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生活者DXレポート | メディア&有識者懇談会より

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4月20日、NewsPicks GINZAにて、IBM Future Design Lab所属の生活者洞察スペシャリスト髙荷 力による「生活者DXレポート」のメディア&有識者向けの説明および懇談会が開催されました。今回はその一部を紹介します。

なお、先にレポート概要あるいは全編をお読みになりたい方は以下よりご覧いただけます。

 

髙荷 力(たかに ちから) | 2003年より消費行動&心理のマーケティング専門家として活動。2017年、博報堂「買物研究所」所長就任。2020年4月より、生活者の購買心理と行動の研究の第一人者としてIBMにて活動中。


 

生活者DXレポート「Withコロナ時代の成長戦略 顧客主導で推進する事業の再構成/リインベンションの実践」は、2020年8月と2021年9月の2回にわたり行った2000名を超える国内成人男女への独自調査から、生活者の経済意識や生活価値観の変容をつまびらかにしたものです。

 

「人びとが望む体験価値は、社会問題への意識の高まりや意志決定の効率化への期待から変化しています。物理的な商圏(リアル)と仮想商圏(ネット)の「いいところ取り」から生まれた「エンゲージメント商圏」は今後一層台頭するでしょう。

そこでは、高度な顧客理解を前提とした個々の生活者との深い信頼関係(エンゲージメント)が重要な課題となり、インターネットやデジタル・テクノロジーを活用した「高度化されたUI/UX戦略」が重要な役割を担うこととなります。」

 

生活者DXレポートの概要をそう伝えた髙荷は、「コロナ禍での生活者変化の7つのポイント」「顧客体験(UX)の変容とアフターコロナの事業戦略/顧客戦略」を順に紹介し、最後に参加者たちとざっくばらんに意見交換を行いました。

それでは、順番に見ていきましょう。

もくじ

■ コロナ禍での生活者変化7つのポイント
■ 顧客体験(UX)の変容とアフターコロナの事業戦略/顧客戦略とは
■ メディア関係者や有識者たちとの意見交換

 


 

コロナ禍での生活者変化7つのポイント

コロナ禍による社会停滞も3年目となり、生活者は経済意識や生活価値観を、そして行動を変化させています。これらはそれぞれが互いに連動しながら、徐々にそれが意味するものを顕在化させてきています。

まず、調査結果の分析から見えてきた7つの「ファインディング」を見ていきましょう。

 

生活者変化その1「生活価値観」 – 健康と自助

8割以上が 「健康な暮らし」と「自ら備える意識」を重視する状態が続いている。この2年間で高まった「自助」の意識は今後も根強く残るのではないか。

 

生活者変化その2「消費意識」 –  金銭と時間の余裕

コロナ禍で金銭的な余裕が生まれたという人は8人に1人。一方、時間的なゆとりは3人に1人。一部に言われた行動制限からの「強制貯蓄」やその反動の「リベンジ消費」は、極めて限定された現象である。

 

生活者変化その3「消費意識」 – 継続する所有復権の兆し

コロナ以前の「持たない」暮らしから「必要なものは所有した方が安心」という意識変化は続いている。その一方で、「納得を求め購入決定に慎重」や「経済状況に合わせながらも支援的消費を支持する」などの生活者の姿も強く浮かび上がってきている。

 

生活者変化その4「DX許容性」 – 受容44.4%、拒否層11.7%

生活者にとってDXが意味するのは「ネット環境や技術革新による商品やサービスの高度化」である。その潮流への賛否を尋ねたところ、受容層は約44%(保留層とほぼ同じ)に達し拒否層は約12%であった。

 

生活者変化その5「サービス利用意向」 – ネットとリアルのいいとこ取りを

「ネットとリアルのいいところ取り」をしたいし、DXが進む社会背景(人手不足や労働環境改善)にも理解を示している人が多数派。そして前述の「DX許容保留層」の主な理由が「個人情報提供への警戒」と「UX/UIの悪さ」にあることが分かった。

 

生活者変化その6「社会課題に対する問題意識」 – 高い知的関心。とりわけ身近で実感できる課題に注目

6割以上の生活者が、社会問題に対して「関心が無くても、知るべき情報は知りたい」と考えており情報欲求として顕在化している。なお、最大の関心は「自身の暮らしの維持」であり、これは変化その1の「自助への意識」も強く影響していると考えられる。

 
生活者変化その7「個人情報の提供」 – 情報提供先には「確実な利点提供」と「ルール明示」を要求

個人情報提供の許容先として選ばれるのは、「データ利用ルールの明示」「確実な貢献」「データの国内での管理」をしている企業やお店。個人情報の譲渡については6割以上の方が不安を抱えており、そうした不安を前提に個人情報を譲渡する際に明確な手応えを求めている様子が伺えた。

 


 

顧客体験(UX)の変容とアフターコロナの事業戦略/顧客戦略とは

「エンゲージメント商圏においては、例えばシェルパ(山岳ガイド)の様にユーザーの目的達成に寄り添う顧客体験(生活者にとってのDX)を提供する必要がある」

−− 上記の7つのポイントから浮かぶ生活者像とは、不安の中で判断に慎重になりながらも新たな可能性に期待する姿であり、端的に生活者が求めているものを表すとこう言えるのではないでしょうか。

