Client Engineering
こころが震えたあのとき(竹田周平) – イノベーション・デザイナー、Client Engineering事業部
2023年10月05日
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喜び、悲しみ、怒り…。生きるとは、そうした心の震えを感じ取ることを意味しているのかもしれません。そして仕事とは、そうした心の震えを、できるだけポジティブなものにしようとすること、たしかなものにしようとすることなのかもしれません。
「あなたのこころが打ち震えたときのこと、教えてください。」
Client Engineering(CE)事業部でイノベーション・デザイナーとして働く「おたけさん」こと、竹田 周平さん(以下「おたけさん」)にお話を伺いました。
<もくじ>
- おたけさんが「おたけさん」になった理由(ワケ)
- 震えやすい方ですか? 今日イチ震えたことは?
- ツールの一つに過ぎない。でも、だからこそ
- 「君のデザインはクールだ」 – おたけさんの背中を押した言葉
- 共創メンバー 前田侑里からの一言
1.おたけさんが「おたけさん」になった理由(ワケ)
— 竹田さんは普段、社内ではチームのみんなからはなんて呼ばれているんですか?
「おたけさん」ですね。
— おたけさん…では、私もここからは。おたけさんはいつから「おたけさん」なんですか? 学生時代のあだ名とか?
違います。2年前、「ガレージ・デザイナー」という肩書でIBMに入社したんですが、そのとき、親しみを持ってもらえて、かつ自分のパーソナリティを明確にしていこうという意識から生まれたのが「おたけさん」という呼び名です。
ガレージ・デザイナーの主要な仕事の1つが、「お客様との共創チームづくり」なんですが、僕は「フラットな関係性をベースにした良いチームを作りたい」という気持ちを強く持ってIBMに入社しました。
その決意も込めて、「よし! これからは『スーパーファシリテーターのおたけさん』としてやっていくぞ。みんなにもそう認識してもらえるデザイナーになるぞ」と、自身に言い聞かせるために自ら名乗ったんです。
— なるほどそんなストーリーが。でも、変わったあだ名ですよね。
パチさんに言われたくないですよ(笑)。
2.震えやすい方ですか? 今日イチ震えたことは?
— おたけさんはご自身を「震えやすい方」だと思いますか?
はい。震えてますね。そもそも、仕事もプライベートも、心を震わせるためにやっているものじゃないんですかね?
冒頭の「生きるとは、そうした心の震えを感じ取ること…そして仕事とは」という言葉は、今回おたけさんと話している中で、何度となく頭に浮かんだものだ。
生きるとは心を震わせること。それでは、今日一番心が震えたことはなんだろう?
今日ですか!? 午前中のことなんですけど、…いや、やっぱりなんかこの話をするの恥ずかしいな、どうしよう。
— そう言わずにお願いします。
今年の春新卒で入社し、先日オンボーディングを終えた新人デザイナーのサリーさんこと高田あかりさんが、今朝のお客様とのミーティングで、臆することなくがんがんプロジェクトをリードしている姿を目の当たりにしたことです。
サポート的な役割で僕は参加していて、何かあれば助け舟を出そうくらいのつもりでいたんですが、そんな必要はまったくなくって。
堂々と参加者をリードする彼女の様子に、すっかりじ〜んと来てしまいました。
…って、やっぱりこの話、恥ずかしいから書かないでください。
— なに言ってるんですか。サリーさん絶対喜びますよ。直接ご本人にもお伝えしたんですか?
しませんよ。だって、恥ずかしいじゃないですか。…でも、きっと、普段の言動から彼女への評価とリスペクトは伝わってはいるんじゃないかなとは思います。
— ダメですよ。ちゃんと言葉で伝えないと! この記事のこと、サリーさんに伝えてくださいね(笑)。
3.ツールの一つに過ぎない。でも、だからこそ
— それでは、IBM入社後2年で一番心が震えたときのことを教えてください。
…うーん、難しいですね。正直言って「絶対にこれ!」という飛び抜けたものがあるわけでもないんです。毎日毎週、グッとくる体験をして震えているので。
でも、自分が強くこだわりを持ってやっているワークショップ・ファシリテーションで言えば、7月に3週連続で行った共創ワークショップはかなり震えましたね。
— 具体的にはどのようなことをされたんですか?
