Client Engineering
クライアント・エンジニアリング対談 #10(山本敦之×平山毅)| 価値創造するための幸福とテクノロジー
2023年04月28日
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幅広い技術・経験・バックグラウンドを持つスペシャリストたちが集結し、お客様と共に新しいサービスやビジネスを共創していく事業部門——それがIBM Client Engineering(CE: クライアント・エンジニアリング)です。本シリーズでは、CEメンバーが対談形式で、各自の専門分野に関するトピックを中心に語っていきます。
第10回目は、金融保険領域や新規事業企画のお客様との共創を進めているチームのリーダー平山 毅と金融保険領域を主に担当し公認会計士の資格も有するビジネステクノロジーリーダーの山本敦之が「価値創造するための幸福とテクノロジー」を中心に語ります。
<もくじ>
1. コンサルティングや起業に目覚めたきっかけ
平山: CEでエンジニアリングマネージャーをしている平山です。チームメンバーとの対談をシリーズでお届けしており、第7回「イノベーションを起こすマインドセット」でも触れた通り、CEのビジネステクノロジーリーダーには戦略コンサルタント出身で起業経験者が多く、とても多彩で人生経験が豊富なタレントが揃っているのですが、今回は2021年12月にビジネステクノロジーリーダー(BTL)として先陣を切ってCEにジョインいただき、発足時のBTLチームの立ち上げをリードして頂いた山本さんと、「ビジネス」とその真の目的である「幸福」についてお話し頂こうと思います。それでは、山本さん、まず自己紹介をお願いします。
山本: よろしくお願いします。まずは社会人生活をスタートする少し前から簡単にお話ししますね。
もともと会計士になるつもりはなかったんですが、大学3年のときに公認会計士試験の勉強を初めて、運よく1年で合格して資格を取得できました。でも、その頃には周囲はすでにあらかた就職活動を終えているという状況で、通年採用を実施していた当時のアンダーセンコンサルティング、現在のアクセンチュア株式会社に入社しました。
その後は周囲にお声かけをいただく機会もあり、野村證券に転職したり再びアクセンチュアに戻ったりとしていたのですが、その間にヨガとの出会いなどいくつかの大きな転機がありました。かいつまんで言えば「ビジネスは人を幸せにするためのもの。そして幸せは自分の外に求めるのではなく、自分の中に見出すもの」ということを確信するような体験を何度か重ね、現在に至っています。
——会計士になる気はなかったのに大学在学中に資格を取ったのはなぜ?
山本: 高校生の頃からずっと「世の中を良くしたい」と考えていて、どの道に進めばいいか悩んでいました。いろいろ考えた結果、理系に進んで研究者になったり、あるいは政治や教育の分野に進むより、ビジネスの方が社会を大きく変えられるのではないかと思い、大学は商学部へと進むことにしました。
そこで「天才って本当に存在しているんだ!」という大きな衝撃を受けました。同じクラスに藤沢 烈という本物の天才がいたんです。そして「この人と同じ道を同じように進んでも絶対に敵わない。僕が身に付けるべき、自分の武器にできるものってなんだろう?」と考え、選んだのが会計知識で、まずは公認会計士の資格取得にチャレンジしようと思ったんです。
そんなわけで、資格取得に伴い監査や税務などのお手伝いを数か月したくらいで、僕自身は会計の実務経験をほとんどしていません。それでも、『会計のことが面白いほどわかる本<会計の基本の基本編>』という本を出版し、ありがたいことに40万部超のベストセラーになりました。
平山: そんな経緯があったとは! 私も藤沢さんの講演を聞いたことがありますが、本物の人格者ですよね。
ところで山本さんはYoutubeを活用されており、その本の解説や、戦略コンサルティングと投資銀行での両方の経験を基に分かりやすくその違いを解説したりされていますよね。そしてずいぶんと前に起業独立し、ご自身で会社も運営されています。この辺りはどういった経緯だったのでしょうか。また、IBMにジョインしようと思われたのはどうしてですか?
山本: まず起業の経緯についてですが、野村證券時代に縁あって社外でセミナーやコンサルティングをしていたのですが、当時の野村證券は副業禁止だったので、セミナーやコンサルで頂戴したお金は、全額寄付していました。
でもあるとき人事部に呼び出され、副業を止めるように言われました。その一方で、個人としての仕事の依頼は増えていて、それなら独立した方がよいだろうと思い、紆余曲折を経て起業しました。
それから10年以上小さな会社を続けていましたが、2021年にとあるコンサルティング企業のプロジェクトに参画する機会があったんです。そのとき「優秀な人たちと仕事をする楽しさ」を思い出しました。また同時に、DXやAIの波もひしひしと感じ、テクノロジーを学ぶ必要も痛感しました。そんな折、IBMからお声掛けを頂き、CE事業部担当 執行役員の村澤さんとカジュアル面談をする機会をいただき、「IBMはよい会社とは聞いていたけれど、こんなビジョナリストもいるのか!」と強く惹かれ、また利益相反が無ければ自分の会社も副業として続けることができるとお聞きし、入社を決意しました。
2. 価値証明するための信頼関係
平山: 山本さんは「ビジネスは人を幸せにするためにある」というピュアな思いをとても大切にして、それを大企業の内外で追いかけ続けてきていますよね。その考えは、私たちの大
切なお客様でもあり、山本さんが中心的に活躍された保険業界の皆さまが社会に提供しているものとも非常に近いのではないかとも思うのですが、そのあたりはいかがでしょう。
また、IBMといういわば「テクノロジー集団」に、山本さんというビジネス経験豊富なカタリストが加わることで大きな誘発を招くのではないかという期待もあるのですが、ご自身でこれまでを振り返ってどう感じていますか?
