SPSS Modeler ヒモトク
エクセルやBIでは物足りなくなったマーケターへ。SPSS Modelerを使ったデータを活用した売上向上戦略の立て方・基礎編
2016年09月09日
カテゴリー SPSS Modeler ヒモトク | アナリティクス
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~ とあるマーケティングコンサルタントの備忘録 ~
意思決定支援に繋がるデータ分析のことを中心に書いていきます。
皆さんこんにちは。MVU_Chinoと申します。マーケティングコンサルタントとして働いています。
このブログでは、意思決定支援に繋がるデータ分析について書いていきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。
さて突然ですが、
「売上を伸ばしつつ、今後も我が社を支持してくれる顧客を増やす企画を検討して下さい。」
と上司から言われたら、あなたは何から取り掛かりますか?
経験と勘を頼りにプロモーションプランを立案する…という人もいるかもしれません。または、売上実績等のデータに基づいた“データドリブンな”提案をしたいと考える方も多いと思います。
最近では後者がマーケティング業界のトレンドになりつつありますが、頭では分かっていてもなかなか実現に移せないという方が未だ多いのではないのでしょうか。私のところには、データを活用したいが具体的に何をどうやればいいのか分からないというご相談が非常に多く寄せられます。
そこで今回は、データドリブンなマーケティングを行なっていくための基礎となる考え方や実際のデータ分析の一例を流れでご紹介したいと思います。
■ そもそも「売上」「支持してくれる顧客」とは
本題に入る前に、まずは「売上」に関する基本的な考え方を整理しましょう。売上金額の数字は下記の計算式で表すことができます。
客数 × 客単価 × 購入回数
商品数が増えたりするとこの計算式の限りではありませんが、それでも売上に係る基本的な要素はこの3つになります。
また、「支持してくれる顧客」については、中長期的に「客単価」「購入回数」を維持してくれる顧客と考えられます。
この3つの数字がすべて上がれば、必然的に売上も上がるということがお分かりいただけたでしょうか。
では、そのためには何をするべきなのか、各項目を分解して考えてみます。
■ 要素別の課題と対策
①顧客数の向上 ― A:新規顧客を増やす
既存顧客は必ず休眠顧客化とともに減少していくため、新規顧客の獲得により売上を維持していく必要があります。しかしながら通常、新規顧客 の獲得コストは既存顧客の維持コストよりも5倍はかかると言われています。ですから、新規顧客に対して無策のように獲得コストをかけるのではなく、自社の ファンとなりそうなお客様にフォーカスした販促や広告を行う必要があります。
①顧客数の向上 ― B:既存顧客を減らさない(休眠顧客を減らす)
せっかく新規顧客を増やしても、1回きりの付き合いとなる顧客が増えるだけでは販促費がいくらあっても足りません。そのため、既存顧客が中長期的に自社サービス/製品を利用してくれるような施策を検討します。
②利用頻度の向上
先程の「既存顧客を減らさない」事にもつながることですが、利用頻度を高めるための施策を検討します。そのためには、自分に合ったサービス や商品があると感じさせることが必要です。また、フリークエンシープログラムを導入し、利用頻度が多くロイヤリティの高い顧客に対するサービスを強化する ことも有用と考えられます。
③客単価の向上
客単価の向上のために最も有益なのは、購入する商品点数を増加させることです。そのため、顧客のライフステージ/スタイル変化の兆候を把握し、顧客が“必要と感じる直前”にタイムリーに対応ができるようにする必要があります。
これらを具体的に検討していくため、ここで初めて売上データや会員マスタに基づく分析が必要だ、ということになります。「データ分析ありきの企画」ではなく、まずは目的をきちんと明確に定めてから、必要な分析を行なっていくことが肝要です。
■ どの課題から着手すればよいのか
まずは自社サービスの利用頻度が高く、かつ客単価が高い“自社のファン”ともいえる優良顧客を分析します。これにより、どのような顧客を獲得することが有益なのか、また一見さんから優良顧客へとステップアップさせるためには何が必要かを把握します。
図1.分析ポイントのまとめ
今回は下記のフローでデータベースの分析をしていきます。
▽分析~立案のフロー
- step1.優良顧客へのステップアップが見込まれる潜在顧客を抽出
- step2.ステップアップのために効果的な商品を抽出
- step3.ステップアップ商品を販売するためのプロモーション案を作成
なお、今回は新規顧客の獲得ではなく「既存顧客の優良顧客化」をフォーカスしたいと思います。その理由の背景にもなっている“顧客生涯価値”については、また別の機会に語りたいと思います。
■ 分析の概要
1. 優良顧客へのステップアップが見込まれる潜在顧客を抽出
→優良顧客~一見客のセグメントを行うため、「RFM分析」*1を行います。
顧客ID付の商品購入履歴データから、
- Frequency(利用頻度)
- Recency(最新買上時期)
