IBM Power
チェスの世界チャンピオンに勝利したコンピューターはPower Systemsの先祖だった
2021-05-06
カテゴリー IBM Power
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Power10プロセッサー搭載サーバーの年内発表を控えているIBM Power Systems。IBM Power Systems事業部長としてPower10を推進中の黒川 亮が、コンピューターの歴史の中で節目となった1997年5月11日の出来事を振り返ります。
黒川 亮
日本アイ・ビー・エム株式会社 理事 IBM Power Systems事業部長
将棋よりクリスマスプレゼントで貰ったチェス盤が好きな少年時代を過ごす。1997年Deep Blue(POWER2)の年に日本IBMに入社。当時RS/6000事業部長 宇陀さんと初めてのお客様訪問。以後SP2を先輩に叩き込まれ保険、銀行、証券、ノンバンクのお客様に統計、ゲートウェイ、DWHサーバーとしてPower Systemsを広める。2011年かつてのAS/400事業部長である橋本社長の補佐に着任。日本全国に広がるPower Systems ビジネスパートナー様を訪問。同年、初代ワトソン(POWER7)がクイズ王と対戦。2018年Cognitive Systems事業部長としてAC922に始まるPOWER9事業を推進。2019年ワトソンを含むIBM Data and AI事業部長を経て、2021年理事 IBM Power Systems事業部長就任。目下Power10推進中。
コンピューターが席巻する将棋。そして、チェス
2017年の「第2期将棋電王戦」で、コンピュータ将棋ソフト「Ponanza(ポナンザ)」と現役名人として初めて対戦した佐藤天彦九段。IBMのデジタルメディア『Mugendai』で2019年に公開されたインタビュー記事『次世代の定跡のゆくえ――佐藤天彦の「思考法」とAIが広げる将棋界の未来』で、佐藤天彦九段は次のように語っています。
「幼少の頃から将棋ソフトに慣れ親しんでいたので、コンピュータ将棋のレベルがどんどん上がっていくスピードを肌感覚で感じていました。ですから正直、対局前から、人間である自分が勝つのは難しいだろうという認識も持っていましたね」
「コンピュータは、圧倒的に演算力が優れていますから、徹底的に有効な手を読むことができます。併せてどの指し手に対しても感情のバイアスがかかっていません。まったく先入観のない視点、膨大な情報量の中から、時に、人間の積み重ねてきたセオリーや経験値では到達できなかった正解を見つけ出します」
このコンピューター将棋より長い歴史を持つものがあります。それは、コンピューター・チェスです。そして、今から約25年前。1990年代のIBMはコンピューター・チェスに取り組み、「チェスの世界チャンピオンに勝利する」という「グランド・チャレンジ」に挑戦しました。
チェス専用スーパーコンピューター「Deep Blue」
「チェスの世界チャンピオンに勝利する」という「グランド・チャレンジ」のために構築されたのが、POWER2プロセッサーを搭載するIBMのチェス専用スーパーコンピューター「Deep Blue」です。
Deep Blueは、当時の世界チャンピオンであるガルリ・カスパロフ氏の協力を得て、1996年と1997年に対戦が実現しました。
対戦結果は、以下の通りです。そして、本記事の冒頭に書かれている「1997年5月11日」は、Deep Blueが勝利を決めた日となります。(ちなみに、1996年の対戦でDeep Blueが1勝をあげたのは2月10日でした)
- 1996年2月:3勝1敗2分 カスパロフ氏の勝利
- 1997年5月:2勝1敗3分 Deep Blueの勝利
その後も、カスパロフ氏は、コンピューター・チェスやソフトウェア活用したチェスの進化・発展に貢献されています。チェス好きなIBMerとして、希代のグランドマスターに心から感謝しています。
ワトソン事業を担当した際に、痛感したことがあります。それは、各社が技術の発展を分かりやすく喧伝するあまり、コンピューター対人間の構図をステレオタイプしてしまった事です。
実際には、Deep Blueプロジェクト当時から、コンピューターは人間の働く環境を改善するものとして社会に受け入れられています。本来、対決の文脈で語られるべきではないのです。
当時、「疲れないコンピューター」が2億通りの差し手を考え得る事実は、お客様環境においては、時間に追われながら経営に対して様々なデータを準備し、分析を行なっているご担当者の負担を確実に減らしました。
たとえば、3日がかりで行なっていた計算が、小職が担当する「POWERプロセッサーを搭載するコンピューター」の活用によって数時間で終了するようになった時の達成感は、お客様と手を取り合って喜ぶ痛快事だったのです。同時に、「POWERプロセッサーを搭載するコンピューター」は、お客様環境における計算精度の飛躍的な高度化に大きく貢献したと自負しています。
POWER2からPower10に至るCPUの進化
ここで、Deep Blueの製品仕様を振り返り、当時のPOWER2から現在のPower10に至るCPUの進化を見ていきたいと思います。
プロセッサー |
プロセステクノロジー |
配線層 |
トランジスタ数 |
チップ面積 |
POWER2 (P2SC) |
0.29μm |
5層 |
15百万個 |
335mm2 |
Power10 |
7nm |
18層 |
180億個 |
602mm2 |