山本: そうですね。正直、まだまだこれからだと思っています。僕自身テクノロジーを学び身に付けている道半ばですし、社内外でもっと「テクノロジーと幸福」「ビジネスと幸福」について語り合ったり、認識を深めていく機会を増やしたりしていけたらと感じますね。
ただそうは言っても、理想論だけ語っていてもダメで、やはり現場のビジネスの枠組みの中から始めなければ難しいですよね。「こいつの話を聞いてみよう」と思ってもらうためには、まず、なんらかの結果や価値を相手に提供し、信頼関係を築かないと。
平山: 起業し、「個」としての信頼を築いてきた山本さんの言う「まずは信頼関係を築くところから」という言葉は重みがあります。実は、私たちCEのビジネステクノロジーリーダーの多くが起業経験者なのですが、一般的には、実体験を基にこうしたことを伝えられる人は、サラリーマン経験しかない人が多い企業の中にはさほど多くはありません。
それでは、具体的にはどのように信頼関係を築かれていくのでしょうか?
山本: そんなに特別なことをしているわけじゃないんです。むしろ、当たり前過ぎることばかりかもしれません。
たとえば、ミーティングに参加したときには、その場に必要なのにまだ提示されていない物事や考え方を、少なくとも一回は提示するように意識しています。自分が物事を前に進ませるために、チームの一員としてその場に参加しているという姿勢をしっかりと行動で伝えためです。
それから、仕事を進めていく上で鍵となる人を見つけ出したら、自己紹介がてらその方のお時間を頂戴し、1on1でお話を伺いつつ、自分が考えていることや何を提供できそうかをお伝えするようにしています。
少しずつ自分を知ってもらって価値を証明していき、信用を重ねて関係を深めていく。そうやって、地道に身近なところからスタートして、その輪を拡げていくようにしています。
平山: 入社したばかりのときからそうでしたね。まず社内各所で信頼を築き、やがてお客様の上層部の方から信頼されご指名を受けるようになる。昨年は山本さんのそんな姿を何度も目にさせていただきました。そういったアクションが起こせるのは、独立時代の仕事は自分で取ってくるという経験が大きいと思います。そして、そのアプローチや考え方を社内に拡げてくれていることに、すごく感謝しています。
山本: ひょっとしたら大企業には、会社のブランドに頼ってしまっている社員が少なくないのかもしれません。でも会社やブランドへの信頼感を個人に対しても感じてもらうには、自身の日々の活動こそが重要です。社内であろうと社外であろうとそれは変わりませんね。
3. 価値創造 | 「幸せになる」ためのシステム開発手法
平山: 今日話をしたいテーマの1つは「ビジネスにおける新たな価値創造」なのですが、お客様が迷われていることを強く感じています。
山本: 昔、高度経済成長時代は、個人にとってのシンプルな「サクセスストーリー」のようなものがありましたよね。いい会社に入って家庭を築き、家や車を買って…みたいな。もちろん、みんながそう思っていたとは言いませんが、ある程度「一般的に受け入れられたもの」でした。
企業も同じで、モノ不足時代のように生活者に何が求められているかがすぐ分かった時代がありました。でも今は、多様な人びとが多様な暮らしや考え方に基づいて行動する中で、幸福感も人それぞれであり、何を提供すればいいのか…それは迷いますよね。
平山: そうなんです。何が本当に暮らしを豊かにするのか。そして何を提供すれば「WOW!」や「ハッピー」を生み出せるのか。それを見つけられない。さらにそれをどうやって届けるのか。
山本: 1つ言えることは、「今我慢すれば将来幸せになれる」という「高度成長期のリアル」が、今や幻想になっているということです。まずは今が幸せじゃないと。幸福は、今の幸福の上に重ねていくものになっていますから。
だからこそ自分にとって何が大切で何が幸せなのか、今どれだけ身の回りに幸せが溢れているのか、を感じられるような商品やサービスが求められると思います。
また、多くの人たちが「今、ここ」に集中できていないと感じています。過去は変えられないし未来は分からない。それなのに、「未来への不安と過去への後悔」に脳の多くを使い過ぎています。もっと「今、ここ」に意識を集中できれば、人はもっと幸せを感じられるようになります。そしてそういう人がもっと増えれば、社会も変わっていきます。
平山: そうですね。「先が読めない時代においては、今を大事にするしかない」という言い方もできるかと思います。
それはITやシステム開発においても同じです。今取り掛かったITシステムが数年先にまとめて出来上がるという従来の「建設業的」なやり方は、不確実性の時代における価値創造には適していない。それでは幸せに近づくのは難しそうです。
そう考えると、CEが実践しているMVP(実用最小限のプロトタイプ)を作り小さく始め、高速で成功を積み重ねていくアジャイルという手法は、「幸福」という観点からも時代的に求められ必要とされているものではないでしょうか。3年5年先だけではなく、今、現在も幸せになるための新しいシステム開発アプローチを取らなければ、むしろ関係者だけではなくユーザーも不幸にしてしまうこともありそうです。
山本: もっとIBMとしても、「お客様ファースト」で「人を幸せにするITシステムやテクノロジー」をお客様にも訴求していきたいですね。
4. 幸せなビジネスの在り方と社会の在り方について
——「お客様ファースト」はどの会社も判を押したように使います。しかし現実には自社や自組織の持続可能性であったり、上層部からの「数字」へのプレッシャーから口先だけとなっているケースも少なくありません。CE自体はどうなんですか?
