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2人ともママです! | わたしが手にしたものと、未来の社会のために。(後編)

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前編では「この町では生き抜くことはできない」と感じていた学生時代の話や、海外での同性婚〜出産を通じて経験した意識の変化などについて、田山 あきさんに詳しくお話しいただきました。

後編では、LGBTQ+を取り巻く日本社会の問題点や、未来に向けての企業、社会、アライへ向けたメッセージなどをお聞きしました。

 

<もくじ>

  1. 現在 | 「2人ともママです! 」海外での同性婚とご近所へのカミングアウト
  2.  過去 | 自分の負っているマイノリティ性だけに、すべてを費やさずにいれたらいいね
  3.  生活こそが最大の抵抗 | 憎悪のピラミッドを発生させないために
  4.  未来へ | リーディング・カンパニーの役割と、社会やアライへの期待

田山 あき(仮名)

1990年代生まれ。大学生時代は社会学を専攻し、2010年代に日本IBMに入社。CRM領域を中心に業務を行う。2022年に5年ほど生活を共にしてきたパートナーとカナダで同性婚をし、2023年春に出産。社会人大学院生として現在コミュニティデザインに関する研究科に在籍中。
趣味は暗渠化された緑道めぐり。


 

——先ほどここ2,3年で正確な知識を持つ人が増えているという話がありました。「東京レインボープライド2023」の盛り上がりもすごかったし、「アライ」と呼ばれる当事者を支援する人たちの数も増えている気がします。しかし一方で、トランスジェンダーへの差別や脅迫などのヘイトクライムも目につくようになりました。矛盾を感じませんか?

参考 | Let’s Create 性が格差を生まない社会(TRP2023レポート)

あきさん: トランスジェンダーに対するヘイトの酷さは、身近で見ていて言葉を失うレベルです。当事者コミュニティー内では「本当にこれほどまでに酷く、安心して生活できないレベルにまでなってきているのに、声を上げてくれる行政や企業が少ないのはなぜだろう」と話しています。

パチさんは、「憎悪のピラミッド」って聞いたことがありますか? 先入観や偏見から始まった小さな攻撃が、集団暴力や大量虐殺を意味するジェノサイドにまでつながってしまうという、人類の暗い過去の歴史を分析し、ヘイトスピーチやクライムが社会にとっていかに危険かを示した図です。もし見たことなかったら、ぜひ検索してみてください。

ただ、現在のこの状態は、それだけ社会が平等に向かっているからこそのバックラッシュ——反動なのだろうと認識しています。ですから矛盾は感じていません。社会は前に進んでいると思います。

もちろん、だからといってヘイトによる暴力や脅しは、絶対に、決して許せません。

 

——最近、「同性婚が認められないのは憲法違反ではないか」という全国5カ所で集団訴訟への1審判決が出そろいました。「憲法違反」2件、「違憲状態」2件、「合憲」1件となりましたが、あきさんはどう見ていますか?

あきさん: まず、裁判に関わっている当事者、支援者の方々に、応援のエールと尊敬の念とを贈りたいです。その上で、個人的には、LGBT法案(LGBT理解増進法案: 性的少数者への理解を増進し、差別を解消することを目的とした法律案。東京オリパラ前の成立を目指していたが紛糾し、2023年6月16日ようやく国会で可決)ですらあんなに揉めるのに、同性婚が認められる日がすぐにくるとはとても思えない…というのが残念ながら本音ですね。

ただそうは言うものの、憲法違反の判決が下されること自体が滅多にないことらしいので、「応援してもらえているんだな」という希望は感じられます。

法律や裁判というのは、社会を変えるためのアプローチの1つだと個人的には思っているので、これからもいろんな方法で向き合いたいですね。

自分一人では小さな波しか起こせないかもしれないですが、やっぱり「生活こそが最大の抵抗」だなと思っています。「自然体で生きること」、それ自体がすなわちメッセージであり活動じゃないかなって。わたしも、今はそれで抵抗したいなって思っています。

 

——今日はとても率直にご意見やお考えをお聞かせいただき、とても感謝しています。最後に、よりよい未来に向けて、会社と社会にメッセージをいただけますか。

あきさん: 会社に対しては…2つあるかな。まず、IBMのような社会的な立場も影響力もあるリーディング・カンパニーには、もっと、社会に対しての訴えかけというか、問いかけをして欲しいと思います。

これまでの「LGBTQ+に関する正しい知識をつけましょう」というところから、もう一歩踏み込んで貰えたら…。もうそういう局面にきていると思うんです。

 

