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身近な疑問をヒモトク#05-コロナ禍の教育現場。データでリモート授業をサポートできないか?

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みなさん、こんにちは。AITの西村です。

今回はMicrosoft Teams for Educationのログを利用した教育現場への活用方法についてご紹介します。

学校ではオンライン授業も一般的になりました。対面に比べて配慮が行き届かないのではないか?と心配される方もいらっしゃいますが、本当にそうでしょうか。リモート授業のログデータを利用することで、個々の生徒の意見が拾えたり、教師の労働時間の負荷軽減に役に立つと私は考えています。

 

その前に自己紹介を少しだけ。

AITは1991年に株式会社SRAと日本IBMが共同出資により設立した会社です。

私は入社以来、開発事業部本部に所属し、様々なシステム開発案件やデータベースの設計・構築に従事していました。IBMが2009年にSPSS社を買収、Analytics分野を強化していった関係もあり、2012年以来、クライアント様に対してSPSSを中心としたデータ活用の支援をしています。

 

<コロナ禍の緊急事態宣言、リモートワークやリモート授業の普及>

2020年1月に始まった新型コロナウイルスですが、当初はテレビの中の出来事でした。その後、あっという間に広がり、緊急事態宣言が出たころは、「この先、どうなってしまうのか?」と皆様も心配されたと思います。

まもなく学校も一斉休校になり共働きの世帯の保護者は対応に苦慮した人も多かったのではないでしょうか?外に出られない理由から「リモート」の導入が会社や学校で急速に進みました。

私の二人の子供も、2020年7月からリモート授業を経験。当初はZoomで始まり、秋からは、Google ClassroomやMicrosoft Teams for Educationを利用するなど教育現場では、手探りのリモート環境の確保になりました。

「IT企業に勤めている人間ならともかく、あまりITに詳しくない子供でも使えるものなのか?」と心配しましたが、Z世代には余計な心配でした。現在高1の下の子は、学習指導要領が変わり、「情報」が必修化になったこともあり、PCやタブレット、ITに対して抵抗感がなく、楽しんでやっていました。

 

 

<Microsoft Teams ログ分析のきっかけ>

事態が少し落ち着きを見せ始めた2020年の秋、ある地方自治体の方から「ある都道府県の高等学校で実施しているMicrosoft Teams for Educationのログを使用した効果検証をしないか?」との相談を受けました。

何度かお打合せをする中で、担当者の方がもつ強い要望は

・コロナ禍の状況にあっても生徒の学力が低下しないようにしたい

・「リモート授業」や「対面、リモートを同時にするハイブリッド授業」などの準備で増大する教師の負担を何とか軽減したい

なのだと理解しました。

私自身も、個人的な経験から「なんとか応えたい」と考えるようになりました。

というのも、かつて子供の小学校のPTAの副会長をしていた私は学校に出向く機会が多く、先生方の夜間や土日の授業外負担を痛感していたからです。当時から頭が下がる思いでしたが、文部科学省が進めるGIGAスクール構想やMicrosoft Teams for Educationのログを分析することで、教師への負担が少しでも軽減される一助になればと思い、効果検証をお受けしました。

 

< Microsoft Teams for Educationのログって???>

それまで、私たちはTeamsのログに関する知識はありませんでした。まず始めにMicrosoft Teams for Educationには、どのようなログがあり、そのログがどのようなファイル形式なのか?、保管期間や取得方法は?といった調査から着手しました。それと並行して、お客様から試行検証で実施したい施策をヒアリングして、現時点での実現可否を決定していきました。Microsoft Teams for Educationで使用したログは、大きく分けて、次の2つのログがあることが分かりました。

 

・監査ログ

・Graph APIで取得したログ

 

監査ログとは文字通り、各ユーザがチームを利用した時に出力されるログになります。監査ログからは、チャネル管理の情報やSharePointアクティビティに関する実行ログなどを取得することができます。

 

Graph APIとは、Microsoft社がMicrosoft365の膨大なデータを取得するために提供している「統合型プログラミング モデル」の一部のことです。Graph APIを利用することで、監査ログでは取得できない各ユーザの動作ログを取得可能になります。

 

これら2つのログのデータを成形、加工することで、各生徒の次のような情報を利用できるようになります。

・ログイン時間

・授業資料ダウンロード回数

・チャットのコメントの内容、投稿回数

・授業動画の視聴開始時間、回数

・課題の内容と、課題把握有無、提出日時、評価内容

 

また、各学校が保持している校務系のデータ(生徒の出欠情報、生徒の定期考査や成績データ)と関連させてみることにより、さらに多くのアクティビティがわかるようになります。

 

