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「当日発送」を無くせ! 青果物物流2024年問題に挑むベジロジナカジマメソッド(前編)
2024年08月30日
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「これまで何十人も、いや数百人に言われましたよ『またカルロスの奴が訳のわからない取り組みを始めている』って。まあいいんですよ。実際、以前は上手くいかなかったこともありましたから。無理もないんです。
今、テクノロジーや時代が追いついて、ようやく大きなうねりが動きはじめました。
ここからは一気に、持ち前の負けん気と学生時代ラグビーで鍛えた根性で、青果物物流の世界に関わるみんなをハッピーにしていきますよハハハハハ! 」
信州から、青果物物流の革命が広がりはじめている。その中心にいるのが千曲運輸株式会社 代表取締役 カルロスこと中嶋剛登だ。
目次
- 物流2024年問題をカバーしてきた気合いと根性と超過勤務
- 青果物物流における問題の大元にあるのは「当日発送」
- 当日発送からの脱却を実現するベジロジナカジマメソッドとは
- ベジロジシステム | 青果物トレーサビリティー情報を一貫管理
- 「誰がやるか」問題と、働き方改革による制約と拘束からの解放
- 重過ぎる荷物なら仲間と | 今後を見据えれば自ずとIBM SCIS
- より多くの人のしあわせに | ナカジマメソッドの未来展望
物流2024年問題をカバーしてきた気合いと根性と超過勤務
働き方改革関連法の改正に伴い、他業界に遅れるも今年4月より労働規制が厳格化され、、時間外労働時間上限960時間が適用された物流業界。長年懸念されていたドライバー不足と物流麻痺という、いわゆる「物流2024年問題」がいよいよ深刻化しています。
「構造的な問題であって、もう10年以上前からこうなることは認識されていました。でも、ドライバーたちの気合いと根性と『超過勤務』で表層的にはカバーされ、問題が先送りされ続けてきていたんです。
そこに、一連の働き方改革の流れや、コロナ禍における社会・生活様式の変容で、一挙に『物流クライシス』が眼前の課題となりました。その上、日本ではここ数十年、免許制度の改正や労働条件の厳しさなどからドライバーは毎年1万人程度減り続けているという厳しい状況です。
働き方改革は人びとの安全で健康的な生活を守るためのものですから、仕事を通じて社員の暮らしの基盤を預かる身として、私自身も強く賛同していますし大いに進めていきたいと思っています。
ただ、青果物物流は、市民の『日々の食』の基本ですから、絶対に止めるわけにはいきません。誰かが正面から、この大きな危機に取り組まなければならないんです。」
ここで中嶋社長から出てきたのが、次の言葉だ。
「問題の数は非常に多く、複雑に絡みあっています。ただ、問題の大元にあるのは当日発送なんです。」
青果物物流における問題の大元にあるのは「当日発送」
「より厳密に言えば、『当日収穫〜当日予冷〜当日発送』ですね。
一部の品目を除き、青果物には鮮度がそのままが商品価値となるという特性があります。その特性とさまざまな技術的要因が重なり合い、これまでの何十年、生産者も中間業者も物流も小売も、当日収穫〜予冷〜発送を絶対的なもの、あるいは仕方がないこととしてきたという歴史があります。」
中嶋社長が説明してくれた「当日収穫〜予冷〜発送」をせざるを得なかった理由と、それによる関係者の困りごとを、青果物流の動きに合わせて整理してみよう。
・収穫〜集荷場 | 作業時間に融通性がなく、長時間化しがち
生産者(農家) | 出荷予定に合わせて時間通り決められた量を収穫し集荷場に持ち込むために、天候や家庭の事情にかかわらず、日々決められた時間内に作業をしなければならない。
配車担当者(運送会社) | 集荷〜出荷作業は生産者ごとの時間的ばらつき、および前日の気温状況による収穫量変動があり、配送する車両決定までの作業が不明瞭で長時間化しがち。
