IBM Sustainability Software
ワクワクを追い続けて行きたいし、デベロッパーにも広げて行きたい(デベロッパー・アドボケイト戸倉 彩)
2020年01月08日
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Watson IoTチームメンバー・インタビュー #26
戸倉 彩 デベロッパー・アドボケイト
Watson IoTチームのメンバーが、IoTやAIに代表されるテクノロジーを踏まえ、過去・今・未来と自らの考えを語るインタビューシリーズ。今回は先日、翔泳社から本を出版されたばかりで、今IBM社内外で最も注目されているアドボケイトの戸倉さんにお話を伺いました。
(インタビュアー 八木橋パチ)
–よろしくお願いします。ウェブメディアやSNSでの露出が多いので戸倉さんのことを知っている人は多いと思いますが、実際に何をしている人なのかは分からないって方も少なくなさそうです。まずはその辺りからお話いただけますか?
インタビューに呼んでいただいてありがとうございます。嬉しいです!
まず、「デベロッパー・アドボケイト」というのが正式な職種名になります。技術を社内外に広めて気づきを与え、エンゲージメントやエンパワメントを通じて一緒にアクションを生み出す仕事をしています。
— カタカナ多めでむしろ分かりづらくなっちゃったかも(笑)
たしかにそうですね。私たちのチームのミッションを見ていただくのが分かりやすそうな気がします。『開発者が現実社会の問題を「賢く」「素早く」「一緒に」解決できるようにする」です。
— ぐっと分かりやすくなりました。前職のマイクロソフト社でも似たお仕事をされていたんですよね?
はい。ただ最大の違いはミッションの「一緒に」の部分の大きさです。私は開発者に「寄り添って」とか「伴走して」という表現でお伝えするのが一番ピッタリくるような気がしています。
— 戸倉さんの開発者/デベロッパーへの強いこだわりは、どこから来ているんでしょうか?
IT業界に入ってこれまでの16年間、デベロッパーとして「ワクワクする世界」を求め走り続けてきました。1つにはそうしたやり続けてきたという自負ですね。それから、世界をどんどん動かしているのはデベロッパーたちだというのが事実だからです。
— 世界を動かしているのは経営者や政治家ではなく、デベロッパーですか?
もちろん経営者や政治家の方々も動かしています。そして彼らの中にもデベロッパーもいます。
でも、パチさんも実感されているだろうと思うんですが、今、ビジネスが凄い勢いでデジタル化していますよね。デジタルトランスフォーメーション(Digital transformation: DX)という言葉を耳にしない日はないし、ウェブの進化スピードも激しく、誰でもアプリ開発をできる時代になりました。
— そうですね。中学生や高齢者の方たちが、新しいアプリやウェブサービスを発表されるのも珍しくなくなりました。
そしてそこからスタートアップ企業が生まれたり、企業を新しく生まれ変わらせたりということも起こっています。
IBMの調査でも、IT企業以外の経営層も、それを深く理解してDXへの変革を進めていますし、その中核にいる人たちこそデベロッパーたちだというのが私の認識です。
参考: 守成からの反攻 – IBM グローバル経営層スタディ2017(IBM Institute for Business Value )
— これまで「日本は社内に開発者を抱えていない。それがスピード感や差別化の問題につながっている」と指摘するIT評論家も少なくなかったと思うのですが、日本も変わってきたということでしょうか。
はい、ジワジワとではありますが。一方で、社内開発者だけで、テクノロジーの進歩スピードと多様な開発ツール群に付いていこうとするのにも無理があるのが現状です。
技術を幅広く俯瞰し全体感を掴み、適切なアクションに落とし込む力のある社外アドボケイトとの共創がやっぱり重要だと私は思っていて、日々それを意識して活動しています。
— 「社内開発者だけ」の弊害はなんでしょうか?
