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エバンジェリストの眼①:DXなんか自分とは関係な~い、というあなたへ

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DX(デジタル変革)という言葉が登場し、多くの企業での取り組みも語られてきている。実際、ITが社会に深く浸透し、生活様式を大きく変えている。DXが進むことで多くの恩恵を感じることも増えてきている。ここで改めて自社でのDXに対してついて考えた時、システムの設計や運用を担当する部門としては何を考えるべきだろうか。このブログを通して、DXをいつもと少し違う視点で見ていただくきっかけとなれば幸いである。

佐野 正和

佐野 正和
日本アイ・ビー・エム株式会社  システムズ・ハードウェア・エバンジェリスト
1986年 日本アイ・ビー・エム株式会社 入社、2006年にシステムズ&テクノロジー・エバンジェリストを拝命。現在はストレージ・テクニカル・セールスでストレージ・ソリューション担当部長を拝任。お客様への提案活動やIBMビジネス・パートナー様との協業を行う傍ら、セミナー・講演活動や雑誌、Webへの執筆活動も積極的に行っている。


DXはあなたにとっても課題の一つ

デジタル・トランスフォーメーション(デジタル変革、以降略記:DX)は21世紀に入り20年ほど経った現在において、企業経営における大きな課題となっている。DXが重要な経営課題とされている理由は、思いもよらなかった競合他社がある日突然それまでにない破壊的な手法を引っ提げて業界に乱入し、あれよあれよという間にシェアを奪われてしまう懸念があるからだ。他社が積極的にDXを進めて仕掛けてくる以上、自らもDXに対して何らかの手を打たねばならない。

私は仕事上コンピューター・システムの実務に携わる現場の方にお会いする機会が多いのだが、コンピューターのプロと言えるこれらの方々に、文字通りデジタルという冠がつくDXの話題を口にすると、意外にもまるで他人事のように「DXなんて自分達には関係な~い」とおっしゃる方に出くわすことがある。もちろんその場で直ぐにDXに関する説明をしても良いのだが、私はまずDXが企業経営における大きな課題となっていることをお伝えし、経営者の立場で物事を考えてみては如何でしょうかと申しあげることにしている。ある人の立場になって物事を考えてみることは、実は見過ごしがちな知見を得られる1つの方法だからだ。ここでは他人の立場に立って物事を考えると、実はDXを起こす種のようなものを見つけ出すことができ、ビジネス的に成功へと導けるのだということを、例を挙げて説明したいと思う。

タクシーの中でDXを叫ぶ

DXは時に破壊的なパワーを発揮する。その恐ろしさを理解してもらうために、1つの例を紹介したい。まずは皆さんが街中でタクシーに乗ったと想像して欲しい。あなたは車内での世間話の1つとしてDXについて運転手に話題を振ったとしよう。多くの場合、運転手はきっと「デジタルの話なんかは私の仕事とは関係ないので詳しくは知りません」と答えることだろう。現代日本ではある意味普通の反応だ。ところが海外ではDXはタクシー運転手にとって他人事ではなく、DXのせいでタクシー運転手が仕事を大きく奪われるという大事件が発生している。一体どういうことなのか。

乗客の憂鬱

この話をする前にちょっとだけ前提のお話をしたい。私の知っている日本のタクシー運転手は総じて紳士的だ。日本で生活しているとあまり想像できないのだが、海外などでタクシーに乗ろうと思うと、結構勇気が必要だったりする。例えばタクシーに乗ったら何故か運転手がメーターをオンにせずに走りだしたりする。そして目的地に着いたらそれはちょっと高いんじゃないかと思われる料金を請求してきたりする。運転手はメーターをオンにするのを忘れたのではなく、最後に料金を吹っかけるためにワザとオンにしなかったのだ。他にも、地元の地理に詳しくない者が乗ってくるとワザと遠回りをして料金を水増ししようとする場合もある。料金精算の際、お釣りの小銭が無いと釣銭を出すことを渋り、釣銭はチップにしろと要求する運転手もいる。大金を巻き上げられるわけではないかもしれないが、不愉快であり少々腹立だしい経験だ。外国の場合このような事例はそこかしこにあるようで、渡航する際には「空港からホテルまで行くときに、赤色のタクシーには乗らないでください」と旅行会社の方にアドバイスされることもある。