平山: …そうですね。我われはお客様がハッピーになれば、お客様の売り上げも上がるし私たちとの関係も深まる——そんな仮説を持って活動しています。しかし確かに、そこが実際には連動しないという現実を突きつけられることも少なくありません。
また、お客様の「目前の課題」に応えようとすると、IBMのテクノロジーに結びつかないこともあります。正直、そこにジレンマを感じているCEのメンバーも少なくないでしょう。
山本: CEはIBMのテクノロジーの売上に貢献するミッションを持つチームなので、やはり現実的には色々な制約があります。
理想論としては、IBMテクノロジーが常にお客様の課題を解決するベストなソリューションであればいいのですが、必ずしもそうではないこともあります。しかしIBMがベストなソリューションを提供できるように進化していけば、お客様の幸福と自分たちの幸福、そして成長が両立し、コンフリクトは起きなくなります。ですから私たち自身が成長するよう努力していくことが大切です。
でも現実には成長には時間がかかるし、現代の資本主義の構造では短期的な結果が求められます。結果が出るまで長期的な視野を持ちしっかり耐える必要があるにもかかわらず、「結果を出していない」と経営者や上層部がすげ替えられてしまうのが、現代の資本主義の大きな問題です。
資本主義が変わるには、たとえば強すぎる株主の権利を制限したり、短期的な利益に高い税率をかけたりなど、何らかの修正は必要ではないかと考えています。少し大きな話になりましたが、そのような新しい資本主義のあり方を考えるべきタイミングに来ているのではないでしょうか。
平山: お金と幸せの関係は深く大事なものです。世界的視野で見ると、日本は経済規模は大きいものの、国際的な研究組織「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク」による「世界幸福度調査」での順位は高くありません。
日本では、お金より幸せの追求が必要であるように思います。ビジネスとお金、そしてテクノロジーとお金の関係について、もっと多くの人が多くの場面で話し合わなきゃいけませんよね。私たち自身がビジネスの現場で、もっとこうした話をお客様と率先してできるよう、これまで以上にお客様との関係性と信頼をさらに深めていかなければならないですね。
そうやって私たちも変化できたら、社会や市場に対するインパクトも大きなものになりそうです。なにせ私たちIBMはその長い歴史から「株主を重視する資本主義を体現する企業」として見られることも多いですから。
また、お客様との共創も、始めてみてから「お互いの持ち物がうまくかみ合わないことが分かる」ということも実際にあります。こうしたことも、ジレンマと同じように「常にあること」として素直に受け止めて、認めて話し合い、お互い納得いく決断をしていくことも重要ですよね。
山本: はい。長い道のりの中で、信頼関係を築いていくという行動やプロセスそのものを楽しめるかどうかも、実はすごく重要なことだと思います。そこに幸せが感じられないと、やはり幸せに働くことは難しいですから。
そして「幸せに働く」ということで言えば、しっかりそれを意識して働く人をIBM社内に増やしていく活動も大切だと考えています。先日、人事部門所属でヨガ・インストラクターでもある方と一緒に「Mindfulness @ IBM Japan」という社内コミュニティーをスタートしました。オンラインで毎週月曜朝8:30から30分、「今ここ」に集中するための瞑想やヨガなどをメンバーで一緒に行っていて、先日も社内でイベントを開催し、20名以上の方にご参加いただきました。
これを読んでいるIBM社員で興味をお持ちの方は、ぜひ検索してチェックするか、私までご連絡いただければと思います。
平山: 人間、究極的に求めているものが何かと問われれば、それは「幸せ」ですからね。
テクノロジーやシステムの開発も「機能の競争」に意識が向かってしまうと、本来の目的を見失いがちです。「これがあることで人びとは幸せに近づくのか?」という視点は忘れちゃいけませんね。人に優しいシステム、人にとって使い勝手のよいシステムをもっと追求していかないと。
テクノロジーは生活や行動様態だけではなく、意識の変革にも役立つものなので、そうした活動にももっと力を入れていければと思います。山本さん、これからもぜひチームを持ち前のアントレプレナーシップでグイグイと引っ張ってください。今日はありがとうございました。
TEXT 八木橋パチ
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