・ 予冷〜積込 | 老朽化や性能不足の予冷設備
荷受担当者 | 青果物の鮮度を落とさないよう収穫後なるべく早く冷却処理(予冷)する必要があるが、古い予冷庫や老朽化した予冷設備の場合、冷却処理に時間がかかったり、冷え方にばらつきが生じたりする場合がある。
ドライバー | 青果物を集荷場のパレットからトラック用のパレットへの手移しによる作業に莫大な労力を要する。集荷場での積み込みに際し、指示書作成と紙伝票をもらう(積込データの入力〜紙伝票発行)ための待ち時間が長い。
・ 納品 | 市場到着後の荷待ちと膨大な紙伝票への検印作業待ち
ドライバー | 卸売市場到着後、積み下ろしの順番待ちや要員待ちといった「荷待ち」時間が発生する。積み下ろし後、膨大な紙伝票への検印作業待ち時間も。
「これらは毎日の通常業務の中で発生する困りごとです。これ以外にも、物流業者は指定時間に合わせるために、トラックが満車にならなくても出発せざるを得ない時もありますし、青果物の種別によっては収穫前夜の急速な成長による箱数の増加に合わせ、車両台数の急増対応なども発生しますから。」
つまり、当日発送ゆえ、時間制限がある中での即時対応が常態化しているということだ。そこでは、機会損失や採算度外視をせざる得ない状況も少なくないという。
青果物物流関係者の苦労が少しわかった気がした。
当日発送からの脱却を実現するベジロジナカジマメソッドとは
「今後も当日発送を続けなければならないのか? たしかに10年…いや、数年前まではそれ以外の方法はなかったかもしれません。しかしここ数年で状況は大きく変わりました。
関連分野での技術革新が進み、これまで当日収穫〜予冷〜発送でしか確保できなかった高鮮度という商品価値を、『翌日発送』でも実現できるようになったのです。
この翌日発送実現には、基盤となる3つの要素とその上で必要な2要素があります。この[3+2]をそれぞれ精密化して全体統合したのが『ベジロジナカジマメソッド』です。」
中嶋社長が自身の名前を付けたベジロジナカジマメソッド。それでは[3+2]を見ていこう。
ベジロジナカジマメソッド 基盤3要素+2
- 高機能鮮度維持倉庫 | ベジロジ倉庫
- 高機能冷蔵トラック | ベジロジトラック
- 情報システム | ベジロジシステム
- 現場教育 | ベジロジカレッジ
- 経営支援 | ベジロジプロデュース
鮮度を損なうことなく予冷・最低48時間保存ができるベジロジ倉庫により、生産者は収穫作業の柔軟性を手にできる。これまで諦めていた、収穫および集荷場への運搬などの作業時間の変更が可能となり、家族行事などに合わせることができるようになるのだ。
そして近年の酷暑下でも問題なく、細かく庫内の温度・湿度管理を設定できるベジロジトラックで輸送することで、翌日発送でも鮮度を保ちながら複数種の青果物を一度に運ぶことができる。また、これまで常態化していた複数箇所納品が起因する卸売市場入場にかかる渋滞という当日発送の大きなマイナス点も、翌日発送となれば無縁となる。
この青果物物流の革命とも呼ぶべきベジロジナカジマメソッド、実はすでに、倉庫とトラックは実証がかなり進んでいる。
そして最も重要な青果物の鮮度も万全だ。ベジロジ倉庫とベジロジトラックで翌日発送された青果物を仲卸関係者にブラインド調査したところ、見た目も味も、当日発送者との違いをまったく判別できなかったという。
それどころか、「むしろ翌日発送の方が美味しい」という声も多く、「棚持ち(小売店舗での鮮度維持)がいいのでこちらを希望する」という声もすでに届いているという。
鍵を握るのは最後に残った基盤要素——生産者による収穫・出荷から卸売市場に納品され店頭に並ぶまでの、青果物トレーサビリティー情報を一貫管理する「ベジロジシステム」だ。
ベジロジシステム | 青果物トレーサビリティー情報を一貫管理
