Client Engineering
こころが震えたあのとき(高橋真吾) – イノベーション・デザイナー、Client Engineering事業部
2023年09月06日
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喜び、悲しみ、怒り…。人は、誰かの心の震えを目にしたとき、自分の心も動くのではないでしょうか? 職業人として、私たちはどれだけそうした「心の震え」に接することができているでしょう。そしてあなたは、自らの震えを、どれだけ感じることができていますか?
「あなたのこころが打ち震えたときのこと、教えてください。」
Client Engineering(CE)事業部でイノベーション・デザイナーとして働く高橋真吾さん(以下「真吾さん」)にお話を伺いました。
<もくじ>
1. 「でかい仕事」と「心の震える仕事」
— もっと「心震えたい」ですよね? そして「人びとの心を打ち震わせたいですよね?
もちろんです。もっと心震える経験がしたいから、IBMに転職しましたんですから。
そして人びとの心を打ち震わせたいから、僕はデザイナーを名乗っています。
そう語る真吾さんの雰囲気を一言で表すなら「頼れる兄貴」。おそらくは、これまでの経験を通じて「観察力」——変化を敏感に察知する力と、根源的に変わらない部分を見極める力と——を磨き上げてきたのだろう。話を始めてすぐ、そう感じた。
それでは、真吾さんは心が震えやすいタイプだろうか?
そんなにしょっちゅう震えるほうではないかも(笑)。とはいえ、小さな震えまで見ていけばそれなりにあるのかなとも思います。
「心が震える仕事」とは少し違う話となりますが、僕、以前所属していたメガベンチャーで、新規サービスやビジネス開発などの、金額規模の大きいいわゆる「大きな仕事」は結構やらせていただいてきました。それから、ある会社では取締役の1人として経営に携わっていました。規模は30人ほどですが、クライアントは歴史ある大手企業やIT企業も多かったですね。
でも、正直「大きな成功」を感じることはなかったんです。
周囲には「でかい仕事やったね。おめでとう」って言われます。実際、大きな金を動かしはしました。でも、金額規模に見合う社会的価値や意義を残せたか。それに見合ったインパクトにつながる仕事になっていただろうか…。
自分の中で大切にしているのは、その仕事の先にいるクライアントやユーザーに大きな価値を届けることができたかどうかです。そこにつながる仕事になっているかなんです。
…「何かを残したい」というくすぶりは常にあります。それは今もそうです。それを感じられない仕事は、本気で好きにはなれないんです。
2. 「いいね! 自由にやっちゃってよ」と背中を押すマネージャー
真吾さんにとっての仕事の成功基準は、「社会へのインパクトにつながっているか」。しかし、CEという組織はいわゆる「プリセールス」と呼ばれるもので、組織としてのプロジェクトの成功基準は、お客様がプロジェクトを次フェーズに進めるかどうかで測られる。
その点に疑問や不満はないのだろうか?
