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武藤 和博: 自主規制をかけてあきらめてしまう前に、飛び越えよう | #3 Unlock

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私たちIBMは今、変革の最中にいます。そして変革の最中にいるのは、おそらく、日本も同様ではないでしょうか。競争から共創へという時代の変化の中で、個人も組織も自らの社会的使命を改めて見つめ直し、お互いのそれを結上げながら共に進んでいくことが求められています。
その歩みを力強いものとするために、そしてよりスピードアップするために求められているのが、新しいリーダーシップの同時多発的な発現と、それを加速させるシニアリーダーたちの支援ではないでしょうか。

シリーズ「Unlock(アンロック)」は、IBMのシニアリーダーたちのありのままの声を広く社会に向けて発信していこうというものです。ぜひ皆さまの率直なご意見・ご鞭撻を頂戴いたしたく、どうぞよろしくお願いいたします。

日本アイ・ビー・エム 執行役員 テクノロジー事業本部 クライアント・エンジニアリング担当 村澤 賢一

 

(左: 武藤 和博  専務執行役員 営業統括本部.パナソニック・エンタープライズ事業部長. 右: 村澤 賢一)

 

対談に先駆け、「あのイクメンのイベント以来だね、こんな風に村澤さんと話すのは。覚えてるこれ? 懐かしいでしょう。」 — そう言って、武藤さんは印刷した12年前の記事を手渡してくれました。

シリーズ「Unlock第3弾は、武藤さんとの対談をお届けします。(村澤)

 

もくじ | 武藤 和博 Unlock

■ 長期潮流 | 本当の意味で社会に根付くには
■ ビジネスレビューばかりじゃ能がない
■ いざ鎌倉 | 誰がどこでどんな目つきで活動しているのか
■ 共創に必要な視座の高さとダイアログ・イン・ザ・ダーク
■ 自主規制をかけてあきらめてしまう前に、飛び越えよう
■ 主語が組織ではなく自分。自分が何をしていて何をしたいか


 

長期潮流 | 本当の意味で社会に根付くには

村澤: さっそくですが、武藤さんが気になっている長期潮流について教えてください。時勢のどんな動きを気にされていますか?

 

武藤: いろいろあるけれど、もう2年間も続いてしまっているパンデミックを、しっかりとチャンスに変えていかなければいけないなとは強く思うね。場所の制約というものが一気に取り払われたでしょう? それまでは、九州に大阪にと移動しなければならなかったのが、どこからでも打ち合わせに参加できるようになった。

いやもちろん、今までも技術的にはできたわけだけれども、それを「当然のこと」と受けとめるように人びとの意識が変わったことが大きいよね。

『The World Is Flat(フラット化する世界)』って15年以上前に出版された本があったけど、いよいよその世界観になってきている。

 

村澤: その通りだと思います。リモートワークが当たり前になりました。ワークライフ・インテグレーションという言葉も15年くらい前から言われてきて、ここにきてようやく浸透した感があります。

ただ、先ほどの「イクメン」イベントも、あれは10年以上前に開催したものです。言葉や制度自体はようやく浸透した感がありますが、実際に企業で男性の育児休業が十分に活用されているかと言えば…

 

武藤: そう、まだまだだよね。本当の意味で社会に根付くのには時間がかかるよね。

→ 参考 | (2010/08/26)育MEN(イクメン):日本IBMの働くお父さんは、どうしているの?

