IBM Sustainability Software
「天候データを活用した風災被害AI予測モデルの共同開発」レポート
2020年09月17日
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9月3日、4日の2日間に渡り「ニューノーマルへの挑戦」をテーマに掲げた日本IBMのデジタル・イベント「Think Summit Japan」が開催されました。
先進的な取り組みが紹介された多数のセッションの中から、東京海上日動火災保険株式会社 篠原 哲大氏による「天候データを活用した風災被害AI予測モデルの共同開発」の一部をご紹介します。
ここ数年、日本各地で自然災害の激甚化が進んでいる。そして同時に発生頻度も高くなっており、もはや自然災害は、常にある身近な脅威となってしまった。
防災・減災への意識と取り組みがこれまで以上に重要だが、一方で発生してしまった場合、被災者の方々が一刻も早く日常を取り戻せるかどうかは、迅速で正確な保険金支払いにかかっているとも言えるだろう。
そんな中、自然災害での保険金支払い対応に衛星を活用するなど、これまでも先進的な取り組みで迅速化を進めてきたのが東京海上日動火災保険株式会社だ。
「2018年の台風21号、24号。2019年の台風15号、19号と、大型台風による甚大な風災がもたらされました。こうした自然災害発生時には、これまで、基本的にはお客様からの連絡に基づき「事故受付」「損害現地調査」という保険金支払い業務のプロセスがスタートしていました。
しかし昨今の情勢に対し、当社は、保険会社には防災・減災サービスの提供だけではなく、よりプロアクティブな対応が必要だと考えました。
具体的には、保険会社が被害発生エリアを予測して、能動的に保険金請求のご案内をお客様に差し上げる。そして社内では災害対策室を迅速に立ち上げ、お客様への初動を加速化する。こうした取り組みが重要だと考えました。」
こう語るのは、同社 デジタル戦略部 主任 篠原哲大氏です。
そしてそのプロアクティブな対応を実現し、災害発生から保険金支払いまでの一層の迅速化に向けて取り組んだのが、風災被害AI予測モデルの開発です。
「これまで当社が災害対応を通じて得た被害履歴データと、IBMのグループ企業であるThe Weather Companyが保有する精密な気象データと論文データ、そして日本IBMが持つデータ分析の専門性や知見を掛け合わせることで、この風災被害AI予測モデルを構築しました。しかし、道のりは平坦なものではありませんでした。」
篠原氏はそう語ると、開発の道のりを以下のように説明した。
・ プロジェクト開始後、初期段階では予測制度は低かった
・ 東京海上日動社内関連部署(損害サービス、商品企画、営業企画部門、リスク管理部門など)と、防災科学技術研究所をはじめとした協業先の知見を結集し、予測制度が低い要因を検討
・ パラメータの追加や取捨選択を経て精度を向上。パラメータ感の相関関係の妥当性を評価
・ 最終的にはIBM提供データの品質とデータサイエンティストのスキルの高さにより、精度の高いAIモデルが開発された
そして篠原氏は、2018年に発生した台風21号のイメージ図を用いて、完成した風災被害AI予測モデルのシミュレーションの紹介をした。
台風21号の強風エリアにおける被害の有無、被害件数、保険金支払見込額をAI予測モデルから算出し、特に被害の大きかった大阪府での実際のデータと照らし合わせたところ、その誤差率は5%以内だったそうだ。
「今後、よりAIモデルの制度や汎用性を高め、お客様への能動的な案内をさらに進めていく。また、お客様の『あんしん』につながる新サービスの開発も進めていきます。」篠原氏はそう語り、プレゼンテーションを終えた。
ここからは、予測モデル開発の最前線を篠原氏と共に過ごした、AIアプリケーションズ ウェザービジネスソリューションズ担当部長の加藤陽一が登壇し、篠原氏との対談形式で風災被害AI予測モデルの共同開発のこれまでとこれからについてが対談形式で語られた。
以下、対談の抜粋を紹介する。
加藤陽一(以下「加藤」): プロジェクトへの反響が非常に大きく、私のところにもたくさんの声が届いています。ありがとうございました。
まず、改めてなぜプロジェクトをスタートした際の背景・経緯と、なぜIBMをパートナーに選んでいただけたのか。率直なところを教えてください。
篠原氏: 背景の大きな点は先ほどお話しさせていただいた通りですが、これまでも海外のスタートアップ企業と組んで浸水被害予測などは行なっていたのですが、強風による被害の把握というのは非常に難しく、担当者を現地に派遣して人海戦術に頼るという部分も大きく、件数の増加は対応時間の増加につながってしまうというのが大きな課題となっていました。
そしてIBMに提案をもらった際、そのプレゼンテーションが非常に印象的でした。ビジネス・ユースケースもふんだんに含まれており、データの力と技術の力も感じ、予測モデルを一緒に開発して実現できるのがしっかりイメージできたのが決断の理由です。
加藤: 気象予測モデルの構築には自信を持っていましたが、皆さんの期待の高さにとても身の引き締まる思いだったのを今も覚えています。
そして実際にプロジェクトがスタートし、データを正しく理解し分析可能な状態にクレンジングし、実際に予測を行なってみたところ、思ったほど高い精度にはなりませんでしたよね…。実際のところ、不安に思われたのではないかと思うのですがいかがでしたか?
篠原氏: 初期の風速に関する代表的な数値だけで行なってみたときの精度が50%程度で、正直、実用レベルに持っていけるのか不安に感じていました。
その後ウェザービジネスソリューションズがお持ちの時間間隔や地理メッシュの細かさをベースに、風速変化データや建物情報、標高傾斜など計130種類ものデータを加えて調整していき精度が95%にまで向上した際には内心ほっとしました。
そして同時に、IBMのデータサイエンティストの皆さまの諦めない姿勢やそのスキルに驚嘆しました。
加藤: 東京海上日動火災の皆さまの初期の結果に対するご意見やアドバイスが、私たちのモデル構築への工夫につながりました。そして皆さんの「モデル精度向上への飽くなき追求」のスタイルが、このコラボレーションをとても良いものにしてくれたと思っています。
ありがとうございました。
今後の展開ついてはどのようにお考えでしょうか?
篠原氏: AIを初めて活用した先進的なケースを行なったことで、その有用性や可能性を十分感じることができました。
今後、AIを活かしてよりお客様に貢献できるエリアが他にもさまざまあるのではないかと考えていまして、より幅広くデータとAIを活用していきたいと思っています。
加藤: 今後も引き続きよろしくお願いします。
未知のリスクと向き合いながら暮らしていく必要のある今、社会的意義の高い価値創造の取り組みを、IBMはこれからもお客様と共に続けていきます。
問い合わせ情報
お問い合わせやご相談は、Cogintibe Applications事業 cajp@jp.ibm.com にご連絡ください。
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(TEXT:八木橋パチ)
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