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職場で小さな変化を起こすヒント | 日本IBMのLGBTQ+への取り組み(後編)
2024年12月11日
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先日、産業保健に関する日本最大の学術団体「公益社団法人日本産業衛生学会(JSOH)」主催の全国協議会にて、日本IBMの川田 篤が「LGBTQ+について勉強して終わり? 職場で小さな変化を起こすヒント」と題した教育講演を行いました。
当記事では、該当講演の企画メンバーでもある日本IBM産業医の垣本と講演者の川田が、前編に引き続き講演を振り返り、「誰もがありたい自分でいられる企業と社会の実現」に向けた取り組みや思いについて語ります。
目次
前編
- 「自己紹介」に大きな心理的負担を感じているLGBTQ+当事者
- 「知識ある他人事層」とショッキングな数値
- 違憲判決とトイレにまつわる誤解
後編
● なにをすればアライなのか? 「アライの可視化」にどんな意味が?
その存在がタブー視され、差別や偏見の対象とされていたLGBTQ+に対する日本社会の認知が大きく変わったのは2010年代後半。それ以降、好意的に捉える人たちが増えていくにつれて、自身のセクシュアリティーを隠さないことを選択する当事者も増えています。
そして、今もなお社会は変化の最中にあり、これからも変化し続けていくでしょう。
講演では、一般社団法人work with Prideが推進する「PRIDE指標」(職場におけるLGBTQ+に関する取り組みの評価指標)をもとに、LGBTQ+を支援する企業として求められる要素と、それに伴う事例などが紹介されました。
川田が語ったポイントは、当事者が「安全・安心して居られる場所」を企業としてサポートすること。「社内でカミングアウトとしている当事者は10%程度」という調査結果が物語るように、多くの当事者はなんらかの不安・心配を抱えて職場に来ています。
「経営陣からの発信と、組織の行動規範への取り込み」「保険や福利厚生などの社内制度の整備と全社員に向けた啓発・研修」「従業員支援プログラム(EAP)などによる相談しやすい体制の整備」などの取り組みが、当事者社員の安全・安心につながります。そしてそれは周囲の社員にもポジティブな効果を及ぼすでしょう。
続いて講演でも語られた、日本IBM社内における「当事者/アライ・コミュニティー」の取り組みについて、再び川田と垣本に振り返ってもらいます。
川田: 日本IBMでは、LGBTQ+当事者である私が人事と接点を持ったことをきっかけに、2003年から会社としてのLGBTQ+の活動が具体化していきました。
その後、理解・支援する人を意味する「アライ」という概念が社会に広がり、日本IBMでも2014年に「LGBTアライ・コミュニティー」という名前でアライ活動がスタートし、社内に広がっていきました。
垣本: 私が入社する前の話ですね。
川田: はい。ただ、まもなく、当事者とアライの間に見えない壁が生まれてしまったんです。
当時は社会にはまだストレート・アライ(非当事者のアライ)という言葉があり、当事者か非当事者かが必要以上に意識されていました。そして当事者は、なぜアライがLGBTQ+に積極的に取り組んでくれるのかが理解できず、一方でアライは、当事者に自分たちが受け入れてもらえないことに対して距離を感じていました。
この状況に対し、アライのリーダー達がディスカッションを重ねた結果、日本IBM独自の「LGBTQ+アライ宣言」の導入へとつながりました。
さらに、アライ宣言を行った社員が、自身がアライにとなった理由をリレー形式で社内ブログに公開していくことでお互いの理解が深まり、コミュニティーの基盤が固まっていきました。
そして「誰もが誰かのアライになれる」、すなわち当事者であっても他の当事者のアライになれるという考えを取り入れて当事者とアライの垣根を取払い、現在では一体となって活動しています。
垣本: 講演参加者からは「なにをすればアライなのか? アライの可視化にはどのような意味合いがあるのか?」という質問も寄せられていました。
川田: 日本IBMの「LGBTQ+アライ宣言」には、当事者が活躍できる環境づくりを共に作っていくという行動規範への宣言が含まれています。
日常的な可視化ということでは、LGBTQ+のシンボルであるレインボー・グッズを身につけるのも意味がある行為です。「必要なときには相談できるかも」という安心感を提供できますから。
でも何よりも大事なのは日常の言動です。自分自身の発言はもちろん、当事者が傷つくような言動をする人を前にしたときに、できる範囲で良いので、指摘するとか話題を変えるとか、少しでもそれに対する姿勢を見せるといったことですね。
垣本: LGBTQ+アライ・コミュニティーで始めた、日本IBM社内の月例イベント「アライ・ラウンジ」に驚いていた参加者も少なからずいました。私も時間があるときは参加していますが、もうすぐ100回を迎えるんですよね。
川田: はい。講演の前日に97回目を終えたところで、来年1月には記念すべき100回目となります。