- Monetary(購入価額)
基準で「優良顧客」~「一見客」までのセグメントを行います。
2. ステップアップのために効果的な商品を抽出
→先程抽出したセグメントにおける「併売商品」の分析を行います。
特に優良顧客で併売行動がよく起こりやすい組み合わせとその商品を購入している方々のプロファイルに注目し、ここからキャンペーン商品を把握します。
3. キャンペーン対象とする顧客の抽出
→優良顧客と併売商品のデータを元に、併売商品キャンペーン対象とする顧客の抽出を行います。
具体的には、現在優良顧客にはまだなっておらず、同一のプロファイルでかつメイン商品は購入しているが、併売商品はまだ購入していない顧客を抽出します。
4. プロモーション案の作成
対象となる顧客のプロファイル等を総合的に分析し、どのようなメッセージを届けるか検討します。
以上のフローにより、「売上を伸ばしつつ、今後も我が社を支持してくれる顧客を増やす」ための企画を組み立てる材料が揃います。
■ 使用する分析ツール
データ分析を行うことのできるツールはMicrosoft社のエクセルを始めとして多種多様なものがありますが、今回は私が長年ビジネスコンサルティングの現場で利用してきた「IBM SPSS Modeler」*2の、2016年8月現在最新バージョンであるver.18を利用したいと思います。
SPSS Modelerは、現在のように“ビッグデータ”が主流になる前から教育やビジネスの現場で活用されてきた予測分析ツールです。チームの1人ひとりの試行錯誤により発見してきた、新たな統計的傾向の把握や予測などのデータマイニングプロセスの社内共有、分析プロセスのブラッシュアップに最適なアプリケーションです。ウェブサイトを見ると30日間無料で使用できる評価版もあるようなので、ぜひ一度使ってみてください。
例えば下記のような方、またそういった悩みを抱えているメンバーが自分のチームにいる方に是非おすすめしたいツールです 。
Case1. エクセルで頑張って分析を行なっている方。
抽出された少量のデータをもとにエクセルで分析をしているが、ビッグデータをそのまま使って分析をしたい。また、より高精度、かつ時間を短縮して分析をしたい。新たな気づきや知見を得たい。
Case2. BIツールだけで高度な分析を求められてしまっている方。
近年急激に利用が広がったBIツールで社内のデータのダッシュボード化を実現し、傾向の把握などを行っているが、アドホックな分析を求められる場合に、ダッシュボード化を目的としたBIでは能率的に分析作業を行うことができず、予測機能や分析手法なども不十分と感じている。
また、SPSS Modelerは、分析におけるすべてのフローをアイコン化し、ドラッグ&ドロップで配置していくことで分析アルゴリズムが完成するという点も特徴の1つです。1分析プロジェクト単位が「ストリーム」と呼ばれており、その名の通りアルゴリズムを流れるように把握できる形で可視化・共有することができます。
例えば、
- データの組合せや複雑なパターンから分析に役立つデータ項目を作成
- 作成したデータ項目と他のデータ項目から統計解析で項目間の因果関係把握を行う
- 売上などの予測を行う
といった一連の作業をするには、他のソフトの場合作業がかなり複雑になる事が多いです。さらにこれを複数人で行うとなると、内容を共有・理解するだけでもかなり時間がかかってしまいますね。
その点、Modelerはとてもシンプルです。ノードという名前のアイコンが存在し、データ作成をするノードや統計処理を行うノードを繋げていくことで、 最終的に行いたい因果関係把握や売上予測などを素早く行うことが出来ます。そのため、例えば自分の行ったプロセスを他の人に見せても簡単にスキルトランス ファーが出来るのです。
図2.ノードを配置して一連の分析を行なった場合のストリーム画面
さて、このSPSS Modelerを利用して実際にどのような形で分析を行っていくか簡単に見ていきます。今回は、私が過去に企業セミナー等で利用してきた家電量販店の売上&顧客データのサンプルを使って例をお見せします。
■ 分析フロー
1)RFM分析
優良顧客を抽出するため、RFM分析を行います。
SPSS ModelerにはRFM分析用のノードが既に用意されているため、通常はRFMノードを活用します。ただし今回は操作者が各セルの詳細を把握した上で分 割を行うため、「データ分割」ノードにてRFMを設定し、優良顧客から一見客までをセグメントする手法を取っています。このようなやや複雑な分析アルゴリズムでも、プログラミングをすることなく短時間で作成することができる点もSPSS Modelerの特徴です。
2)併売分析
先程セグメント化した顧客リストから優良顧客だけをピックアップし、併売分析を行っていきます。
今回の併売分析の手法としては、Apriori*3ノードを活用します。なお、今回の「併売」の定義としては、同時併売ではなく、1顧客が購入後に改めて店舗を訪れて購入している商品を指しています。
図3.Aprioriノードを含むストリーム
結果、抽出したルールから優良顧客の購入商品点数が多い商品が抽出され、以下のような商品構成となりました。
図4.優良顧客の購入点数が多い商品の一覧
注:(前提条件=最初に買った商品)(結果=併売している商品)
