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アイデアミキサー・インタビュー | オカムラ 遅野井 宏 (後編)

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オカムラ エバンジェリスト 遅野井 宏 (後編)

テクノロジーは制約を取り除くために存在する

この「アイデアミキサー」シリーズでは、ご自身の軸となる強いアイデアを持ちながら、越境や新分野の開拓を実践している方に、その想いを語っていただきます — その「アイデア」は、IoTやAIに代表されるテクノロジーやIBMと、そして社会と、どう混ざっていくのでしょうか?

第2回目は、オカムラでDX推進をリードしているエバンジェリスト遅野井 宏さんにご登場いただきました。

(インタビュアー 八木橋パチ)

前編「主体性を発揮できる働き方を「場」に持ち込む」はこちら

 

株式会社オカムラ – 1945年、終戦から2カ月後に零戦を造っていた技術者たちが現在の横浜市磯子区岡村町に創業。2018年4月に岡村製作所から「オカムラ」へ商号を変更。コーポレートメッセージは「人を想い、場を創る。」。

遅野井 宏 – 日本企業の在り方と日本人の働き方に課題感を持ち、なんとか変えたいと考えている人。イチをヒャクにすることよりも、ゼロをイチへと仕掛けるのが好き。好きな言葉は「多事争論(たじそうろん)」。

ビデオ通話にてインタビュー実施

 

主体性と客観性、流動性とキバ

ズバリ聞きますが、なぜ日本の働き方には主体性が足りないのでしょうか?

一言で言えば、流動性がなさすぎるせいです。日本の労働市場に。

そして主体性のなさは客観性が足りないことに起因していると思っています。客観的に自分を捉えて人に伝えようとする機会が圧倒的に少ない。だから、そういう視点を持たないままになってしまうし、自分のやり方や自社のやり方を他と比較できないんです。

実際に転職するかどうかは別として、転職を視野に入れた準備をするだけでも、自分を見つめて捉え直すよい機会になると思います。仕事に何を求めどんな働き方をしたいと思っているのか。自分にとっては何が大切で何が譲れないことなのか — そうしたことへの理解が主体性の発揮につながっていくと思います。

 

— 流動性がカギだとすれば、最初から転職や独立を前提に就職する若者が増えるのは良い傾向ですね。

そうですね。そして企業と先輩社員たちは必要以上に彼らの「キバを抜かない」*1ことが重要です。新人たちが先輩社員や企業をも変えてくような、そういう循環が生まれることを期待しています。

*1 前編「DXと新型コロナウイルス感染症」参照

どんな本が並んでいるのか後ろの蔵書が気になります

 

■ テクノロジーの役目は制約を取り除いていくこと

— ところで、物理的なオフィス空間の質(QoS: Quality of Space)を考える上で、何が一番カギを握っていると思いますか?

そうですね。「物理的な機能や設計以外の大事さに目が行く」という僕の特性から挙げれば、光と風じゃないかと思っています。

太陽光が注いで気持ちの良い風が吹き抜ける…五感に直接訴える心地よさが空間の質を決定するんじゃないですかね。

 

— 光と風。その2つは人工物やテクノロジーでも代替可能なものでしょうか?

可能だと思います。ただし、それは現行のオフィスでよく目にする照明や空調ではないものだと思います。

機能としての明るさだったり、温度コントロールや換気としての風ではなく、もっと情緒的で五感に語りかける光と風がオフィスに欲しいですよね。

 

— 「気持ちいいから行きたい」ってオフィスは理想的かも。テクノロジーがオフィスや空間の質に貢献できることって、他にどんなことがあると思いますか?

おととし、「Tomorrow Work 202X」という、2020年代の働き方をイメージした動画を作ったんです。この動画の中で僕が描きたかったのは「あらゆる制約が、制約で無くなる社会の実現」。そのコンセプトをベースにシナリオを作成していきました。

現代社会に存在するさまざまな制約を取り除くために、テクノロジーは存在すると僕は考えています。分かりやすい例で言えば、腕に障害を持っている社員の入館には、入館パスを手で操作するのではなく顔認証技術を用いるといったような使われ方です。

 

— そうですね。他にはどんな制約がテクノロジーで取り除けそうでしょうか?