引き続き、高荷の説明を見ていきましょう。

 

 

Withコロナの時代を経て、生活の中での移動が大きく変化し、生活商圏や導線商圏からなる「物理商圏」と、お手元商圏とも呼ばれるスマートフォンやインターネットを介した「仮想商圏」の統合がいっそう進んだ結果として、「エンゲージメント商圏」が誕生しています。

エンゲージメント商圏とは、企業とユーザーが信頼や共感をベースに直接結びつき、その関係性の強さがそのまま社会価値やマーケット・シェアに直結する市場です。

 

そのエンゲージメント商圏で求められるのは、信用できる優秀なガイドであり同時に自分を高みへと導いてくれる頼れる存在。それが「シェルパ」です。

シェルパは元々「世界の名峰登頂という挑戦に寄り添う山岳ガイド」のことであり、ここでは「事情に精通しつつ顧客理解も深いガイド」を表します。そのシェルパが顧客の意志決定をより確かなものとなるように、そして意志決定過程を短縮できるように、あなたのためにあつらえるのが顧客体験のリインベンションである「シェルパ型体験設計」です。

 

エンゲージメント商圏の台頭とこの顧客体験のリインベンションが進むにつれ、サービスは「優秀な道具性」ではなく、「人間に寄り添う共感性」で選ばれる時代へとなっていくでしょう。

ここ数年、人々は「インフルエンサー」や「推し」などに判断を任せる傾向を強めてきました。しかし、コロナ禍の影響が強くなる中で、人びとは漠然とながら、そうした意思決定プロセスへの不安を募らせています。

「自分は十分に社会関心を持てているのか?」「これは自分を成長させてくれる選択なのか?」「忙しい私が納得できるものなのか?」 −− こうした不安や疑問に応えていくには、体験デザインにおいて高度な寄り添いと新たな体験価値の提供を統合的に設計する必要があり、従来の「UXデザイン5段階モデル」も進化させる必要があります。

そして、企業が推進する事業モデル自体もまた進化が求められます。今後必須となるのは「共感性で選ばれる時代に最良のパートナーとして選ばれるシェルパであり続けるための事業コンセプト」です。

私たちはそれを「サービス・ヒューマンインターフェース発想™」と命名しました。コロナ後の経済市場では、こうしたコンセプトを体現した企業やサービスが大きな成長を遂げることになると、私たちは考えています。

 


 

メディア関係者や有識者たちとの意見交換

ここからはランダムに、懇談会に参加していたメディア関係者や有識者たちの声を紹介します。

 

・ 私自身、子供や家族、そして習い事などで忙しさが増す中で、よりスピード感を重視する生活スタイル、コミュニケーションスタイルになっています。深層意識で「シェルパの存在」を求めている自分を発見しました。

 

・ 話を聞いていて中学3年生になる息子のことが頭に浮かびました。日常における彼の情報源はすでにすべてが仮想空間で、そこから入ってくる情報をもとに生活やコミュニケーションが組み立てられています。メタバースの潮流と合わせて考えても、「サービス・ヒューマンインターフェース発想™」がこれからの中心になっていくのだろうと感じました。

 

・ レポートデータを細かく見ていくと、ジェンダーや世代の差がはっきり出ているところと、そうでもないところがあるのに気づきました。ただ、それらに関わらず共通しているのは、日本社会の特徴とも言える「自助意識」ではないでしょうか。社会問題への意識の高まりは、その意識をさらに強化しているのではないでしょうか。

 

・ 「マリトッツォが流行っている」と聞いても、それが一部の流行なのか全国的なものなのかが、以前のようには分かりづらくなっていると感じていました。そんな中、私の場合は「自分の母親が知っているかどうか」を規模を測るKPIとしていたのですが、これからは「シェルパ」に尋ねるようになるのかもしれませんね。

 

・ コロナ禍においても、世界では米議会襲撃やロシアによるウクライナ侵略が、そしてまた日本でも、人びとの安全に対する意識を大きく揺さぶるような出来事が続いています。今回の分析はコロナ禍とその後をメインに置いてはいるものの、それだけではなく、ここ数年の日本社会の意識変化を細かく掴めるものとなっているということを感じました。

 

懇談は尽きず、会場の制限時間まで止まることはありませんでした。

これは、誰もがこの2年という長い時間の中で、自分や家族そして社会の生活価値観の変化に対して多くを感じていたからであり、高荷の示したファインディングスやインサイトがそれを「声」へと変化させ、「自分ごと」として語らずにはいられなくさせたからではないかと筆者は感じました。

そしてこの2年でたくさんの変化を経験した分、人びとは「変わらないもの」への思いも一層強くしているのではないかという気もしています。それが「人に寄り添う共感」や「信頼」であり、企業やサービスは、今後一層その視点でふるいにかけられていくのではないでしょうか。

 


 

IBM Future Design Labは、今後もこうした調査やレポートをお届けすると同時に対話をおこない、より良い社会、暮らし、事業からなる未来をデザインしていきます。

そしてそれを実現する、顧客体験デザインや先進テクノロジーの実装と運用を支援いたします。

 

 

TEXT 八木橋パチ

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