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モビリティー・サービスの向上を支えるブロックチェーン
2020年03月23日
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日本では、国土交通省が「MaaS元年」と宣言した2019年6月以降、「MaaS(マース)」の文字を目にする機会が多くなりました。「Mobility as a Service」が正確な記述であるMaaSは、多様な交通手段をデータで結びつけることによって、モビリティー(移動)をサービス化するものです。そして、MaaSが実現するサービスは、「マッチング・サービス」「マルチモーダル・モビリティー・サービス」「移動体の中でのサービス」の3つに分類できます。
現在、国内で行われているMaaSの実証実験の多くは、「マルチモーダル・モビリティー・サービス」に関するもので、複数の交通機関の連携による交通環境の効率化を検証しています。具体的には「複数の交通機関を用いる移動で必要となるチケットの手配・決済を、MaaSによって一括で行う」ことなどを目指しているのです。
このように述べると、鉄道やバスを乗り継げるSuicaなどの交通系ICカードもMaaSと思われる方もいらっしゃるかもしれません。確かに、交通系ICカードは複数の交通機関を乗り継げます。ただ、決済は交通機関ごとに行われていますので、「決済をMaaSによって一括で行う」こととは趣旨が異なります。むしろ、周遊券の方が、「決済をMaaSによって一括で行う」ことに近いでしょう。
事実、国内のMaaS実証実験の中には、対象交通機関の対象区間が乗り放題となるデジタル周遊券的なサービスを検証しているものもあります。周遊券の場合は、利用可能な交通機関と利用可能な区間が規定されているため、交通事業者が複数であっても明確な収入分配が行えます。もちろん、利用者は、一度の決済で発行される単一の周遊券で自在に移動できるので、周遊券は「マルチモーダル・モビリティー・サービス」の1つの形と見なせます。
では、利用者が複数の交通機関の様々な区間を自由に組み合わせて移動する場合にも、周遊券と同様のことを実現できるのでしょうか?
交通事業者間の収益分配の難しさ〜ドイツ鉄道のMaaS事例に学ぶ〜
「マルチモーダル・モビリティー・サービス」による利用者の利便性向上を目指して、鉄道、バス、タクシー、レンタカーなど、様々な輸送モードの多数の交通事業者がつながることは、利用者によるチケットの購入、管理、検証、収益分配の難易度が増すことを意味します。
難易度が増す要因について、ドイツ鉄道(Deutsche Bahn AG、略称:DB)グループのITサービス・プロバイダー企業であるDB Systelで、ブロックチェーンとDLT(分散型台帳技術)ソリューションを担当しているDaniel Kindler氏は「多くの場合、収益分配は手動で処理されており、標準的な契約フレームワークはありません。交通事業者間の収益分配に関する契約は四半期ごとに確定されていますが、事業者によってはさらに時間を要する場合があります」と、語っています。
交通事業者間の収益分配に関する課題を解決できないことには、「決済をMaaSによって一括で行う」ことの実現は困難なのです。
スマート・コントラクトを使用した収益分配
「マルチモーダル・モビリティー・サービス」では、多様な交通事業者を接続して、利用者にシームレスな移動体験を提供することに重きを置かれがちです。その前提となる交通事業者間のビジネス上の課題を解決することで、結果として移動における複雑さの軽減と優れた顧客体験を提供できる、と考えたのがDB SystelとDB Systelの戦略パートナーであるIBMでした。そして、課題の解決に最も有望なテクノロジーがブロックチェーンであると判断したのです。
DB SystelでブロックチェーンとDLTソリューションを担当しているMoritz von Bonin氏は、次のように語ります。
「ブロックチェーンを使用することで、全ての発券トランザクションが透明で監査に耐えうる記録となることに気づきました。ブロックチェーン内のデータは暗号化ハッシュで保護されているため、データが操作されていないという確信を持って情報を共有できます。旅行業界がブロックチェーンを用いることで、顧客は単一のトランザクションとして、複数の交通事業者やサービス事業者を用いる移動への支払処理を行えます。また、交通事業者においては、顧客が支払った金額がブロックチェーン内で自動的かつ正確に分配されることを意味します。同様に、発券と関連サービスについても、交通事業者間の手動調整が不要で自動的に処理できます」
そして、DB Systelは、ブロックチェーン・プラットフォーム上にスマート・コントラクトを構築し、例えば、チケットのトランザクションが発生すると自動的に特定の処理を実行するビジネス・ロジックを使用しています。
DB SystelのDaniel Kindler氏は、次のように語ります。
「ブロックチェーンとスマート・コントラクトを組み合わせることで、収益分配やチケットの検証プロセスなどを転換および自動化することは、輸送業界の重要な課題の解決に役立ちます。もちろん、全ての社内部門と社外の交通事業者が利用するスマート・コントラクトの作成は大きなタスクです。 それでも、全員がルールに同意すれば、ブロックチェーン・プラットフォームに参加する企業の全てで、運用コストが大幅に削減されます。IBMのブロックチェーンのソリューションとサービスを使用することで、全体のコストを約半分削減できました。交通事業者のパートナー企業間のプロセスが自動化されることによって、複数区間にまたがる移動を単一のチケットとして購入可能になったため、利用者の時間と労力も減らせます」
DB Navigator アプリ(ドイツ鉄道)で利用者の満足度向上を実現
ドイツ鉄道グループは、DB Navigatorというスマートフォン用アプリケーションをリリースしています。利用者はDB Navigatorによって、列車の出発時刻や到着時刻などのリアルタイムの情報を確認できるとともに、バスや路面電車を含む列車のチケットの予約やモバイル決済が行なえます。つまり、「決済をMaaSによって一括で行う」という、MaaSの「マルチモーダル・モビリティー・サービス」をドイツ鉄道グループは提供しているのです。
利用者が「決済をMaaSによって一括で行う」ことは、ブロックチェーンとスマート・コントラクトによって、自動化された透明性のある収益分配を交通事業者の間で行う仕組みが構築できたからこそ実現できました。MaaSの実証実験が進む日本においても、ドイツ鉄道を参考に、IBMのブロックチェーンを用いたモビリティー・サービスの向上を検討してみてはいかがでしょうか。
*本記事で引用したドイツ鉄道およびDB Systelに関する記述は、DB Systel and IBM を参考にしています。
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