ここでタクシーを利用する乗客の立場になって考えてみよう。この人物はタクシーに乗ることを決断しているので、ある程度のお金を払うことは承知しているはずだ。しかし、他人より料金を多く払わされたり、不当に高い料金を請求されるのは嫌だと思っているだろう。金額の問題だけでなく、そのような行為によって気分を害されたり、不当な要求だと思いながらも早くその場を立ち去りたいという気持ちから仕方なくあきらめて高めの料金を支払ったりするのも当然嫌なはずだ。つまり気分を害さず、公平で損をしないサービスがあれば、そのサービスを是非使いたいと願う人たちがいるのだ。

タクシー業界に巻き起こったDXの嵐

ここである会社(仮にここではA社と呼ぶ)がデジタル技術を駆使して、スマホでタクシーを呼び、料金の決済も登録したカードで済ませられるアプリを開発して世に出した。A社にはタクシーが1台もなく、運転手は1人もいない。運転手や自動車は個人に登録してもらい、時間の空いた時にその個人が自家用車を使い、アルバイトのような形でタクシーの仕事につけるように工夫したのだ。これは新規参入型のDXだ。タクシーを利用する乗客の立場からみると、A社のアプリに登録しているのだから運転手の身元はハッキリしている。もしも不愉快な思いをした場合、アプリの運転手評価欄で低評価を付けたり、不満をコメントとして記入したりできるのでこの点も安心材料だ。運転手は継続してこの仕事をしていきたい人のはずなので、常識的で礼儀のある態度をとるであろうという推測もでき、安心して乗れる。料金の提示も事前にアプリ側が行ってくれるので料金で揉めることがない点も有難い。わずらわしい料金交渉をしたり、ぼったくり行為あったりすることもない。決済も事前に登録したカード等で精算できる。また、タクシーの推定到着時間も表示してくれる。因みに、近くに空車が多い場合はタクシー料金が安くなり、逆に空車が少ない場合は料金が高くなるようだ。これは運転手達が積極的に空車の少ないエリアに移動してもらえるよう、労働意欲をかき立てるための工夫であると同時に、実際に空車が少ないと乗客が不便に感じるのでそれを解消するという2つの目的を解決するための実装のようだ。

ここまでタクシーを乗る人の立場になってそのメリットを解説したが、実はタクシー・サービスを提供する人にも大きなメリットがある。ここではタクシー運転手の立場に立って考えて見よう。まず着目すべき点は、自動車を保有している個人は登録をするだけで空いた時間にタクシー運転手のアルバイトをすることができることだ。スマホさえあれば自分の車に料金メーターを装備する必要もなく、タクシーのアルバイトができる。決済はスマホで済むからだ。また、乗客に対する評価を行うことができるのもこのアプリの特徴の一つだ。変な乗客の相手はしたくない。もちろん気持ちの良い紳士・淑女の乗客もたくさんいるだろうが、世の中には乗車態度が悪かったり、乗車中に運転手へ暴言を吐いたり、いきなり怒鳴ったりする嫌な乗客もいるだろう。そういう乗客を運転手が評価できることもこのアプリの良い点だ。運転手側から乗客に評価を行うことで、例えばそんな乗客に対しては、敢えて料金を高く提示して運転手への報酬を高くさせたり、ケースによっては特定の運転手への配車をしないようにするなど、いろいろな対応を行うこともできるだろう。

このようにデジタルで作られたアプリを利用するユーザー(この例の場合は乗客と運転手の双方)に素晴らしい体験(優れたお客様体験)を提供することが、DXを成功させる大きなカギとなっている。皆様がお持ちのスマホのアプリが頻繁に更新され、どんどん便利で使いやすくなっているのも、この優れたお客様体験を提供し、アプリのファンになってもらうためなのだ。

日本では規制があるため、このような業態は白タク行為として禁止されている。故に実験レベルは別にして、このような形でのタクシー業界への新規参入は行われてはいない。だが、タクシーに関する規制が緩い国では、A社の考えたDXは爆発的に浸透している。

