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塚脇和生: 日本はもはや先進国ではないのか? 今一度日本から世界への発信を(後編) | #1 Unlock

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シリーズ「Unlock」の趣旨、および塚脇和生と村澤賢一については、こちらのリンク先「前編」にてご確認ください。

後編もくじ

■ 「日本初・世界初・業界初」で、日経一面右上を
■ 「もう塚脇は連れてくるな!」 — 出入り禁止を喰らった後に
■ DXが進む社会でIBMに何ができるのか? 日本はもはや先進国ではないのか?
■ 今の日本社会の在り方を形作ってきた一人の人間として


 

「日本初・世界初・業界初」で、日経一面右上を

日本社会の低迷は、硬直した企業構造とビジネス・モデルにあるという声が毎日のように聞こえてきます。変革が必要と分かってはいるものの、なかなかそこに踏み出せない…そんな状況を変えるには、何が必要なのでしょうか。保険業界、そして日本の未来に向けて、ビジネスリーダーとしての想いについてお話しいただきました。(村澤)

 

ビジネスモデルが大きく生まれ変わるのは、大きな変革が目前に迫ったタイミングです。私はこれから、「日本初・世界初・業界初」という自分が昔から意識してきた想いがより大切になるのではないかと思っています。

社会の変革を先導していこうという心意気。日経新聞の一面右上(ちょっと古いですね)に載るような、そんな仕事を、お客様と一緒に一人ひとりが狙っていこうという心意気。そういう姿勢がチャンスを招くと思うし、ピンチすらチャンスに変えていくのではないでしょうか。

 

ビジネス・モデルと言えば、生保業界には「生保のおばちゃんモデル」と呼ばれる営業スタイルが長年根付いています。これも、元はと言えば戦争未亡人となってしまったご婦人たちの生活を支援しようという、言わば社会起点でスタートしたビジネス・モデルでした。戦争での喪失経験を元とした話を、お客様に伝えられる人たちが活躍するモデルです。

現在のビジネスモデルを単に否定するのではなく、その歴史や背景を深く理解することで、新しいビジネスモデルへのアイデアも浮かんでくると思います。今、我われは、デジタルとリアルの営業職員対面チャネルの融合という新しいビジネスモデルへのチャレンジに取り組んでいます。

待っているだけでは辛くなります。自分から仕掛けていく。どうせ倒れるなら前向きに倒れる。「今まだないものを作りだす」にはこういうマインドが大切なんじゃないでしょうか。

 

損保業界においてもリスクの対象もどんどん変わっていくし、未知のリスクは残念ながらこれからも出てきます。しかしそこにはビジネスとしての成長余地があると思います。

デジタル・ネイティブと呼ばれる若い世代の方がたが社会の中心となって、「あの仕事は私が携わったんだ」と胸を張れるような仕事を狙って欲しいです。

私自身は、若いときから「勝つ喜びと負ける悔しさ」に一番こだわってきました。そしてそのこだわりが自分を支えてくれたような気もしています。

 

「もう塚脇は連れてくるな!」 — 出入り禁止を喰らった後に

残念ながら、私は塚脇さんとはビジネスをご一緒させていただく機会がこれまであまりありませんでした。でも、数年前に一度、とあるお客様に提供中のサービスで障害が発生し、その際に一緒にご対応いただく機会がありました。障害対応は本当に辛いものですが、塚脇さんの言動は常に一貫していて、とても感服させられたことを覚えています。(村澤)

 

そんなこともありましたね。実は、私は以前、障害対応で大きな失敗をしたことがあるんです。

あるお客様のサービスで発生したシステム障害に対し、社内中をかけずり回って探したけれど、打ち手がどうにも見つからない。徹夜続きで気力も体力もすっかり落ちていた中、「そもそも、この製品はこういう使い方を想定して作られていない。根本的な使用方法の変更をお客様に検討してもらうべき」というIBM社内の言葉を、お客様への報告会でそのまま伝えてしまったんです。

「塚脇さんが来ても事態は前に進まない。もう連れてこないで。…お客様にそう言われてしまいました。」とても言いづらそうにプロジェクトメンバーに言われました。「ああ、自分はなんて浅はかなことをしてしまったんだ。そしてメンバーの皆さんになんと嫌な思いをさせたんだ」とひどく後悔しましたが、時すでに遅しです…。

元はと言えば、私どもがお客様の状況をヒアリングして、それに対して提案しているものです。それなのに使い方を変えるべきなんて、勝手な言い草ですよね。

 

それから、私は毎回、報告会の間お客様先オフィス近くでプロジェクトメンバーの帰りを待つことにしました。出禁を食らっている身ですから、お客様オフィスには行けません。だから、チームのみんなに飲みものを渡した後は、近くで彼らの帰りを待ち、帰ってきたら労い、報告を聞き、どうすればお客様と彼らの役に立てるかを考える。それが、私にできることでした。

そんな日々が続き、障害解消の目処がたつと、出禁の私にもお客様から労いの言葉が届きました。明らかに以前とは異なる対応に「どうしたんだろう?」と思っていると、部下からこんな連絡がありました。

「塚脇さん。実はお客様に、塚脇さんも毎回やってきていて、オフィス近くでずっと報告会の終了を待っていたことをお伝えさせていただきました」と。私がそれを望んだわけではありませんが、メンバーからその話を聞いたお客様は、とても感激されたとのこと。そして、明らかにお客様との関係性が変わりました。

実際のところ、障害には自分だけではどうにもできないことがたくさんあります。そしてすべてを自分が背負う必要もないものでしょう。でも、逃げないことが大切だと思います。自分の立ち姿、振る舞いが状況を変えることもあると思います。

 

DXが進む社会でIBMに何ができるのか? 日本はもはや先進国ではないのか?