——近年、人間(自然人)よりも法人(法律により人と同様に権利義務を認められた組織)の方が社会への影響力が強くなっていることを鑑みれば、大企業には、果たすべきや果たせるべき役割を自ら矮小化して欲しくないなと、強く同意します。

あきさん: 会社には社会のことを語って欲しいと思っています。それも、誰もが異論を挙げようのない安全な話題ばかりではなく、社会を前進させることにつながるものを。

社会に向けては…もう散々お話ししてきたので、「こいつうるさいな」と思われそうで少し不安です(笑)。でも、一言だけ。

LGBTQ+の当事者は、周囲の無理解などから悩み、メンタルヘルスの問題を抱える割合が多かったり、希死念慮の割合がLGBTQ+でない人と比べて高いです。社会には、1人でも2人でもいいからそうした個人を知り、目を向けて欲しいです。

 

——同性婚や出産を考えるカップルへのアドバイスもありますか?

あきさん: アドバイスではないですが、今回の出産とその準備を通じて強く感じたことがあり、それは機会を見つけて社会に発信したいなとは思っていたので、お話しさせてもらいますね。

今の日本社会は、同性カップルが子どもを持ったり、不妊治療を受けることのハードルがやはり高いです。日本産科婦人科学会のガイドラインでは非配偶者間人工授精(AID)を受けられるのは「法的に婚姻している夫婦」のみとしていて同性カップルは想定されておらず、対象外です。

当事者はまだまだ多くの不利益を受け止めざるを得ないのが実情で、現状は結局、社会(人間)関係資本だったり、経済的な資本だったりが必要となる場面が多いと感じます。

でも、それがなければ子どもが持てないというのは、社会における構造的な差別だとわたしは思います。出産後も、実態は家族であるにも関わらず、産んでない方の母は親権を持つことができないことも、子育てをする上で大きなハードルになっていくと感じています。これも、なんとか変えていきたいです。

 

——もう一つ追加で聞かせてください。アライとして活動をしている方、あるいは活動しようかと考えている方も、少なからずこの記事を目にしてくれるのではないかと思っています。メッセージを頂ければ。

あきさん: そうですね。アライであることを表明したり活動を手伝ったりしてくれる方や、アライと名乗らなくてもわたしたち当事者の考えや意志を尊重して見守り、サポートしてくれるたくさんの仲間や友人たちがいたからこそ今のこの状況があると思っています。本当に感謝してもしきれません。自分も広い意味で、彼らのように社会に恩送りをしていきたいと強く思っています。

わたしたち当事者も、アライの方たちにどこまで求めていいのか、正直、迷いや戸惑いはあります。

でも、そういう状況に多くの人が置かれているのを知っていただいた上で、見守っていただけたら嬉しいです。そして「もっと支援が必要だ」と感じた際には、どうか一緒に声を上げてもらえたらと思います。


 

これまで、マイノリティー当事者とされる人たちに取材をする中で、彼・彼女らの多くが「自分の発言が『代表者の発言』のように扱われてしまうかもしれない」ということに、すごく気を遣って話されていることがいつも気になっていました。

今回のあきさんも、「自分はともかく、別の当事者たちに迷惑をかけてしまわないように」と、特にインタビュー前半はとても慎重に言葉を選ばれていたと思います。

 

今日はもっと踏み込んだというか、ある意味、「答えづらい質問」をいっぱいいただけて自分にとっても学びになりました。

ときどき「これ、わたしが応えても記事に書けないんじゃないかな? もしそうなら意味あるのかな?」なんてことを思いましたけど…でも、本当はこういうことを話したかったんです。それに、わたし自身が、内心ではもっと社会に知ってもらいたいと思っていたことに、話していて気がつきました。

 

インタビューの後、あきさんにこう言っていただけて、胸がグッと熱くなりました。

 

「ダイバーシティ&インクルージョン」という言葉がホームページや統合報告書に載っていない企業はもはや存在しないのではないかと思うくらい、その大切さや取り組みを訴える企業は増えています。

ただ、その大切さに見合うだけの支援を自分たちはしようとしているだろうか? ——企業に所属している私たち一人ひとりが、もっと真摯に考えるときなのかもしれません。

 

やっと今、本当に自分が好きでやりたかったことはなんだったんだろう? って本気で考え始められるようになって、それで、4月から大学院に通い始めたんです。

 

仕事と子育てと学生生活と、きっと考えられないくらい忙しい日々があきさんを待っているのでしょう。でもきっと、大変なときにはこれまで以上に、周囲が一層のサポートを申し出てくれるのではないでしょうか。

あきさんと、もう1人のママとお子さんの生活が、これからも祝福に満ち溢れたものでありますように。

 

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TEXT 八木橋パチ

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