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日経 xTECH EXPOセッション「IBM基礎研究所の事故予測モデルによる安全運転支援の未来」レポート

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先日東京ビッグサイトで開催された「日経 xTECH(クロステック)エキスポ」で、多くの来場者の関心を集めていたセッションが「IBM基礎研究所の事故予測モデルによる安全運転支援の未来」です。

今回は、参加者アンケートを通じて「もっと詳細を知りたい」という声を多数いただいたセッションの中身を、一部ご紹介します。

なお、10月後半に開催される東京モーターショーでも、同テーマのセッションを開催いたします。ご来場される方はぜひIBMのセッションやブースにもお立ち寄りください。

IBM @東京モーターショー2019 | 先進テクノロジーで創造する MaaS時代のモビリティー

 


講演は、東京基礎研究所の数理科学担当マネージャー 吉住 貴幸が前半を、Watson IoT事業部 テクニカルセールスの村田 大寛が後半を担当しました。

まず、基礎研究所の吉住が、事故予測モデルとそれを生み出したIBM研究所(リサーチ)について紹介しました。

講師 IBM東京基礎研究所 吉住貴幸

 

少々宣伝じみたものとなりますが、まず最初に、私が所属するIBMの基礎研究所と東京リサーチラボについて紹介させてください。

IBMの基礎研究所は世界に10数カ所あり3000人の研究者が在籍しており、、その1つが東京基礎研究所になります。長い歴史を持つ東京ラボですが、特に私が担当している数理科学グループは大学や研究学会などのアカデミアとの結びつきも強く、「科学の発達への貢献」と「実世界の課題解決」に大きく寄与していると自負しています。

 

今日ご参加いただいている方の中には、20数年前「コンピューターがチェスで世界チャンピオンに勝利した」というニュースが世界を騒がせたのを覚えている方もいらっしゃるかもしれません。

近年ではIBMと言えばWatsonというAIをイメージされる方も少なくないと思うのですが、Watsonもチェスのチャンピオンに勝ったスーパーコンピューターをルーツとしており、それも私たち数理科学グループから生まれてきたものです。

人工知能でさまざまな社会課題やビジネス課題に取り組むという現在の大きな流れも、私たちがその一端を生みだしたと言っても過言ではないでしょう。

 

それではここから、本日の主題となる「AIによって自動車事故を減らすことができるのか」について話をさせていただきます。

 

まずお伝えしたいのは「AIは魔法の箱ではない」ということです。自動車事故には予測可能なものと不可能なものがあり、さらに予測可能なものであっても運転者がその予測に対して積極的に対応しようと考えるかどうかが非常に大きなポイントとなります。

具体的には、運転者が意図して、あるいは自身の運転技術に自信を持っていて違反や危険運転をしているものにはAIも何もできません。

そうではなく、運転手が無意識のうちにわき見運転や漫然運転をしていたり、不注意から安全不確認や信号無視、一時不停止をしているのであれば、運転者の挙動をセンサーで捉え、そのデータをAIが学習して分析しアラートなどで伝えることにより、事故全体の62%は削減できる可能性がある事故だろうというのが私たちの結論です。

 

時間の関係もあるので、ここでは技術的なポイントを3つに絞って簡単にお伝えさせていただきます。

 

ANACONDA(アナコンダ) – IBM東京ラボが開発している相関分析による異常検知エンジンで、「IBM Anomaly Analyzer for Correlational Data」の略となっています。正常時に成立しているセンサー間の相関関係が異常時には崩れるという仮定を用いた異常検知アルゴリズムで、大量の正常データから変数間の依存関係グラフを計算して「正常時モデル」を事前に構築しておき、直近の依存関係グラフとの差異から異常の有無を検知します。

参考: ビッグデータ分析による異常検知 – ANACONDA による異常検知モデル開発の手引

 