編集者として同伴いただいたパチさんからも、塚脇さんへ2つ質問をしてもらいました。

「多くの企業がテクノロジーやDXを内製化している中で、それでもIBMを選んだ方がいい理由はなんですか?」「日本の国力は落ち続けており、格差も拡大し続けている中でもはや日本はもはや先進国ではないという声すらあります。しかし日本人の『主観的幸福感』にはここ30年で大きな変化はありません。これについてどう思われますか?」(村澤)

 

たしかに、多くの国内企業が社内に専門人材や尖った人材を持つようなってきています。IBMが果たせる役割も変わってきており、現在のIBMのシニアリーダーたちが当時経験してきたような恵まれた時代とはかなり異なる状況です。これは山口社長とも強い危機感を持って会話しているテーマです。

とはいえ、テクノロジーを軸に社会に向き合い続けてきたという、お客様とは違う視点や観点を提供する力がIBMにはあります。それを軸とした分析や提案が、大きな気づきへとつながり価値を生みだすことがまだまだ多いのです。

そして、DXに取り組み種をまき芽を育てることと、それを社会に実装していくこととの間には、大きな違いがあります。この分野におけるIBMの「経験値」と「経験知」は相当大きいでしょう。

野球で言えばリリーフピッチャーや代打のような、そんなIBMの「使い方」をお客様に感じて貰うためには、私たちIBMがもっと「相手の良さを引き出すパートナーとしての振る舞い」をもっともっと学んでいく必要もあるでしょうね。

 

国際的な日本の立ち位置も大きな問題です。沈みそうな船に乗っているという事実に、私たちシニアリーダーも若者たちももっと真剣に向き合う必要があるでしょう。

幸福感に関しては難しい問題で、安易なことは言えません。ただ、私たちは「鈍感化」してしまったのではないでしょうか。

先日、あるテレビ番組を見ました。日本の高校生や大学生が、グラスゴーで行われたCOP26という気候変動対策世界会議に、臆することなく参加していました。そこで世界との話し合いに加わり自分たちの意見や考えを伝えようとする姿に、「若者たちの意見発信をもっともっと大切にしなければ」と感じました。

地球の環境問題は、私たち以上に、これからの未来を生きる彼ら若者たちの生き死にを左右する問題です。そんな彼らの恐怖や叫び声を、私たちは受け止められていないのではないでしょうか。

 

番組では、化石燃料からの脱却を懇願する彼らの手紙は、かわいそうに岸田総理に手渡されることはありませんでした。それはおそらく、総理お付きのSPたちがしっかりし過ぎていたから、完璧な「外界とのシャットアウト」を行っていたからです。

私は映像を見ながら、同じことがIBM社内で起きていないだろうか? と感じていました。私たちシニア・リーダーたちは、ダイレクトに意見を交わせる関係を、もっと意識して作らなきゃいけないんじゃないでしょうか。

若手社員の声を直接聞き、彼らにどんどん大きな仕事を任せていく。それがシニアリーダーの大切な仕事です。そしてそうやって応援し続けられるように、若手・中堅社員たちにはどんどん声を挙げてもらいたいです。

 

今の日本社会の在り方を形作ってきた一人の人間として

最後に、IBMのシニア・リーダーとして、あるいは今の日本社会の在り方を形作ってきた一人の人間として、塚脇さんが一番解決したい課題が何なのかを問うてみました。そしてそれに対し、IBM社員ができることはなんなのでしょうか。(村澤)

私は、日本社会は素晴らしい、と心から思っています。こんなに思いやりに溢れている、社会衛生が行き届いている、治安も保たれている国はそうはないと思います。一方、こういった国を作ってきたのは、先人たちが、戦後の苦しい時代に、必ず日本はもう一度素晴らしい国になるんだという強い思いと実行力があったからこそではないでしょうか。

その観点で、今一度日本から世界への発信をさまざまな観点で打ち出していくべきだと思います。そのマインドセット、そしてそれをサポートする舞台づくり、仕組みづくり、時にはさまざまな領域におけるリーダーが背中でそれらを体現する、といったサポートを実行することが大事だと思います。

 

例えば「ダボス会議」なんてものがありますよね。ああいった世界への意見発信を日本からできると、若者世代含め国民の意識が大きく変わるのではないか? と思います。私のチームでも、天城ホームステッドから日本国へ、そして世界に発信 — 保険業界から –といった取り組みを今年から開始しようと考えているところです。

「世界への発信なんてそんな大袈裟な」と言わずに、私たちの活動から、そしてお客様との共創から、小さな第一歩は踏み出せるのではないでしょうか。また、このような発想、働きかけは、IBMという、100年以上にわたりより良い社会を創ることに邁進してきた企業だからこそできるのではないか? と思うのです。

 


いかがでしたか。

インタビューの最後に、「Unlockという言葉を塚脇さんなりに解釈したポーズで写真を撮らせて欲しい」と無茶振りをしたところ、「実は私は学生時代、応援団に所属していたんです。IBMの、そして日本の若者たちへ、エールを送らせていただきます!」と驚きの事実と共にポーズを取ってくれました。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。塚脇さんからの熱いメッセージとエール、受け取っていただけたことと思います。

塚脇さんに、この「Unlock」の第一回にご登場いただいたことが大正解だったことを、私は確信しています。(村澤)

 

 

TEXT 八木橋パチ

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