ワークショップで用いた手法は、特別なものではありません。
デザイン思考を基にしたワークショップにおける一連のプロセスやフレームワークをなぞっていくもので、ダブルダイヤモンドと呼ばれる「思考の発散と収束」を繰り返していきます。
それを通じて、どれだけユーザーの視点や感情に迫れるか。その上で、解くべき課題を見つけて正しい解決を創り出すことができるか。そこに集中して進めていきます。
— その中で、おたけさんの心が震えるのはどんな瞬間なのでしょう?
それはもう、「チームの相互主観」が生まれていく様を目にしたときです。これに尽きます。
共創活動って、最初は皆それぞれバラバラなんです。みんなが個々に主観を持っている。
それが、活動を進めて、「ユーザーの視点や感情」をみんなで覗き込み、理解したときに、チームの相互主観の種が生まれるんです。
そうなると、活動の進め方が変わり、ユーザーを主語にしてプロジェクトが進むようになっていきます。そしてジワーっとチームの主観が育ち広がっていくんです。
…今、こうやってそのときのことを思い出して語っているだけでも、心が震えてゾクっとします。
一口に「デザイナー」といってもその職種や内容には多くの種類がある。IBM社内を見渡すだけでも、ウェブデザイナーやプロダクトデザイナー、UI・UXデザイナーやワークショップデザイナー…と、羅列はまだまだ続く。デザイナーによって、得意分野やこだわりに違いがあるのも当然のことだろう。
ここまで話をしてきて、おたけさんがワークショップとファシリテーションに並々ならぬこだわりを持っていることは明らかだ。
しかし、なぜなのだろうか?
僕がIBMに入社し、クライアントエンジニアリング事業部にデザイナーとして加わった理由は、「ユーザーやお客様と同じ目線で共創する」ことが、未来に向けて本当に重要だとIBMが理解し、それをリードする役割を求めていたからです。
ワークショップもファシリテーションもツールの一つに過ぎないことは分かっています。それでも、同じ目線で共創する手段として、ワークショップを通じた「考えのすり合わせ」以上にしっくりくるものって、そうそうないと思うんですよ。
だから、僕はそこでナンバーワンになりたいんです。スーパーファシリテーターのおたけさんになりたいんです。
4.「君のデザインはクールだ」 – おたけさんの背中を押した言葉
現在「イノベーション・デザイナー」として活動中のおたけさん。改めて、デザイナーとしての心構えについて詳しく聞いてみたくなった。
しかしその前に、まずはこれまでのデザイナーとしてのキャリアについて聞いてみよう。そもそも、最初から自身を「デザイナー」として認識していたのだろうか?
僕、大学院生時代に、IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)の「未踏スーパークリエータ」に認定をしていただいたんですね。
その後、大学院を卒業してハードウェア企業に新卒入社し、アメリカ拠点でデザイナーとエンジニアの中間的な仕事をしていました。その会社には3年半ほどいたんですが、その時期は自分を「デザイナー」として強く認識していなかったですね。
みんなもそうじゃないかと思うのですが、20代前半の頃って、まだ、自分のことを探っている時期というか、探しているところがあると思うんです。僕も、デザインをやっていきたいという思いはあったけれど、そんなに強いこだわりはなかった方かもしれません。まだ、自分の軸がはっきりしていなかったというか…。
ただ、そこで社内の先輩に、「シューヘイ、君のデザインはクールだ。それを磨いていけばいいよ!」と何度も言ってもらえたんです。その言葉は、僕の職業観に大きな影響を与えてくれました。社会を生きていく上で、強みを磨いていこうと決意を強く持たせてくれました。
— ほら! やっぱりさっきの今日一番の心の震え、サリーさんに伝えなきゃダメですよ! 彼女の道を照らしてあげてください(笑)。
それでは、今のおたけさんにとって「デザイナー」とは一体なんでしょうか?