 

ビジネスレビューばかりじゃ能がない

武藤: 「The World Is Flat」が進む一方で、ローカルの強さというか、リアルの重要性は決して下がったわけじゃないよね。やっぱり「ここぞというとき」には実際に会ってつながりを感じ、目を見て話す。それでこそ伝わるものもある。

 

村澤: 「つながり」や「きずな」という言葉を改めて皆が考える時間でもありました。人間が本来求めているものが浮き彫りになったのかなとも思います。

 

武藤: そうだよね。「まん防(まん延防止等重点措置)」下でとりわけ大変な状況が続く飲食店だけど、その中でも影響が少ないというか、売り上げや人気を維持している店もあるじゃない。それがどういう店かって見ていると、お店の方と客との間につながりがある店が多い。

店のおばちゃんがいつも一声かけてくれるような、人間味を感じさせてくれる店。「この店を応援したいから食べにくる」「テイクアウトでお金を使う」。そういう行動を取る人が決して少なくないよね。

 

村澤: つながりと言えば、武藤さんが担当されているパナソニック様も、この4月から持ち株会社体制下、新生パナソニックグループの戦略の中核を担う一社としてパナソニックコネクト社をスタートさせられます。

 

武藤: そう。コネクトだからつながりだね、僕はワクワクしているよ。

ただ、新しいチャレンジにはやっぱり難しさも付きもの。僕らも今、パナソニック様のご期待に応えようと「OPG(One Panasonic Gathering)」という集まりを毎週開催しているところなんだよね。毎週チームの人間が集まっては、ああでもないこうでもないとみんなで意見を出し合いながら、いろいろな試行錯誤をしているの。

 

村澤: 良いですね。その場では売上げの数字目標とか達成率とか、そういうビジネスレビューなんかは武藤さんはしないですよね?

 

武藤: そんなことしないよ! 「ギャザリング」って名前が表しているように、ここは純粋な「集まり」であって、みんながアイデアや意見を持ち寄る時間だからね。ビジネスレビューはそれはそれで必要だけど、そればっかりじゃ能がないでしょ。

変な腹積りや屈託なく、みんなが打ち解けて話をして意見を交わすことが大事だよね。

 

いざ鎌倉 | 誰がどこでどんな目つきで活動しているのか

村澤: 実は私も、この2年半ほど「KURUMAZA(クルマザ)」というギャザリングを毎週月曜日に主催しています。研究所や営業、技術者、マーケティングの専門家など、毎回30〜40人くらいの社員が部門や役割を超えて集まり、情報と意見交換をやっています。

ときどきは社外のスペシャリストやソーシャルベンチャーの社長に来ていただいて、ディスカッションさせてもらうこともあるんです。

 

武藤: それすごくいいじゃない! そうか、村澤さんに相談するとすごい速さで具体的な返事をもらえることがあるけど、その秘密はKURUMAZAにあるんだねきっと。この前もパナソニック様へのある提案で相談したら、すぐにアイデアを持っている2人を連れてきてくれたよね。

 

村澤: そうです。中条さんも磯部さんも、KURUMAZAのメンバーです。

KURUMAZAは情報の共有と視点の交換を目的としていますが、それと同じくらい大きな役割をもう一つ持っています。社内のどこに、どんな考えを持ち、どんな目つきで活動しているメンバーがいるのか。それをお互いが知っているようにすることです。

それを知らないと、「いざ鎌倉」というときにも素早く結集して事を起こすことができませんから。

 

武藤: 本当にその通りだね。それにしてもこの間のあの2人にはびっくりさせられたなあ。

セキュリティカメラというある意味完成したプロダクトが、今後ネットワークやスマホと「コネクト」してつながりながらどんな未来を生みだしていくのか。あのわずかな時間でその一端をMVP(実用最小限のプロダクト)として見せつけられたね。KURUMAZAの凄さを垣間見せてもらったよ。

 

共創に必要な視座の高さとダイアログ・イン・ザ・ダーク

武藤: 今日の対談テーマは「Unlock(解き放つ)」なわけだけど、自分を縛りつけている固定概念をどう取り除いていくかということだよね。村澤さんは「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」に参加したことある?