*nm(ナノメートル)はμm(マイクロメートル)の1/1,000。POWER2は290nm。 |
まず、心臓部であるチップは、POWER2、Power10共に、昨今、ARM、RISC-Vで注目を集めるRISC(リスク:Reduced Instruction Set Computer)演算処理を採用しています。RISCチップは、小さく簡単な命令処理が1つ1つ高速に実行され、また複数の命令を高速に並列実行出来る為、省電力と高いパフォーマンスを実現します。
POWERプロセッサーを搭載するIBM Power Systemsは、AIX、IBM i で30年以上、Linuxで20年以上、一貫してRISCアーキテクチャーで稼動しているので、20年以上前に書いたプログラムをPower10上の同じOSで動かす事ができます。IBM Power Systemsは、最先端かつ最新の技術を提供するとともに、ソフトウェア資産へのお客様の投資を守り続けているのです。
POWER2当時では想定し得ない「インターネットを介した動画」「監視カメラ」「自動運転」「5G」に代表される高速かつ大容量のデータ処理を、Power10では特許取得している世界最大のチップ面積と配線層に積載された180億個のトランジスタ、32GT/秒の高速インターフェース、PCIe5のI/O、AI推論技術により可能にしています。皆さまの環境で、実は活用が進まない「監視カメラの映像」や「通話録音のデータ」はありませんでしょうか? Power10を使えば、それらのデータが企業にとって宝の山に化けるかもしれません。
現在、スマートフォンのハードウェアには、当時のDeep Blueに負けない演算能力があり、スマートフォンにインストールしてあるチェスゲームは、小職を十分に楽しませてくれます。一方で、昔のファミコンやPC8801のゲームで遊びたくなっても、ソフトウェア・プログラムの互換性が無いため、スマートフォンのオペレーティング環境では再現できません。当時の優れた日本のプログラムを利用できないのは残念であり、損失であるとも感じます。そして、テクノロジーが後方互換性を失うことで起きうる企業のソフトウェア資産投資の消失は、このような感慨の比ではないとも感じています。
25年前に数時間に短縮できた処理は、今はコンマ数秒でできる時代になりました。四半世紀に渡り、同一ハードウェア・アーキテクチャー上で企業の業務に直結するソフトウェア・プログラムへの投資を守り続けているのが、歴代のPOWERプロセッサーであり、IBM Power Systemsです。そして、最高と言える性能を発揮するハードウェア・サーバーを活用して、DXを実現するための最先端のIT基盤を作り上げる喜びを、お客様、パートナー様と分かち合えるのが最新のPower10です。お客様と手を取り合って喜ぶ瞬間を再び味わう為に、Power10とともに微力を尽くします。
現在のIBM Power Systems
2021年5月現在、IBM Power SystemsはPOWER9プロセッサーを搭載し、スケールアウト・サーバー、スケールアップ・サーバー、そして、AIの学習や推論に最適な高速コンピューティング用サーバーを提供しています。また、企業の大規模基幹システムを担うSAP HANA環境の効率的な構築と安定稼働に貢献する認定ハードウェアも提供しております。
IBM Power Systemsが提供するスケーラビリティーはハイブリッドクラウドに最適です。また、災害対策のバックアップ環境や、開発・検証環境構築のためにIBM Power SystemsのLPAR(論理区画)をIBM Cloud経由で従量課金にて活用できるIBM Power Systems Virtual Serverもご利用いただけます。
明確なロードマップのもと、時代が必要とする機能を提供するために確実に進化を続けているIBM POWERプロセッサーとIBM Power Systemsにご期待ください。
関連情報
Deep Blueは、チェス専用のVLSIプロセッサーを搭載しているとはいえ、専用機ではなく商用機であるIBM RS/6000 SPで構築されました。(ちなみに、初代のIBM Watsonも、商用機であるIBM Power 750 Expressで構築)
オペレーティング・システムとしてIBM AIXを搭載するIBM RS/6000 SPは、実は、日本に縁があるUNIXサーバーなのです。
1998年に開催された長野オリンピックの公式ホームページは、IBM RS/6000 SPをサーバーに用いて運用しました。それだけではなく、以下に記述した2つのインターネットのトラフィックに関する当時の世界記録を樹立してギネスブックに認定されました。
- オリンピック開催期間である16日間で記録した634,716,480ヒット
- 1998年2月20日11時55分に、1分間で処理した110,414ヒット
また、IBM RS/6000 SPは、1999年に「超並列コンピュータ(RS/6000 SP)」として、公益財団法人日本デザイン振興会が主催しているグッドデザイン賞を受賞しています。
【本記事のリードスペース画像について】
扇の骨のようなものが視認できることから察した方もいらっしゃるかもしれませんが、本記事のリードスペース画像は、Deep Blueの勝利を記念した団扇の一部を用いて作成しました。この団扇は弊社技術理事である佐貫さん所有のもので、本記事の制作にあたり佐貫さんが撮影して提供くださった画像を活用させていただきました。(編集担当:黒澤)
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