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職場で小さな変化を起こすヒント | 日本IBMのLGBTQ+への取り組み(前編)
2024年12月06日
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「ゴールド9年連続、レインボー3年連続受賞」と11月15日にリリースさせていただいたように、日本IBMのLGBTQ+への取り組みはご評価いただいております。
参考 | LGBTQ+に関する取り組み指標「PRIDE指標」の最高評価「ゴールド」を9年連続、「レインボー認定」を3年連続で受賞。新たにLGBTQ+に関する活動をまとめたレポートを公開
しかし同時に、受賞を機に発表されたレポート「シリーズ 日本IBMのダイバーシティー&インクルージョン: LGBTQ+への取り組み」には「具体的な活動となると残念ながらまだ参加者は決して多いわけではなく、また参加者も固定化される傾向にあります。」とも記載しています。
そして日本IBM社内から視線を日本社会へと広げてみれば、同様の状況が各社・各所で起きている可能性があります。
●
先日、日本IBMにてLGBTQ+に関する活動を推進してきた川田 篤が、「LGBTQ+について勉強して終わり? 職場で小さな変化を起こすヒント」と題した教育講演を、産業保健に関する日本最大の学術団体「公益社団法人日本産業衛生学会(JSOH)」主催の全国協議会にて行いました。
今回、誰もがありたい自分でいられる企業と社会の実現に向け、教育講演の企画メンバーでもある日本IBM産業医の垣本と、講演者の川田に、当該講演を振り返ってもらいました。
目次
前編
後編
- なにをすればアライなのか? 「アライの可視化」にどんな意味が?
- 学んだことを次に活かす | 学び、寄り添い、一緒に声を上げる
● 「自己紹介」に大きな心理的負担を感じているLGBTQ+当事者
講演冒頭で自己紹介を終えた川田は、一呼吸置くと聴衆に問いかけました。
「こんな、なんでもない自己紹介であっても、LGBTQ+当事者の中には大きな心理的負担を感じている者がいることはご存知でしょうか。
皆さんの中には、自己紹介の場で気軽に家族のことをお話しされる方もいらっしゃると思います。しかしLGBTQ+当事者にとっては、差別や偏見を恐れて周囲から質問されることがないようにと用心をしたり、異性パートナーがいる振りをしたりして身を守ろうとする人もいるんです。」
——こうした具体的なエピソードを当事者の口から聞くことができるのが、講演の大きな意味の一つではないでしょうか。それを示すように、「自己紹介がつらいという話は衝撃だった」というコメントが講演後のアンケートには記されていました。
この後、川田は社内でカミングアウトをしたきっかけや、LGBTQ+ &アライ・コミュニティーを立ち上げた経緯などを語りました。
悩み苦しんでいる社員を前に、自分が動かなくて一体誰がといてもたってもいられず、当時の人事部門からのアドバイスを聞きながら自ら行動を起こしたというストーリーも、聴衆の心を強く惹きつけていました。
● 「知識ある他人事層」とショッキングな数値
続いて、LGBTQ+当事者の抱えている困難さについて、川田はいくつかの調査結果やデータを紹介しました。
以下講演資料では、2020年の株式会社電通によるLGBTQ+の大規模調査や、2022年の認定NPO法人ReBitによる調査などの数値を紹介しています。
会場の様子を、川田と垣本に振り返ってもらいました。
垣本: 講演には150人くらいの方に参加いただきましたが、スタートの1時間近く前から会場に入られる方もいました。そしてホールの前の方のシートから埋まっていくのが印象的でした。
こうした講演ではLGBTQ+の専門家の方がスピーカーを務められることが多いかと思うのですが、今回ひとりのビジネス・パーソンとして会社での業務を行いながら、社内から変化を起こしていった川田さんの話に、皆親近感を持って耳を傾け、心を開いていったように見えました。
川田: 主に医療職の方、それから企業の人事部門などにお勤めの方たちが多かったせいか、皆さんある程度LGBTQ+に関する知識をお持ちの方たちのように見受けられました。
講演では、非当事者をクラスター分析した結果、最も割合が高かったのが「知識ある他人事層」、知識はあるが課題意識や配慮意識は高くないという方たちだったという電通様による調査結果を紹介しました。
講演に足を運んでいらした方たちは、おそらく「知識ある他人事層」ではないだろうと思いますが、ぜひ多くの方に「みんなが生きやすく、すべての人が輝ける社会」へと進むために、「アクティブ・サポーター層」になっていただきたいですね。
そして、「48.1%が自殺念慮を、38.1%が自傷行為を経験」というとてもショッキングな数値にも目を向けていただきたいです。実は、私もこれを見て、自分も若い頃、実行するまでには至りませんでしたが「死にたい、死にたい」と口癖のように言っていたことを思い出しました。
● 違憲判決とトイレにまつわる誤解
垣本: 講演では、自治体がLGBTQ+当事者らのカップルの関係を認める「パートナーシップ制度」の人口カバー率が88%を超えていることや、「同性婚を認めない法規定は違憲として国を訴えている裁判で、8つの判決中7つで違憲もしくは違憲に準ずるという判決が出ている」ことなどもお伝えしていましたね。
ただ、今回、参加者が質問や意見をリアルタイムに書き込めるオンライン・システムを使用していたのですが、そこでの書き込みを見ると「トレイの使用について」の話が結構ありました。
川田: やはり、昨年最高裁が「経済産業省がトランスジェンダー女性の職員に勤務階から離れた女性トイレを使わせたのは違憲」という判決が出たことの影響が大きいのでしょう。
実は先日、違憲判決から1年以上経ってようやく、庁舎内のすべての女性トイレの使用が認められたそうです。
またアンケートには、「『女子トイレに男が入ってきたら』と思うと性犯罪が心配だ。トランスジェンダーの方に嫌な思いをして欲しくはないものの…」といったコメントも複数ありました。
これは大変よくある誤解で「トランスジェンダーと性犯罪を混同して考えてしまっているケース」だと考えます。
参考 | 経産省 トランスジェンダーの職員に全女性用トイレ使用認める | NHK | ジェンダー
垣本: 偏見や不安を煽る意図で流布されている言説に影響を受けて心配されていらっしゃるのかもしれませんね。
トランスジェンダーの方たちも、衛生的で健康な生活を送りたいだけで、ただ安全にトイレを利用できる環境が必要なのは誰しも同じです。トイレは生きていれば1日に何度も利用する施設です。生理的なものですから、限られた一部の場所だけが利用できるというだけでは不便も大きく、健康上の悪影響も懸念されます。
実際には、大多数のトランスジェンダーの方はご自身の性別移行の状況や周囲の方との関係性等を踏まえながら、トイレを利用されています。こういった現実世界での姿が見過ごされ、極端なイメージだけが拡散されてしまうことには強い危機感を持っています。
だからこそ、当事者の方の等身大な姿に触れ学ぶことは、専門職としても一般の方以上にますます重要なことだと思います。
前半では、講演の様子をはじめ、LGBTQ+当事者の抱えている困難さを、自己紹介の場やトイレの使用についてお話しいただきました。
後編では、LGBTQ+当事者を支援する取り組みとして、日本IBM社内における「当事者/アライ・コミュニティー」のこれまでの活動や、アンコンシャス・バイアスやマイクロアグレッションについて、そして未来をよくするための学びの活かし方について、川田と垣本がさらに語ります。お楽しみに。
TEXT 八木橋パチ
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