Tape Storage

今後もハイブリッドクラウドのデータは磁気テープに保存が続く

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本記事は、2020年12月15日に公開された「Hybrid clouds will rely on magnetic tape for decades to come」を抄訳し、日本向けに一部編集したものです。

IBMと富士フイルム株式会社(以下、富士フイルム)のプロトタイプが世界記録更新、現行磁気テープドライブの27倍の面記録密度を達成

モノのインターネット(IoT)の継続的な台頭、4K/8Kの高解像度ビデオの出現、AIベースのビッグデータ分析などの要因により、現在、毎日250京バイトのデータが生成されています。この速度で行くと世界のデータは、2025年までに175ゼタバイト(ZB)に達すると予想されています。これは年間成長率61%に相当します。1 ZBは1兆ギガバイト(GB)相当です。ちなみに最新の携帯電話は256GBです。

これほどのデータをどこに保存しているのでしょうか。

現在、世界には500を超えるハイパースケール・データセンターがあり、推定547エクサバイト(EB)の実データが保存され、稼働している施設は151を超えています。これはデータが大量であるだけでなく、エネルギー消費も大量です。事実、2023年までに、ハイパースケールのエネルギー消費量は2015年以降の消費量のほぼ3倍になると予想されています

大幅に増加するデジタル・データを処理し、そのデータをサイバー犯罪攻撃から保護できるテクノロジーが1つあります。世界最大のハイパースケール・データセンターのデータをアーカイブしているそのテクノロジーとは、60年以上前に生み出された磁気テープです。

世界記録更新

IBMは本日、新しいマイルストーンを発表し、IBMリサーチと富士フイルムとの15年以上の連携の成果を明らかにしました。磁気テープ・ストレージでまたひとつ新しい世界記録を樹立したのです。2006年以来6回目の世界記録更新です。IBMは限界を押し広げ、富士フイルムが開発したプロトタイプのストロンチウム・フェライト(SrFe)微粒子磁気テープで317 GB/in2(1平方インチあたりのギガビット)の面記録密度を達成しました。これは、現在最先端の商用磁気テープ・ドライブで使用されている面記録密度の約27倍です。

IBMは磁気テープおよび磁気テープのハイブリッドクラウド環境への統合にコミットしています。

ストレージの将来性という点では、この新しい面記録密度を備えた単一のテープ・カートリッジには約580テラバイト(TB)のデータを保存できる可能性があります。想像してみてください。580 TBは、高さ944メートルまで積み上げた786,977枚のCDに相当します。世界一高いビルであるブルジュ・ハリファを超える高さです。何とも膨大なデータ量です。その全てが手のひらのテープ・カートリッジに収まるのです。

磁気テープは60年以上前から存在していますが、性能は年々向上しています。現行世代のテープは、磁気テープのストレージ・メディアのコーティングにバリウム・フェライト(BaFe)微粒子を使用していますが、富士フイルムは記録密度をさらに高めるために化学ラボに舞い戻り、ストロンチウム・フェライト(SrFe)と呼ばれる新たな物質を発明しました。SrFeはその「優れた特性」を備えたままでさらに小さな粒子にすることができます。つまり、同量の磁気テープ上にさらに高密度のストレージを実現できるのです。

新記録を達成するにあたり、SrFe微粒子磁気テープの導入に加えて一連の新技術も開発しました。新しい低摩擦テープ・ヘッド・テクノロジーにより非常に滑らかなテープ・メディアの使用が可能になり、新たに開発した検出器により、702 Kbpiの線記録密度でSrFeメディアに書き込まれて極狭幅29 nmのTMR読み取りセンサーで読み戻される際のデータ検出の信頼性が向上しました。

しかし、それだけではありません。サーボ・トラックに事前に記録される新しいサーボ・パターン、プロトタイプのヘッド・アクチュエーター、一連のサーボ・コントローラーなど、新しいサーボ機構テクノロジーのファミリーも開発しました。サーボ・トラックは基本的に、サーボ・コントローラーがヘッド・アクチュエーターを使用して磁気テープに対する読み取り/書き込みヘッドの正確な位置決めを維持するためのものです。IBMの新しいサーボ・テクノロジーでは、3.2 nmという世界記録精度でヘッドの位置決めを行うことができます。

少しディープな話をすると、磁気テープの読み取り時にはヘッドで約15 km/hの速度のストリーミングが行われますが、IBMの新しいサーボ・テクノロジーでは、DNA分子幅の約1.5倍という精度でテープ・ヘッドを位置決めすることができます。