「先ほど、積込の現場でドライバーが『紙伝票をもらう』話をしましたよね。『もらう』と表現しましたけど、実際にそこで行われているのは、事務職員による紙データのコンピューターへの入力と内容確認、そして5枚複写の伝票への印刷であり、その待ち時間です。
そしてこの5枚複写伝票、青果物の種類ごとに発行されています。だから、積載する品目が多いと一台分の伝票は、日によっては「ちょっとした本か?」と思うくらいの分厚さになりますよ。
ですから、市場での積み下ろし後の紙伝票への検印作業も、『本』の中から正しい伝票を選びハンコを押してもらわなきゃいけないわけです。その分時間がかかります。」
この状況を大きく変えるのがベジロジシステムだ。
基本となるのは、青果物物流データ(運送会社・車番、産地、等級、数量、出荷通知書明細)の電子化と伝票を呼び出すQRコードの実装で、荷物の受け渡し時にはスマートフォンでQRコードを読み込み、表示された納品データ画面をタップして受領が確定する。
実証実験を行った結果、積み込み作業を行う集荷場では約130分の作業時間が110分に、納品作業が行われる卸売市場では約40分の作業時間が30分に短縮した。ドライバーと荷受け担当者の作業時間は着実に減少し、トータルで約18%の時間短縮が実現した。
実証実験に参加した関係者からは、「各品目の複雑な等階級に対応できそうなので、実証を拡げてほしい」、「読み込んだデータと市場内の基幹システムとの連携の実証をすぐにでもやってほしい」という声が聞かれたという。
そしてもう1つ、関係者から大きな反響を呼んだのが、トラックの卸売市場到着予定時刻自動計測機能だ。
「到着予測時間が誤差1分以内とほぼ正確なのには驚かされた。現場での作業効率が格段に向上する。」
ベジロジシステム構築プロジェクトのリーダー、株式会社インテックの歳谷 秀明は言う。
「車両位置情報を10分おきに自動取得して計算・測定、システムに反映させています。ドライバーが自分で入力するのでは、手を煩わせては仕事量を増やしてしまい本末転倒ですし、そこにはどうしても希望的観測が入り込みがちですから。
車両位置情報の表示も一度実装したのですが、情報量過多と捉えられてしまったので現段階では外しています。今後、渋滞情報などと連動させ他のトラックとともに地図にマッピングすれば、関係者のニーズによりマッチしたものにできるかもしれません。そのあたりは今後さらに成熟させていきたいです。」
歳谷の言葉に、中嶋社長が加える。
「これまで市場では、『ご希望の商品が届くまであと15分です。お待ちいただけますか?」が仲卸業者さんに言えなかったんです。正確な到着予定時刻がわからなかったから。
仲卸業者の方たちからすれば、納品物の量・質・タイミングを小売業者の方たちにある程度担保する必要があるので、到着時間不明の中でリスクを取ったり、損を覚悟で売らなきゃいけないというケースも少なからずあったんです。だから、これは大きな進化です。
この機能もあいまって、市場関係者のベジロジシステムへの期待はますます高まっていますね。」
企業情報
設立1968年。青果物をはじめとする運送事業を軸に、貨物運送のプロフェッショナル集団として次世代物流の構築を目指している。スローガンは「プロとして」「基本の継続」。
代表の中嶋剛登は(公社)長野県トラック協会 理事、小諸商工会議所 副会頭、青果物物流DX推進協議会 会長を兼務。
設立1964年(前身である富山計算センター創立)。日本を代表する独立系システムインテグレーター。公共・行政、金融・証券・生損保、製造・流通、医療・ヘルスケア、メディアなど、幅広い分野の顧客にシステムやサービスを構築・提供している。
設立1989年。長野県に本社を置く唯一のIBMビジネス・パートナーとして、コンサルティングから設計・構築・運用保守をワンストップで提供し、地域・社会への貢献を大切にしている。スローガンは「Thank & Think(感謝と思考)」。
TEXT 八木橋パチ
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