視点が限定され過ぎてしまったり、視野が狭くなってしまうという点ですね。例えばセキュリティのバグ出しに賞金を出し、社外デベロッパーにも協力してもらうという最近の動きも、よりたくさんの視点から見てもらおうというのが背景にあります。
企業のハッカソンの開催も、多くは自社APIを社外デベロッパーに使ってもらい、社内からでは生まれづらいアイデアを出してもらおうというのがその中心ですね。
— さきほど「IT業界16年」と言われてましたが、初期の頃と比べて社外との共創の壁は下がっていますか?
それはもう間違いなく下がったと思います。実際、コラボレーションさせていただく企業の数も機会も格段に増えていますし。
一方で、共創すること自体の壁は下がっているのに、人々のマインドというか、考え方自体はあまり変わっていないなと感じることもあります。例えば「従来からあるものは踏襲すべき」とか「これまでのやり方は変えないほうがいい」とか、そういう「思い込み」は依然強く残っていると思います。
— 本人もそれを自覚していないケースも多そうです。
学校教育の段階から規則通りに進めることを良しとすることをすり込まれて、無意識のうちにそちらを選ぶようになっているんですよね、きっと。でも、そういった意識も、オープンソースの考え方やクラウド環境の影響で少しずつ変わってきている気がします。
昔だったら、「自分が作ったプログラムを積極的に無償公開し、みんなで一緒に良くしていこう」なんて、そんなの考えられないという人が圧倒的だったわけですから。
— たしかにここ数年で、そうしたオープンソースの実践が普通のことになりましたよね。
先日、世界中の開発者に利用されているGitHub(ギットハブ)のイベントがあったのですが、ユーザー数が4千万人を超えたとアナウンスされていました。先人が公開したソースコードをみんなで良いものにしていこうという「優しい世界」に過ごすデベロッパーがそれだけいるってことは、すごいことですよね。
私も、無理のない範囲で自分が作ったコードや翻訳したREADME(アプリの説明書き)をGitHubに公開しています。
こうした動きは16年前には考えられなかったです。やっぱりインターネット接続がすごく安価になり、クラウドという無償に近いホスティング環境が提供される社会になったことが大きな後押しになっていると思います。
— ところで、なぜIBMを選んだんですか? きっと他にもいろいろとお話はあったでしょ?
そうですね。IBMに入社を決める前に「自分が極めたい専門分野は何か。将来にわたり関わっていきたいものは何か」と4カ月ほどじっくりと考えたんです。そこではっきりしたのは「クラウド」「AI」「量子コンピューティング」でした。
— グーグルもその3つをガッツリやってますよね。
はい。でも、別の3つのことが私の背中をIBMへと強く押したんです。まず1つ目が「歴史」です。
4カ月の間にコンピューター技術の進化を支えてきたIBMの歴史に触れる機会があって、改めて勉強してみたらそこにはイノベーションが溢れていました。
「100年以上変わらない」なんて、あり得ないですよね。そこには時代を見据えて、激しい変化を良しとするDNAがあるから、これだけのことをし続けられたんですよね。そのスタンスと技術で会社を推し進めていく姿に魅力を感じました。
–では2つ目は?
私、実は2次元(アニメやゲーム、またそのキャラクター)にときめいてワクワクする人なんです。元々「ソードアート・オンライン(SAO)」という作品の追っかけでコスプレイヤーだったんですけど、『劇場版ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール』にIBM z13が登場してきて「えええっ!!」ってワクワクしちゃったんですよね。
妄想力がモリモリと湧いてきて、「デベロッパー/エンジニアの幸福度を高める」という私の使命を果たせるに違いない! って盛り上がっちゃって。
— 2次元に弱い私にはちょっと分からない世界です…。では3つ目は?
