IBM Industries
一世紀以上の歴史を持つイタリアの鉄道のスマート・モビリティーを推進するアプリケーション
2020年01月20日
カテゴリー IBM Industries
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イタリアの鉄道会社グループであるフェッロヴィーエ・デッロ・スタート(以後、FSと記述)は、モビリティー・アプリケーション(交通アプリケーション)を作成するにあたり、多種多様な交通手段を考慮する必要がありました。
「それはイタリアならではの話です」と、FSテクノロジーのIT責任者であるDanilo Gismondiは語ります。「イタリアは、山、海、都市、農村、さまざまな気候や文化といった、大国が直面しているあらゆる課題を抱えています」
FSが作成したアプリケーションであるNugoは、2018年夏のリリースから1年の間に、200を超える交通機関を追加しました。現在では、高速線(高速鉄道)、地下鉄、タクシー、ツアー・バス、フェリーを含む12種類以上の交通手段を一緒に提供しています。特筆すべき点は、利用者が移動にあたって利用する全ての交通機関を、Nugoは単一のチケットに集約して提供することです。
Nugoは、FSグループの”Extended Customer Experience project”の基盤です。”Extended Customer Experience project”は、一世紀以上の歴史を持つイタリアの国有鉄道であるFSとインフラ企業であるFSテクノロジーが、顧客やテクノロジーとの関係を再考するために開始した戦略です。
FSテクノロジーのCEOであるAlessandro La Roccaにとって、短い旅であってもNugoが最大限に活用される可能性があります。「まず、フェリーに乗ります。そして、次はケーブル・カーです」
*イタリアには坂が多い都市や町が何十もあり、ケーブル・カーが交通サービスを提供しています。
イタリアの国土が持つ密度、多様性、地理的条件は、FSグループが優れたモビリティー・アプリケーションの開発に適している理由でもあります。なぜならば、FSグループには、北部のコモ湖から南部のカラブリアに至る、あらゆる場所への旅行を114年にわたって提供し続けている経験があります。この経験が生かされているNugoには、他のスタートアップ企業が作るアプリケーションに対して明確な優位性があります。
スマート・モビリティー(交通システムの最適化)をリード
Nugoのチームは、FSグループに数多くある既存部門から独立した組織として設置されました。
FSテクノロジーのCEOであるAlessandro La Roccaは次のように語ります。「Nugoが斬新でなければならないことは分かっていました。つまり、交通機関が国有かどうかは関係ありません。重要なことは、利用者がどのように移動したいかを踏まえて、出発地から目的地への最適な移動を実現することなのです」
利用者がNugoを起動して最初に目にするのは、「Dove vuoi andare?」というプロンプトです。このプロンプトは、言語設定で英語を選択すると「Where would you like to go?」と表示されます。
例えば、カプリ島にいる利用者が、ローマに帰る前にナポリで昼食を取りたいとしましょう。「dove vuoi andare?」に対して、ナポリを経由してローマに向かうことを回答すると一連の旅行の行程がNugoに表示されます。
この利用者の旅行は、ナポリ港に向かうフェリーから始まります。ナポリ港到着後は、バス、タクシー、あるいはケーブルカーのFunicolare centrale線からの選択となります。昼食後は、まず、地下鉄に乗りガリバルディ広場に向かいます。そして、ローマに向かうために、高速線または低速ながら手頃な料金で利用できる列車のどちらかを選択することになります。ローマへの到着後は、タクシーかシェア・サイクルを選択して最終の目的地を目指すことになります。利用者が、全ての選択肢から利用する交通機関を選択すると、旅行行程の全ての区間で利用できる単一の旅行券がNugoに表示されます。利用者は、その旅行券を有効化して旅立つのです。
マルチモーダルな旅行が人気を獲得
見出しの「マルチモーダル」とは、効率的な交通環境の実現をするための複数の交通機関を連携させる交通施策のことです。すなわち、旅行者が交通機関ごとにチケットを購入して利用するのではなく、単一のチケットで複数の交通機関を利用できることを意味します。
鉄道、貨物、物流に関するIBMのリーダーであるKeith Dierkxは、FSグループの戦略(”Extended Customer Experience project”)を具現化したアプリケーションであるNugoが、旅行者の最大の願いである移動の手段や手続きにおける簡素化と容易さを提供できていると考えています。
「旅行者が気にすることは、電車、バス、飛行機のどれを使っているかではありません。安全かつ容易に、適正な価格で、目的地に到着することが大切なのです。モバイル・テクノロジーを活用することで、シームレスでマルチモーダルな旅行を、既存の輸送関連企業は実現できるようになりました」
Nugoは、FSグループとIBMがイタリア鉄道トレニタリア(Trenitalia)向けに10年前に開発したチケット・システムから進化を遂げたアプリケーションです。
輸送費用の抑制と高品質のサービス提供を可能とするために、欧州連合(EU)は2000年以降、法令の改正によって鉄道産業における大規模な規制の緩和を実施しました。そこで、FSグループは、新規に参入してくる企業に先んじるために、顧客サービスとマルチモーダルの統合に重点を置いてきました。このFSグループの取り組みは、IBM Cloud上に構築されたデジタル予約や発券システムのための鉄道用統合商業プラットフォームであるPICOによって結実し、FSグループのネットワークのシームレスな統合を実現しました。
PICOは幅広い用途への対応が可能であることが証明されたため、Nugoのバックエンドとなりました。PICO には、タクシーや観光バスといった交通機関も統合されました。その後、FSグループとIBMは、マルチモーダル用のアプリケーションとして新たなユーザーインターフェースを作成し、Nugoをリリースしました。
FSテクノロジーのIT責任者であるDanilo Gismondiは、「当社の歴史、伝統、技術が組み合わさることで、モビリティーに関する長期的なビジョンが得られます」と述べました。そして、それは、進化を続けるビジョンなのです。
AIが推進するモビリティー・プラットフォーム
“Extended Customer Experience project”は、急速に進化する顧客の需要に対応する必要性を強調しています。
Nugoの最新機能は、顧客である消費者の需要を優先する方針の一例です。新しいツールは、テキスト、電子メール、ソーシャルメディアのダイレクト・メッセージを介して、顧客が友人や親族に移動の情報を転送できるようになりました。FSテクノロジーのCEOであるAlessandro La Roccaは、このような移動情報の共有によって、移動に要する時間や乗り継ぎ時間の短縮と大量の旅客輸送を促進するとともに、「環境に配慮した」歩行による移動を顧客に促そうとしています。
また、音声認識機能やAI対応のチャットボット機能の追加により、顧客はテキスト入力か声による指示で仮想エージェントにチケットを注文できます。
Nugoは、FSグループの進化だけでなく、イタリア全体の交通習慣を変えられることを証明しています。
FSテクノロジーのIT責任者であるDanilo Gismondiも、Nugoによって交通習慣が変化した一人です。「かつての私の車の年間走行距離は20,000kmでした。でも、昨年は9,000km未満でした。正直なところ、私は自分の車を完全に放棄することを考えています」
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*本記事は、Can a smart mobility app propel Italy’s century-old railway?の抄訳に、一部加筆したものです。(Text by : Takumi Kurosawa)
Matt A.V. Chaban
Content Producer
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