<実施した分析シナリオの例>

それでは、次に実際に実施した内容について簡単にご紹介しましょう。

 

1.Web授業に参加した生徒のコメントを分析

Teamsで古文の授業を実施し、授業後に生徒に自由にコメントして貰い、そのコメントをテキスト分析したイメージです。「分かった」「理解」「興味」など肯定的な意見が多数ですが、「分からない」「出来ない」「難しい」といった否定的な意見も見て取れます。

このような画面を教師のタブレットにだけ、授業中に表示させると、授業内容に対する生徒の理解が可能になりますし、さらに「分からない」「出来ない」「難しい」といった意見を発言した生徒に対して、フォローすることも可能になると思います。

 

※SPSSでテキスト分析を実施した後に、Tableauを使用して表示

 

 

2.世界史Bの各班による発表に対する意見をテキストリング分析

Teamsで世界史の授業を実施し、各班による「十字軍遠征について」に関するグループ発表を行いました。下記のグラフは、各班に対する意見をテキストリンク分析したイメージ図になります。「説得力があった」「まとまっていた」「視点がよかった、面白かった」という意見が多かったですが、一部「声が小さい」「聞こえにくい」「途切れる」など、ネットワークや機器に起因する意見もあることが分かります。円の大きさが発言数を表しているため、どのような単語の発言が多かったか?、単語間の結びつきはどのようになっているのか?を直感的に把握することが可能です。紙などで記入する場合、各班に対するコメントは先生によるピックアップや、教師が全部のコメントに目を通したうえでの要約という形でまとめられることが多いですが、下記のテキストリンクを利用することによって、客観的な集約が可能になります。

 

 

<考察>

対面の授業では、クラス内の生徒間の人間関係などが影響して、どうしても積極的な子やクラスの中心的な子の発言が目立ってしまいます。Microsoft Teams for Educationのログを利用したリモート授業をすることで、対面では発言出来ない生徒の声も同じように拾うことが可能になります。

また、成績や出欠データ、部活や委員会と関連させて分析することにより、動画の視聴回数と定期考査の相関関係や、課題の提出期間や時間と課題の評価に関連性があるのか?、などを分析することが可能です。また、中学・高校では教科担任制になり、生徒視点でいくつ課題が出ているのか?  などその生徒にどの程度の負荷が掛かっているのかを把握することが難しくなりますが、Teamsのログ分析を利用することにより、簡単に把握することも可能です。

 

 

<今後の課題>

生徒と教師が1:1のコミュニケーションをとることが可能になります。これは生徒一人一人の声を聞くことが出来る反面、二人のやりとりが周りから見えなくなり、問題発見が遅れる可能性があります。そのため、現場の管理職の方がいつでもチェックできるようにし、AIなどを利用し不正な使用の可能性がある場合、速やかにアラートをあげる仕組みが必要になります。

 

また、現場の教師の方への、トレーニングやガイドなどの手厚いサポートも必要になります。ただでさえ、多忙を極めているのに、このようなシステム導入で、さらに忙しくなってしまっては、本末転倒になってしまうためです。

 

 

<まとめ>

今回は、弊社で実施したMicrosoft Teams for Educationのログを使用した分析例についてご紹介いたしました。今回ご紹介した事例以外にも、進学実績や教育関連産業のデータと組み合わせることで、さらに有意義な分析が行えると思います。

一見するとリモート授業は、生徒から見ると、どうしても受け身主体で、対面授業と比べて集中力が散漫になりやすいです。教師から見ても、生徒の反応が伝わりづらく、やりづらさを感じていると思います。しかしながら、ツールを上手に利用し、環境を整えることで、生徒一人一人の意見も拾えるようになりますし、教師の負荷軽減にも繋がっていくと思います。

この記事を読み、少しでも興味を持たれた方は https://ai365.jp/ でご連絡頂ければ、さらに詳細にご説明させていただきます。

 

次回の連載、第6回目はマーケティングバリューアップの千野さんが「答えはお客さんの中にある?!アンケートの自由回答からニーズとベネフィットを定量化」を執筆してくださいます。テキスト分析とAMOS(共分散構造解析)を解りやすく説明してくれます。また、並行連載中の「ブログで学ぶSPSS Modeler」はHSE南雲さんが「モデル作成をもっと楽に!特徴量の選択もSPSS Modelerにおまかせ」を書いてくださいます。どちらもお楽しみに。

 

SPSS Modelerの詳細についてはこちら

これまでのSPSS Modeler ブログ連載のバックナンバーはこちらから

 

 

 

西村 剛

株式会社AIT

開発事業本部
ソリューション戦略第2部

 

 

 

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