不満はないですよ。
CEはまだ組織としてスタートして2年だし、社内でしっかり価値を証明していくことが、社会的価値の大きな、より良い活動につなげていきやすくなることなので。
大きな社会的インパクトにつながる可能性を最大限化するために、CEの価値を社内外に広く知ってもらえるようになるのが、今の僕の成功です。その意味でも、一緒に仕事をする仲間を喜ばせることができたかが、まずは最低限の成功要件となりますね。
さっき、もっと心震える経験がしたいからIBMに転職したといいましたが、理由はそれだけじゃありません。IBMの多様性に強く惹かれたんです。
人数の少ない会社で案件に取り組んでいると、企業としての知識や経験の総和はどうしても小さくなります。その分、「頭打ち」の感覚が訪れるのが早いんです。IBMであれば、社内のネットワークも社外とのネットワークも巨大ですよね。
ただ、IBMに転職するにあたり、2つの懸念がありました。
1つ目は、組織の縦割りや厳密な役割ルールによる「自分ができる範囲」が狭まること。そして2つ目は、柔軟性を発揮してスピーディーに立ち回ることです。
実際、1つ目についてはある程度想像通りでした。前職での「経営のためならあらゆることをやる」といった働き方や、最前線で矢面に立ち、ヒリヒリとした中でプロジェクトを進めるという経験は、残念ながら今はあまり経験できなくなってしまいましたね。
一方で、2つ目については予想外がありました。
何度か一緒にプロジェクトを進めてきたデータサイエンティストの田村 孝さんは、「自らを枠に収めようとする必要はない」ということを体現している人でした。そして「いいね! 自由にやっちゃってよ」と田村さんの背中を押すマネージャー陣の存在にも嬉しい刺激をもらいました。「そうか。状況に応じてこんなにも自由にやれるのか」って。
そんな田村さんの仕事っぷりを目にして、僕は「よし、この人を担ごう」と決めました。
もちろん、僕自分もこれまで以上にフットワークを軽くして動くつもりですが、それ以上に、田村さんを担いで前面に立ってもらう方が、より大きな社会的価値につながるだろうと思ったんです。
IBMはテクノロジーカンパニーですから。IBMテクノロジーの優位性を活かす力は、僕よりも、データサイエンティストとして突出した能力を持つ田村さんの方が高いです。
ただ、その力を可視化して伝えやすくデザインするのは僕の専門分野。そこは分担しコラボレーションした方が価値を受け取ってもらいやすくなります。
田村さんに前に出てもらった方が相乗効果を生み出しやすい。結果として組織のみんながより働きやすくなり、社内外への価値提供のチャンスも増えます。
3. 高橋真吾の心が震えた仕事
ガバナンスの重要さは今さら言うまでもなく、なんでも自由というわけにはいかない。だが、お客様と社会のためになり自社にとっても良いことで、一切後ろめたいところもないのであれば、そこに「やらない理由」はない。
さてそれでは、そんな真吾さんがIBM入社後に心が震えたのは一体どんなときだったのだろう?
とあるパートナー様とのローカル5G共創案件は、比較的大きめの規模でしたがスピード感があり、心が震えたプロジェクトでしたね。
僕の主な役割は、初期においてはお客様とのワークショップをリードして実現したいことを明確化していくことと、取り組むメンバーをチームにしていくこと。
そして後期においては、「このデモを直接目にしたい」と思っていただくためのセールスキットの作成でした。具体的には「伝わる動画」の制作ですね。
正直言うと、実は最初はそんなに「やった、うまくいった」って実感はなかったです。でも、パートナー様や社内関係者の方たちのその後の喜び方を見ていたら、「自分のケイパビリティを見せることができたんだな。一緒にやってきた方たちにCEのバリューが伝わったんだな」とジワジワ感じることができました。
そして社内関係者がいろんなところでこの話をしてくれたおかげで、各所から声がかかるようになり、働きやすくなりました。
もう一つの心が震えたケースも、今お話ししたプロジェクトがきっかけで声がかかったものです。こちらは社内プロジェクトですが、IBM箱崎本社事業所のInnovation Studioに、ショーケースとしてデモを展示しました。
デモの内容は、人手不足や危険な現場作業もあるという製造業の課題に応えるもの。
具体的には、Boston Dynamics社の自律四足歩行ロボット「Spot」が、決められた時間になると自動で構内の巡視点検を行い各種メーター類の表示をチェックし、IBM Maximo Application Suiteの台帳にリアルタイムで結果をインプットしていきます。そこで値に異常を発見した際には、必要な作業を判断して、作業員に対応指示を送るというものです。
安全かつスピーディーに業務を自動化することができることを、目で見て理解してもらえるものになったと思います。こちらも僕が動画を作成しました。でも、もし機会があれば、直接本社事業所でご覧いただきたいですね。
4. 大切にしていること。そしてIBMへの提言
チームに欠けているものを見つけ出し、スマートにその役割を埋めていく真吾さん。その姿は一般的な「デザイナー」のイメージとは異なるところもあるが、ご自身ではどう捉えているのだろう。
状況に合わせてポジションを取れるのが僕の強みです。デザイナーとしては、「見つける」「具現化する」「伝える」という3つのどの分野でもパフォーマンスを発揮できると思いますよ。
ただ、今は最後の「伝える」にフォーカスすることが多いです。IBMがそこを苦手としているというのは、入社時の研修資料を見てすぐに気づいたので。デザイナーとして今年入社してきた新入社員たちも、やはりそれが気になったと言っています。
会社全体にはまだデザインが浸透しきっていないということでしょうね。
僕自身は経営経験もありますし、より上流の分野も得意なので、プロジェクトなどでそこが足りていない状況ならば喜んでやります。
これは僕だけじゃなくて、CEにはそういう経験や知見が豊富な人が多いんです。それが組織としての強みにもなっていると感じています。実際、みんな柔軟性と対応エリアは相当広いですよ。
— 真吾さんが大切にしていることは?
