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エネルギー業界インフルエンサーに聞く | 植生管理と先進的気象アナリティクス
2020年11月20日
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植生の維持・管理は、公益事業者にとって重要な課題です。木や枝の成長は停電やサービスの中断を引き起こす可能性があり、放っておいては森林火災を引き起こしかねません。
米国連邦エネルギー委員会によれば、植生維持・管理が全停電の92%に関与している可能性があるとしており、公益事業者には戦略的な計画が必要不可欠なものとなっています。
植生による停電被害の影響の大きさをご理解いただくために、1つ事例をお伝えします。
2003年8月に発生した北米史上最大規模の停電は、オハイオ州で樹木が送電線と接触したことが原因でした。影響は5000万人にまで及び、対応費用は推定60億ドルとなりました。
総合メディアGeospatial Worldによると、停電の25%から50%が植生によるとされる地域もあります。人手による高リスク地区の特定にはかなりの費用が必要であると考えられており、エネルギー関連メディアPower Gridによると、機械的な手法で植生管理を行う際の平均費用は1エーカーあたり143ドルとなり、数年で莫大な金額となってしまいます。
公益事業者は、近年の大規模森林火災との関連についても注目されています。ロサンゼルス・タイムズ紙によれば、2014年から2017年の間に、カリフォルニアで起きた火災の2,000回以上が、地域最大の公益事業者3社が所有する機器により引き起こされたとされており、植生と電線の接触がその原因と推測されています。
以上のように、停電防止と森林火災予防の両面から、公益事業者はより効果的な植生管理の必要性をこれ以上なく高めている状況です。
■ 効率的かつ網羅的な植生管理を行うには?
それでは、どのように効率的かつ網羅的に植生管理を行えばよいのでしょうか?
従来は、時間と費用のかかる現地検査、および検査履歴管理が行われていました。こうした検査のほとんどは人手によるもので、一部にはドローンによる画像検診も用いられていたものの、人手であれドローンであれ、どちらも対象範囲すべてを効果的にくまなく検査することはできていませんでした。
現在、公益事業者はこの課題にさらに積極的に取り組むために、AIとアナリティクスを活用したマルチバンド衛星画像および航空画像を用いた植生管理へと移行しています。
具体的には、AIベースの視覚認識技術により衛星画像を分析し、植生の高さや幅、湿り具合を判断しています。
この検査方法は、植生と電力機器の距離の確認により、植生による火災や停電リスクの判断に用いることができます。
公益事業者はデータのチェック頻度を上げることで、停電予防手段の計画策定を実施できる他、問題発生が予測された際にはインシデント管理チームや顧客にアラート通知を、さらに必要と判断された際には緊急対応チームへ迅速にアラートを送り、被害を未然に防ぐことができます。
■ 高度な分析とAIにより、2021年、植生管理の夢物語が現実に
高度な分析とAIの実装により、公益事業者は、包括的な洞察、機器の管理、資産の保護、自然の気まぐれへの対処方法を手にすることができ、顧客と規制当局の双方の期待に応えることができます。
それでは、取るべき具体的なアクションには、どのようなものがあるでしょうか?
IBMは、エネルギー業界を代表するインフルエンサーに、AIと高度な分析が業界に与える影響について質問してみました。
・ 高解像度衛星画像 | ケヴィン・オドノヴァン氏
「何十年間も、管理下のすべての植生を「画像」で確認するという考えは、非現実的なものと考えられてきました。そして「仮に、手頃な価格で全範囲の植生を画像で確認できるようになったとしても、それをチェックする時間などないのだから、素晴らしいアイデアであってもしょせん夢物語だ」と人びとは言っていたのです。
しかし現在では、高解像度の衛星画像を安価に取得し、ドローン、LIDAR、GISなどからのデータを追加し、時間軸に沿った形で植生の状態を確認できるようになっています。
さらに状態を確認して問題の有無を教えてくれるのは人間ではなくソフトウェアなので、人手の心配は不要です。データをベースに、気象と天候予測モデルを用いて、今の状態だけではなく数週間後や数カ月後の問題発生場所をも把握できるのです。
高度な分析は、公益事業の植生管理戦略と運用へのアプローチ全体に変革をもたらしています。公益事業者は、コスト削減、リスク軽減、電力網の復元力向上、そしてこれらすべてに対する積極的な計画と取り組みを、顧客をはじめとしたステークホルダーへしっかりと伝えるための通知機能を得ることができます。
夢物語と思われていたものが、すべて現実に行えるようになっているのが今という時代なのです。」
・ コスト競争力の改善 | トーマス・ヒリック博士
「植生管理は、世界中の公益事業にとって重要なコスト要因です。データ駆動型ソリューションは、コスト競争力を改善し、予測の質を向上させるものであり、これから一層重要性を増していくでしょう。
鍵を握るのは、複数ソースからなるさまざまな情報を、いかにインテリジェントに統合できるかという点です。そして公益事業者によっては、予測以外の使用方法にも興味を示すかもしれません。
一方で、まだ懐疑的な公益事業者も存在しています。彼らに対しては、予測と共に、推奨行動を示してあげることが有効でしょう。また、参考事例を提供することで、新たなデータ主導型の植生管理アプローチの信頼性を証明していくことも役立つでしょう。」
・ 積極的な優先順位付けと実行を | ロビー・バーグランド(IBM ザ・ウェザーカンパニー)
「公益事業者は、昔から植生管理に頭を悩ませ続けてきました。経済的そしてロジスティック上の課題から、公益事業者は植生の状態を確実に掴むことができずにいたので、管理プロセスの非効率性は大きな問題でした。
その上、近年は植生のもたらすコストとリスクも増加し続けています。
そんな中、IBMは、マルチバンド衛星画像と航空画像をハイパースペクトル画像解析とAI技術と組み合わせ、植生の状態を理解するための新しいデータ駆動型アプローチを軸としたソリューション「IBM Vegetation Management」の提供をスタートしました。
植生と機器の距離を、費用効果が高く公益事業のサービス領域全体に拡張しやすい方法で確認できるものであり、このソリューションを用いることで、公益事業者は受け身になることなく、積極的な予防保守計画と迅速な対応を行うことができます。
IBM Vegetation Managementは、計画、入札、契約から作業の検査や監査までの全般にわたり、データ主導の意思決定を支援する植生の洞察を提供する革新的なソリューションです。
数百から数千キロに及ぶ送電線と配電線の周囲の植生を監視し、リスク領域を特定し、植生に関して必要な事業活動の実行や優先順位付けにお役立ていただけます。」
■ 結論
エネルギー産業は、消費者の安全確保を実現するために、植生がもたらす課題を克服しなければなりません。その取り組みの大きな助けとなるのが高度な分析とAIなのです。
エネルギー業界に関する膨大な知識から、独自の視点と重要な洞察、そして高度な分析が植生管理にどのような変革をもたらすかをご提供いただいた、ケヴィン・オドノヴァン氏とトーマス・ヒリック博士に深く感謝いたします。
問い合わせ情報
お問い合わせやご相談は、Cognitive Applications事業 cajp@jp.ibm.com にご連絡ください。
当記事は「Rain or shine, make weather an asset, not an adversary」を抄訳したものです。
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