 

村澤: いや、ないです。プログラムの名前は聞いたことありますが。

 

武藤: 暗闇の中でいろいろな体験をするプログラムなんだけど、あれは本当にすごいから絶対に経験した方がいい。

最初は僕らが視覚障がい者の方をアテンドするんだけど、暗闇の中に入ると立場が完全に逆転する。真っ暗闇の中で、彼らは「ボール遊びをしましょう」とか「コーヒーでも飲みましょう」とか、いろいろ案内をしてくれるんだけど、当然僕らにはそんなの上手にできるわけがない。

でも、彼らは漆黒の暗闇の中で、音の方向や手触りで状況を的確に把握し判断する。その「感じる力・わかる力」の強さには脱帽させられるし、圧倒されるよ。

 

村澤: ぜひ体験してみたいと思います。

 

武藤: 視覚障がいのある彼らの感性の研ぎ澄まされ方には、正直、衝撃を受けたね。

PwDAってあるでしょ、「ピープル・ウィズ・ダイバース・アビリティー」ね。多様な能力を持つ人たちという意味で、「障がい者」という従来の考え方を越えた捉え方だよね。

→ 参考: 人は皆誰もがアライになれる | インサイド・PwDA+1(濱尾 裕梨 & 西野 真優)

 

村澤: 武藤さん、実は今年から、私がIBM社内の「PwDAスポンサー」をやっているんです。彼ら当事者とアライと呼ばれるその応援をする社員たちを、スポンサーの立場から後押しさせてもらっています。

…と言っても、私自身も彼らから学ばせてもらうことが多くて、一緒に学んでいると言った方が実態に近いのですが。身体的な多様性もそうですが認知多様性も非常に幅が広くて、今、IBMが掲げている「Let’s Createという共創の枠組みに、彼らが大きな価値をもたらしてくれるだろうと感じています。

 

武藤: 人はそれぞれみんな違うものね。スキルや年齢、国籍や肌の色、それがなんであれ違いをまずは受け入れることが第一歩目だね。

ただね、違いを受け入れる本当の最初の一歩は、「自分を受け入れる」なんじゃないかな。自己を確立して受け入れる。その次に相手を理解し、そして同じ方向を向く。それが共創の順序じゃないかと思うんだよ。

 

村澤: まさしく武藤さんの言う通りだと思います。自己受容があっての相互理解。そして視線を揃えること。

 

武藤: それからもう一つ。向きと視線を揃えるにはさ、視座の高さが必要だよね。今より1つ2つ高いところに昇って「どうあるべきなのだろうか」って未来を見る。その位置からだと、お互いが同じ方向を向けるし、みんなが持っている何をどう組み合わせるべきだろうかって考えやすい。SDGsもそういう風に未来を見るのにピッタリだよね。

 

自主規制をかけてあきらめてしまう前に、飛び越えよう

村澤: そうやって未来に向けてスタートしたら、あとはどれだけの粘り強さを見せられるかですね。

試して失敗して、また試して失敗して、それでもめげずに試す。擦りむいたところに絆創膏貼ってズッこけてもまた立ち上がって試し続けられるか。今、我われはそれが問われているのではないでしょうか。

 

武藤: いいね! その通りだよ。どれだけの粘り強さを持てるか。本気の「自分はそれにどう貢献したいのか」「社会をどう良くしたいのか」が視座の高さに重なれば、粘り強くやれるはずだよね。

僕は「失敗」ってないと思うんだよ。失敗じゃなくて学び、学びの機会だよね。その学びを個人のものから組織のものへとしていく。お互いの想いを受け止め合いながら、学びの機会を共有していくこと。それが共創には欠かせないんじゃないかな。

 

村澤: 失敗ではなく学び、大切な考え方ですね。武藤さん、お時間もすでに予定をオーバーしていて恐縮ですが、同席しているライターのパチさんからの質問にも1つお答えいただけますか。

 

パチ: 私はIBM社内外で若者たちの声を聞く機会が多いのですが、彼らの多くが会社や組織というものの在り方に疑問を抱いているのを感じています。入社後、その仕組みや目の前の実務に追われ「ここで本当に自分のやりたかったことができるのだろうか?」と悩んでいる方たちが多く、「そういうものなのでしょうね」と諦め顔で語る人もいます。

武藤さんは彼らにどんなアドバイスをしますか?