アライ・ラウンジは、幅広くLGBTQ+についての情報——具体的には、LGBTQ+に関わるニュースとその解説、LGBTQ+を取り上げたエンターテイメント紹介、LGBTQ+関連イベントの紹介や参加報告、そして参加者どうしのディスカッション——に触れていただこうと、全社員向けに毎月第一金曜日のランチタイムに開催しています。
この活動がアライのネットワークを広げることにも、関係性を深く強固なものとすることにも非常に役立っているのを感じています。
垣本: それにしても100回はすごい! 講演参加者も積み重ねてきた歴史に驚かれていたようでした。
● 学んだことを次に活かす | 学び、寄り添い、一緒に声を上げる
講演の最後に、「未来に向けて」川田から参加者へメッセージが送られました。
「知識ある無関心層」について改めて触れるとともに、関心ある支援者層への道筋として3ステップでのお願いがありました。再びお二人にお話しいただきます。
川田: 先ほどの裁判の話などから、LGBTQ+を取り巻く環境は少しずつ良くなっているように思われる方もいるかもしれません。しかし実際には、順調にも見えるこうした歩みも、当事者、支援者、そして関係者の文字通りの汗と涙の賜物です。
一方、非常に残念なことにLGBTQ+ バックラッシュ(反動)もあり、偏見や差別を煽ったり、憎悪などのヘイトも増えています。
この記事をお読みいただいている方たちには、ぜひ「学んだことを次に活かす」ためにも、「1. 学び、理解し、発信する/体験する」「2. 寄り添い、支援する」「3. 一緒に声を上げる」を実践していただければと思っています。
垣本: 産業医としても個人としても、社会をより良い場所へと変えていくためにこの3つが本当に重要だと思います。
また実情としては、医療従事者も、決して当事者と向き合う経験を持つ人が多いわけではありません。実際、参加者アンケートからはLGBTQ+に関するアンコンシャス・バイアスとマイクロアグレッションに関してアドバイスを求めるコメントが目立ちました。
川田: これはLGBTQ+に限らない話だと思いますが、人は誰しも自分の中の常識に基づいて判断や言動を取りがちなものです。
気をつけたいのは、そこで自分でも気づかないうちに、他者を傷つけてしまうことが起きていることです。それが無意識の偏見を意味する「アンコンシャス・バイアス」であり、ちょっとした攻撃的な行動を意味する「マイクロアグレッション」です。
無意識でのことですから、完全にそれを無くすことは難しいかもしれませんが、その存在に意識を向けること、つまり自分の考えがアンコンシャス・バイアスを前提にしてはいないかと疑いを持って欲しいと思います。無意識に意識を向けるだけで、大きな違いが生まれるはずです。
垣本: 「マイクロアグレッションに気をつけるってどうしたらいいのか?」という質問もありました。それから「当事者と初めて接触した際の気をつけるべきポイントは?」も。
川田: マイクロアグレッションで起こりがちなのが、過小評価する、軽く受け流すという、ちょっとした態度です。そんなことがと思われるかもしれませんが、違う受け取り方をする人もいます。それだけで十分にネガティブなメッセージが伝わり、傷つけてしまうことをまずは理解して欲しいですね。
初めてLGBTQ+当事者に接したときには、傾聴を心がけてほしいと思います。何か言葉をかけてあげたいという気持ちはわかりますが、何がなんでもコメントする必要はなく、ただ寄り添って話を聞いていただければ、と思います。
傾聴に関しては「聞くが7割」なんて言葉もありますよね。
垣本: 深く共感します。「まずは聞くのを最大限に。語るのは最小限に、を胸に活動します」という言葉や、「相談を受けた際には、しっかりと『アライとしてあなたをサポートしたい』という意志を伝えたい』というコメントを参加者の方からはいただいています。川田さんの言葉がしっかりと届いたのだと思います。
最後に、私もこの記事を読んでいただいている産業医や医療関係者に一つお伝えさせてください。
今はまだ、当事者社員の支援や企業のアライ活動、それから社員向けの啓発活動などは企業では大企業や外資系企業が中心という状況下と思います。しかし、企業規模や業種業界に関係なく、LGBTQ+当事者はどこにでもいます。そしてもし皆さんがLGBTQ+当事者に会ったことがないとすれば、それは存在しないのではなく、気付いていないだけなのです。
産業医や産業保健看護職は、複数の企業や事業現場で勤務されている方も多い職種です。それはつまり、業種や事業規模を越えて、さまざまな職場に波及させる力をお持ちだということを意味しています。
ぜひこれからも学びを続け理解を深め、企業内で伝える役目を担ってほしいと思います。
この取材を行ったのは11月15日。前日に日本IBMのLGBTQ+に関する取り組みがworkwith Pride 2024で表彰を受けたばかりでした。
そしてちょうどその受賞を祝うかのように、取材日の夜には、日本IBM 箱崎事業所で「Happy Friday」と呼ばれる社内ビジネス・ネットワーキング・パーティーが開催されました。
写っているのはごく一部のメンバーではありますが、最後に、その夜撮影した写真をご紹介します。
TEXT 八木橋パチ
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