DyBM(ダイビーエム) – 生物の神経回路に近い学習則「スパイク時間依存可塑性(STDP)」を備えた人工ニューラルネットワークで、時系列に並んだデータのパターンを学習、再現できる特長を持っています。

世界的な科学誌「Scientific Reports」でも公開され、昨年みずほグループさまが、この技術をベースとした市場予兆管理ツールを導入したことが大きな話題となりました。

参考: コンピューターが生物のように学習する方法をIBM東京基礎研究所の研究員が実証

 

Driving behavior estimation(運転行動推定) – 加速度センサーによる急ハンドルや急ブレーキへの警告が主だった従来の危険推定技術は、瞬間的な動きから荒い運転などを判断するものでした。ただこれでは、いざアラートが発信されても時すでに遅し…ということも少なくありませんでした。

今回私たちが研究したのは、より長期的な動きの中から運転者の行動や状態を推定するもので、事故防止としての意味合いが強いものとなります。また同様に、以前は車種などから運転者の属性を特定していたのですが、今日では「一般ドライバー」と「個別ドライバー」の2つを同時に学習し、総合的に判断することで事故予測精度を大きく向上させています。

 

それではここでWatson IoTの村田にバトンタッチし、こうした技術による事故予測モデルを、実社会に反映させるためのソリューションについて紹介してもらいます。

 

講師 Watson IoT事業部 村田 大寛

 

私からは、運転支援サービスである「IBM IoT Connected Vehicle Insights」 — 大変長い名前なのでここからはCVIと呼ばせていただきます — CVIの機能と、それがもたらす価値について紹介させていただきます。

CVIの最大の特長はインメモリによる高速処理です。

  • 車両の状態変化の検出 – 運転ふるまい、走行経路、車両センサーデータ
  • 環境変化の検出 – 天候、交通量、事故、イベント

 

これらの「車両」と「環境」の変化から随時送られ続けるインプットを、リアルタイムにアルゴリズムで分析して、運転者に「音声、画面表示、ハプティクス(振動などの筋肉への通達)」を通じて「事故リスク、眠気」をフィードバックとして通知します。

なお、このアルゴリズムは、IBMの研究所で開発したものを提供することができるのはもちろんですが、自動車メーカーや車載機メーカーが独自に開発したアルゴリズムを追加することも可能です。

 

このようにデータ量と処理量が大変多くなる中で、すでに数十万台の車両が同時接続して使用しているという実績がCVIにはあり、遅れはほとんど発生していません。

 

今回の事故予測モデルが、今後どのようにCVIを通じて社会やビジネスに価値を提供できるかを、私なりに業種別に考えてみました。

  • 自動車・車載器 – 安全運転支援サービスの提供 〜 ブランド価値向上
  • 保険 – 保険支払額の減少 〜 新たな保険料率の提案
  • 運輸 – 安全運転への意識向上 〜 サービス品質の向上

 

事故予測モデルを導入することにより、自動車メーカーや車載器メーカーは、より多くの運転者やその家族に安心のブランドとして選ばれるようになるでしょう。

そして保険会社は、今よりも多くの方に安心を届けられるように、そして運輸会社は信頼できる運輸物流パートナーとして選ばれるようになるのではないでしょうか。

 

最後に、私の願いを含めた今後のCVIと社会の発展シナリオをお伝えし、セッションを終了させていただきます。

今後、AIはさらに走行データの学習を続け、運転者本人も意識していない事故リスクや、過労・加齢による運転傾向の中長期的な変化を把握した早期通知などを通じて「安全運転の促進」を強めていくことでしょう。

そしてCVI利用者数が増加していくことで、学習データの増加と併せて事故予測モデルも継続的に改善されていき、事故減少による「安全な車社会」の実現を早めてくれるのだろうと思っています。

 

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

 

 

問い合わせ情報

お問い合わせやご相談は、Congitive Applications事業 にご連絡ください。

 

ソリューション紹介ページ: IBM IoT Connected Vehicle Insights

 

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