IBMの推定では、磁気テープ・ストレージ・システムに現在保存されているデータは345,000 EBを超えています。IBMの進歩とともに私たちが示すのは、今後10年間の磁気テープのロードマップの拡張を実現する可能性です。

クラウドの背後にある磁気テープ

さて、全体として見ると、この新しい磁気テープ・レコードは何を意味するのでしょうか。
それは、デジタル磁気テープ(1952年発明のストレージ・メディア、初期容量はリールあたり約2 MB)が、膨大な量のバックアップ・データやアーカイブ・データを保存するだけでなく、ハイブリッドクラウド環境のような新しいアプリケーションにとっても理想的なテクノロジーであり続けるということです。

IBMと富士フイルムの連携により、容量が大きく向上する可能性が示されました。 最新の業界標準磁気テープ製品であるLTO8カートリッジの約50倍(48.3倍)、IBMの現行のエンタープライズ・クラス磁気テープ製品の29倍です。IBMの磁気テープ・テクノロジーは、クラウド・テクノロジーとのシームレスなインターフェースを促進し、ネイティブのクラウド・アプリケーションが、特殊または独自のスキルセットやソフトウェアを使用せずにテープへの書き込みやテープからの読み取りを実行できる環境を実現します。組織が比類のないスケーラブルで手頃な価格のセキュアなデータ戦略の実装を実現できるのは、まさにこのクラウド・テクノロジーと磁気テープ・テクノロジーのシナジーです。

オンプレミスやハイブリッドクラウドに保存されるデータはますます増え、企業のテクノロジー大手や学術機関は、依然としてアーカイブ・ストレージを磁気テープ・テクノロジーに頼っています。

では、データをアーカイブするトップ企業やハイパースケール・プロバイダーにとって磁気テープが頼りになる理由は何でしょうか。それは、ギガバイトあたりのコストの低さ、長期的な耐久性、信頼性、低エネルギー、セキュリティー、およびスケーラビリティーといった磁気テープの特性にあります。この特性によりテープの発展が促進され、寿命が末永く保証されているのです。

コストの面で言えば、磁気テープへのデータ保存にかかるコストは1ギガバイトあたり数ペニーで、かつ使用していないときは、ハード・ディスクやフラッシュとは異なり、磁気テープにはエネルギーは不要です。要するに、磁気テープにデータを保存することで、クラウド・プロバイダーは必要なデータを必要なときに確実に入手できるわけです。さらに、適切に保存すれば、今日テープに記録したデータを30年後に読み取ることも可能です。

データ保護とセキュリティーを巡る課題は、今日のハイブリッドクラウド界にいる多くの人々にとっての最重要事項でもあります。 磁気テープは、サイバー攻撃やランサムウェアに対抗するための保護手段として重要な役割を果たすことができます。セキュリティーの点で言えば、磁気テープは既知のあらゆる電子的接続から物理的にも論理的にも切り離すことができ、物理的バリア(つまり「エア・ギャップ」)を作成できるため、データを破壊する可能性のある巧妙な攻撃を軽減するのに役立ちます。
現在の磁気テープ・ストレージは、保護という点では驚くほどの技術的進化を遂げていますが、IBMは、今後の数十年を見据えて、このテクノロジーの老化を防ぐための変革も進めています。昨年発表した耐量子コンピューティング・テープ・ドライブの最初のプロトタイプが一例です。

最後に言えば、アーカイブは拡大可能でなければなりません。毎年、データは平均61%成長しています。磁気テープ・テクノロジーのもう1つの明らかな利点は、面記録密度が拡張可能ということです。現在の商用磁気テープ・システムで使用されているビットのサイズは、ハード・ディスクのビットに比べ非常に大きく、磁気テープにはそのビットを縮小し続けられるヘッドの余裕がかなりあります。つまりは、容量を増加できるわけです。

密かな恋心を満たすためにテープをミキシングするような日々に戻ることはもうないでしょうが、磁気テープは間違いなく大企業の背後で生き続け、ゼタバイト級のあらゆるデータを保存し続けることでしょう。


Lantz, Mark; Furrer, Simeon; Ebermann, Patrick; Rothuizen, Hugo; Haeberle, Walter; Cherubini, Giovanni; et al. (2020): 317 Gb/in2 Recording Areal Density on Strontium Ferrite Tape. TechRxiv. Preprint. https://doi.org/10.36227/techrxiv.13379594.v1


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