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データ活用による酪農の高度化・効率化への挑戦 | 広島大学とIBMが描く「持続可能な酪農の未来」

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先日、広島大学と日本IBMによる「より持続可能な酪農の未来」を目指した共同研究開始が発表されました。

広島大学 広報・報道 | 【大学の動き】広島大学と日本アイ・ビー・エムが共同研究を開始 酪農データ活用により酪農家を支援!(2月1日)(1.37 MB)

 

生物生産学部附属農場の様子

 

中国・四国地域における大学では唯一の酪農を中心とした教育研究施設「生物生産学部附属農場」を有する広島大学生物生産学部は、以前から大学における基礎研究成果の産業応用に注目しており、特に畜産・酪農DXおよび新産業化への取り組みを進めてきています。

 

その背景には、「企業との連携や新たなテクノロジーの積極的な導入により、食糧供給の不安定化や飼料高騰など、食糧問題をはじめとした日本社会が抱えている課題の克服につなげることができるのではないか」という、広島大学関係者の間に共通する強い想いがあるそうです。

また、その取り組みへの期待や評価はすでにさまざまな形となって現れており、広島県が進める「スマート農業技術実証プロジェクト(通称: ひろしまSeedBox)」において、広島大学生物生産学部を中心とした産学連携による酪農経営改善のための施策が採択されており、現在も進行中です。*1

 

今回は、より持続可能な酪農を主題としたIBMとの共同研究開始をリードする、広島大学生物生産学部の杉野 利久(すぎの としひさ)教授に、酪農の未来と今回の研究の関わり、そして今後の展望についてお話を伺いました。

*1 令和5年度ひろしま型スマート農業プロジェクト(愛称:ひろしまseed box)の実証プロジェクトが決定しました | 広島県

杉野 利久 | 酪農業における乳牛飼養管理の問題を栄養、飼育環境からアプローチし、次世代に持続可能な健全性と生産性を両立した乳牛飼養管理技術の開発を目的に試験研究を行っている。
専門領域: 家畜飼養学,家畜栄養生理学,乳牛栄養学

 

——広島大学生物生産学部附属農場において、あるいは日本の酪農業界において、杉野教授が特に重要だと思われていることを教えてください。

杉野: 私の専門は牛の飼養管理で、さまざま面から牛乳に直結した研究をしています。

牛乳は生鮮食品であるため輸出入が困難であることから,各国での生産性向上が求められるのですが、国内での酪農業における担い手および専門技術者はすでに不足しています。そして従来の経験測に依存していた飼養管理技術やアプローチでは、今後、人材の確保および養成はますます困難になるでしょう。

だからこそ、これからは酪農も、ビッグデータを用いた科学的な取り組みや、スマート機器などによるデジタルツールによる運用・管理が欠かせなくなっていきます。そうやって、酪農現場をいかに改善していくかを考えていく必要があるのです。

広島大学は、本州以南では唯一酪農に特化した農場を持っている大学です。私はここで、酪農の未来をより明るいものとするために、教育と産業の両方の観点を持つ人材育成と、彼らが活躍できる土壌をテクノロジーと研究を通じて広げていく役割を持っています。

 

——今回、共同研究のパートナーに日本IBMを指名された理由を教えてください。

杉野: IBM社はAIの分野において世界をリードしている大企業です。ただ一方で、酪農の世界にはさほどご知見はないのではと推察しています。

今回の発表に至る前には、IBM社のコンサルタントやデザイナー、データサイエンティストの方がたと協議を重ねたり、ワークショップなどを行いました。それらを通じ、我われが持つデータとIBM社がもつ技術を掛け合わせた際に、これまでない発見があるのではないかと「登山家の気持ち」でIBM社と共同研究したいと考えた次第です。

 

——今回の研究は酪農の未来にどのような影響や変化を与えるものとなり得るでしょうか。

杉野: いくつかの構想を試していく形となりますが、柱となるのは酪農ビッグデータを用いた「牛乳の生産量や質の向上」、「乳牛の最適行動解明」となるでしょう。

その他、個体の健康状態の予測モデルの構築などを通じて、酪農の生産性がどれくらい向上するかを実証実験していきます。

そしてもう一つ、「牛のウェルネス向上」も大きなテーマの一つです。畜産へのアニマルウェルフェアを求める声は高まっており、私も強い関心を長年寄せてきました。

牛の健全性を早期に把握できること、そして予測できることは、アニマルウェルフェアの観点からも大変重要です。

 

生物生産学部附属農場の様子

 

——共同研究にかける期待と意気込み、そして研究がもたらすであろう社会価値について、もう一度改めて教えてください。

杉野: 食糧供給の不安定化や飼料高騰、そしてアジア,アフリカを中心とした世界人口の今後の増加など、動物性タンパク質の確保は食料安全保障上からも重要な課題となっています。

また、共同研究を通じてデータに基づいた乳生産などが高精度に予測できれば,必要な飼料給与量や飼料効率も精密に管理できることから、メタンや亜酸化窒素(N2O)などの温室効果ガスの排泄低減へとつながる取組でもあります。

今回の共同研究は、研究成果の社会実装や新たな革新的技術の創出へと続く可能性が高いものであり、安心安全で豊かな社会形成に寄与できるものになり得る社会的価値の非常に高いものだと考えています。

また、環境温湿度と乳生産の関係の地域特性について、研究機関にとっても大いに有用なデータが得られる可能性があるだろうと期待しています。

酪農を通じて、IBM社とともにアジア地域をはじめとした世界に貢献したいですね。

 


最後に、IBMで今回の取り組みをリードしてきた熊倉雅人と益成宏樹からのコメントを紹介する。

IBMのさまざまな取り組みの中でも酪農分野での産学連携は事例が少なく、広島大学様と酪農の高度化・効率化をテーマに共創に取り組ませていただけることを嬉しく思います。

杉野先生のお話にもある通り、この取り組みは単独の企業や大学、組織だけにとどまらない、より広範にわたるアプローチの最初の一歩であり、社会課題解決への挑戦となると考えています。

IBMが持つテクノロジーと広島大学様の持つ知見を車輪の両輪として、今後も共創による新たな価値の創造を推進していきたいと思います。

 

生物生産学部附属農場の様子

 

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TEXT 八木橋パチ

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