注:データは分析用のサンプルデータです。
分かりやすいように、図5で前提条件(購入済商品)ごとにTOP2の結果(併売率 の高い商品)をハイライトしてみました。こちらを見ると、 A社のコールドプレスジューサー、B社のジュースミキサー、C社のミル&ジュースミキサーが優良顧客によく売れており、それらの併売商品も複数存在してい ることが分かります。
図5.購入済商品ごとの併売率の高い商品TOP2
注:データは分析用のサンプルデータです。
3)キャンペーン対象とする顧客の抽出
先ほど得た併売商品を元に優良顧客のプロファイルを集計すると、以下の結果が出ました。
図6.併売商品別 優良顧客プロファイル
上記表から、
「優良顧客はジューサーを買っているケースが多いが、性年代により購入するプロダクト(ジューサー)のタイプが異なっている」ということが読み取れます。
4)プロモーション案の作成
性年代によって購入するプロダクトのタイプが異なっているという傾向が見えましたので、
「併売商品を購入していただくにはプロファイルを考慮したお勧め広告が必要である」
という結論に達します。下記に、優良顧客が特に購入している商品とその商品概要、併売商品、購入者のプロファイルから見えてきた傾向を一覧として掲載しました。
図7.優良顧客による購入率が高い商品の概要と併売商品、顧客プロファイル
この中で言うと、コールドプレスジューサーを買われた方は比較的若く、トレンドに敏感で健康に気を遣う方が多いようです。
このプロファイルから、下記のような具体的な企画方針が導かれます。
○ターゲット:A社コールドプレスジューサーを購入済の20-40代男女
○プロモーション商品:アイ・スマートウォッチ/BALSスマート体重計
○コピー/クリエイティブの方向性:
前回買われている商品との連動性を踏まえた訴求をする。
野菜の栄養素を効率よく手軽に取っている方には、より短時間で健康になるために有効な、運動効果や健康が把握できるスマート家電がおすすめ。など。
あっという間に企画の骨子ができました。これで上司からの困難なオーダーにも応えられそうです。あとはあなたの企画書作成スキルにかかっていますね!
■ まとめ
昨今、マーケッターの業務を総合的に手助けするツールとして、マーケティングオー トメーションツールなどが多く登場してきました。ただし、莫大なコストをかけてシステムを導入しても、導入初期に少し触っただけでお蔵入りになってしまっ たり、操作方法が難解で結局属人的なツールになってしまったりといった声をよく耳にします。さらには分析内容に対しカスタマイズを行いたくてもどのような ことをすれば良いのか解らない、というご相談も過去に多くいただいてきました。
そういった状況を防ぐためには、まずツールを使うための明確な目標や課題を定め、目標を見据えたPDCAサイクルを設計することが非常に重要です。より効率的にマーケティングプランを作成していくためには、自分の環境に適した分析ツールを相棒として、またはその分析ツールをうまくチーム内で共有し、手間やストレス無くスムーズに行っていきたいものですね。そうすれば机の上に積み上げられたエナジードリンクの空き缶の数も少し減るかもしれません!
*1:RFM分析とは:優良顧客から一見までの顧客を把握するために顧客の購買データで取得可能な「最新購買日(Recency)」、「購買頻度(Frequency)」、「合計購買金額(Monetary)」の3つの視点で顧客をランク付する手法です。例えば、去年の4月~3月までの一年間において以下の2名のうちどちらがロイヤリティの高い顧客かと考えた場合に、「Bさんである」ランク付が出来る方法となっています。 例 Aさんは12万円購入し、最後に来店した日が3ヵ月前(12月)で、購入頻度が2回 Bさんは12万円購入し、最後に来店した日が先月(3月)で購入頻度が12回*2:SPSS Modeler マーケットプレイスはこちら
*3:Aprioriとは:一般的にAmazonなどで本を購入する際に、よく一緒に購入されている商品というお勧めの欄があるかと思います。 これらは過去の購入データから商品Aを買う際に一緒に購入している商品Bなどの併売ルール(アソシエーションルール)を発見しているのです。 代表的な例として挙げられるのがおむつを買った人はビールを買う傾向があるというものです。 これは、おむつを買いに行かされた旦那がついでにビールを買うということらしいです。 大量のデータからアソシエーションルールを抽出するためにIBM研究所が研究を始め、Apriori(アプリオリ)というアルゴリズムでアソシエーションルールを実現しました。
【そのデータ、活用できていますか?】データドリブンマーケティングがトレンドとなっている昨今ですが、実際のところほとんどデータを活用できていないというマーケティング担当者はまだまだ多いのではないでしょうか。IBMでもセミナーを実施したことのあるMVU_Chino氏による、マーケティング企画立案術をご紹介。
*本記事は2016年8月18日時点にはてなブログに掲載された『とあるマーケティングコンサルタントの備忘録』のブログ記事を転載、製品紹介リンクなどを一部再編集したものです。
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