量子コンピューティング

Qiskit Functions Catalogの発表

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2023年、IBM QuantumTM プラットフォームで利用可能になった大規模量子コンピューターを利用して、愚直な古典手法ではシミュレーションが困難な問題の探求ができるようになりました。一つ一つの問題に量子コンピューターを活用していくためには 、QPU (量子プロセッサー) だけでなく、必要なさまざまなエラー抑制/緩和手法についての深い理解が必要でした。

 

 

今回、IBMは、量子コンピューターの有用性をより利用しやすくする、Qiskit Functions Catalogと名付けたプラットフォームを開始します。このプラットフォームを利用することで、開発者は独自のQiskit Function(ファンクション)をリリースし、企業の開発者や量子計算の科学者達にその機能を提供することができます。

【注】ファンクション(Functions)とは、アルゴリズム発見とアプリケーション・プロトタイピングを加速するように設計された抽象化サービスです。プレミアム・プランのメンバーは IBMが提供するCircuit Functionを利用できるほか、IBMのパートナーが提供するファンクションをライセンス購入することができます。詳しくはこちらをご参照ください。

IEEE Quantum Weekが開催されている今週(2024年9月第三週)、IBM Quantumの VPである Jay Gambetta は、Qiskit Functions Catalogを プレミアム・プランのユーザー向けにプレビュー・リリースしたことを発表しました。開発者はカタログを閲覧して、IBM Quantum Networkの スタートアップ・パートナーによって開発された Qiskitファンクションと、IBM®製のファンクションにアクセスすることができます。Qiskitファンクションは、ユーザーが量子ソフトウェア開発ワークフローの一部を抽象化し簡略化できるサービスです。

IBMはファンクションがアルゴリズムおよびアプリケーションの開発プロセスを大幅に加速させるという期待をしています。企業の開発者が、固有の領域において様々なユースケースに活用する際に、ファンクションが、その実験をかつてないほど容易にします。また、開発者が実用規模の量子計算を拡張するツールを、成長を続ける量子コミュニティーに対して提供しようとした時に、Qiskit Functions Catalogが最適な場所になることを願っています。

【注】量子ベンチマーク用のオープンソース・パッケージであるBenchpressを使用して、Qiskitのパフォーマンスを世界の主要な量子SDKと比較しました。詳細はこちらをご覧ください。

 

Qiskit の新しいコーディング方法

これまで研究者はほとんどの場合、回路レベルで量子プログラムを作成していましたが、それにはハードウェアの特徴を考慮に入れた手作業でのコーディングが必要でした。そのためハードウェア/ソフトウェアが持つ実用規模のパフォーマンスを発揮するのには、まだ多くの開発時間と専門知識が必要でした。深い量子計算の背景知識を持っていないと、実用規模の量子プログラミングは手に負えないと考える人もいるかもしれません。これを解決することこそが Qiskit Functionsと Qiskit Functions Catalogの役割です。

Qiskit Functions は、高性能の量子ハードウェア/ソフトウェアへのアクセスを高い抽象度でできるようにするプログラミング・サービスです。Qiskit Functions Catalogをインポートし API トークンを渡した後、ユーザーは、コードにファンクションを追加し、必要な入力 (例えば、量子回路にマップして実行したい古典データ) を指定します。IBMが管理するこのサービスは、量子コンピューターで実行し、エラー抑制/緩和を適用し、ユーザーは結果を受け取ることができます。

最適化を例にとりますと、今までユーザーが線形システム・グラフを扱おうとしたら、そのグラフをイジング回路とオブザーバブルに落とし込み、目標ハードウェア向けにコードをトランスパイルし、ランタイム・プリミティブを実行し、エラー抑制/緩和のアルゴリズムを工夫して初めて、良い結果を得ることができました。しかも良い結果とはどんな結果なのかを知っている必要もありました。さらに、良いパラメーター値を見つけるために何度も回路を実行する必要もあります。しかしもし Q-CTRL の Fire Opal Optimization Solverを使えば、ユーザーはグラフをこのファンクションに渡すだけで、ソルバーが最適化プロセスに関するさまざまな情報 (反復回数など) と共に、非常に正確な解を返してくれます。

 

IBM Quantum Network スタートアップとの協業で生まれたカタログ

プレミアム・プランのユーザーはQiskit Functions Catalogで、IBMやIBMのエコシステム・メンバーが作成したファンクションを閲覧して検討することができます。ファンクションには 2種類があります。サーキット・ファンクションと、アプリケーション・ファンクションです。

