量子コンピューティング

IBM Quantum Learningのコース刷新および新登場したラーニング・パスウェイ

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IBM®は、IBM QuantumTM Learningで新しい教材をリリースします。量子学習コンテンツの選択に役立つ「ラーニング・パスウェイ」も利用可能になります。

 

量子計算の学習を始めるのに時期を待つ必要などありません。今、誰でも高性能で実用規模の量子プロセッサーで実験を走らせることができます。Qiskit Functions Catalogや Qiskit Transpiler Serviceなどの便利な抽象化ソフトウェア・ソリューションを使えば、複雑な量子ハードウェアを理解する必要もなくてすみます。こういった進歩があるため今や、潜在的価値があって興味深い量子計算の問題を探求する際のハードルは低くなってきています。

しかしこれらの技術的進歩を、研究を行っている実際の量子計算科学者に提供するためには、強力な量子技術を使用して問題にとりかかるために必要な準備があらかじめ必要です。また、量子に興味を持ったエグゼクティブに、アクセスしやすく明確で簡潔な資料を提供して、研究組織がどのようにして量子への投資を決定すべきかについて、情報に基づいた意思決定を行えるようにする必要があります。これらの目標を達成しさらにその先に進むためにIBMは、量子教育のためのプラットフォームである IBM Quantum Learningにいくつかの新しいリソースとツールを導入します。

これらの追加機能のうちの代表的なものが、あらゆるレベルの学習者が、数多くあるコースとチュートリアルをどのように進めるべきかを判断するのに役立つように設計された新しい IBM Quantum Learningパスウェイです。そしてまた、IBM Quantum Business Foundationsコースへの無料アクセスを一般に公開提供します。このコースは、以前は IBM Quantum Networkに所属したお客様およびパートナーのみが利用可能でした。

今これを読んでくださっている読者の皆さんにとって、これらの新しい学習教材はどのような価値があるのでしょうか。新しく導入されたIBM Quantum Learningパスウェイから始めて、詳しく見ていくことにします。

 

IBM Quantum Learningパスウェイ

IBMは 2016年に世界で最初に一般アクセス可能なクラウド対応量子コンピューターを発表し、それ以来、パートナーと量子コミュニティー全体を支援するために高品質の教育コンテンツ作成をひとつの使命として進めてきました。 私たちは、このコンテンツ作成に多くの時間を費やしてきましたが、学習者にとってどこから始めればよいのか、また何を最終目標として目指せばよいかは常に明確であるとは限りませんでした。この問題を解決するために、IBMの学習プラットフォームである IBM Quantum Learningのユーザーを対象としてラーニング・パスウェイという新しい概念を導入します。

ラーニング・パスウェイは、個人の学習目標に基づいて一連のコース、チュートリアル、および資料の順序を推奨するものです。例えば、Qiskitや一般的な量子コンピューティングの経験がほとんどない場合は、「Getting started with Qiskit(Qiskitの始め方)」ラーニング・パスウェイに沿って進めることをお勧めします。これには、Qiskit 101および Qiskit 102コース、関連する資料、および 2つの簡単なチュートリアルが含まれます。多くの人は、これで準備ができたら、Qiskitを使用して基本的な量子実験を実行しはじめることができるのではないでしょうか。

また、量子の旅をすでに始めている方のためのラーニング・パスウェイも作成しました。これには、量子情報理論のいくつかのポイントを深く掘り下げる「Understanding quantum information and computation(量子情報と量子計算を理解する)」パスウェイ、最終的に実用的な量子優位性を生むような 100量子ビット以上を用いた実験を構成する方法を示す「Scaling toward quantum utility(量子有用性に向けたスケール拡大)」などがあります。すべてのラーニング・パスウェイは、コンテンツが追加され、有望な新しい量子アプリケーションが登場するにつれて、定期的に更新されます。

前述のパスウェイはすべて、IBM Quantum Platform上の IBM Quantum Learningで一般に公開されていて無料で使用できます。ただし、IBM Quantum Networkのパートナー向けに、いくつかの限定コンテンツも作成しました。これには、「Quantum computing with physics and chemistry(物理学や化学における量子計算)」パスウェイ、「Quantum computing for data scientists: algorithms and quantum machine learning(データサイエンティストのための量子計算:アルゴリズムと量子機械学習)」パスウェイや、「Quantum Business Foundations and Applications(量子ビジネスの基礎と応用)」パスウェイなどがあります。

私たちは、量子有用性の時代に進み、多くの企業組織が量子計算の価値あるユースケースを探索し始めている今、ビジネスに焦点を当てたこのラーニング・パスウェイが特に重要になってきていると考えています。そのため、このパスウェイの最初のコースである 「Quantum Business Foundations(量子ビジネス基礎)」へのアクセスを公開しています。

 

「IBM Quantum Business Foundations」コースが一般公開されました

ほとんどのラーニング・パスウェイは、量子ハードウェアの実機で実験を開始しようとしている開発者や計算科学者を支援するように設計されています。しかし、真の量子エコシステムを構築するには、深い科学的専門知識を持たない経営層や意思決定者が、自分の研究機関が量子計算のどこにどのようにして投資すべきかを判断できるようにすることも必要です。この取り組みの一環として、以前は IBM Quantum Networkのメンバーのみが利用できた「Quantum Business Foundations(量子ビジネス基礎)」コースが IBM Quantum Learningを通じて、一般にも利用できるようになりました。

「Quantum Business Foundations」は、量子に関心を持っているエグゼクティブに、特に量子計算の潜在的なビジネス応用の理解に焦点を合わせて、ビジネスの観点から量子計算の基礎を短時間で学んで頂くコースです。このコースは、学習者が全般的な量子リテラシーを向上し、組織内および業界全体に対する量子のインパクトについて意義深い会話をできるようにすることを目的としています。 この学習により学習者は、量子計算の機会と課題をより適切に評価し、彼らが最大のビジネス価値を得る可能性のある量子ユースケースについて正しい理解に基づいた意思決定を行うことができます。

このコースは、線形代数や量子回路構成といった深い内容に必ずしも入り込まなくても、一般の人にも理解しやすい、それでいて量子計算の詳細な説明を必要とするすべての人にとって、優れた教材になっています。 例えば、大規模な研究組織のパートナーシップやビジネス開発について扱っている人、あるいは、量子関連プロジェクトに取り組むグラフィック・デザイナーや広報担当者にとっても有用かもしれません。 このコースを設計するに当たっての中心的な目標の 1つは、量子計算やその他の科学分野の背景知識がない人にとっても取り組みやすくすることだったので、興味を持った人なら誰にでもお勧めできます。

 

IBM Quantum Learningの始め方

読者の皆さんが、新しいラーニング・パスウェイと新しく利用可能になった Quantum Business Foundationsコースを使用して、量子コンピューティングへの旅をさらに進め、現在利用可能な高性能な実用規模の量子技術からさらに多くの成果を得て頂くようになれば幸いです。IBM Quantum Platform上にあるこれらのリソースは、IBM Quantum Learningからアクセスできます。

 


この記事は英語版IBM Researchブログ「Course updates and new learning pathways on IBM Quantum Learning」(2024年10月23日公開)を翻訳し一部更新したものです。

沼田 祈史
監訳:沼田 祈史
IBM Quantum, 量子人材開発, Qiskit Advocate
大学での授業、量子コミュニティー、量子プログラミングコンテストなどを中心に量子人材の育成を行う。
立花 隆輝
監訳:立花 隆輝
IBM Quantum, シニア・テクニカル・スタッフ・メンバー
量子コンピューターの社会実装に携わる。
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