デザイナーという肩書が指し示すもの、そして人びとがイメージするものって、ここ10年で相当変化したと思うんです。社会において、昔と比較してかなり幅広い範囲でデザインが捉えられるようになったと思います。
でも、デザインの本質は変わっていないと思うんです。デザインとは思いやりであり、目には見えないけれど、間違いなくそこにある価値にアプローチすること。感性であったり美であったりを駆使して、それをカタチにしていくことだと思うんです。
なんのためにデザインしているのか、どんな価値をそこで生もうとしているのか…。やっぱりそれを言葉やカタチで見えるようにしようとし続けることが、デザイナーには欠かせないと思うんです。
— 私はデザイナーではありませんが、すごく共感します!
ありがとうございます。もちろんとても難しいことだし,言語化できないものというのは実際に存在しているんだけど、それでも、デザイナーには説明責任があるとも思っているんです。
これは特にワークショップにおいてですが、僕は、各メンバー各々が持っている想いをちゃんと受け止めたい。大事にしたいんです。デザインもワークショップも、プロジェクトも組織も「生もの」じゃないですか。人と同じで、血も心も通っていますよね。
感情的なところはデザイナーとして蔑ろにしてはいけないと思っているし、やっぱり人は数字や理論だけだと、ずっとはついていけないところがありますよね。そういうところを僕は上手に拾い上げていけるデザイナーになりたいんです。
— そこにこそ「心の震え」があると私も思います。それでは最後に、おたけさんが一番大切にしていることを教えてください。
それこそ今日のテーマである「心を震わせること」がまず1つですね。
それから、いつ頃からこう考えるようになったのか今となってはちゃんと思い出せないのですが、自分は、デザイナーとして社会にインパクトを与えていきたいし、与えていこうと決めたんです。
「真に対等な関係」で、「お互いへのリスペクトを根底に」という、共創のルールを絶対に欠かすことなく。
5.共創メンバー 前田侑里からの一言
最後に、お客様との共創プロジェクトにおいて複数回にわたりコラボレーションしたというIBM Consultingの前田 侑里(まえだ ゆり)氏に、竹田さんの仕事ぶりとその印象についてメッセージをいただいたのでご紹介する。
おたけさんとのプロジェクトでは、DX施策導出のワークショップを開催しました。
私にとって初のワークショップ開催で不安がありましたが、おたけさんの存在が心強く、結果的にお客様にもご評価いただけるセッションになりました。
おたけさんが作るオープンな雰囲気のおかげで予想以上に活発な議論ができ、セッションが進むにつれて「ワンチーム」の実感が生まれました。また、発散されるアイディアが抽象的でも、おたけさんが発言者の言葉の行間を読み曖昧な言葉を具体化しながら進めてくださったので、参加者が各アイディアへの理解を深め、最終的には皆が同じ方向を向いて意見をまとめることができました。
私自身プロジェクト中、おたけさんの柔らかい雰囲気や話しやすさに何度も救われました。社内外問わず信頼が厚いことにも納得です。
おたけさんはまさに「スーパーファシリテーター」だと感じています。
今回、本文内には書かなかったトピックのうち、大変興味深いものが2つありました。それが「落語」と「郷土玩具」です。
「噺の骨格は同じでも、落語家さんのパーソナリティや意識を置く位置によって、おもしろさも味わいも全然違うじゃないですか。」
——そう話すおたけさんの言葉に、筆者は、落語家とIBMのデザイナーの仕事の間に、多くのものが通ずるのではないかと感じました。
IBMのメソドロジーやモジュールに対するこだわりは並外れたものがあり、そのこだわりは高い品質水準を担保する秘訣だと思います。ただ一方で、その先にどんな色合いを乗せるのか、そして共創パートナーにどうやって喜びの「WOW」を手渡すのか——。
話芸を磨き、人の感情を揺さぶりカタルシスに導く落語家。
デザインの力で、目に見えないものをカタチにしていくスーパーファシリテーター。
デザイナーの矜持に迫る話を聞かせていただいたおたけさん、ありがとうございました。
TEXT 八木橋パチ
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