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地方と未来の創生を | 小学生へのIoT遠隔授業インタビュー
2021年01月22日
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まずはこちらの動画をご覧いただきたい。
これは長野県の小谷小学校で12月10日に行われた、STEAM授業で使用された動画コンテンツだ。
小学5年生にインターネットやIoTについて理解してもらうための内容であり、長野県の小谷小学校と東京都足立区にある東京電機大学とをインターネットで結び、この動画を見てもらった後、小谷村で実践されているIoT技術をベースにした課題解決の事例紹介と、先端技術活用による未来の便利な生活を自らデザインするためのワークショップ型の授業が行われた。
授業にはコーディネーションを行った小谷村役場の職員の他、遠隔STEAM教育に強い関心を持つ他自治体の担当者などもオンラインでの見学にやって来たという。
今回は、遠隔授業を企画・実施した東京電機大学知的空間研究室のメンバーと、指導教員である松井加奈絵准教授に、その狙いや当日の様子、そして今後の展開について話を伺った。
筆者の感想を一言先に述べさせていただくと、彼らの話には日本の教育や地方行政が持つ「大いなる可能性とチャンス」、そしてその裏側にある「可能性を活かせないことの大きなリスク」を感じた。
ぜひご一読いただき、皆さんのご意見や感想、そして取り組みに対するアドバイスなどをいただければ幸いだ。
■ 中山間地域の子どもたちに、”IoTで自分たちで変えられる”という気づきを
右上: 宿題の分からないところを支援してくれるAIロボットの発表をするグループ
左下: 遠隔授業を実施中の東京電機大学 知的空間研究室の様子
- 左から: 東京電機大学システムデザイン工学部4年 知的情報空間研究室 中西 美樹
- 東京電機大学システムデザイン工学部情報システム工学科准教授 松井 加奈絵
- 東京電機大学システムデザイン工学部4年 知的情報空間研究室 釜谷 尚宏
「中山間地域では、小中学校に通う子どもの人数が減り、学校の統廃合が進んでいます。また地域によっては通学範囲に高校が一校しかなく、狭い範囲での社会との関わりしか経験できないまま、高校生活を終えてしまう生徒さんが多いのも事実です。
中山間地域に暮らしていても、広い世界の多様な人たちと広くコミュニケーションが取れるのがインターネットであり、新しい技術と組み合わさってその可能性はどんどん拡がっています。こうした現状を知らずその恩恵を見過ごしてしまうのは、中山間地域の子どもたちにとって大きな機会損失だと思うんです。
ほんの少しでもいいから、今回の取り組みがその解消に役立つこと。それが私が今回一番達成したかったことなんです。」
— インタビューの冒頭、松井准教授は授業の狙いについて、その想いを熱く語ってくれた。
それでは今回のSTEAM授業を準備段階から実施してきた2人の学生は、実際の授業を通じてどのように感じたのだろうか?
冒頭の動画のストーリーと絵コンテ、そしてナレーションを担当し、授業でも遠隔ファシリテーションを行った中西美樹さんはこう語った。
「私が子どもたちに伝えたかったのは”自分たちで変えることができる”という気づきでした。
子どもたちにIoTという新技術について知り、馴染んで欲しかったし、自分たちでスマホで調べたり、プログラミングというスキルを身につけられれば未来が変わることや、自分たちの生活を自分たちで便利にできる可能性があることを知って欲しかったんです。
動画の出来は自分では90点だと思っています。小学5年生という、まだ忖度せず素直に感想を伝えてくれる年代の彼らが、IoTに強い関心を示してくれたのはとても嬉しかったし、みんなが動画が分かりやすくて理解が進んだと言ってくれたのは自信につながります。」
■ オンラインとオフラインの”いいとこ取り”を。場所は学びの制約にならない
「どれくらいの手応えを感じていますか?」 — 動画の作成・編集と、オンライン授業の構成などを行った釜谷さんに聞いてみた。
「そうですね、しっかり手応えを感じています。
“新しい形態の授業”をしっかりと行い、遠隔地にいてもちゃんとコミュニケーションが取れること、そして必ずしも”居る場所が学びの制約になるわけではない”ということを子どもたちに感じてもらえたと思います。
小谷小学校は、幸運にもコロナ禍でもオンライン授業に切り替える必要が生じず、これまでずっと毎日学校で授業を行ってきていました。ただ、それ故にオンライン形式での授業に取り組む経験をしていなかったので、心配な点や対応しなければいけない点が多かったのですが、現地の先生がとても熱心に支援してくれたおかげもあってうまく行きました。
今回のように、現地で生徒たちにファシリテーションをしていただく先生と、授業全体を進めていく僕らが一緒にワークショップを行っていくことで、オンラインとオフラインの両方の”いいとこ取り”の形で授業が進められました。そして僕は動画はもっと完璧に近いと思っているので採点は95点です(笑)。」