DXが引き起こす光と影

アプリを利用した乗客にも運転手にもメリットがあるDXのお話をしたが、実は光の裏には常に影があることも知っておく必要がある。今回ご紹介した例で影の部分になってしまうのは従来からあったタクシー会社とその従業員であるタクシー運転手達だ。もう一度他人の立場に立って考えてみよう。あなたはタクシー会社の従業員でありタクシー運転手をしている。ある日、街中で車を流していると街角でタクシーを探している素振りの人をみつける。きっとタクシーを探しているお客さんだと思い車を近づけて行くと、何故かその人は自分のタクシーから離れていく。そして近づいてきた別の車に乗って立ち去っていった。

最初は知り合いが車で迎えに来たように見えたのだが、そういう風景を街のあちこちで見かけるようになり、いつの間にか以前よりも売り上げが減っていることに気づく。同僚も同じような経験をすることになり、とうとうタクシー会社の経営は行き詰まる。そしてタクシー運転手達は失業の憂き目にあう。DXのことなど欠片も考えたことがないタクシー会社の運転手達にしてみれば、自分とは関係ないと考えていたデジタル世界の嵐に知らぬ間に巻き込まれ、失業にまで追い詰められてしまっていたのだ。冒頭に記した「DXなど自分には関係ない」と言っていた方々は、タクシー運転手ではなくコンピューター世界のプロと呼ばれる方々であった。彼らなら少しだけ思慮深く考えれば、ある程度この事態を想像することが可能だろう。だからこそDXは他人事ではないと捉え、仕掛けられる側ではなく、常に仕掛ける側であり続け、競合他社に負けない努力をしなければならない。

DXを進めるための手段

DXを実現するためには何よりもアイディアが大事であることは言うまでもない。このアイディアを具体的なビジネス形態やプロセスに組み込むための技術がデジタル、つまりコンピューターを利用したテクノロジーだ。故にデジタル・トランスフォーメーションと呼ばれている。その中でも特に重要視されているのがハイブリッドクラウド、AI・データ分析、コンテナと呼ばれるソリューション・エリアだ。

DXを具現化するためにはユーザーにとって使いやすい適用業務ソフトウェア(アプリ)が必要となる。厳しい競合を勝ち抜くためにアプリは常に使い易くなるよう更新される必要がある。これを容易に実現するための手段の1つがコンテナだ。アプリの価値を高め、新しい知見や体験を提供するのがAIやデータ分析であり、これもまたDXの具現化に一役買う。現在のコンピューター環境は以前のように自社のコンピューター・ルームにあるマシンだけで動いているわけではなく、あるものは自社環境で、あるものはX社のクラウドで、あるものはY社のクラウドでと目的や用途に応じて各所で稼働している。当然データも各所に分散されて保管されていることになる。これらをうまく融合・連携させて使うのがハイブリッドクラウドだ。

IBMストレージ製品とDX

IBMはユーザーがDXを具現化し、推し進めるための手段としてこれらソリューションが活用できるよう、数々のサービスや製品を提供している。私が担当するストレージの分野においてもIBM FlashSystemを筆頭に全てのストレージ製品がコンテナ環境への対応をしている。また、特殊な機能が求められるAIやデータ分析に特化した製品としてIBM Elastic Storage System (ESS)なども用意されている。加えて、多くの製品が何らかの形でハイブリッド・クライドを実現する機能を有している。IBM Spectrum Virtualize for Public Cloud (SV4PC)などはその代表例だ。最近ではコンテナのアプリを直接動かせるHCI製品としてIBM Spectrum Fusion HCI も発表されている。ここでは多くを説明できなかったがIBMストレージ製品はどれもユニークな機能を実装しているので、是非もっと知っていただきたい。

当記事にご興味をお持ちいただき、自社のDXをデータ活用の観点からご検討されたいお客様は、ぜひ弊社デジタル・セールスにお問い合わせください。私自身もぜひ会話に参加させていただき、DX推進を共に考えてまいりたい所存である。

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