前職や前々職で出会ったIBM出身の女性社員たち、そして社外活動で知り合ったIBMの女性社員の強さ、たくましさに、うっすらと憧れを持っていた気がします。…当時は「憧れ」という認識ではなく、「どういう社内研修やトレーニングがあるんだろう? どんな社内文化があんな風に育てるのだろう?」って。
— テクノロジーとアニメと女性社員、おもしろいです! とは言え、入社後1年半経てば不満もありますよね。
あります。新しいことをやろうとする際の動きの鈍さだとか、自分からリードしていこうと気概を見せる人の少なさだとかには問題意識を感じています。
だから今年、山口新社長が「枠を超えて」をキーメッセージにされていることに、とても勇気付けられているし、きっと今から、どんどんと変化していくんだろうなって思っています。
— 夏に一緒にIDEAS FOR GOODの取材を受けましたよね。
そうでしたよね。私の中で一番「熱い」Call for Codeの紹介をさせてもらいました。Call for Codeって、デベロッパーの力で世界をより良い場所へと変えていく可能性の高い素晴らしいプログラムで、今年は応募作品も5,000を超えました。
すごく人の心に訴えかける作品もたくさんあって、本当に感動しました。
参考: 顧客は地球。IBMに学ぶ社会課題とテクノロジーの幸せな関係
— 私もすごい良い取り組みだと思っています。国連やアメリカ赤十字ともコラボレーションしているし、でもその割に…世間での知名度低いですよね。
IBMっていろんな顔というか切り口を持っている会社なので、社会貢献活動に関する発信がその中で埋もれてしまっている気がしています。
— 同感です。SDGsや地球温暖化への取り組みもしっかりとやっているのに、積極的に「ムーブメント」には関わろうとしないというか。その辺りどう感じられていますか?
正直ブキミです(笑)。良い取り組みをしているんだから、できるだけその効果や周囲への影響力を最大化するようにして、もっと活動の輪が広がりやすくすればいいのになぁって…。
でもそういう部分も、中途入社した私のような社員が違うカルチャーを持ち込んでIBMの伝統に少し混ぜ合わせて、アップデートしていければいいなって思っています。
— すっかり話が盛り上がって時間がなくなってしまったのですが、「これだけは話しておきたいこと」ってありますか?
ここまでIoTのことをまったく…というかIoTって言葉すら一度も出てきてないけど、いいんですかパチさん? これ「Watson IoTチームメンバー・インタビュー」ですよね?
— いいんです! 言葉としてのIoTは出てきていなくても、そこへとつながる未来志向の話をしてきたんですから。…ってちょっと無理やりかな(笑)。
でも私、ちょうどどうしても伝えたいステキなIoT関連の話があるんです。私もお手伝いさせていただいている中京テレビさんの「HACK-CHU!(ハックチュー!)」というハッカソンがあるんですが、今年、愛知県の女子大生たちが中心の「tokimeter(トキメーター)」というグループが、ステキなIoTソリューションを作ったんです。
— トキメーターって名前がかわいいですね。
彼女たちが作ったのは、アーティストのファンの「胸の高まり」を特別なサービスにするものなんです。コンサート会場で腕に取り付けたセンサーから取得した心拍数の波型を、自分だけのオリジナル・アクセサリーにできるんです。
最高のときめき体験をいつでも身につけていられるって、ワクワクしませんか? そしてなんと、先日そのサービスがクラウドファンディングで世の中にデビューすることになったんです。すごくないですか?
参考: CAMPFIRE – BOYS AND MENとのかけがえのない時間のトキメキを形に
— それいいですね。自分の特別な体験が、自分だけの特別なモノになる。
そうなんです。私も今後もときめきやワクワクを追い続けて行きたいし、開発者/デベロッパーにもそれを広げて行きたいんです。それ自身が私自身の特別な体験でもありますしね。
インタビュアーから一言
戸倉さんはつい先日『DevRel エンジニアフレンドリーになるための3C』という共著を翔泳社さんから出版されたばかり。「この本を出せたことは私にとっては特別なこと。これが実現したのも共著者とのコラボも、IBMに来たからこそなんです」と、とても喜んでいる姿が印象的でした。
私もまた、なにか一緒に戸倉さんとコラボしたいです! 特に、人びとの意識変化をスピードアップするようなそんな何かができたら嬉しいな。
(取材日 2019年12月17日)
問い合わせ情報
お問い合わせやご相談は、Congitive Applications事業 cajp@jp.ibm.com にご連絡ください。
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