ワークショップの内容を振り返ってみよう。
授業に参加した5年生たちは、まず、動画を通じてインターネットとIoTについて、そして小谷村の水田がIoTを通じて天候や水位監視を行い実際に管理されていることを学んだ。その後グループに分かれ、釜谷さんを中心に作成された「こまり事さがしシート」に、日常生活の中で自分たちが困っていることを書き込んでいった。
続いて、知的空間研究室のメンバーのサポートを受けながら、シートに書いた困りごとの解決にどのような技術を用いることができるかを話し合ってまとめ、最後にその解決方法とイラストを、他のグループと東京にいる知的空間研究室のメンバーに向けて発表していったという。
知的空間研究室の授業配信の舞台裏
一部ではあるが、授業の様子が大糸タイムス社の下記ページにて紹介されている。
IoTで描く未来の生活 東京電機大「スマート村プロジェクト」 小谷小5年生に遠隔授業
■ 愛着を持ち、長くその地で暮らせるように。地域創生とSTEAM教育
そもそも、今回の遠隔STEAM授業の実施までには、どのような取り組みが行われてきたのだろうか。
東京電機大学知的空間研究室の取り組みは壮大だ。その目的を簡約すると、以下のようになる。
「このままでは存続が難しいと言われている中山間地で、関係人口を含む地域に関わる人びと自らが中心となり、地域社会における課題解決を実行していく。そのための仕組みを実証実験を行いながら構築していく。」
— この目的を実現するためには、以下のすべてが必要だ。
- 課題特定と解決策の元となる地域データへのアクセス
- 使い勝手が良く安価なソリューション開発環境
- 開発したソリューションを手軽に販売できるプラットフォーム
- ソリューション開発を担えるDIY人材の育成
今回の遠隔STEAM授業は、上記の4を担うための第一歩だ。その考え方を理解するには、以下の松井准教授の言葉を読むのが一番だろう。
DIYを進める上で重要なのが、日々の生活から解決すべき課題を見つけ、このプラットフォームを用いてデジタル技術を使ったシステムやサービスを開発できる人材育成です。
最近はSTEM教育が注目されていますが、単なる学習のための学習ではなく、自分の住んでいる地区に関係するものや、その地区で実際に用いられているものに小学生の頃から触れていくことで、より一層学習内容が身につきやすくなりますよね。そして早くから地域に根付いたビジネスをスタートすることで、その地域への愛着が深まり、長くその地で暮らすことへにもつながっていくのではないでしょうか。
そんなわけで、例えば「ビジネスパートナーは私のおじいちゃんです!」というような、中学生起業家を私たちは生み出したいと考えています。
『「地域課題解決をDIYするためのデータ流通プラットフォームの取り組みと展望」レポート』より
上記1〜3(地域データへのアクセスやソリューション開発環境と販売プラットフォーム)に対する取り組みや進捗については、以下のニュースリリースや記事を参照していただきたい。
- 「自治体のDXを促進する地域課題の抽出、解決、運用のサイクルを支えるデータ流通プラットフォームの取り組み紹介」レポート
- 地方創生の推進に向け、東京電機大学とアイ・ビー・エムが連携
- IoTテクノロジーの民主化で地域を持続可能に。東京電機大学の地方創生プロジェクト
再びインタビューへ戻ろう。
■ 小学生の集中力を低下させない秘密兵器は…パトランプ!?
コロナ禍のビジネス環境において、生活空間から遠隔会議への参加あるいは開催はもはや特別なものではなくなった。しかしその一方で、その音声品質や画像品質には不満を覚え、多くの妥協が求められることを痛感している人も少なくはないだろう。筆者もその1人だ。
しかし当日の見学者によれば、今回の授業はまるで放送専用スタジオから届けられたもののようだったという。
限られた時間と予算の中で、果たしてどのような取り組みがあったのだろうか。配信のインフラ周りを担当したエクスポリス合同会社の代表であり、現在は東京電機大学の修士課程に在籍されている西垣一馬さんに聞いた。
「インフラ周りはやはり大変でしたね。自分も学生として遠隔授業を受ける中で、オンライン授業の映像や音声の品質がいかに重要かを常々感じていたので、4月以降個人的に研究を重ねていました。今回はその知見を全面的に発揮しました。
特に気にしていたのは音声クオリティーです。やはり小学生は大人以上に、余計な雑音や情報などで音が聞きづらくなってしまうとどうしても集中力が低下しがちです。そして一人一台の端末を用いることが多い遠隔会議とは異なり、教室に集まっている小学生たちを対象とした環境は、とりわけノイズやハウリングが発生しやすい状態ですから。そこはマイクのこまめな音量調整やスイッチングなどで対応しました。」
もう一つ西垣さんが工夫したのが「早口注意パトランプ」だと言う。一体どんなものなのだろうか?