 

武藤: マネージャーに相談しても無駄じゃないかと思っているという話は…ちょっと、ショックだな。そんなマネージャーはIBMにはいないはずと信じたいけど…でも、たくさんいればそういう人もたしかにいるのかもしれないな。

もし、現状を打破する方法がどうにも見出せないのなら、時に直属のマネージャーを飛び越えて、周りのマネージャーやシニアなリーダーに相談するのが良いと思う。

たとえば、家電製品に変革を起こしたいと考えやりたいことがあるのなら、僕のところに相談に来ればいい。技術に関して大きなアイデアや強い想いがあるのなら、最高技術責任者の森本さんのところに飛び込めばいい。そこから、突破口を見出せるはず。

 

村澤: そうですよね。IBMには、シニアなリーダー陣に直接連絡して会いにいくことを止める人はいませんから、そうすればいい。

それなのになぜか「そんなことしていいのだろうか?」と考え、自主規制をかけてしまっているようです。

 

武藤: そうだよね。IBMにはそういう想いを持つ社員を受け止める文化があるし、元来が「良い未来を作ろう」と考えている組織なんだから。

 

主語が組織ではなく自分。自分が何をしていて何をしたいか

武藤: 今の話で、自分がIBMに就職したときのことを思い出したよ。学生時代、僕は工学部の電子工学科で半導体なんかの研究をしていて、研究所のある製造メーカーへの就職を希望していたんだよね。でもあるとき、IBMに就職したOBを訪問したときに「おれがこの会社でやっているのは…」「おれの仕事は…」って話してくれた。

その先輩だけだったんだよ、会社や組織じゃなくて自分を中心に置いて「おれが」って話をしたのは。話の主語が組織ではなく自分。自分が何をしたくて何をしているかって話だったんだよね。それが「この会社にしよう」と決めた理由だった。

入社後も思うように行かないことはたくさんあったけど、会社のラグビー部で出会った仲間たちが自分の視野を広げてくれた。営業や工場で働いているさまざまな仕事をしている仲間たちのアドバイスを聞きながら、自分のキャリアを考えてきた。そうそう、金融関連の仕事をしていたときは「次はアメリカの銀行の営業統括をやりたい」とグローバルに訴えていたっけ。

 

村澤: 先ほどの自己受容と自己確立にも通ずる話ですね。そういう周囲との関係や、自分から飛び込んだり発信したりして得られるフィードバックを受けて考え、そしてまた発信する。

そうやってアウトプットとインプットを繰り返しながら、「ここぞ」というときを見極めて大胆に攻める。そんな気概も必要ですよね。

 

武藤: そう、待っているばかりじゃダメだし、発信せず受け止めるばかりなのもダメ。

僕ね、これまでにお客様から12回出入り禁止を喰らっているんだよ。でもそれはね、口にしづらいことであっても、それがお客様のためになるのならどうしても言わなきゃいけないと思ったから。それで口にした。

 

パチ: 出禁12回はすごい!!

 

武藤: そうでしょ。でもね、そこから挽回したよ。何度も何度も会いに行って、何度となく無視され続けたけどそれでも諦めずに通い続けてね。

「お前もよく耐えたな」って半年経って飲みに誘ってもらえてね。あのときは嬉しかったなぁ。やっぱり、コネクトして共創できる関係性には、粘り強さも欠かせないと思うんだ。

みんながみんな同じような経験をする必要はもちろんないけれど、でも、僕のこういう経験を若手社員に伝えていくことも大切だよね。もっと社内でもどんどん共創していかないとね。

 


 

最後までお読みいただきありがとうございました。武藤さんの熱を感じる90分間でした。

そして対談を終えた今も、改めて自分自身の会社における役割と、日本IBMの日本社会における役割について考えを巡らせています。

社会を共創したいと願う私たちへの率直なご意見・ご鞭撻を皆様より頂戴できたら幸いです。(村澤)

 

 

TEXT 八木橋パチ

 

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