  • サーキット・ファンクションは、回路の実行を簡単化するインターフェースを提供します。ユーザーが与える抽象レベルの回路やオブザーバブルを入力として受け取り、代表的な ISA回路の合成、最適化、および実行を管理します。サーキット・ファンクションは、実用規模の性能をすぐに使えるようにするために、トランスパイル、エラー抑制/緩和の最新の機能をまとめています。これによって計算科学者は、問題ごとにこのパターンを最初から組み立てなくても、問題を回路に落とし込むことに集中できます。
  • アプリケーション・ファンクションは、アルゴリズムの探求やドメイン固有のユース・ケースなど、よりハイレベルなタスクをカバーします。回路を操作するための量子情報科学についての背景知識は持っていないけれど、自分のドメイン知識を活かして量子計算アルゴリズムやアプリケーションの進歩に貢献したいと考えている企業の開発者およびデータ・サイエンティストがこちらの対象です。そのようなユーザーは アプリケーション・ファンクションに古典データを入力して解を受け取ることができるので、ドメイン固有のワークフローに量子計算を埋め込んだ実験が簡単にできます。

Qiskit Functions Catalogの開始に伴って、プレミアム・プランの開発者は IBM Circuit Functionを利用できるようになります。 IBM Circuit Functionには、回路合成や最適化とスケジューリングにIBMが提供する最新のAI拡張機能と、今日のハードウェアで可能な限り最も正確な推定値を返す先進的なエラー緩和手法が含まれます。

また、ユーザーは IBMのパートナーである AlgorithmiqQ-CTRLQedma、および QunaSysによって提供される次のようなファンクションのライセンスを購入できます。

 

サーキット・ファンクション

Q-CTRLは、AI駆動のエラー抑制を適用して自動的にエラーを削減し、スケーラビリティーを改善し、計算時間を節約する Performance Managementファンクションをリリースします。

Algorithmiq は、TEM (テンソル・ネットワーク・エラー緩和) と呼ばれるエラー緩和手法を適用した サーキット・ファンクションをリリースします。TEMは、最適なショット数でバイアスがない推定値を取得できます。probabilistic error correction (PEC) や zero-noise extrapolation-probabilistic error amplification (ZNE-PEA) に比べて短時間で実行が可能で、実行が完全に後処理で行われるため、実機の使用量を削減できるという利点があります。

Qedmaは、ノイズのある QPU演算について効率的で正確な特性測定を行い、この特性データに基づいてエラー抑制およびエラー緩和を行う サーキット・ファンクションをリリースします。

アプリケーション・ファンクション

QunaSysは、分子の基底状態問題を解くための化学アプリケーション・ファンクションをリリースします。

Q-CTRL は前述したように、量子専門家を必要とせずに実用規模の問題を解決するアプリケーション・ファンクションとして Optimization Solverをリリースします。

 

量子アプリケーション・エコシステムの基礎を築く

私たちはQiskit Functions Catalogを、量子コンピューティング・ツールを開発してリリースしたい開発者にとって最適なプラットフォームにしたいと考えています。そこで役立てて頂きたいのが Qiskit アドオン です。

量子アルゴリズムには、4つのステップから構成されるパターンがあります。

  1. 問題を回路に落とし込む
  2. 目標ハードウェア向けにそれらの回路を最適化する
  3. Qiskit Runtime を使用してそれらの回路を実行する
  4. 後処理を行う

Qiskitアドオンはモジュール化されたツールのコレクションになっており、上述のワークフローにアドオンを組み込むことで新しいアルゴリズムを実用規模で設計したりスケールさせたりすることができます。例えば、multi-product formulae (MPF) は、マッピング段階においていくつかの回路の実行の重み付き組み合わせによって、Trotterエラーと呼ばれるアルゴリズミック・エラーを削減します。また、operator backpropagation (OBP) は回路の末尾から演算を取り除くことで、最適化ステップにおいて回路の深さを削減します。そして、第三に、sampling-based quantum diagonalization (SQD) は、例えば化学ハミルトニアンなどの固有値推定の精度を改善するために、量子プロセッサーから生成されるノイズのあるサンプルを古典的に後処理します。

これらの Qiskit アドオンは、アルゴリズムの探索をさらに容易にするものと期待されます。利用にとりかかるには、それぞれの GitHub ページをご確認ください。

 

おわりに

ファンクションをリリースしたいと考えている開発者の方は、ファンクションを支えるサービスである Qiskit Serverlessをまずご理解頂くことをお勧めします。 量子ワークフローは量子と古典の両方の処理を必要としますので、Serverless はファンクションの効率的な実行に必要な古典および量子リソースを効率的に管理します。

プレミアム・プランのユーザーはぜひ Qiskit Functions Catalogを今日から使い始めて、ご自分の量子ユースケースの検討に当たってこれがどのように開発プロセスを加速し、どんな価値を提供するかぜひお試しください。

 


この記事は英語版IBM Researchブログ「Announcing the Qiskit Functions Catalog」(2024年9月16日公開)を翻訳し一部更新したものです。

堀井 洋
監訳:堀井 洋
IBM Quantum, シニア・テクニカル・スタッフ・メンバー, QCSC Softwareマネージャー
Qiskit-Aerの開発、量子コンパイラーの高性能化を担当後、量子中心型のスーパーコンピューティングにおけるソフトウェア開発を担当。
立花 隆輝
監訳:立花 隆輝
IBM Quantum, シニア・テクニカル・スタッフ・メンバー
量子コンピューターの社会実装に携わる。
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