「普段、松井先生は大学生向けに授業をしているので、話すスピードが小学生には少々早過ぎます。注意してゆっくり話してもらったのですが、それでも熱が入ると少しずつスピードが上がってきてしまうので、早口になったら赤色ランプが回転点灯する仕組みを導入しました。
ただ、それがカメラ越しに伝わってしまうと、小学生たちの集中力を削いでしまうので研究室の中でだけ分かるように。そして松井先生が即座にそれに気づき、目線がカメラから外れないように。」
松井准教授も、西垣氏のこの取り組みを以下のように高く評価していた。
「通常時のゼミであれば、誰か1人が”早口注意”と書いた紙をカメラの後ろで掲げれば済む話です。でもコロナ禍の今できるだけ研究室に人は増やしたくありませんでした。最低限の人数で実施したかったんです。
だから、インフラ担当の西垣さんの負担をさほど増やすことなく、小学生に伝わりやすいスピードをキープできるこの仕組みはナイスアイデアでしたね。」
そしてもう1つ、子どもたちの注意力を削がないために、音声だけではなく「何を見せて何を見せないか」も判断の難しいところだったと言う。以下は中西さんの言葉だ。
「最初は、東京電機大学が取り組んでいる先進技術や、インターネット関連の最近の事例なども授業中に小学生たちに見てもらおうと計画していました。ただ、現地の先生たちとの打ち合わせでアドバイスいただいたのが、情報が多すぎるのは子どもたちの集中を妨げがちだということでした。
私たちは”新しい情報に触れてもらうことで興味の幅や発想力が拡がるだろう”と思い込んでいましたが、常に子どもたちと過ごしている先生方の観察力と洞察力はやっぱりすごくて、いろいろ教えていただけました。」
■ 理系・文系ではなく「どこでどうやって生きていきたいのか」
今回の授業後、小谷小学校ではより多くの生徒に向けた遠隔授業の実施も検討されているという。そして松井准教授のもとには、オンライン見学を行った市町村から、自らの自治体での授業実施を検討したいという連絡も届いているそうだ。
松井准教授に、今回の取り組みを総括していただいた。
「今回の授業を実施させていただいた小谷村は、15歳から45歳を中心とした住人が、自分たちが村で”何をやるか”に意義や意味を見出し、そこで暮らし続けたいと思える村づくりが重要だと考えられています。
もちろん、それは人口維持が村の存続に関わることだからですがそれだけではありません。いわば”歯車的な仕事や生き方”ではなく、生きがいこそが人間が目指すべき本来のウェルビーイングにつながると、行政も村民たちも考えているからです。」
地方創生の本来の意義とは、自分たちの暮らし方や生き方を見つめ直すこと、そして未来を自分たちで創生していくことではないだろうか…。筆者にはそう思えた。松井准教授は続けた。
「だからこそ、小谷村の皆さんは小学校での授業や体験が人間形成と将来の彼らの行動や決断に大きく関わることを深く理解した上で、私たちにもはっきりと何が必要かを伝えてくれます。そして見直すべき点や疑問に思う部分があれば率直に意見をぶつけてきてくれます。
これは本当にありがたいことで、心から感謝しています。このご縁を大切にしながら、存続を不安視されている日本中の中山間地にこのプログラムを拡げていきたいですね。
そして今回の遠隔授業を一緒に行った釜谷さんは、2021年度からは修士過程に進学しSTEAM教育のより深い研究を行う予定なので、とても期待していますし頼りにしています。」
釜谷さんにも再び聞いてみよう。来年度からはどのように研究を進めるのか。そしてテクノロジーをどのように地方創生に活かしていけそうだろうか。
「学生は高校入学後はわりとすぐに”理系・文系”という勉強の対象を分けることを求められ、その選択がその後の人生を大きく左右します。でも本当は、選択の中心は”どこでどうやって自分は生きていきたいのか”にあるべきじゃないかとも思うんです。
僕は以前、映像関連の会社で働いていた経験があり、メディアの力は非常に大きいと考えています。また、”まちづくり人材”が育ってくるかどうかは、10代前半で何をどう学ぶかに大きく影響されるのではないかとも想像しています。ですから、メディアや映像の力をどうそこで活かしていけるかなど、そう言った分野の研究や実践を続けていくつもりでいます。」
最後に子どもたちから寄せられた授業への感想や意見を紹介してこのレポートを終える。
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