自分が大事にしているのは、試すこと。実験することです。何か新しいことを学んだら、すぐに試したくなるし、その機会を探します。
たとえば、パチさんもよくご存じの「パーパスモデル」というステークホルダー分析手法がありますよね。あの手法はIBMが定義しあらかじめ準備している「デザイン思考ツールキット」の中には含まれていません。でも、それがもたらす意義や価値を知り、興味を持ったら、自分でできる範疇内でまずは試してみる。
そして、自分自身が試したことは、機会を見つけて周囲に共有するようにしています。成功も失敗も、むしろ自分の失敗こそ手厚く、みんなにフィードバックする。
自分の頭の中を、できるだけみんなに見えるようにしています。
これは僕だけじゃないですね。CEのデザイナー間や部門のチームメンバー間でも、積極的に案件共有会を行っています。
—入社から約2年。最後にIBMへの提言を。
これはIBMだけにとどまらない話だし、提言なんて大それたものではないんですけど、チャレンジが称賛される文化がもっともっと広がればいいなと感じています。
わが家には小さな子どもがいるんですが、見ているといつもチャレンジしているんです。そして失敗して、失敗して、失敗して…それで成功するんです。これこそが学びだ! って見ていて思いますね。
先ほどお話した、失敗を積極的に披露していくということ、それ自体も自分に対する評価を考えれば一種のチャレンジともいえますよね。でも、それでチームや会社が良くなっていき、社会が良くなっていくことにつながるのであれば、自分の評価なんてちっぽけなものじゃないですか。知ってもらうチャンスや必要性があるときに、自分の想いを伝えればいいわけですから。
だから、そういうチャレンジを自分も率先してやっています。そして周囲で何かチャレンジしている人を見つけたら「すばらしい。メッチャそれええやん!!」って手放しでそのトライを称賛するんです。
これはまだ個人的な取り組みですけど、そういうチャレンジ文化が、リスクテイクを厭わない文化が広がるための仕組みや制度みたいなものも、何か考えてみたいですね。
うーん、どんなことができそうかな…。いや、むしろリスクテイクといったら第一人者はパチさんじゃないですか。いつも何かにチャレンジしているし。
何か一緒に考えましょうよ。そして、一緒に試しましょうよ!
5. 共創メンバー 磯部博史からの一言
これまで複数のプロジェクトでコラボレーションしたというサステナビリティー・ソフトウェア事業部マスター・シェイバーの磯部 博史(いそべ ひろふみ)氏に、真吾さんへの印象と、その仕事ぶりに対するメッセージをいただいた。
真吾さんとは2022年第1四半期でのパートナー様との共創MVP開発で初めてご一緒させていだきました。
ほとんど面識がない両社のメンバー同士で、リモート開催でのワークショップを進めることに、私も戸惑いを多少感じていました。でも真吾さんの素晴らしいコーディネーションにより、開始後すぐ、私を含めた両社の参加メンバー全員がワクワクするようなセッションになったことがとても印象に残っています。
またMVP開発後のセールスキット作成でも、お客様に第一印象ですぐに理解していただけるような表現や画面デザインをリードしてもらい、私にとっても大変勉強になりました。
「このヒトと一緒に仕事したい!」。高橋さんは周りの人がそう思う人物です。
TEXT 八木橋パチ
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