今回の新型コロナウイルス感染症への対策として取られた在宅勤務を実現するオンラインツールは、子育て世代や家族を介護している社員の制約を取り除きますよね。これは新型ウイルス感染症対策という、緊急時にだけ使って終わりというものにしてはいけないと思います。

他には外国人社員の制約をリアルタイム通訳技術でとか、経験不足という新入社員の制約をバーチャル秘書でとか。バーチャルであれば、秘書を役員だけのものにしておかなきゃ行けない理由はないですよね。

そういうふうにテクノロジーを活用していくことで、時間や場所にとらわれない柔軟な働き方と、多様性に富んだ職場が実現できるんじゃないですかね。

 

— これは先ほどの「個人の制約とチームの状況がぶつかるとき」*2の回避策にもつながりますね。

*2 前編「対話することでチームの制約を乗り越える」参照

 

■ 分断社会と狭い関係性に対する危機感

— それでは最後の質問です。遅野井さんが感じている一番の社会課題はなんですか?

教育ですね。僕には高校生の子どもが2人いるんですが、これまでの子育てを通じて教育の場や先生たちがDX(デジタル変革)していない、前時代的なままであることを痛感しています。

そしてあまりにも学校と社会の接点が少なく、また各教育過程の間も分断されていることに強い危機感を感じています。

 

— それがどんな弊害を生み出していると感じられていますか?

多くの学校で、高校生は2年生のときに文系に進むか理系に進むかを決めなければならないのですが、この仕組みは昔から変わっていません。

そしてその決定が将来にも大きく関わってくるものなのに、子どもたちはあまりにも少ない情報を元に決定を迫られます。身の回りに相談したりロールモデルにできる大人がいなかったり…。狭い視野のままで決定しなきゃならないんです。

 

— それに対し、何か具体的な行動を、遅野井さんは個人あるいは企業として取っていますか?

個人的には、娘が通っていた学校でキャリア講演*3をしました。文系であっても理系であっても、個人のやりたい仕事を追う方法はあるし、僕自身もそうだったことを伝えました。

他にも、地域とのつながりを深めたり強めたりするための活動を行っています。昔は「子ども会」のようなものを通じて、近所の小学校低学年の子どもと中学生が、お互いあだ名で呼び合うような関係性がそこかしこにあったと思うんですが、今、そういうつながりがどんどん失われています。

*3 WORK MILL記事「自己肯定感を育み、社会と接続する - 今、高校生のキャリア教育に必要なこと

 

— そうですね。大人も子どもも、すごく狭い関係性の中で過ごしている気がします。

視野を広げることが自分をもっとよく知ることにつながります。そのためにも、関係性にもっと「グラデーション」があった方がいいと思うんです。今の状態は大きな社会的な損失だと思いませんか?

オカムラではクライアント企業のオフィス移転や改装のコンペに臨むことが多くあって、自分自身も関わることがあるのですが、そういうとき、僕は「自社がこの地域にある理由や由来」だったり、自社製品の使い方を子どもたちに直接伝えるような活動を大事にしたいと伝えています。

 

— 今日はありがとうございました。では、最後に締めの一言を。

「伝統だから」とか「常識だから」で終わらせることなく、疑ってみること。視点を変えて本質に近づこうとすること。そうしたことが社会を良くしていくことにつながっていくと思うので、みなさんぜひこれからも「多事争論」でいきましょう。

 

 

インタビュアーから一言

「多事争論ってどんな意味なの? TBSの”NEWS23”の中で、筑紫さんが90秒間しゃべるコーナーだったのは知っているけど。言葉としてはどんな意味なの?」と遅野井さんに聞くと、「パチさん、さっき主体的な働き方”とは、その意味を自身で考えて言葉で伝え対話すること”って話しましたよね」とニヤリ。

「それが多事争論ですよ。異なる意見を持つもの同士がちゃんと論を争わせる、対話する。ぼくらの大好きな国デンマークが大事にしている”民主主義”、そのものですよ!」と嬉しそうに話してくれました。

2年前、デンマークについてのトークイベントで一緒に登壇したときのことがパーっと頭に浮かびました。民主主義万歳!

(取材日 2020年6月1日)

 

 

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